第二百九十話 こうしてヴィルナと何か観ながらゆっくりするのもホントに久し振りだよな。先月は新年会の準備とかで大忙しだったし
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
今は一月。ヴィルナが聖域を作るのは暖かくなってくる五月ごろになりそうだな。王都とか北の方だとさらに数ヶ月先かな?
今日は流石に王都方面の続報は入ってこなかったんで家でゆっくりしてるんだけど、久しぶりにヴィルナとの時間を過ごせそうだ。今日は現代物の映画を見ながらくつろいでるんだけどね。
「こうしてヴィルナと何か観ながらゆっくりするのもホントに久し振りだよな。先月は新年会の準備とかで大忙しだったし」
「忙しいのはソウマだけじゃったがな。わらわは毎日出てくるご馳走をシャルと楽しんでおっただけじゃ」
「うなぁ~♪」
あれだけ毎日ご馳走が続いたのに全然食欲落ちなかったヴィルナも相当だと思うんだけどね。
カロンドロ男爵やスティーブンですら割と堪えたみたいなのに……。美味しいものってたまに食べるといいけど常食する様なものじゃないしな。
「俺はひと月同じメニューでも割と平気な人間だし、新しい食材が手に入った時は毎度のことだけど。ヴィルナも割と付き合って食べてくれるよね」
「たまにわらわが好かぬメニューになりそうなときはちゃんと別メニューにしてくれておるじゃろ? ソウマのそういう所がいいのじゃ」
「嫌いなメニューは出さないよ。食事は楽しまなきゃね」
食べられない物の強要とかさ、ほんとにバッカじゃないのかと思う。
他人の食べる物に口出しする時は、宣戦布告する事と同様の行為だと理解するべきだ。俺も新年会とか晩餐会の料理を作る時はホントにいろいろ調べるんだから。
「あの豆の料理。ソウマやあの男どもしか食わぬのじゃが、アレはそこまでして食う料理なのか?」
「納豆か。あれは俺のいた世界の割と普通の食い物だよ。朝食とかにもよく食べるし、定食とかでおかずとして選べたりするし」
「アレをか?」
「うん。みそ汁の具にしたり、そのままご飯にかけたりと色々食べ方はあるけどね。栄養は凄くいいし体にもいいからさ」
この世界だと薬系の威力が凄すぎてあまり気にされない部分だよな。一部の料理でモリヨモギとかを野菜代わりにしてるのも健康の為って部分があるんだろうし。
傷薬というか飲み薬で腕が生えてくるような世界だと、医学なんて発達しないよな。数年前までこの辺りの平均寿命が短かったのは、金が無くてそういった薬とか薬草を買えなかっただけだろうしな。
「ソウマが食べるものはわらわも食べてみたいとは思うのじゃが、流石にアレは口にするのを躊躇うのじゃ」
「以前挑戦した梅干しも、料理につかった時は割と食べるようになったしね。調理法次第なのかもしれないけどさ」
「わらわがあの酸っぱい物を食べておったのか?」
「梅酢を使ったり、チャーハンとかの料理に混ぜたり、叩いてソースにした事もあっただろ?」
ハモの湯引きとか、そっち系の料理の時に酢味噌と一緒に出してたしヴィルナも食べてたよな?
「知らぬうちにアレを食べておったのか。あのような酸っぱい物など食えぬと思っておったのじゃが」
「そのまま食べると結構酸っぱいからね、お粥とかに使うと丁度いいし食欲の落ちる夏場なんかにも喜ばれたりするんだよ」
「確かにあの味を思い出すだけで口の中に唾液が出るのじゃ。余程頭に刻み込まれる味なんじゃろう」
「梅ってかなり酸っぱいからね。一度食べると記憶に刻み込まれると思うよ。夏場の食欲がなくなる時期には一役買ってるけど」
夏の料理には割と使うからね梅干し。
冬の梅昆布茶もおいしいけど。
「別にわらわは夏でも食欲はおちぬのじゃが。やはり暑いと食欲が無くなる物なんじゃろうか?」
「こっちは元の世界程夏が蒸し暑くないから、そこまで食欲が落ちる事は無いんだけどね。それでも若干は落ちてると思うよ」
「そういうものじゃろうか? 何処の店も夏場でも割と混んでおるんじゃが」
「ん? 誰かと店に行ったりしてるのか?」
「たまに小娘どもといっておる位じゃな。わらわが作った方が美味しいとは思うのじゃが、たまには外食もいいじゃろ?」
「そうだよな。俺もたまにはどこかに食いに行きたいんだけど、外食なんて遠出してる時くらいだしね。冒険者ギルドの食堂とか今はどうなってるのか気になるけど」
学食もチェックしたりする時くらいしか利用してないしな。あまりあそこに顔を出すと生徒や職員に悪いし。
俺がいたら楽しい昼食タイムが緊張の食事タイムに早変わりだろうしな。特に反省文提出数トップグループの奴らは。
「そうは言ってもソウマがこの街の食堂に顔を出せば、次の日からその店は朝から大混乱じゃろう?」
「そこなんだよ。料理がおいしいとかそういった価値は完全に無視されて、俺が食事をしたってだけで客が押し寄せるからな。以前アドバイスしたパスタ店なんて連日長蛇の列が出来てるし」
潰れかけた? なにそれ? ってレベルで客が押し寄せているらしい。
とくに宗教関係者というか、各教会の信徒たちは俺の行く店とかをありがたがったりするしさ。俺が座ってた席なんて特別席扱いになるそうだ。
「気軽に行ける店じゃと冒険者ギルドが無難じゃろう。あそこも最近は暇な冒険者のたまり場になっておるそうじゃが」
「この街にそんなに冒険者がいるのか?」
「オウダウやイサイジュ方面の冒険者が冬の間だけ骨休めに来ておるそうじゃな。この寒い中に討伐任務などやってられんのじゃろう」
「剣猪の需要もあるから依頼はあるだろ? 冬でも市場に出回ってるみたいだけど」
「暇な冒険者がたまに討伐に行くそうじゃ。毎日行くより買い取り値が良いそうじゃな」
そうか、余ってる状態より不足してた方が買取価格は高くなるか。
一匹狩ってくりゃ結構な量の肉になるし。今は豚肉や牛肉もあるし、毛長鶏とかの鳥類もかなり出回ってるから別に剣猪の肉が無くても肉には事欠かないんだよな。
「となるとしばらく冒険者ギルドもダメか。ルッツァも今は冒険者の育成というよりは自分の鍛錬の方が忙しいみたいだし」
「給金を貰いながら自己鍛錬中だそうじゃ。あと何人か同じ訓練を受けておったらしいが、他は全員逃げ出したという話じゃが」
雷牙のしごきに耐えられる訳ないじゃん。修行とか特訓の時に手を抜かん奴だしな。
普通の人間はあいつの言う軽いランニングで吐きます。氣が多少あっても役には立ちません。次に筋トレで体力を使い果たして行動不能になります。組手? そこまで残る奴がいるかどうか……。ルッツァはそこまで残ってるんだろうけど。
一般人の特訓なのにブレイブサンダーで追い掛け回したりしてないだろうな?
「ヴィルナの情報源って何処なんだ? ほとんど家にいるのに詳しいよな?」
「ミランダやあの小娘、他にも何人かうちに来る者はおるぞ。ソウマがほとんど家におらぬので会わぬだけじゃ」
「へぇ。うちでお茶したりしてたんだ。シャルがいるのに大丈夫なのか?」
「そのシャルがおるのであのグリゼルダというメイドがよく来るのじゃが。自分でこしらえた猫用の餌を持ってくるようじゃ」
市販の餌はどんなに高級餌でも食べないしな……。最近は以前は少し食べてたペレットも食べなくなってきたし。
というかさ、シャルってほんとに猫だよな? 鑑定でも一応猫って出てるけど。
「シャルってさ、もう完全に成猫だよな?」
「そうじゃな。わらわもそこまで詳しくは知らぬがもう十分に大人じゃろう」
「狩りをしてこないのはいいんだけどさ、そろそろお婿さんというか相手を探してきてもいい歳だよな?」
「去年発情期があってもおかしくはない筈なんじゃが、不思議と発情期も無いようじゃが」
おかしいよな?
もうそろそろ三年目になるよ? 三歳の猫って十分成猫だしもう子供産んでてもおかしくないよね?
「元いた世界の猫とは何か違うのかもしれないけど、流石にそれでもここまで違うものなのか?」
「シャルがその気にならねば相手など探してこぬのかもしれぬぞ。ほとんどわらわたちと過ごしておるし、自分の事を人と思っておるのかもしれん」
「その可能性は高いな。飼育環境で色々変わってくるって話は聞いた事あるし」
やけに猫っぽい動きをする犬とかいろいろとね。
「シャルが生む子猫にも興味はあるけど、これ以上増えると飼うのは大変だろうしな。シャルも落ち着かないだろうし」
「シャルも我が子を手放さんじゃろうし、猫屋敷コースは間違いないのじゃ」
「それ以前に相手の猫がな……、今は殆ど野良はいないし」
まさかそれが原因か? うちの庭には他の猫は侵入できないし、シャルはうちの庭からは出ていけない。
そもそも出会いの機会を奪ってたのか?
「シャルにお婿さんでも探してみるか?」
「大きなお世話かもしれんのじゃ。大体発情期もない猫など少しおかしいのじゃ。まさかとは思うが精霊憑きかもしれぬ」
「精霊憑き?」
「精霊は稀に動物や人に憑依して身体を支配したりするのじゃ。憑かれた方の精神力が高ければ逆に力を全部奪われて終わるのじゃが」
「それって調べる方法はあるのか?」
「わらわが数日調べてみるのじゃ。精霊憑きでもわらわであれば祓えるしの」
それだと安心だ。
流石にヴィルナ。この世界のそっち系の知識は本当に頼りになる。聖魔族だから対応策も幾つかあるんだろうしね。
「では今から始めるのじゃが、わらわの部屋で始めるのじゃ。ご飯の時には降りてくるので、声をかける必要もないのじゃ」
「集中したいって事か。分かった。邪魔しないようにするよ」
これでシャルの方は安心だな。
今まで俺も気が付かなかったのは間抜けだけど、こっちの猫ってそういうものだと思ってたし。
シャルに発情期が無くて鳴かなかったのもおかしいとは思ってたけどさ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




