第三百八話 と、言う訳でとりあえず明日は休みになったよ。魔法学校にも顔を出したいんだけど今週は無理っぽいんだよな
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楽しんでいただければ幸いです。
王都やあのクソ女の動向は気になるが、俺の体力の回復も確かに重要だ。雷牙の奴はどうか知らないけど、変身して必殺技を使うと体の方にも負担がかかるしね。俺はアルティメットクラッシュを使わなかったから大丈夫だと思うんだけど……。今晩多少はあの痛みに苦しむことになるだろうけどさ。
「と、言う訳でとりあえず明日は休みになったよ。魔法学校にも顔を出したいんだけど今週は無理っぽいんだよな」
「王都方面の問題が片付かん限りは無理じゃろう。勇者としての仕事をしておるわけじゃし、学校には顔を出さんでも問題は無いんじゃろ?」
「最初は最悪月に一回位顔を出せばいいとか言われてたからな。ここまで忙しくなるとは思われてなかっただろうけど、流石に俺も王都方面でここまで動きがあるとは思わなかったよ」
まさか僅か一年でここまで事態が急変するとは思わなかったからね。去年の今頃は魔法学校の理事長になる話を持ち込まれた直後だった気がするけど……。王家の連中ももう少しうまく立ち回ると思っていたんだけど、買いかぶりだったみたいだな。
黒龍種アスタロトが裏で暗躍しまくってたんだろうし、あいつをここまで抑え込んでいたのは賞賛に値するかもしれないんだけど。
「今日はもうおと~さんはお出かけしないの?」
「ああ。今日は家にいるぞ。よ~し、今日はシャルに絵本を読んであげよう」
「わ~い。何の絵本をよんでもらおっかな~♪」
テーブルの上にたくさんの本を並べてそれを手に取って選び始めた。
この世界の絵本だけじゃなくて、元の世界の絵本もたくさん持ち込んでるからね。カラフルな表紙の本は大体元の世界から持ち込んだ絵本だ。
有名な昔話とか童話はどの世界でも受けるっぽい。人魚とか鬼に似てる魔物がいるからその辺りはちょっと微妙になるんだけど。
「相変わらずシャルには甘いのじゃ。普段はわらわがシャルを独占しておるからの」
「俺が誰かに対して厳しくすることはあまりないと思うんだけどね。割と博愛主義だし」
「……いつもソウマが仕事を押し付ける連中が聞いたら卒倒しそうじゃな。確かに奴らにも十分すぎる利益はあるが、それに見合うだけの苦労もあるじゃろう?」
「濡れ手に粟なんて真似は良くないよ? それなりに努力して貰わなきゃね」
そうしないと身につかない技術とかもあるし。経験って大事だからさ。
苦労せずに得た金は割と身につかないって言うし。
【あなたがそれを言っちゃうかな? あなたの力とはいえアイテムボックスでお金を稼ぎまくってるよね?】
普通に使う分くらいは苦労して稼いでるよ? 今回も一応討伐報酬を受け取ってるし、そうしないと雷牙の奴も報酬を受け取りにくいだろ? 俺だけの問題じゃなくて、魔物討伐をするすべての人に関わる問題だしさ。
最初の頃は塩とかお菓子で荒稼ぎしてたけど、ちゃんとその後の事まで考えて行動してたしね。
【それはそうだけどさ。お金のカウンターはもう見えないからね】
桁が増え過ぎて文字の大きさがドットなんだよな~。何万桁あるのアレ?
買い物しても全然増減しないしさ。
【小惑星を既に五十個くらい所有してるし、そこを開発して得た物で莫大な利益を生んでるからね~。正直、私も把握できないよ?】
いつの間にそんなに増えたんだよ!!
常識の範囲内でってお願いしてた気がするんだけど。
【あなたの感覚だと十分に常識の範囲内じゃないの? 流石に百を超えたら話そうと思ってたけど】
一度キッチリその辺りを話さないとダメか? 俺がなんだか常識知らずの様な……。
【娘が出来て常識が身に付いた?】
失礼な。元々常識人だっただろう? ちょっと金銭感覚は怪しかったし、この世界の常識にも疎かったかもしれないけどさ。
【それ、他の人に聞いてみたらどうかな?】
わかった。その証拠を見せてやるさ。
「ヴィルナ。今また例の通信が入ってるんだけど、俺が常識人かどうか聞いてほしいという話が出たんだ」
「旦那様の常識は少々逸脱しているのではないかと思われます」
「ソレイユじゃなくてヴィルナに聞いてるんだけど……。付き合いが短いソレイユにはちょっと常識が疎いように感じるかもしれないけど」
「ソウマはソウマなのじゃ。他の者と比べる必要などなかろう」
それは常識が無いって事ですかね?
微笑みながらゆっくり視線を外されると傷付くんだけど。
「悪い意味ではなく、良い意味だと思われます。私たちにもこんなに良くしてくださる人など居ませんので……」
「常識とは普通の生活をしておる者の感覚じゃろ? ソウマは普通の生活などと思ってはおらぬじゃろう? 常人の感覚では晩餐会に出す料理ひとつとっても生み出す事は出来ぬじゃろうて」
「そうだよな。ちょっと金銭感覚はおかしい時があるけど、他はこうじゃないとおかしいもんな」
「ソウマの金銭感覚はちょっとというには逸脱しすぎておるのじゃ。わらわのこの普段着でもこれ一着仕立てる為に人生をすべて費やす必要があるのじゃぞ」
「私たちの服も、メイドロイドに与える服とは思えません。このブローチも私たちの宝物です」
この前の助言の褒美だけどさ。ヴィルナにも説明したよね? それでもちょっと怖い笑顔してるんだけど……。
【やっぱり常識については怪しかったでしょ?】
ちょっと金銭感覚がおかしいって言ってたね。
【嘘!! ちゃんとあなたの耳を通して聞いてたんだから!!】
ちっ!! 常識については若干疎いのを認めるよ。
金銭感覚はある程度稼いでから消失してるのは仕方がないだろ。普通の感覚だと誰かを助ける事なんてできやしないし。
【私たちもそれで助かっているけどね。普通のひとだったらアレだけの物を寄付してくれたりしないしね】
俺に直接影響がないレベルでの物資なんて幾らでも使って貰っていい。
俺のアイテムボックス内に眠らせておくより、お腹を空かせてる誰かの元に届いたほうがいいに決まってるさ。その世界の経済とか物流を壊さないように気を付けてくれたらね。
【その感覚がこっち寄りだって言われてるんだけどね~。こうして常識を何度も確認してるのも、いつまでたってもあなたに界渡り疑惑がかけられてるからなんだよ? 私はあなたの事を信じてるけど、他の女神さまでいまだに疑ってる方もいるんだよ】
それは俺に伝えてよかったのか?
【そろそろ伝えてもいいかなって思っちゃった。それじゃあまたね】
通信が切れたな。女神フローラとか女神シルキーあたりは信用してくれてるんだろうけど、他の女神はまだ俺のことを疑っているのか。
ワールドリンカーの力が問題なんだろうね。まあ、そっちはいいや。
「向こうとの話は終わったよ。ちょっとだけ常識を逸脱してるのは認めたよ」
「ちょっと……」
「言いたい事は分かってるからそれ以上はいいよ。常識にとらわれちゃいけない職業なのさ、俺は」
「シャル様は私たちが責任をもって常識的にお育ていたします」
「旦那様に本を読んでいただくのはいいのですが、常識については私たちにお聞きください」
ソレイユたちまで……、彼女たちに任せてた方がいいのは理解してるけどね。シャルも聖魔族だから人間とは常識が少し違うだろうし。
「おと~さん。これがいい」
「面白そうな本を選んだね。よ~し、それじゃあ読んでみようか」
まさかこの俺が娘を膝に乗せて本の読み聞かせをする日が来るなんてね。
とりあえず今日と明日は戦いを忘れて家族サービスをするかな。
旧レッジェーリ男爵領の件はスティーブンに任せりゃ問題ないだろう。
読んでいただきましてありがとうございます。




