第二百八十八話 そんな力もあったのか。いろいろ凄いというか、氣って便利過ぎないか? 燃費はかなり悪くなるけど
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楽しんでいただければ幸いです。
十三月をほぼ丸々準備に費やした新年会も終わり、ヴィルナが絶対に出ないというので俺一人で初詣に出かけている。寒いって言っても雪も降ってないしいいじゃないかと思うけど、それは寒さにも強い俺たちの言うセリフなんだろうな。
「氣が上がると熱さや寒さにも強くなる。無意識のうちに全身に微弱な特殊シールドを発生させてるようなものでな。おそらく今のお前だったら不意打ちに魔法などをくらっても無傷だろう」
「そんな力もあったのか。いろいろ凄いというか、氣って便利過ぎないか? 燃費はかなり悪くなるけど」
「あれだけ食べても太らない体質というのは見ていて羨ましいものなんですよ。ヴィルナさんも特殊体質みたいですが」
流石にエヴェリーナ姫は女性だけあって俺達高氣の男連中やヴィルナみたいな特殊体質にあこがれてるみたいだね。あんなに食べてるのに欠片も体重が増えやしないし。
今日の雷牙は和服で決めているしエヴェリーナ姫様も振袖を着こんでいるけどやっぱりいいものだよな。俺はヴィルナが着なかったからいつも通りのスーツにしたけどね。
そこはいいとしてだ。
「よく年始から休みが取れたな。それと、隣の女性をそろそろ紹介してくれてもいいんじゃないか?」
「流石に正月から動いてる現場なんてないぞ。もしこんな時期に仕事なんて持ってきたら、他の職人達もキレるさ」
「俺も隣の女性を紹介して欲しいんだが。お前もようやく身を固める気になったのか?」
土方の隣にいるのは少し着飾った男爵の孫娘。肌の色が南国系というかやや小麦色?
「ハーイ初めまして、ワタシはアメーリアデース。クライドにはマッアサイアで出会っていマース」
「カロンドロ男爵の孫娘だよな? なんというか、かなり性格が違う気がするんだが」
「母親が他の国の女性なんだ。南国系? この世界の事はよく知らんが」
「マッアサイアに交易に来る国はいくつもあるって話だからな。北の方から来る船と南から来る船でかなり違うって話は聞いてるぞ」
北方面は色白だけどちょっと毛深くて筋肉質な海のドワーフって感じの漢が乗ってるし、南方から来る船には小麦色の肌の船員が多い。
海の魔物を討伐するって事になるとどうしても魔法が必要だから、何処の船にも女性の船員の数が多いんだそうだ。
「以前病弱って聞いたんだけど」
「王都に閉じ込められている時は退屈でふさぎ込んでマシタ。自由が一番デース」
「動いてないとダメっぽくてな。正直領主向きの性格じゃないから男爵も頭を抱えてるみたいだ」
「その辺りは大丈夫だろ。俺やスティーブンもサポートするし、男爵だってあと五十年位いけるだろ?」
男爵もエルフの血を引いてるからな。
正直、土方とアメーリアの間に曾孫が出来るのを待ってる気がする。今度こそ小さい頃から上に立つ者としての英才教育を施す気なんだろう。
「それなんだよな。一応何かあった時にはリアに跡を継がせる気らしいけど、周りの人間が優秀過ぎて手出しする場所なんてないだろ?」
「ほほう、お前はリアって呼んでるのか。いや~、やっぱり愛称でよばにゃな」
「別にヴィルナでいいだろ? ルナとでも呼べってか?」
「その辺りはタイミングだろな。お前の場合はもうその呼び方が長いんだろうから今更変えられないだろう」
「そりゃーな。その話はいいとしてだ、土方も今はこの街で有名人だし大変だろう?」
「お前に比べりゃ足元にも及ばねえよ。俺を知ってるのは建築関係者だけだ。後は各ギルドのお偉いさんとか」
新しい何かを建てたい時は必ず相談が持ち込まれるらしいしな。
こいつに話を持ち込むとかなり頑丈で見栄えの良く居住性の高いビルが出来上がる。魔法使いとかを上手く使って資材の移動とかいろいろ工夫してるそうだしね。
「そんな事はどうでもいいでしょう。わたしはエヴェリーナといいます。主人ともどもこれからお世話になると思いますのでよろしくお願いしますね」
「堅苦しい挨拶は無しデース。エヴァも私をリナと呼んでくだサーイ」
「え? あ、は、はい」
「押しが強いな」
「気遣いはできるしかなり人に好かれる性格なんだけど、フレンドリー過ぎてな。俺も割と振り回されてるんだ」
こいつを振り回す行動力って凄いな。
そういえば、マッアサイアであった時も俺を市場まで案内してくれたっけ。
「それでは教会に向かいマース。ワタシは女神シルキー教なのでシルキー教会に向かいマース」
「えっと異存はないかな?」
「最終的に全教会を回らないといけない気がするし、一番最初って事でいいだろ」
「流石にリアは他の教会にはいかないと思うぞ。その辺りは割と頑固なんだよ」
「信仰する神は女神シルキーだけデース」
「南方の国は女神シルキー教が多いんだそうだ。馬鹿でかい教会もあるらしい」
お国柄って奴か?
割と懐の広い女神っぽいし、南国の風土に合ってたのかもしれない。
「北地区にあるシルキー教の教会って新しく建て直したって聞いたけどそうなのか? 先月までは旧教会に卵サンドとかを届けてたんだけど」
「区画整理の関係で教会の敷地を少し北に移動するついでに新築したぞ。結婚式も多くなってきたし、予算はお前の寄付とかが莫大にあったからな。かなり立派な教会に生まれ変わった」
「元の教会は?」
「先日移転も完了したし、そろそろ解体して再開発だな。この街もあちこちで移住者が出てる。今まで割と余裕があったとはいえ、区画がごちゃごちゃになってたからだが」
それは何となく話を聞いている。
学校を建てる時も苦労したらしいからな。
「ここデース。ここまで立派な教会は他にはないでしょう」
「でかっ!! というかこれ殆ど木造だろ? 短期間で建てられるデカさじゃねえぞ」
「資材さえあればこの街の職人だと平気でやるぞ。今は木造建築が減ってるからここに全力投入って感じがあったからな」
「相変わらずこの街の木造建築技術は異常だ。このレベルを一年くらいで建てたんだろ? 信じられない」
その教会の周りには無数の屋台。そして秋祭りの時の様に破魔矢や御守りを売るで店が並んでる。
「あの屋台の料理がおいしそうデス。買うデスよ」
「ああっ!! とまあ、いつもこんな感じでな。とりあえず行ってくる」
「あいつも苦労しそうだな」
「性格は似てるんだが歳の差か? 流石にあのテンションには少しついていけない」
「皆様落ち着いておられますからね」
エヴェリーナ姫のセリフが俺や雷牙にクリティカルダメージ!! いや、俺たちはまだ若いよ? というか、俺はまだアラサーだから。
「よし、今日は少し羽目を外すか。それじゃあ俺達もこれで……」
エヴェリーナ姫の手を引いてどこかに消える雷牙。屋台巡りかな?
「いや、男一人で初詣なんてそんなにする事はないし。お賽銭入れたら帰るよ」
超巨大な賽銭箱まであるしな。教会にあるのはすっごくシュールだけど。
しかし、すっごい人だな。この街の人口は既に数十万って話だけど、ほんとに一気に王都に並ぶ巨大都市になったもんだよ。
「あの……クライド様ですか?」
「はい。何処かでお会いしましたか?」
「新年会でお会いしました。といっても私は末席にいただけですが」
という事は司祭か司教クラスか。
今回の新年会には教会関係者も多かったからね。
「数ヶ月前王都の教会からこちらに来ました司教のマデリーネです。一応この教会の責任者をさせていただいております」
「それは大変でしたね。王都はもういいのですか?」
「元々我らの教会は王家の振る舞いに眉をひそめていました。他の貴族同様に王都を見限っただけですよ」
「孤児や他のシスターたちはどうしたんですか?」
「孤児たちは近くの貴族領にある教会に移住しました。シスターも殆ど周りの貴族領に孤児たちと一緒に移住したようですね」
……王都で巻き込まれるよりはマシか。
でもそうなると王都の人はもう教会すら頼れないのか?
「他の教会はどうなんですか?」
「王都にもう神の加護は無いでしょう。それぞれの教会が自分たちの考えに基づいて近場の貴族領に移住しました。孤児や信者の多くは一緒に移住したようです」
「よく受け入れましたね」
「王都からの難民を受け入れた貴族領には、カロンドロ男爵様から資金や食料などが送られてきます。それ目当てと同時に、この先に少しでも優位に立てる功績をあげたかったのでしょう」
そりゃあ戦って武功を挙げられる状況じゃないし、難民を受け入れるだけでこっちの心証がよくなるんだったらそうするか。
王家が滅んだあと、誰がこの国を治めるかはもうわかりきってるしな。
「そのうちこの国全体が好景気に沸くでしょう。そうなればどの街もここと同じようになりますよ」
「そうなるといいのですが」
「なりますよ。仕事は幾らでもありますし、向こう数十年は好景気状態ですね」
そうなる未来が見えた訳じゃないけどさ、そうするのが俺たちの仕事だ。
誰もが飢えることなく、安心して暮らせるそんな国を……。
「勇者クライド様のお言葉です。その未来が来るのでしょうね」
「今のこの街の姿、これがこの国中に広がるだけですよ。段階を踏んで成長するでしょうし、一気にここまでならないかもしれませんけどね」
人材とか資材とか色々問題もあるしね。
土方が育ててる人材が育ち切ればもう少し早くなるんだろうけど。
「移転は完全に完了しておりますので、今後卵サンドなどの配達はこちらにお願いしますね」
「わかりました。月に一度は顔を出すつもりですので、何かあればその時に……」
「はい。お忙しいところを申し訳ございませんでした。ではこれで」
司教マデリーネか。
美人だったけど、何処か冷たい感じの表情をする人だったな。
お賽銭を入れたらさっさと帰るか。ヴィルナもいないし。
読んでいただきましてありがとうございます。
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