第三百十四話 本来は休日なのにすまないな。代休は毎週入れるようにしているから今月だけ対応を頼む
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楽しんでいただければ幸いです。
二月の頭になったのでこの学校に受験希望している生徒やその親が魔法学校に見学に来た。結局、うちの学校でも入学テストを行う事になったので見学は出来ても入学できるとは限らないけどね。
今年は生徒が学校に通っているから基本的に見学ができるのは日曜日だけだ。土曜も生徒に開放してるから、自由に見学ができるのは日曜しかないんだよな。
「本来は休日なのにすまないな。代休は毎週入れるようにしているから今月だけ対応を頼む」
「問題ありませんよ? こうして入学前に生徒の魔力測定をするとは思いませんでしたが」
「学力が低いけど魔力の高い生徒を見逃したくなくてね。こうして事前に調べていれば大丈夫だろ?」
エルフのナディーヌ先生に魔力測定をお願いしている。
こうすりゃ見学に来た生徒だけでも魔力量なんかを調べられるからね。
「入学テストに魔力測定を導入すればいいのでは?」
「その手があったか!! 最近は色々考える事が多すぎて事前に手を打つことばかり考えてたからな。そうだよな、わざわざナディーヌ先生の貴重な休日を動かしてまでする事じゃなかったよ」
「いえ、そこまででも……。王都方面の問題が大きいようですね。いろいろな憶測が飛び交っていますが」
「あまり詳しい情報は流されてないからね。街道は封鎖されてるし、王都の状況を確認できる人間は限られてるけど」
今王都の情報を入手できるのは王都の北部に位置して状況を把握できる上に此方と魔導通信機で話ができる貴族。伝書バトじゃないけど、魔物などをつかって同じ事が出来る商会か貴族。そういった貴族から情報を買っている第三者。後は俺達と親しいものかな?
ただ、今の状況であまり王都の内情などを誰彼なく話すと今後重要なポストにつけなくなる可能性が高いので、頭のいい貴族なんかは絶対に情報を流さない。流すのはおしゃべりな馬鹿か重要なポストにまで頭の回らない奴だ。
「どうして日曜日だけなのですか? 授業の妨害をされないのでしたら、授業のある日に見学していただいたほうがいい気はしますが」
「最近は割とおとなしくしているとはいえ、問題児も多いからな。授業がある日に学校を見学させて、その時運悪くあいつらがやらかしたりするといろいろ問題があるんだ。対外的に色々ね」
「入学すればいずれバレる事でしょう?」
「新しく通い始める生徒には夢を持って入学して欲しいかな~って」
流石にあの状況を見て魔法を使えることに夢を抱いて入学する生徒はいないだろう。あいつらのやらかしも以前の様に大規模で発覚しやすい物じゃなくなって、巧妙にカモフラージュしたりして行う事が多いからな。
学校周辺の森なんて、何処まであいつらが手を入れてるか分からない程だ。秘密基地遊びが楽しいのは認めるけどさ、発見して粗方は潰させて貰ったけど……。
「現実を直視するのも悪くないですよ。最近はあの子たちも落ち着いてきましたから」
「校舎や設備が丈夫になって破壊報告が上がってこないのは、あいつらが落ち着いたわけじゃないぞ」
「対魔法術式が刻んである窓ガラスとかこの学校位ですよね」
「向こうの学校にはこんな物は必要ないそうだ。あの窓ガラスは生徒の対策の為じゃないけどさ」
外部から脅威が迫った時に、生徒たちの身を守るための設備だ。
どれだけやんちゃが過ぎる生徒であろうと、この学校に在籍している限り俺が守ってやるさ。絶対にな。以前の魔族騒動の時の二の舞だけは絶対に起こさない
秘密基地を潰してるのもその一環なんだが、あいつらがそれを理解してるかどうかは知らん。できれば理解してほしい所だけどな。
「そろそろ校内見学希望者の馬車が到着する時間です。教頭先生が見学希望者を引率しているそうですね」
「休みの日なのに頑張るよな。この学校にあまり顔を出さなくていいのも、教師たちが仕事熱心で優秀なおかげだよ。でも、休める時には休んで貰いたい」
「教師も交代制で休んでいますし、今のままですと休みが多すぎです」
「来年以降は授業のコマ数が倍になる。その時に新しい教師の指導もしてもらいたいから余剰人員は必要なのさ」
仕事を教える時には教える人間は計算に入れられないからな。
余裕を持った人員ってのは必要なのさ。今だったら教師に何かあっても代わりの教師が授業をするしね。
「本当に流石です。あ、到着したようです」
「は~い。馬車はその辺りに並べて停めてね。早く見学したいのは分かるけど馬車から飛び出さない事!!」
「今日見学するのは受験予定者二十名とその親。大体母親だけなんだよな」
「流石に領地経営もありますし、領主は領地から出てこれませんよ」
「この辺りだと暗殺とかの危険もないのにな。道中までは保証できないけどさ」
むしろ男爵領に入るまでの街道が一番危険だからな。
流石にそこまではこっちの手が及んでないしさ。今は十分に警戒しているとはいえ、彼らの貴族領にほど近い所位は自力でなんとかして欲しいんだけどね。
「あそこにいるのが理事長のクライド先生と魔法学の教師エルフのナディーヌです」
「あの方が噂の……」
「こんな近くでご尊顔を拝めるなんて……」
「クライド様と縁が持てる学校なんてここくらいですよね」
半分くらい俺を拝んでるんだけど、あの人たちって俺を仏像か何かと勘違いしてない?
生きてる人間を拝むなっての。
「では、色々と改装された校舎から案内しますね~」
「……で、どうだ?」
「とびぬけて魔力量の高い子供はいませんね。母親の魔力も多少は影響しますので、今後急激に伸びる可能性もないと思います」
「急に魔力量の高い子供とか生まれたりしないの?」
「極稀にありますが、逆はほぼありません。勇者先生のお子さんはおそらく物凄い魔力の持ち主だと思います」
俺とヴィルナの子供だからそりゃ魔力とかが高いだろうな。
その事で苦労しないように色々考えておかないといけない。まだ子供が出来てもいないけどね。
っと、受験予定者の前だし、まじめに案内しないとな。
「ここまで斬新な学校など見た事もありません」
「放送システムは他だと導入されてませんからね~。他にもこの壁や窓ガラスの素材も超が付くほど特殊な物が使われていま~す」
「王城の壁並みの防御力があるんじゃないか? どうして普通の学校でここまで」
「万が一ここが魔物などの脅威に襲われても、生徒たちを守る為といわれています」
表向きはな。
生徒たちの魔法対策でもあるけど、そっちは対外的には秘密だ。もう窓ガラスを魔法でぶち割ってショートカットなんてさせないぞ。
「流石は聖人と呼ばれる方ですわ」
「子供たちの事をここまで考えていただけるなど、他の学校ではありえませんわ」
「では最後に食堂を案内します。購買でもお弁当などを販売していますが、昼食は基本ここで食べる事になっています」
「本日はバイキング形式で食べ放題としています。残さなければ自由に食べていただいて結構です」
「カロンドロ男爵領は美食の街と聞いていましたが、学校の食堂でもこんなレベルなのですね」
「いえ。この食堂のレベルが異常なだけです。街のレストランと比較してもここよりも優れた店など数えるほどですので」
超が付くほどの高級店ね。
数百シェルの料理と、ここで出されてる十シェルの料理が同じだと向こうもやる気をそがれるだろうし。かなり近いレベルではあるんだけど。
「これどの料理もすっごく美味しいっ」
「見た事があまりない様な料理から、おなじみの料理まで……。卵サンドまで売られているのはうれしいですね」
「ここまで細かな気配りをされている学校。ぜひ通わせたいのですが……」
「受験日は来月頭で、結果は中旬までにはお伝えします。受験の際は街などに泊まる事をお勧めしています」
試験は見学した生徒もそうでない生徒も分け隔てなく採点するからね。
できれば全員通わせてあげたいけど、現時点でそれは不可能だってわかってるから仕方がない。
「私この学校に通えるように頑張る!!」
「私も!!」
試験内容は教えられないけど、頑張って合格ラインに達して欲しいよな。
合格ラインを超える生徒が多い場合は上位順になるけどさ。
この中にも今年の四月に制服を着て通い始める生徒もいるだろう。ん? 誰か飛び込んできた。
「クライド様!! 男爵がお呼びです!!」
「わかった。すまないけど後の案内を頼んだ。ちょっと急用だ」
男爵からの急用。つまり、王都の城壁を超えて量産魔怪種アリギラスが動き出したという事だ。
魔怪種アリギラスクイーン討伐の為、王都へ向かわないといけないだろう。一応男爵には話を聞くけどさ。
しかし意外に遅かったというか、よく日曜まで動かなかったな。だが、動いた以上はこれであいつの最後は決まった!!
もう二度と悪事を行えないように念入りに討伐してやる!
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




