第二百七十六話 それにしても流石に高級食材。茹でて冷凍された足だけでも高いな。足だけのセットでも片足全部で二百万とか……
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楽しんでいただければ幸いです。
約束だったし、今日はおもいきって寿買で大王渡り蟹を購入してみた。
売っていた種類は、活け、〆済、茹で、爪&足、胴体と部位や状態でかなり細かかった。足とかのバラ売りは理解できる。元の世界でも蟹の足は冷凍されてよく売られていたからな。
胴体部分もこうして売られていた可能性はあるし、問題はないだろう。問題なのは活けの状態だ。生きてる異世界の蟹をこっちに持ってくるって問題じゃね? 逃げたらどうするんだよ?
「それにしても流石に高級食材。茹でて冷凍された足だけでも高いな。足だけのセットでも片足全部で二百万とか……」
高級素材なのは分かるけどさ、なんでこんなに高いんだ?
【この大王渡り蟹は淡水の河ではなく海で育った最高品質の物です。身の締まり、味、蟹味噌の濃厚さなどは河で獲れた大王渡り蟹とは比較にもなりません】
久しぶりに本物の人工知能の方か。
一匹丸々買うと七百万。最低でも神界に送る分とこっちで食べる分がいるから十匹は欲しい所だな、そうなると七千万。
「買えない額じゃないし、異世界の経済を回すのも悪くはないだろう。問題はどの状態の蟹を買うかだが……」
茹では論外。足とかのバラも追加で使うんだったらいいだろう。食ってみないとどんな味かわからないし、大量に買うのは問題があるぞ。
活けか〆済……。えっと、〆の状態は獲ったばかりの蟹を電気で〆た物か。調理する時に暴れないからこれが一番なんだよな。でも、生きてる奴だといろいろと料理法が増えたりするし……。
「とりあえず、両方五匹ずつ買うか。七千万円分の蟹ってすごくね? カートに入れてっと、購入!! ホントに七千万円分も蟹買ったよ。晩餐会の食材でもここまでしないのに」
「厨房でめずらしくなにを騒いでおるかと思えば、ソウマの能力で何か買ったのか?」
「あ、ヴィルナか。異世界産の美味しい蟹を買ってみたんだ。ちょっと活け蟹を一匹テーブルに出してみるよ」
「ほう、蟹か。アレもおいしいのじゃ。ソウマにあうまでは海老や蟹など食べる事になるとは思いもしなかったのじゃ」
アイテムボックスから活き大王渡り蟹を取り出し……、チョットマテ、俺の目に移ってる半透明の蟹のデカさがおかしいんだが? これ、試しにテーブルの上に置くけど、間違いだよな?
「でかっ!! 間違いじゃなかったのか?」
横幅二メートル以上。かなり広めの厨房のテーブルをでっかい蟹が占領してくれている。夢に出たらうなされるレベルだ。
コレ、足縛ってるのもかなり特殊なワイヤーロープなのか? いや、コレ鋼蔓製の縄だ。これの強度は鉄以上だしな。ははは、ここまでしないとダメな蟹は美味しいかもしれないけども色々とまずいだろ!!
「……大きな蟹じゃの。わらわでもこの小さめの足一本も食いきれぬじゃろうな。しかもこの蟹生きておるのじゃが」
「活けだったからね。こいつを生かしたまま解体するのは非常に危険な気がするんだよね」
ここで戦闘になるよな。このまま調理するとなると、馬鹿でかい鍋か何かで丸ごと茹でるしかなさそうだ。
普通の家庭用の風呂よりでかい鍋か……。少なくとも家の中での調理は不可能だよな。
【芋煮会用の鍋が……】
買わない。
それ買うと調理用の重機も必要だよな? 大体それ何人位で食べるつもりなんだ? 幅が二メートルを超える蟹だぞ? それが丸ごと入る鍋なんて、直径三メートル超える大鍋だろ?
【約四千人前です。大きなイベントなどで】
使わねえよ!! うちの学校でイベントに使っても、全校生徒で教師含めても三百人程度だぞ。
さて、こいつの処遇に困った……。
「ソウマの事じゃから、この蟹を調理できるのであろう。わらわは居間でシャルの相手をしながら待っているのじゃ」
「いや。こいつはちょっと……。いっちゃったか。仕方がないからこいつはアイテムボックスにお帰り頂いて、活け〆の大王渡り蟹を用意するか」
茹でた大王渡り蟹を買った方が早かったかもしれないけど、そうなるとそのまま神界に送った方が早くなるしね。
【ちょっと待った!! 冗談だよね? 本気で茹でただけの大王渡り蟹を丸ごと送ってきたりしないよね?】
今回は人工知能じゃなくて天使ユーニスか。選択肢の一つというか、蟹は茹でたのを食べるのが美味しいんだぞ。
この馬鹿でかい蟹をばらしながら食べるのは大変だと思うけど。
【小さい蟹だったらいいんだけどさ。よく考えてみて、綺麗な服を着た女神さまたちがこの蟹を解体しながら食べてる光景を……】
シュールだな、今時のテレビ番組でもそこまで酷い絵面は流さない気がする……。
それに、俺の料理を楽しみにしてくれてる女神たちにも悪いしね。
【わかって貰えてうれしいよ。そんな大きな蟹を流石に一度には食べないから】
途中で飽きるよな……。
少しずつ食べれば長い間ずっと美味しくいただける訳だし、飽きちゃうと食べる気もなくなるだろうからね。
【よくわかってるじゃない。そこを理解しない人も結構いるんだよ。好物の押し付けというか、モノには限度があるし】
大鍋のカレーとかはいいの?
【アレは小分けにして食べる事も多いし、カレーの時には大勢天使とかが集まるから丁度いいくらいなの。送られてるカレーがどんどん美味しくなっていくんだけど……】
こっちの世界って使い勝手がよくて癖の無いスパイスが本当に多いんだよ。
香りが弱くて癖が少ないのにちゃんと素材の味を引き出してくれる八角とかさ、これ元の世界に持って帰ったら喜ぶ人ものすっごくいるぞ。
【本当に料理の話をしてると凄いね。それじゃあ、出来上がるのを楽しみにしてるから】
通信が切れた。逃げたか。
まあいいや。さてと、こいつを料理しないといけないんだけど、流石に生はまずいだろうな。簡単な料理から、ちょっと凝った料理までいろいろ作ってみるか。こいつは雌っぽいから卵も抱いてるし……。
海鮮蟹チャーハンとか、蟹玉、シューマイに春巻き、蟹クリームコロッケに蟹の身と卵入りオムレツ、プーパッポンカリーもいいな。これだけでかい蟹を使い切るにはとにかく料理の数だ!! 蟹料理は世界中にあるし、レシピ自体はいくらでもあるからいいんだけどね。
「蟹味噌のスープと蟹の薄皮包み焼、蟹味噌と身と卵を使ったグラタン、蟹クリームパスタ、茶碗蒸しの具にしてもいかも」
使う部位と料理を考えて、いくつかはアイテムボックスの調合機能を利用して作ればいい。今はもう同時にいくら作っても問題ないんだしさ。
これだけでかい足とかだと茹でるのも一苦労だな……。茹でた足とかを使う料理用には茹でてある足とかを追加で買うか。素材を大きい塊のまま茹でたり蒸したりするのが基本だしな。
「茹でてある足の部分を少し味見。……うまっ!! 渡り蟹って言うよりは松葉ガニとかに近い味? タラバガニっぽい肉質だともっと面白かったかもしれないけど……」
これだけでかいんだから大味なのかと思ったらそんなことはなかった。
ただ、美味しいんだけど大きな塊のまま喰うのはかなり苦労しそうだな。小さくして料理に混ぜ込むのがいいのかもしれない。でも、ここまでデカいんだしステーキにして、バターやクリームのソースで食べてもいいかもしれないぞ。
そしてここから数時間、厨房でこの馬鹿でかい蟹を使った料理作成に没頭するのであった。……新しい食材が入った時のいつも通りだよな。
◇◇◇
厨房でただひたすらに色々と蟹料理を作り続けてはや数時間。アイテムボックス内には大量の蟹料理が保管されている。
全部ひと通り味見してきたから、既に俺は晩飯を食べるのがきっつい状況だ。メシマズヒロインとか昔の漫画とかではやってたけど、好きな人に食べさせる料理を味見しないって割と度胸があるよな。その一回が最後になりかねないのに……。
「蟹油を作ろうかと思ったけど、大王渡り蟹は身の味が濃すぎるからこれ以上増すとくどくなりそうだしな……。後で一応この馬鹿でかい殻を加工して蟹油を作ってみるか、あの大量の蟹の卵を炒めて作る方法もあるらしいけど」
これで蟹チャーハンも海老チャーハンも今度から作る時にグレードがひとつ上がる。
くどくならないように使い方を考えないといけないけどね。
「蟹鍋……。どうする? この足を一本とかとんでもないけど、鍋に入れるにはどこの部位を使ってもでかすぎるんだよな」
一番小さい足の関節部分でも俺の腕位ありそうだしね。これくらいだとギリギリ鍋に入るか?
だけど、それを天使たちが食べる事を考えないといけないしな……。女神たちがこのデカい足を解体しながら食べる鍋なんて嫌だし。蟹の身をほぐして湯葉で巻くか、それともライスペーパーで巻いて揚げた物を蟹足に見立てて鍋に入れてみる?
やや小ぶりにしたらユーニス達も食べやすいだろうし、この馬鹿でかい足がそのまま入っているよりは見栄えもいい。
「料理を作る時って食べる人の事も考えないと独りよがりになっちゃうしな。男料理だと美味しくても茶色一色のメニューとか彩も考えない事も多いけどさ、相手は天使や女神だし見た目も重要だろう」
俺が食う時にはそんな事は気にしないけどね。
雷牙やルッツァも同類だ。あいつらは彩なんて関係なしに旨けりゃなんでもいいだろうし、ラウロとかは酒のツマミになるかどうかが判断基準だしな。
「蟹グラタンはカニの形の器を見つけたからそれを使ってるし、蟹クリームコロッケはハンバーガーにもしたしな。ジャンクなメニューも食べたいって言ってたし、いろんな形がいいだろうね」
調合で作る分に関してはかなり数を多くしてるし、こっちで作った料理のレシピを登録して調合で量産したりもした。
これで材料さえあればいつでも量産が可能だし、その材料はアイテムボックスにまだ九匹もいやがるしな。絞めてある蟹はいいとして、生きてる蟹はどうするんだよ!!
というか、俺のアイテムボックスって生きたあんなでかい蟹を生きたまま保管できるようになってたのか。これ人とかも取り込み可能なんじゃないの?
「その辺りはまた今度確認しよう。今夜の晩御飯は……、ヴィルナにはたくさん出すけど、シャル用にはしっかり過熱して物凄く細かく解した身を出してみるか。あまりネコに優しい食材じゃないけど、多分食べたがるだろうから……」
何かあったら猫用の薬も豊富にあるけど、与えない方がいい食材は避けたいしな。猫用エリクサーもあるけど使いたくないし。
シャルは本当にもううちの娘みたいな感じだし、ちゃんと育てて……。ん? シャルの奴、もうお婿さんを探してもおかしくない年齢だよな? あいつ一年中みてるけど一度も発情期が無い気がするんだけど気のせいか?
この世界の猫の事はよくわからないし、すこし調べてみるかな。元の世界の猫基準でなくていいかもしれないしね。そうなると色々食べさせてあげられるぞ。
◇◇◇
今回の蟹料理はヴィルナもシャルも大満足!! 女神フローラも例の謎空間で直接お礼を言いに来てくれたし、女神シルキーも大喜びだったそうだ。
この蟹を新年会に使う? いや、あきらかに異世界の食材を使うのは流石にマズいよな。今までも牛肉とかは混ぜたりしてたけど、この蟹は流石にヤバすぎる。
新年会まであと二ヶ月も無いんだ。そろそろ新年会用の料理も考えないといけない。来月はお節料理とかいろいろ作る必要もあるしね。忙しくなりそうだ。
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