第二百八十一話 お前が鍛えて送り出してる時点で勝負は決まってるだろ? それにこれは実戦じゃなくてルールのある模擬戦だ。そこをどう考えているかだな
連続更新中。この話で打倒勇者理事長!! 魔法学校最強決定武闘大会!! は、終わりです。
楽しんでいただければ幸いです。
少し休憩を挟んでルッツァと魔法少女エリーヌとの模擬戦。
闘技場のエリーヌはかなり余裕というか、万にひとつも負けるとはおもっていないみたいだね。流石に俺や雷牙クラスの人外レベル相手じゃなければ魔法少女の力はかなり強力だしな。
「さあ!! 一流冒険者の実力は魔法少女を上回るのか? エリーヌは余裕の表情で杖すら構えていません。一方の冒険者ルッツァさんは軽装に木剣というスタイルでこの模擬戦に挑むようです」
「魔法少女姿のエリーヌを何とか出来るのは勇者理事長先生とかライガさん位だろうしね~。あの二人のエキジビションマッチも楽しみですが、今はこの一戦にも注目したいと思いま~す」
といっても、盛り上がっているかというとそうでもない。
既に生徒の多くはエリーヌの勝利を疑っていないし、流石に一流とはいえ普通の冒険者でしかも男のルッツァが魔法少女に抵抗する手段なんて持っていないと思っているんだろうな。
「正々堂々と戦わせていただきますわ」
「こっちも全力で行くぞ」
中央で握手をするルッツァとエリーヌ。絵面はかなり犯罪臭がするというか、雷牙とエヴェリーナ姫の組み合わせ以上に年の差が凄いな。ホントに大人と子供だ。
「どう思う?」
「お前が鍛えて送り出してる時点で勝負は決まってるだろ? それにこれは実戦じゃなくてルールのある模擬戦だ。そこをどう考えているかだな」
「ルールも大きいが、あの子が自分の状況を正確に理解しているかだな。何故か上空に逃げないみたいだけど、アレは何かの策なのか?」
「女の子だからね。仕方がないんじゃないかな? 羞恥心とかあるし」
結婚してもその辺りは治らなかったか、戦闘に関しては手を抜かない奴だしな。何か対策をしない限り上空にはいかないだろうね。
逆さになってもあの短いスカートが捲れない不思議な力とか、謎の白い光とかそんな神の手による何かが……。
「戦いに恥ずかしいも無いだろう? 実戦でそんな考えだと死ぬぞ」
「卒業までには理解すると思うよ。恥ずかしいとか言ってる余裕があるうちは理解できないだろうし」
「お前もやりあってるんだろう? その時はどうだったんだ?」
「ちょっと魔法を潰しただけだ。アレは戦いってレベルじゃないさ」
今後エリーヌがどれだけ強くなっても魔法少女のままだと俺には勝てない。
魔法少女の力は魔力。氣よりは強い力なんだけど、魔力そのものは割と使いにくい力なのさ。
「お、模擬戦が始まるみたいだな」
「エリーヌが先に動いたか、さっきと同じように横に高速移動。でも、その癖は直した方がいいよな」
「人間は基本的に左から右に流れる事には対応しやすいがその逆は難しい。異世界でもその辺りは変わらんという事か」
「高速移動する時は必ず右。その動きをルッツァが読んでないと思ってるのか?」
超高速で右方向に移動してルッツァの後ろに回り込もうとするエリーヌ。
その動きと仕掛ける場所を確認したルッツァが氣を使って加速し、しゃがんでエリーヌの足を払った。
「え? いつの間にそこに!!」
「油断大敵ってな!!」
「きゃっ!!」
足を払われたエリーヌは当然浮遊の魔法を使ったままだから足を払われた姿で浮いている。
その襟首を掴んだルッツァは勢いをつけて場外へエリーヌを投げ落とした。
「場外、試合終了!! おおっと!! まさかの大番狂わせ!! なんと魔法少女姿のエリーヌが場外へ投げ落とされた~!!」
「人外の化け物はまだいたようだ~!! 一流冒険者のルッツァさんは普通の人のままで魔法少女を正面から打ち破った!! いや~、うちの生徒も小細工なんてせずに正々堂々とこうやって正面から戦って欲しかったですね~」
「いや。今のはルッツァの行動はかなり甘かった。最初の足払いの後に氣を込めた木剣で攻撃すれば、そのままダウンを奪えたはずだ。それでも勝てただろうに」
「あいつも一応紳士だからな。できるだけ怪我をさせたくなかったんだろう」
とはいえ、エリーヌの方は今の模擬戦は零点だな。流石にルッツァを舐めすぎだ。
今回は模擬戦だからいいかもしれないけど、実戦だったら死んでる所だぜ。その時はルッツァも手加減なんてしないだろうしな。
「いたたたたっ……。まさか、こんなに簡単に負けるなんて」
「怪我は無いか? 痣になるといけないから、何かあれば医務室で治療して貰え」
「負けましたわ。まさか勇者先生以外にもこんなに強い人がいるとは思いませんでした」
「なに、世の中にゃ化け物も多い。あいつらに比べりゃ俺なんてまだまだ可愛いもんだぜ」
失礼な。
俺達が変身前の人間形態だと、お前も十分こっちサイドだろうが。
「もう少し鍛えりゃあいつもいい戦力になるぞ」
「あいつはもう歳……、まさか老化速度が減少する位まで氣が鍛えられてるのか?」
「後二十年は軽く現役だぞ。ブレスがあれば変身できたかもしれない奴だ」
「余ってるブレスなんてないだろ? ……プロトブレスの事か?」
「アレがありゃ、最低でも変身する位は出来るからな。第一世代の試作品だし、無いよりはまし程度だが」
「こっちに持ってきてるのか?」
「あればいいなって程度の話だ。あいつもいいブレイブになると思うんだが」
もし仮にあのブレスがあっても流石にルッツァをブレイブに入れるのはどうかと思うぞ。
とはいえ、ブランク状態のブレスなんてもうないだろうしな。
「さてと、そろそろエキジビションマッチか。久しぶりの模擬戦だな」
「変身はしないつもりだがそれでいいか?」
「それでもいいが。変身したらここが持たないか」
「クラッシュとかブラスト系以外だと行けると思うぜ。半壊はするだろうが」
「その予算は間違いなく俺の財布から出るんで却下だ。ここの改修や修復費用も安くないんだぞ」
他もよく壊されてるからかなり強化したけどさ。
土方にも余計な仕事を増やすなって釘を刺されてるしな。
「冗談だ。楽しみではあるが」
「俺もさ」
久しぶりの組み手だしな。
模擬戦だけど、こいつは手を抜く事は無いだろう。
◇◇◇
闘技場の上。
空調もきいてる筈なのにやけに空気が乾燥してるように感じる、そんな気分だ。模擬戦だってのに、まるで猛獣に凄まれているかのような殺気を感じる。いや、こいつに比べたらどんな猛獣も子猫以下だろう。
「大変お待たせいたしました~。勇者対勇者!! 人外同士の戦いが今ここで行われようとしています。模擬戦? いやいや、こんな殺気を感じる模擬戦なんてあるか~!!」
「は~い。殺気に慣れてない子は十分に離れてみるか、おとなしく医務室に行こうね。たぶん開始したらこんな物じゃないと思うし~」
この二人っておちゃらけてるくせに、そういう所は鋭いんだよな。
伊達にスティーブンが欲しいって思う生徒じゃないぜ。こいつらの実力も見てみたかった気はするが、今はこいつとの模擬戦だ。
「なんとなく絡繰りは分かっているんだが、開幕で一応確認させてもらうぜ」
「流石。それでこそだな」
やっぱりこいつくらいになると気が付いてるよな。
このちからは便利だけど、全力のこいつ相手にどこまで通用する事やら。
「行くぞ!!」
「やっぱりこのコンボか!!」
雷牙が必ず最初に仕掛けるコンボ。正面から高速の拳、ガードか躱させたところに間髪入れずに膝蹴り、少しだけ移動して流れるように蹴り三連発、体勢を崩したところにトドメの回し蹴り……。だけど、今日のこれは最初の時とは別物だ。
「最初の拳に思いっきり氣を乗せてきたな。それくらっただけで死ねるぞ」
「お前以外だったらな。そこまで氣の防御力を上げてるとは思わなかった……ぜ!!」
「抜き手、肘からの投げ技コンボ。容赦なしか!!」
「躱してる奴の言うセリフじゃねえよな。どうせこれも見えてるんだろ?」
未来予知。攻撃が来る前に何が来るか分かるからそりゃ躱せるさ。
しかもよく見るように不確定な力じゃなくて、最終的に何が来るか分かってるから絶対に躱せる。生身のままだと身体が増えたり時間に介入できる訳じゃないからな。
「そういう事だ。今の俺に当てるのは苦労すると思うぞ」
「魔法使い相手にも無敵だろう。ある程度威力が無い魔法は全部潰せるだろうしな」
「そっちの絡繰りにも気が付いたか。魔力の流れだけじゃ、ああまでできはしないさ」
魔法が発動する前から何を使うか予知できるんだから、その魔法に介入して無効化してるだけなんだよな。
相手が手元で発動させる魔法は魔力で潰すしかないけど、俺を範囲に入れた魔法だと発動前に介入して術を妨害したり破壊するだけだしね。
「躱すのは分かった。でも、攻撃してこなけりゃどうしょうも無いだろう?」
「カウンターや投げ技を狙うんだったらそこがチャンスだろうしな。でも、こんな真似もできるんだぜ!! バーニングナックル!!」
「威力は弱いが、ブレイブの技も使用可能なのか!! この位の威力だと氣で防げ……、本命はそっちか!!」
「ちっ!! 予知通りとはいえ逃げられると凹むな。なんであそこから反応できるんだよ」
「場数の差だ。予知とまではいかないが、ヤバい感じは分かるんでな」
バーニングナックルを雷牙に氣のシールドで防がせて、その隙をついて投げようとした俺の手をこいつは難なく躱してみせやがった。
予知なんてなくてもその位はこいつも十分に予測可能って事か。
こいつに有効打を撃ち込んでる未来が見えないんだよな。全部躱すか防がれる。
「この先はもう少し俺も精進しなきゃ無理か」
「そろそろ先輩の意地ってものを見せてやるぜ!!」
「わかってても躱しにくい真似を!! しかも速ええよ!!」
高速の攻撃の間に器用に空中で停止した氣弾を仕掛けてきやがる。しかも予知してなけりゃ確実に喰らう位置にな。
「置き土産まで防ぎやがるか。どうやら、このままじゃ埒は明かねえな」
「ああ、だが残念ながら時間切れだ。模擬戦だから仕方がないが」
試合終了の合図が鳴り、俺と雷牙は開始前と同じように中央で握手した。
「強くなったな」
「色々教えてもらった結果さ。あまりブレイブの力をこのままで引き出すと後が大変だ」
例の魂の筋肉痛というか例の焼けるような痛みが来るんだよな。予知は問題ないんだけど、それ以外の力を使うと割とヤバい。
「ライジングブレイブの力をつかってもいいんだが、そうする位だと変身する方が早いからな。今日はこんなところか」
「そうだな」
ん? 周りが静かだと思ったら、みんなあっけに取られて言葉を失ってるだけか。
「模擬戦終了~!! いや、あまりに高速戦闘過ぎて半分も見えませんでした!! というか、誰か全部見えてた人いるかな?」
「私も全然。というか、私だと最初の一撃で軽く死んでるよ~!!」
「私も見えませんでした。魔法少女姿のままなのに……」
変身してもそこまで動体視力とかは上がらないみたいだしな。俺から言わせてもらえば、変身しても単なる魔力ブーストと飛行能力付与程度だ。
「男子生徒諸君。魔力と同じように氣を鍛えろ。確かに魔力と比べれば直接の攻撃力に劣る、しかし身体強化から繰り出される技や力を乗せれば、魔法も様々な使い方が可能だ」
「そういう事だ。今日は勉強になる事も多かったはず。日々精進すればその手はいろんな物を掴める。それを忘れないで欲しい」
「以上、ライガさんと勇者理事長先生からのお言葉でした~」
「これで打倒勇者理事長!! 魔法学校最強決定武闘大会!! を終了しま~す」
終了の宣言を聞いても何故か会場から出ない生徒が多数。
どうやらここに残ってこのまま魔法の練習をするみたいだな。魔法練習用のターゲットとか運び出してるし。
「有意義なイベントだったな。お前ん所の生徒たちのいい刺激になったみたいだし」
「また反省文を増やす生徒が出そうだけどな」
多少の事は目を瞑ってやるよ。
心配していた王都側との裏切り行為をしていた貴族領の生徒も普通に応援されていたし、表向きは問題なさそうだ。
試合中にいろいろ仕掛けてた生徒は、後でいろいろ言われるだろうけどね。アレは流石に自業自得だ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




