第二百八十七話 いよいよ新年会か。料理や酒は全部渡してあるし、器とか演出に必要な物も完璧に揃えた。後は一緒に楽しむだけだな
連続更新中。この話から新章に突入します。今回は新年会で料理回になります。
楽しんでいただければ幸いです。
年が明けてから一眠りして入浴と身支度をしてから新年会って事になっている。時間的には夕食になるんだけど、この日に限っては昼食も割と量が少なめだし、三時の軽食も無しだ。
新年会の料理の数が多いし、ボリュームも凄いからね。雷牙とかルッツァ達は足りないってアイテムボックスからいろいろ取り出して食べてたけど。氣が高いとホントに燃費が悪いよな。
「いよいよ新年会か。料理や酒は全部渡してあるし、器とか演出に必要な物も完璧に揃えた。後は一緒に楽しむだけだな」
「あれだけ毎日料理を食べておいてよく飽きぬものじゃな。流石にわらわでもあれだけ続くときついのじゃが」
「無理に試食に付き合わなくてもよかったのに。男爵やスティーブンも程々にしてただろ」
「最後はひと口サイズにして欲しいといっておったな。あれから数日経っておるし、その間は簡単で軽めの料理を食べておったそうじゃろ?」
「いわゆる粗食系だな。贅を凝らした料理の後には、薄味のお粥と少しばかりの塩気のある何かで十分だって」
といっても、お粥に乗せる具はカラスミとかだけどね。流石に塩粥に梅干しじゃさみしいし。
毎日ご馳走ってのはやっぱりきついものなんだな。俺は新しい食材を手に入れた時なんて数日かならず続くのにね。
【その度に私たちにたくさん送って来てくれるのはホントにありがたいんだけどね。突然なんでこの量と数って時があるけど、そういう事だったの】
そういう事だよ~。
飽きないように、他の料理も一緒に送ってるでしょ? あ、新年会に突入したら流石にそっちと話はできないよ?
【わかってるって。新年あけましておめでとう。今はそっちに時間を合わせてるから、こっちでも今日が新年なんだよ】
おお、あけましておめでとう。今までは二週間に一回新年だったっぽいから送らなかったけど、予備に用意してたお節のセットを送るね。去年みたいに豪華なのがいい?
【あっちは流石にもう受け付けてないよ~。お節はありがたく受け取っておくね】
今までは時間の流れが速い事を利用して他の世界から買ってたみたいだしね。俺が許可してた事だけど。
……もしかして他の世界産だったらお節もまだあるのか? ああ、届くのが数日後なんだ。届くころにはもう正月は終わってるよな。
【そういう事なの。あとオードブルも欲しいな~】
そういうと思って別口で用意してるよ。
今年もいろいろお世話になると思うからよろしくね。
【は~い。じゃあね~】
天使ユーニスにも挨拶とかは終わったし、後は新年会に全力を尽くすだけだ。さて、そろそろ会場の準備もできたみたいだし席に着くかな。
◇◇◇
新年会の席順。男爵のすぐ隣に俺ってどうよ? 孫娘と思われる少女は少し離れた場所に土方と一緒に並んでるけど、あの子って以前マッアサイアの市場で見かけた子だよな? あの子が孫娘なのか? 病弱って話はどこに行った?
あの子の事もいろいろ聞きたい気はするけど、とりあえず今は新年会だ。
「本日は我が領の新年会に参加された事を感謝する。雪などの理由の為に早い者には半月ほど前から滞在して貰っておるが、それなりのもてなしは出来たのではないかと思っておる」
流石に今までのあのレベルをそれなりといわれては貴族も驚いているな。
料理や酒なんかは当然だけど、入浴の際のタオルやシャンプーなどに至るまで他では考えられないようなレベルの物を出してたはずだしね。ここの屋敷で働いてるメイドさんたちも普通に使ってるけど。
「本日の料理もクライドが担当した。楽しんで貰えればと思っておる」
「本日の料理を担当しました鞍井門です。後は料理長のキアーラに頼んでいますので、私も一緒に楽しもうと思ってます」
笑っている貴族が多いけど、初参加の貴族はちょっと驚いてるな。そこの教会関係者、俺を拝まない!!
今回参加しているのは貴族だけじゃない。教会の司教クラスと一部の司祭も呼ばれている。それ以外にも各ギルドの責任者、ドワーフの親方グントラムなど人族以外も呼ばれてるんだよね。別に禁忌の食べ物とかないから注意は必要ないんだけどさ。
「最初の前菜は幻マグロのスノードーム寄せです。特別な方法で泡立てたソースを雪に見立てた料理となっております。手元に配られました清酒と共に楽しんでいただければ幸いです」
「白と赤のコントラストが美しい。散らしてある緑がかった黒い粒は先日のキャビアですな」
「この清酒に散りばめられたものはまさか……」
清酒には金箔を散らしてある。先日の彫刻や持ち帰らせたキャビア用スプーンもそうだけど、この貴族領には金があるって事を印象付けたいからね。
「金箔だ。味に変わりがあるわけではないが、目を楽しませる目的で少しだけ散らしておる」
「このグラス一杯に使われている量は僅かとは言え、この人数全員に配るとなるとそれでもけっこうな量だ」
「この清酒の味も素晴らしい。前菜の魚にとてもあうぞ」
「今までの晩餐会も素晴らしかったが、今日は一段と違うようだ」
毎回参加してる貴族も驚いてるけど、初参加の教会関係者とかの驚きかたも凄いな。ゼラチンでソースを泡立てた料理なんてまだこの辺りにはないしね。
「続いて、ウズラモドキの卵を使った半熟のポーチドエッグ、ホワイトアスパラのビスマルク風です。ワインでお楽しみください」
「このワインも信じられぬ。一体どこで手に入れたのだ?」
「出所が分からない食材なども多いですな。本当に不思議な事です」
そりゃそうだろう。そのワインとかは流石に俺のアイテムボックスにあるファクトリーサービスで造ったものだからな。無数にある銘柄の中から料理に合うワインを探すのに苦労したんだよね。
「次の一品はサラダになりますが、これについてはクライド様から説明があります」
「三品目のメニューは大王渡り蟹のカクテルサラダになります。非常に濃い身の味と一緒にグラスに入った野菜を楽しんでいただければと思います」
「説明という事だが……。なんだこの蟹は? 砂蟹でもないし、ここまで味の濃い蟹など……」
「一部の方には知られていますが、私は女神フローラや女神シルキーにいろいろな食べ物などを奉納しています。神界、別の世界に供物を届ける力がある訳ですが、それとは逆に別の世界から食材などを取り寄せることも可能なのです。代価は必要となりますが」
うわ、今までとは比べ物にならない位ざわついてるな。今日初めて奉納の件を知った人もいるんだろうしね。
「別の世界の食材、この大王渡り蟹などはそうであるが食べても安全なのは儂が保証する。勇者であり聖者と呼ばれるクライドだからこそこの力を与えられたのであろうが、その力を悪用する事が無い事は今までの行いや為人で理解してもらえると思う」
「確かに。神に認められた者だけの特権か」
「どれだけ神に貢献すれば認められるのだ? まさに神の使いだ」
「あの方は本当に人なのか?」
人ですよ~。
一部うたがわしい様な事を言う人もいますけど。
「残念ながら大王渡り蟹はあのサイズなので、こちらの世界で飼育という訳にはいきません。この料理も女神シルキーの大好物ではありますが、必要な際は私に言っていただければと思います」
「おおっ!! あんな大きさの蟹がいるのか!!」
「女神シルキーの好物!! 我が教会に必要な物だ!!」
入り口のドアを開けてその奥に用意していた茹で大王渡り蟹を見せてみた。茹でて動かないし、大きな移動式台座に乗せられているとはいえ、迫力は満点だな。
女神シルキー教会の関係者はこの料理を楽しみながら、この蟹の料理をどうやって手に入れるか考えてるみたいだね。
「次の料理に移ります。三色のパスタのカルボナーラです。量は少ないですが、この後も料理が続きますのでこのサイズとなっております」
「パスタに野菜を練り込んであるのか。彩も美しいが、味も凄いな」
「乳製品はこの貴族領の新しい特産品。前回の約束通りこの領の名産品を出してきたのか」
「チーズ類は既に人気の特産品ですな。まだ出始めなのに凄い人気ですぞ」
街の食堂でもカリカリチーズとか色々出してるしね。
まだ出始めというか試食して味の悪かったチーズもあるし、そういったものは粉チーズにされたりいろいろ加工されてるみたいだけど。
「肉料理はエール牛のサーロインステーキです。まだ試行錯誤中の牛肉ではありますが、楽しんでいただければと思います」
「信じられぬくらい柔らかいな。それに肉の味も良い」
「これで試行錯誤中? この辺りの名産だった剣猪よりも旨いではないか」
「おそらくこれも……」
うん、俺が色々手を入れてるよ。
エール牛はまだ育成途中だったけど、食べられそうなレベルの牛を何頭か潰して入手した肉をキノコとかと一緒に漬け込んで柔らかくさせて貰った。流石にあのままだと硬いしね。
それに肉は温度管理させた場所で十分に熟成させてあるから、普通に出される肉よりうまいのは当然だ。
「料理の最後は大山雉のロースト、オレンジソースがけです。今この領内では様々な鳥が養殖されていますが、昔からの名産である大山雉を選んでみました」
「最後に大山雉とおもったが、確かに素晴らしい一品だ。特にこのソースは……」
「やや甘い柑橘系のソースですか。あまり見かけない手法ですな」
今までここの晩餐会とかで食べてない貴族には斬新だろうね。この辺りの甘酸っぱいソースってのは割と鶏肉と会うんだけど。
毛長鶏を使おうと思ったんだけど、あっちの方は帰る時に富貴鶏にしてお土産で持たせようと思ってるから、大山雉を選んだんだよな。シャケは流石にまだ使える程数が揃わない。
「この後はデザートとなります。南国のフルーツをふんだんに使ったフルーツタルト、東の森で採れた桃を使った桃のタルト、カスタードクリームたっぷりのクリームパイ、南国産イチゴを使ったショートケーキ、フルーツカクテルなどいろいろと用意しております」
「酒やデザートを楽しみながら楽しい時を過ごして貰えればと思う。女神シルキー教の者には特製の卵サンドも用意しておる。その他にも女神シルキーや女神フローラの好物などを知りたいときはクライドを訪ねて欲しい」
「アイテムボックス内に保管している料理もありますので、聞いていただければ提供できますので」
酒も普通の食後酒だけではなく、ドワーフ対策にウイスキーなども用意している。しかもあの時に渡したものと同レベルのウイスキーをね。
「このレベルのウイスキーを惜しげもなく……。まさに酒の神だ」
「これは全部砂糖の菓子? ただの砂糖をここまで蕩ける様な食感に仕上げるなんて」
和三盆の干菓子ね。サイズは小さくしているし、原材料となる竹糖はこっちにはないからそれだけは完全に寿買で買ったものなんだよな。
転売じゃなくてこうして食わせるだけだから大丈夫っぽいね。あれに手を加えて加工するとか無理だし。
「各領に戻る際にも手土産を用意するが、本日も幾つか土産を用意した。後で楽しんで貰えれば幸いだ」
「流石はカロンドロ男爵。お心遣い感謝します」
「ワインや菓子類のセットか。ここに泊まっておらぬ者には更に幾つか料理を持たせておるようだ」
ここに泊まってる人には必要ないだろ?
教会関係者やシルキー教の貴族はさっき俺から大量に料理を受け取ったしさ。特に大王渡り蟹料理は大人気だった。
「さて、俺たちは部屋に戻るか」
「そうじゃな。帰るのは明日でよかろう」
ここのベッドも寝心地いいし、風呂も大きくていいしな。
これで新年会はとりあえず終わりか。
さて、これから王都がどうなる事やら。敵がその前に動いてくれればいいんだけどね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




