第三百十二話 そうだよな、王都周辺の街道が封鎖されている状況だから物資だけじゃなくて人の往来もままならないのか。このままだと学校の見学に来れる貴族もあまりいないって事だよな
連続更新中。この話で第十二章 王都大騒乱編は終わります。
次の話から新章になりますが、楽しんでいただければ幸いです。
いろんなことが起こった一月が終わり、王都が魔怪種アリギラスクイーンの支配する地獄絵図な状況のままで月が替わった。
王都内で起きているんだからカロンドロ男爵領ではそこまで影響がないだろう、そう高を括っていた俺があっけにとられたのは先日の事だ。
「そうだよな、王都周辺の街道が封鎖されている状況だから物資だけじゃなくて人の往来もままならないのか。このままだと学校の見学に来れる貴族もあまりいないって事だよな」
「この街や周辺都市の規模も大きくなってるし、王都を通らない貴族領の入学希望者だけで定員の二百人を超えそうな勢いらしいよ。来年の今頃は多分ここと男爵が理事長してる学校は王立ってつくだろうから、箔をつけたい貴族はここの学校に通わせたいだろうしさ」
「カロンドロ男爵が国王になりゃここが次の王都だからな。ここにある学校が王立学校になるのは当然だろうけど……。魔法学校にも王立ってつけるかな? 俺が運営してるんだぞ?」
「勇者クライド魔法学校とか付けられたい?」
「王立最高!! 王立魔法学校、うん。いい響きじゃないか」
その危険性を考えてなかった。王立魔法学校って名称を拒否ったら当然そっちの名前で宣伝するだろうな。というか、そっちの名前を採用する確率の方が高い。教会関係者には受けがいいだろうしね。
「問題は増えた生徒をどうするかって事なんだけどね~」
「向こうの学校は? あっちはこっちよりも入学希望者が多いんじゃないのか?」
仕事が増えて給金が改善された事で子供を働かせたりしなくて済む親が増えたって事だろうね。
子供に教育を施すのは未来への投資だ。これ自体は歓迎する流れなんだけど、学校なんかの教育施設の数がまだ追いついてないのが現状なんだろう。教師の数も限られてるし。
「あっちは普通に入学試験をして、その上位から順番に入学させるんだってさ」
「それが正しいんだけど、それだと家庭教師とかを雇ったりできない子がいつまでも学校に通えないんだ。開花してない才能を見逃す可能性はあるぞ」
「そこだよね~。このままいくとさ、最終的に貴族だけの学校になっちゃうでしょ?」
「学校を分けるかだね。王立の学校はそのままにして、貴族以外がメインの学校を増やすとかさ。最終的に学力とか設備とか色々と差が出るとは思うけど」
「貴族と一緒だとどうしても平民は分が悪いしね。うちの学校はかなり特殊だけどさ、向こうの学校は割と派閥とかあるっぽいよ」
「ここは俺たちがうまく監視してるからな。やっぱり一度ガツンと実力ってのを見せつけるのが一番だよ」
「アレはやり過ぎだけどね。確かにアレでおとなしくなったのは間違いないけどさ。それで、どうすればいいと思う?」
「ここだけじゃなくて街ごとに小さな学校があるのが一番いいんだよ。まずは読み書き、そして算術。これだけ覚えさせれば最低限なんでもできる」
この世界の識字率は割と高い。といっても、俺も行ける範囲でしか知らないんだけどね。
あれだけ小説を読む人間がいるという事は、人口に対して字が読める割合が相当に高いって事だ。他にあまり娯楽が無いにしたって売れてる数が尋常じゃない。
それに割とおおきめの教会が各地にあるのが大きいんだよね。あそこは子供とかに文字とかを教えてるし。
「教会に学校を運営させる手もあるけど、最終的に信者の奪い合いに発展しそうだしな……」
「今も孤児とかに勉強を教えてる訳だし、ひとつの手ではあるんだけどね。最近は孤児の数も減ってるし」
「教える以上そこの教会が信仰する女神を生徒にも信仰しろって言ってくるぞ。女神たちも信者が増えるのは歓迎するだろうけどさ、でもそれはやりかた次第だと思うんだよ。最終的に信者になるにしてもさ、自発的に信仰して欲しいと思うんだよな」
「流石に勇者はいう事が違うね。ちなみに理事長先生は誰を信仰してるの?」
「俺は元々仏教徒だぞ。この世界の神様って事だったら角が立つから決められないな。女神フローラとかは話す機会も多いけどさ」
女神シルキーとかはまだ話した事ないよな。天使ユーニスも正式には女神見習いに戻るんだろうし、そのうち女神になるんだろうけどさ。
【まるで私がそのうち勝手に女神見習いに戻れるような言い草だけど、あなたが頑張って私を女神見習いに戻そうとしてくれてるんだよ?】
俺がこの世界を救うって言いだしたんだからさ、勝手に女神見習いに戻れるようなもんだよ。
その事を恩着せがましく言うのは違うだろ?
【……ちょっと質問。あなたがもし逆の立場だったらどう思うかなんだけど。もう絶対に女神になれないって烙印押された状態で、我慢して元いた世界の管理をサポートする天使をしてたら。何処かからかすっごい力を持つ神様みたいな人が現れて、問題を全部片づけてお前を女神にしてやるって言われたら……。どう思う?】
完全にプロポーズですね。はい。軽率な言動でした。
俺が独り身だったら問題ない行動なんだろうけどさ。
【私が恋する乙女だったら危なかったんだよ? こっちにはさ、恋愛経験が無い女神が多いからあまり好意を向けると勘違いされちゃうんだから】
忠告ありがとう。
それはそれとして、この世界を救うのはやり遂げてみせるさ。俺のいる世界に今後手を出す奴も絶対に許さない。
【ありがとう。本当にその世界を救えたら、夢を通してこっちの世界に招待するよ】
ああ、合わせて二回だけど、女神フローラに呼ばれた時みたいにかな?
【ええええええええええええっ!! 女神フローラってそこまでしてるの? ちょっと油断してたな~】
その反応から察するに、尋常じゃない事っぽいな。
【大丈夫、他意は無いよ? それじゃあね~】
通信が切れた。
あの時夢で呼ばれたのはかなり特殊なケースだったのか。
そういえばあれっきりだしな……。
「また神界関係?」
「そういう事。特に問題は無い会話だった」
「天使とか女神様と普通に話ができる時点で問題ありありなんだけどね。教会関係者だったらひっくりかえるよ?」
「本物の女神さまが見守ってくれてる世界だ。教会関係者も襟を正さなけりゃいけない時期も来るだろうぜ」
利権だの権力だのに固執しまくると、そのうち怒られそうな気がするんだよね。
多分女神フローラはあまり派手な生活を望んでないし、教会のあんな飾りつけも好んではいないはず。その辺りも経典というか女神フローラの教えとかけ離れてると思うんだよ。
「話は戻すけど、王都方面の子たちは結局どうするの?」
「できる限り早い時期に王都を攻めて、脅威を排除するしかないな」
「それ、簡単そうに言うけど、かなり難しい問題だよね?」
「そうする以外に方法は無いし、それをしても受け入れられる生徒数に対する問題は解決しない。その辺りはカロンドロ男爵と話し合わないとダメだろうな」
王都の騒乱だけで済むと思ったけど、結果的にあの広大な王都を隔離しようとするとこうなるよね。
交易とか他に問題が起こるだろうし、王都に攻め込むのは出来るだけ早くしないとな。
今回の騒動は、王都が壊滅するだけで話は終わらなかったね……。
読んでいただきましてありがとうございます。
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