第二百九十二話 大体理解したけど、とりあえず居間で詳しい話を聞こうか? シャルもいいよな?
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話し合いが終わってようやく帰宅。いつも通りにシャルが駆けてきて……。ん? 珍しいな、玄関まで出迎えに来てくれないなんて。
「待つのじゃ!! その恰好で玄関に行くでない!!」
「おと~さん!! おかえりなさい!!」
居間の扉が開いて、勢いよく俺に抱き着いてきたのは小柄な女の子。何歳くらいだ? 五歳くらい? このお腹に顔を擦り付けてくる仕草にすっごい既視感があるんだけど。
「……ソウマ。おかえりなさいなのじゃ」
「大体理解したけど、とりあえず居間で詳しい話を聞こうか? シャルもいいよな?」
「は~い!!」
うん、すっごい素直ないい子だ。髪の毛とかも元のシャルに近いけど、動きもどことなく同じ感じがするよな。
居間のテーブルに着いたけど、シャルは大きな布を身体に巻き付けているだけ。まだこんな時期だし寒いだろうに。話し合いより服が先だな。
「とりあえず必要なのは服か。シャル、この上に立って貰えるか?」
「わかった~。あ、これ前おか~さんの服を作った時も乗ったよね~♪」
「覚えてるのか。というか、猫だった時の記憶もあるの?」
「うむ。シャルはやはり精霊憑きだったようなのじゃ。それもかなり昔から憑かれておってな。気が付かなかったわらわも間抜けなんじゃが」
昔から? ずっと寝てたりしたのはその影響だったのか?
ずっと精霊に憑かれてたのに天使ユーニスとかは何も言ってくれなかったのか?
【その世界だと精霊憑きは特に珍しい事じゃないんだよ。その猫って死にかけてた事が無い? その時にさ、死にたくないって思ったりした時に運がいいと精霊が憑りついて一時的に助かったりするの。その後は悪意のある精霊かどうかなんだけど、その子についてたのは本当に無害な精霊みたいだったし】
……めちゃめちゃ最初の頃じゃねえか。というか、うちに来た時は既に精霊憑きだったのか。
それで最初から家主っぽい俺に懐いてたのか。より確実に生き残るために……。
「天使が何か言ってきたのか?」
「最初から……。ヴィルナが助けた時から多分精霊憑きだったんだろうって」
「やけにおとなしかったのも、賢かったのもそのせいなのかもしれぬの」
「うんとね。精霊さんはシャルを助けてくれたの。今はからだの奥で寝てる感じ?」
「そうなのか?」
「そうみたいじゃな。人化以外に実害はない様なのじゃ。人化が悪いかといえばそうでもないのじゃが」
とりあえず何とか仕立て終わった服と下着一式を出してみる。靴下とか靴は女の子っぽいかわいらしいデザインを選んだつもりだ。
【ちょっとかわいすぎない? それにもう少し安い生地の服の方がいいと思うよ?】
これ以下だと肌触りが悪いしさ。一番早く仕立て上がる一式だったんだよね。
「それじゃあこれに着替えようか。まずこのマットの上に乗って足を綺麗にしようね」
「おと~さんありがとう♪」
「俺の事は完全にお父さん扱いなんだな?」
「わらわの事は母親と思っておったようじゃ」
とりあえず足を綺麗にしたら下着から渡してみた。それを手に取って匂いを嗅いでる。うん、この辺りはすっごい猫っぽい。
「それは身体に着ける物じゃ。こうして足を通して……」
「変なかんじ~。でも、おと~さんもおか~さんも同じだよね」
「そうだな。シャルもちゃんと着ないと」
「は~い」
割と常識は備わってる? その辺りは憑いてた精霊のおかげなのか?
【あなたよりもしかしたら常識があるかも】
それはねえよ!! 流石に俺は裸に布まいた姿で玄関まで出ていかない!!
【それだけあなたに逢いたかったんじゃない?】
……そういう考えもあるか。
「こうして服を着て、靴を履けばばっちりなのじゃ」
「やっぱり変な感じ~。でも、慣れないといけないんだよね?」
「そうだな。我慢してるシャルはいい子だぞ」
「わ~い♪」
ネコの時の様に頭を撫でてみる。ちゃんといい事をしたら褒めて覚えて貰わないとね。
「シャルだけずるいのじゃ」
「それじゃあヴィルナも。さて、これからいろいろ問題があるけどシャルはどこまで自分でできるんだ? トイレとか風呂とかなんだけど」
「トイレは既に教えたので大丈夫じゃ。もうそこの猫ベッドとトイレとかは必要ないじゃろう」
「ご飯も今日から一緒のメニューでいいよな? 完全に人と同じ扱いでいいんだろ?」
「そうじゃな。シャル食べたいものがあれば今日からは自由に言うてよいぞ。今までは食べれなかったメニューも多いじゃろう」
「わ~い!! 今日から同じご飯なんだ~♪」
今までは割と別メニューだったからね。ご飯の問題はこれでいいとして。
「後は寝床と部屋か。空いてる部屋を子供部屋にするかな?」
「もうひと部屋位空き部屋があればよかったのじゃが」
いっそのこと建てるか? 和室も欲しかったし庭の一角に新しい家を。
今年子供を授かるんだったら、その子の子供部屋も必要になるだろうしね。
「今日の所はとりあえず居間で過ごして。寝るのは一緒に寝室かな? 今から子供用のベッドを設置してくるよ」
「わかったのじゃ。シャル、ここでわらわとおとなしくしておるのじゃぞ」
「は~い。おか~さん。シャル、あの女の子の動く絵が見たい」
「魔法少女マジカルルピナかな? あれでも観ながら少し待っててくれ。ベッドを設置したら少し調べ物もするから」
「了解なのじゃ」
さて、当然ベッドの位置は俺とヴィルナのベッドの真ん中だけど。今度からヴィルナがベッドに入って来た時が心配だな。
シャルがネコ形態の時に散々見られてるってのはあると思うけど、どうなんだろうね? 確認する訳にもいかないしさ……。
◇◇◇
とりあえずアイテムボックスのファクトリーサービスで設置型の家を設計してみる。
うちの庭はかなり広い。というか更に周りの土地を譲渡されて結果的に全体の十分の一も使っていなかったから、ほとんど荒れ地に近い庭の中にポツンと今の家があるだけだ。家を挟んだ反対側に大きな新築の家を建てて、この家は離れ代わりにしてそのままって手もあるな。
【かなり大きな家にするんだね。もうお屋敷って言ってもいい大きさだよ?】
生まれてくる子供が一人とは限らないからね。子供部屋はそれぞれに用意した方がいいだろ?
育児用のメイドロイドも注文した方がいいかもな。この辺りは掃除メカの延長だけど、一応ヴィルナと相談した方がいいだろう。戦闘機能付きにしたら何かあった時も安心だしな。
【本当にあなたって先の先まで考えてるのね。今年中ったって子供が出来るのは多分来年でしょ?】
聖魔族が人間と同じ妊娠期間かどうかわからないけどそうなのか?
【大体その位になると思うよ。詳しい事は教えられないけどさ】
そっちにも何か事情があるんだろうね。ありがとう。
【新年会の料理をたっくさん送って貰えたからそのお礼かな? ホントに気合が入った料理ばかりだったからあの新年会のコースをこっちで再現したんだよ。女神さまたちもすっごく感激してたんだ~】
色々考えて作ったコースだからね。
ちょっと量が少なくなかった?
【ちょうどよかったよ。デザートのケーキとか食べたし】
それはよかった。お、家の設計が完成したな。ちゃんと新しい風呂はあるし、厨房もこの家の物より豪華にしたからな。部屋数もかなり多いぞ。
【あ、ファクトリーサービスの時間調整して明日にはそっちに建てられるようにしておいたよ。料理のお礼♪ じゃあね~】
いや、ありがたいんだけど明日か……。
明日は仕事を休んでとりあえず家の増築だな。家具とかの移動はお互いにアイテムボックスでいいだろうし、家具も新調してもいいしね。
さて、自分の子を育てる前にシャルを育てないといけなくなったな。いや、元から家族だったんだし、姿以外は何も変わってないか。
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