第二百八十話 ルッツァ、よく来てくれた。このまま何事も無ければエリーヌが優勝だろうね。ただ、前の試合の影響がどのくらいあるかも問題かな?
連続更新中。打倒勇者理事長!! 魔法学校最強決定武闘大会!! はこの次の話で終わります。
楽しんでいただければ幸いです。
打倒勇者理事長!! 魔法学校最強決定武闘大会!! の決勝戦前のお昼休み。俺と雷牙は当然エキジビションマッチがあるので割と軽めに済ませている。……まさか今から戦うのに腹いっぱいって事はしないよな?
と、模擬戦を依頼してたルッツァも到着したみたいだな。いつでも既定の装備を着れるように割と軽装で来たみたいだ。少しは寒いんだけどね。
「よう、どの子が優勝しそうなんだ? 例の魔法少女か?」
「ルッツァ、よく来てくれた。このまま何事も無ければエリーヌが優勝だろうね。ただ、前の試合の影響がどのくらいあるかも問題かな?」
「ほう。何かデカいダメージでも喰らったのか? どんなに強くても油断すると脆いものだからな」
「そうだな。決勝戦は女生徒同士の戦いだし、もしかしたらもっとエグイ戦法を使う可能性すらある。それでこその戦いだが」
いや、俺も少し警戒してるんだよな。
グアルディは男子生徒だから女生徒であるエリーヌにはあの程度の嫌がらせしかできなかった。でも、マルティンは同じ女生徒同士だからもう少しえぐめの攻撃でもそこまで糾弾される事はないだろうね。
「あ、リーダー。模擬戦よろしくね」
「任せとけ。冒険者の実力を思い知らせてやるさ。武器は全部特殊な木製だけどな」
「いつのも装備でやるとケガさせるだろ? それでも弓とかは使用禁止にしてるけど」
アレは矢じりが付いていなくても当たり所が悪かったらヤバいしな。こいつの実力だったら木剣でも十分に凶器だけどね。
それより、いつの間にか天使ユーニスは憑依を解いてるみたいだ。
「魔法使いとの戦いは割と面倒なんだぞ。奴らは割と高火力の魔法頼りな所があるからそういう奴は楽なんだが」
「経験を積んだ魔法使いは割と搦め手で来るからね。マルティンなんかはそういうタイプだよ。元々魔力が低かったから今まで苦労してきたのかも」
「そして魔力が上がったり制御が上手くなってあの状態か。今までも色々試してきたんだろう」
本来であれば練習する必要のない治癒の使用法。魔法農法を行う場合は別の魔法が開発されているから、あっち方面の魔法に詳しい奴だったらそれを使うしね。ただその魔法を相手も知ってると詠唱中にばれる可能性があるからあえて治癒を使った可能性はある。
「ただ全体に詠唱速度が遅い。止まって詠唱とかは論外だ」
「実戦経験の乏しさというか、対人戦の経験不足だな。剣猪とかの魔物の突撃は素早くて怖いが魔法を警戒したりしない。相手も魔法を使えるうえにそれ以外の攻撃方法を持ってると理解するべきだぞ」
「超高速で攻撃してくる敵もいるしな」
「超高速どころか、光加速使ってくる奴もいる。あの状態になると流石に対応できないが」
「この世界でもアレを使える奴はホントに数名だろ?」
光加速。身体を氣や神力で包み込んで、光に近い速度まで加速する荒業。氣や神力で周りの空間に割り込む形で移動するから何故かソニックウエーブなどは発生しない。それでもその状態の攻撃を喰らうと大ダメージだけどな。
この辺りの移動法や加速術なんかも謎が多いんだよね。物理法則は完全に無視してるし。
「その辺りはエキジビションマッチで確かめるとするか。昼飯はどうする?」
「俺は控えるさ。お前とエキジビションマッチがあるのに腹に食べ物を入れられるか」
「お前のその慎重さは嫌いじゃないぜ。本当にいつでも全力を出してきやがる」
「本当に久しぶりだからな。以前とは違うって事を見せてやるよ」
「ルッツァたちはどうするんだ?」
ん? ダリアがなんとなくお腹の辺りをさすってるけど。まさか……。
「ん~。私はいいかな。なんとなくお腹いっぱいだし」
「試合を見ながらワインとか飲んでたしな。そのせいだろう」
他に唐揚げも結構な量を食ってたよな。雷牙と一緒に。
雷牙はあの量の唐揚げをもう消化……。そうか、男は氣が高いと即座にエネルギーに変換されるから食っても平気なのか。
「たまにあるんだよね。何故か食べた覚えのない物を食べてたりとかさ。怪奇現象?」
「さあ、どうかな?」
「その件はミランダに相談してみたんだが、問題ないの一点張りでな」
信仰してる神側の所業だし、知らぬ存ぜぬを通すつもりか。
「リーダーは何か食べたらどう?」
「俺も模擬戦前だから食べなくてもいいぞ。試合後に喰えばいいからな」
「それが正解か? そういえば魔法少女対策とかしてきたのか?」
「対策って訳じゃないが、ここ半年くらいはライガに鍛えて貰ってるからかなり強くなったぞ」
「マジか」
雷牙の特訓って普通の人間に耐えられるようにできてないんだけどな。
こいつの軽くに騙された奴がどれだけいる事か。
「今のルッツァは最初にあった時のお前よりは強いぞ。氣を上手く使えてなかったのはあの時のお前と同じだ」
「それじゃあ、模擬戦も期待できるけど。その実力だとこの街だと力を持て余すだろ?」
「もう十年早くライガと出会えてりゃかなり違ってただろうぜ」
その頃にこいつと出会ってたら、俺がこの世界に来るまでにお前が死んでた可能性の方が高いけどな。
お前の性格だとある程度力があれば塩喰いとかナイトメアゴート討伐に向かってる筈だ。でもあいつらを倒す武器はここでは手に入らない。
氣で強化しても塩化ガスや魔眼とかは防げないし、討伐に失敗してる可能性の方が高いんだよね。
「お前の今のその顔。そんな事だと早死にするぞって顔だな。言いたい事は分かるし、確かにそうなってる可能性は高い。だが流石に俺もミランダたちがいるのにあの魔物の討伐に手出ししねえぞ」
「顔に出てたか……。お前の力や判断を信用してない訳じゃないんだが、相手が悪いだろ? もっと強力な武器があればよかったんだけど」
「この辺りに売ってる武器じゃあのクラスの魔物の相手は無理だ。流石にそれ位は理解してるぜ」
最初に冒険者ギルドで俺の事を止めた位だしな。
「それじゃあ、決勝戦までここで休んでるぞ」
「了解だ。飲み物くらいはいいんじゃないのか?」
「その辺りは持って来てるさ。さて、どんな相手なのか楽しみだ」
どんな戦いをするかは俺も楽しみなんだけどね。
マルティンもエリーヌもどんな戦いを見せてくれるのやら。
◇◇◇
昼食も終わっていよいよ決勝戦。闘技場の上には魔法少女姿のエリーヌと大き目の杖を持っているマルティン。
もしかして接近して肉弾戦を仕掛けるつもりか? いや、あの杖がブラフの可能性も高い。あの子割と策士だからな。
「さあ、楽しい昼食も終わっていよいよ最終決戦!! 魔法少女のエリーヌが勝つか、それともここまで力を温存してきているマルティンが勝つのか?」
「こんな決勝戦をだれが予想したでしょうか? マルティンはなぜこの日まで実力を隠してきたのか? 隠してきたのはその胸の大きさだけではないはずだ!!」
「エリーヌの同志がここにもいるって気付け!! こんちくしょー!! 魔力制御がうまくなっても大きくならなかった生徒もいるんだからね!! 頑張れエリーヌ!! 奴らは敵だ!!」
司会進行が私怨で一方の生徒を応援してるんじゃない。
ヴィルナの指導で八割がたの生徒が成長の恩恵を得たそうだけど、体質なのか何なのか分からないけど特に影響のなかった生徒もいたそうだ。ルドーネとエリーヌもその影響を受けなかった生徒らしいね。
「今回は全力で行くから覚悟してね」
「ふふっ、怖いですね。でも、私の力も甘く見ないでください」
「これは友好の握手なのか? 開始前から火花が散っているようです!!」
「さて、両選手が所定の位置に付き……、開始の合図が鳴った~!!」
今回はエリーヌも上空に移動しない。
そのまま横に滑るように移動してマルティンの出方を窺ってるみたいだ。
「慎重だな。しかし、面白い移動方法だ」
「少しだけ浮いて風魔法を利用しての高速移動だな。おそらく普段からあの姿の時はほんの少し浮いているんだろう」
「効率のいい移動方法だが弱点も幾つかある。あのマルティンって子がそこに気が付くかどうかだな」
「正面から行く気はないみたいだ。動くぞ」
マルティンは手にした杖を少し握り、ほんの少しだけ手をひねった。ほとんど動きはなかったからエリーヌがアレに気が付くかどうかが微妙だ。
「そこです!!」
「杖の珠の部分が分離した!! でもこの位だったら避けれるわ」
「魔法で撃ち落とさなかったのは失敗ね。朧灯!!」
「目くらまし? って、ナニコレ?」
「朝蔓草。私の故郷の植物で、その草は暗い場所から出たら光の方に向かって物凄い速さで成長するのよ!!」
なるほど、あの珠の中にはアレの種が詰まってて、割れた所に朧灯で成長させたのか。
でも、鋼蔓の様に別の強靭ってわけじゃないだろ?
「こんな蔓草位……。これ、なんだかヌルヌルする!!」
「その蔓の中には粘液の汁が詰まってるの。そしてその粘液は乾燥するとかなり硬くなるの。後は分かるわよね?」
「身体が……、こんな手があるなんてね。でも、魔法少女をあなどり過ぎよ!! 浄化の花吹雪!!」
知らない呪文だ。
大量の花びらがエリーヌの身体を包み込んで、その花びらが消えたら纏わり付いていた粘液や硬化した部分が元通りに戻っている。なるほど、身体に起きた状態異常を治す魔法か。ああいった拘束も浄化できるみたいだね。
「そんな!! アレを何とか出来るなんて!!」
「いくわよ、とっておきの魔法。マジカル・フラワーブラスター!!」
「きゃぁぁぁぁっ!!」
魔力が籠った夥しい量の花びらがマルティンを襲い、その花びらごとマルティンを場外へと叩き落した。
怪我をさせないように威力を抑えたみたいだけど。
「試合終了!! は~い、男子生徒はその場で下向け~!! 近くの女生徒は男子生徒の視線を確認してね。救護班、大き目の布をお願いね~」
「女生徒は宿舎とかの浴場でお互いを見慣れてるからね~。いまさらって感じだけど、やっぱりちょっと殺意湧いちゃうかな?」
「そこ、また反省文の枚数が増えるよ。あなたって一日に最高何枚かいてるの?」
「十枚位? ホント、細かいよね~」
お前らのおかげで、反省文を書かせるハードルが上がったんだがな。アレは下がったというべきか? あの大量の反省文をいちいちチェックしてられないので、ある程度は大目に見るようになったからね。
「は~い。では見事優勝を飾った魔法少女エリーヌさんに盛大な拍手をお願いしま~す!!」
「本当に見ごたえのある試合でした。浄化の花吹雪って便利な魔法ですね」
「消費魔力が大きいので、一日に数度しか使えないんです。他の魔法もそうなんですけど、魔法少女の魔法って威力の割に消費魔力が大きいので連発できないんですよ」
闘技場の上ではまだインタビューが続いているが、それを聞いたルッツァはあまりいい顔をしていない。
「模擬戦前にその情報を流すとはいい度胸だな……」
「あの情報が無くてもやる事は変わらないだろ?」
「そりゃそうだが」
「魔法少女対普通の冒険者だと思っているんだろう。すぐにその間違いに気が付くさ」
雷牙も悪い顔をしてる。こりゃ何かやる気だな。
魔力回復剤とかでエリーヌの魔力とかを回復させて、その後で模擬戦だ。
流石にあれだけ魔力を消費してたらルッツァにも悪いだろうしね。
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