第二百九十一話 その事に関しては俺も同じ考えだ。しかし、お前は以前司令の命に背いて勝手に敵の拠点に突入してしこたま怒られただろう?
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
シャルの問題をヴィルナに任せっきりにするのは気が引けるんだけど、今日も俺は男爵の屋敷で王都方面の問題について話し合っている。
ここ半月ほどが勝負なんだろうからしかたないとはいえ、こうも毎日男爵の屋敷で話し合いをするんだったらここに泊まるという選択肢もあったかもしれない。土方はあまり呼ばれないけどここに泊まっいてるみたいだし。
「敵対しているとはいえ王都の住人が塩喰いに塩に変えられているという現状を、俺達ブレイブの力を持つ者が黙ってみている訳にはいかないんだが」
「その事に関しては俺も同じ考えだ。しかし、お前は以前司令の命に背いて勝手に敵の拠点に突入してしこたま怒られただろう?」
「アレは勇み足だったからな。あの時の事は反省してるし、現状があの時の状況に似ている事も理解している」
三代目ブレイブのトルネードブレイブ、風切旋風が敵のアジトで戦っている時に雷牙が別の基地に突入してそこにとらわれていた人を救出したんだけど、そのせいでアジトに他の敵幹部が集結したんだよね。
トルネードブレイブは自力でパワーアップして切り抜けたけど、間一髪の戦いで下手すりゃ風切が死んでたんじゃないかって状況だった。
塩喰いを討伐して王都の住人を助けた時にこっちに他の敵が来たら、その時の状況と殆ど同じなんだよな。パワーアップするのは俺か土方だろうけど。
「それでも大勢の人が改造されずに助かったのはいい事だし、その事については司令も褒めてただろ?」
「今回はあの時と違ってちゃんと突入する前に男爵やスティーブンに声をかけただろ? 今はやめてくれと止められたのは釈然としないが」
「王都の住民を見捨てられないっていうお前の考えは理解できる。でも、今王都を助けたら何度でも同じ悲劇が繰り返されるだろう。キッチリ本体を叩き潰さない限り中途半端な手出しはダメだ」
「今は王家が塩喰いを生み出した証拠がない。一応形だけは衛兵を向かわせたし、民を守ろうとしたアピールはしておるからな」
「討伐に向かった衛兵はどうなった?」
「当然全滅だ。塩に変えられて喰われたって話だな」
まてよ。塩喰いが人を塩に変えても、結局は塩喰いが食って終わるだけじゃないの?
「それって意味なくないか? 塩喰いは人を塩に変えるだろうけど、自分で食うだろ? それだと塩が手に入らなくないか?」
「塩喰いは塩を好む。当然、倉庫に塩を山積みしているようなところも襲われる」
「……王都の住民や衛兵を犠牲にして、買い占めた塩を放出させるのが狙いか!! 腐れ外道が!!」
「そういう事だ。次は食料を狙う何かを呼び出すのだろう。食糧を放出させる目的でな」
買占め対策としてのやり方としてはまっとうなんだろうけど、自分たちは王都中心部の結界で安全だからやってるんだろうな。
自分たちを襲わないように塩喰いのコントロール位してるだろうけどさ。
「そんな敵に心当たりがあるのか?」
「暴食魔怪種タラギラスか? 魚のタラをモチーフにした魔怪種だけど、ほんとに何でも喰いまくる敵だったな。食糧庫も襲ってたはずだ」
「あいつか……。この世界では見てないからあいつを呼び出すかどうかは分からないけどな」
「流石にあいつも一般人の手には余る魔怪種だしね。俺たちが討伐してなけりゃどこかで暴れ続けてるだろうさ。情報が入ってこないって事はこっちに存在しないと考えていいだろう」
という事は再生魔怪種で出てくる事は無いか。別の魔怪種に食料庫を襲わせる可能性はあるけどな。
「塩喰いが王都を抜けて南下すれば即座に討伐を頼む。奴らはいずれそうしてくるだろう」
「他の方向に向かわせる可能性は?」
「その時は王都にも莫大な被害が出るからな。流石にこれ以上犠牲者は増やせまいて」
「王都の存在意義が失われるからな。すでに殆どゼロだが」
大貴族や各ギルドが引き上げた時点で都としては完全に終わったしな。
国王のレオナルド・モルビデリとやらも自分が最後の国王になるとは夢にも思わなかっただろう。
「これで塩と食料を全放出させたらどの位持つ?」
「春先までは持つかもしれん。どれだけ住人が犠牲になったかにもよるんだが」
「流石に正確な犠牲者の数は分からないか。王都は馬鹿みたいに広かったしな」
「逃げ出している者も多い。そのうち内部から崩壊する可能性もあるぞ」
王都に留まる理由なんてないだろうしね。
他の街に行ったら飯の旨さに感動するだろうな。はっきり言って王都は酷過ぎだ。
「塩喰いの件は納得した。南下したらすぐに連絡をくれ」
「お前が出張るのか?」
「譲ってやってもいいが、状況次第だな。お前の方は魔法学校の仕事があるだろう? 先月もほとんど顔を出していないんだろ?」
「確かにな。理事長なんだからあっちの仕事もせにゃいかんか。土方にはいろいろ無理を言ってるけど」
「他の現場もある。ほどほどにな」
「来年以降には確実に生徒数が増えるからその対策ですよ。一年位は猶予がありますけど、一年なんてあっという間ですから」
ほんと、一年前も学校の準備でいろいろ忙しかったけど、一年なんてアッという間だったしね。
あいつらが卒業するまでに色々と整えなきゃいけない事も多い。
「うちの学校は初めから割と余裕のある造りにしたからその点は安心だ。宿舎もでかいのを建てたしな」
「このままいけば来年度以降は生徒数が激増しますよ? 伯爵家とか結構新しくこっち陣営に入ったんですよね? 向こうに学校を建ててもいいですけど」
「それもそうだな。この街にもうひとつ学校を建てても良いし、他の大都市に作るという手もあるな」
「問題は予算ですよ。割と維持費というか、人件費も含めて結構な額になるでしょう?」
「お前の所の学校は異常だ。うちも同水準にしたら教師は喜んだが年間の予算が激増したぞ」
「未来への投資ですよ。それにその条件ですと質の高い教師も集まりやすくなります。生徒も大切ですが、まず教える教師の質が上がらなければ意味はないですよ」
いい師に出会える事は、生涯の宝だとおもってる。その機会を作るのも俺たちの役目だ。生徒は教師を選べないけど、俺たちが選ばなくてもいい状況を作る事は出来るからな。
卒業した生徒が教師として戻ってくる可能性もあるし、その時は温かく迎えてやろう。
「こちらが運営する学校は今の水準でもよいが、他の学校はそうもいかぬだろうな」
「予算次第ですね。そのうち同じ水準にせざるを得ないと思いますが」
「だろうな。安く募集をかければ誰も教師が来なくなるだろう。こちらの求める水準に届かない教師は集まるだろうが」
「今度は教える授業内容が悪くなるだろうね。安くてもいいって教師がいるかもしれないけどさ」
考え方は人それぞれだしね。
うち以上に自由な校風の学校は無いと思うけど、厳格に教えていきたいって教師もいるだろうしな。自由過ぎるのだけがいいとは思わないから、そういう考え方もあるんだろうけど。
「学校の話はその位でいいだろう。王都方面でこれ以上何かあればこちらも手出しがしやすくなる。王都の住人には悪いがもう少し我慢してくれ」
「苦しむのはいつも力を持たない民だからな。さっさと正体を現してくれればいいんだが」
「後一歩だろう。どちらにせよここまで国力が落ちればあの王都を維持できんだろう」
あれだけ長大な城壁の維持だけでもどれだけかかるか分からないしな。
王都が音を上げるのはそう遠い未来の話じゃないだろうぜ。
というか、さっさと正体を現してくれた方が犠牲者が少なくて済むんだけどね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




