第二百七十五話 俺は事前に手を打っていたはずだけど、それでもやっぱりあいつらは避けられていたりするのか?
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先日の晩餐会の後で立場が若干悪くなった貴族が割と存在する。こちら側にすべて把握されていたとはいえ、王都側と通じていたりこちらの情勢が悪くなればいつでも寝返れるように手を打っていた貴族たちだ。
その大半は男爵とスティーブンが監視していた上に此方から逆に工作員を送り込んでいる。敵に寝返った時にいつでも始末できるからだけど、その中のひとつにギュンティ男爵もあって彼らは今、学校内でやや孤立しかけていた。仕方ないとはいえ……。
「俺は事前に手を打っていたはずだけど、それでもやっぱりあいつらは避けられていたりするのか?」
「幾らこっちがそんな真似をしないように言っても、どうしても裏切り者ってのは嫌われるからね。最初に助けて貰ってた西の方の移民とか、近場の貴族領出身の子たちは特に……」
「あいつらはそこまでしてでも生き残りたかっただけだ。あんな吹けば飛ぶような領地を運営してるんだから、その位したたかじゃないと生きていけないぜ」
その可能性があるからドワーフをこっちに引き入れたんだけどな。
あそこの領地も王都ほどではないとはいえドワーフを失えばかなり経営が苦しくなるし、ドワーフが居なけりゃ戦力的にもかなり落ちる。武器なんかの供給源が無くなる訳だしね。
「理事長先生はあそこが王家側と内応してるって知ってたの?」
「当然。怪しい所は全部把握済みだ。どこが寝返っても大してこっちには影響はない」
「そうなんだ……。もし裏切ってたらどうしたの?」
「俺もそうだけど、スティーブンや男爵も裏切り者は許さないぞ。裏切ったその時は容赦ないかな?」
その貴族領の主要産業は全部潰すし、支配者側の人間は生かしてないと思うぞ。特にスティーブンは俺以上に裏切り者に容赦がないし、男爵も割と冷酷に対処するみたいだしな。俺が知ってるだけでも割と処理された貴族がいるし……。
愚かな権力者に巻き込まれた領民は全員引き受けるけどね。
「もしかして今までに何回かあった?」
「ノーコメント。あっち方面はあいつらに任せればいいさ。思いとどまった貴族たちはちゃんと仲間として認めてあげないとな」
「そうだね。そこに関わると碌な事が無い気がするし……。それで、あの子たちへの対応はどうするの?」
「できる限り手助けをしてやりたいのは山々なんだけど、感情の方は俺たちが注意したところでどうにもならないからな。このままの状態で武闘会は危険な気がするけど」
全力でやりあった方が蟠りはとけるかもしれないけどさ。
そういえば。
「思い出したけど、雷牙にエキシビションマッチの参加要請を出したのは誰だ?」
「ダレカナ~」
「あいつとルッツァに依頼を出せる奴はお前位だよな? ルッツァは暇してるみたいだからいいとして、雷牙とのエキシビションマッチなんて普通の人間にゃ見えないぞ?」
「そこまでなの?」
「そこまでだ。生徒の半分以上は何してるのかも分からないだろうな」
魔法少女に変身したエリーヌクラスだと見えるだろうけどさ、うちの学校の生徒って割と氣が低いし……。
【低くないよ。あなたは何と比べて生徒たちの氣が低いって言ってるのかな?】
めずらしいな。天使セレステが話しかけてくるなんて。俺達基準?
【全人類のほぼ百パーセントが当てはまるわよ】
えっと、基準の数値を半分程度と仮定した場合は?
【変わらないわ。海の広さと子供用プールの大きさを比較して、基準が海の広さの半分になっても変わらないでしょ?】
そこまでか?
変身前の状態だよな?
【変身したら比較対象にもならないから。水滴と海になっちゃう】
そりゃそうか……。
そういえば今日は珍しいね。天使ユーニスが突っ込んでくるかと思ったんだけど。
【あの子は最近女神シルキーと会ったりしてるわ。管理地域は違うけど、最近色々と届けてるでしょ? その関係かな】
へえ、会えるんだ。
大王渡り蟹はまだ購入してないけど、買ったら料理して届けるから。
【楽しみにしてるわ。それじゃあね】
天使セレステの話し方も最初の時より少し柔らかくなってるんだよな。
人工知能とかに偽装してた他の天使たちが全然接触してこないけど、あっちも何か事情があるのかもしれない。
さて、ちょっと話し込んだけど、目の前のダリアは俺が何か考え事してるとおもってるのかな?
「あ、話し合いは終わったみたいだね」
「ダリアも分かるのか」
「そりゃあね。割と身体から神力が漏れてるし」
特殊な通信状態とはいえ、神界と接族してるからか。
他に影響はないだろうな?
「あっちの話は特に重要な事はなかった。話は少し戻すけど、俺と雷牙のエキシビションマッチはいいとして、ルッツァは何に出るんだ?」
「優勝者との特別模擬戦。一流の冒険者と戦うのもいい勉強だし」
「魔法少女に変身したエリーヌが相手だと苦戦しないか?」
「変身してもまだ負ける事は無いと思うよ。あの子に足りないのは戦闘経験だと思うし」
確かに、本物の戦闘だとあの子は役に立たない可能性もある。
得た力がでかいから、それをまだうまく使い熟してないんだよね。あと一年位活動したら、流石にルッツァに勝ち目はないだろうけどさ。
「ルッツァもかなり強いからな。最近は依頼を受けてないけどなまってないのか?」
「冒険者に色々教えてる時以外は訓練に時間を割いてるからかなり強くなってるよ。たまにライガとも組み手をしてるみたいだし」
「そりゃ凄い。あいつと組手が出来る時点で相当だ」
怪我させないように手加減はしてるんだろうけどさ、雷牙クラスに鍛えて貰ってりゃそりゃ強くなるだろう。
これはあいつの戦いも楽しみになって来たな。
「例の貴族領の生徒たちの件は一応注意深く見守ってみるよ」
「頼んだ。俺が出張っていってもいいんだが、かえって状況が悪化しかねないしな」
「理事長先生は完全に男爵側だしね。あの子たちが警戒してるかも」
「悲しいな。俺は生徒たちに分け隔てなく接してるのに」
「博愛主義者というか、勇者で聖者で賢者でお酒の神様は流石に言う事が違うよね~」
チョットマテ。
最後なんつった?
「もしかしてその二つ名ももう広まってる?」
「うちにはラウロがいるからね。お酒関係の情報は早いよ」
「ラウロもウイスキー呑むんだっけ? あいつはワイン好きだろうけど、他の酒も割と飲むのか?」
「好んで呑むのはワインだね。ウイスキーとかも呑むよ」
「ブランデーとかも呑むか? あまりガブガブ飲む酒じゃないけど、味わって飲む分にはかなりいい部類の酒だ。紅茶に入れたりしてもいい」
瓶に入ったブランデーを二本取り出して渡してみた。
ラウロだったらこの酒の価値を分かってくれるだろう。ついでに十五年物のウイスキーも何本か渡す。
「すごく綺麗なお酒だね。こんな色になるんだ~」
「香りとか味も凄いぞ。これからいろんな酒を造る計画だし、ラウロには先にお裾分けかな」
完成するのは十数年後だけどね。
その頃にはこの世界が平和になって、他国ともいい関係が続いてりゃいいんだけど。
「……例の貴族領の生徒関連の報酬前渡し」
「大変よくできました」
「色々と気になるからこれは貰っておくけど、なくてもちゃんとあの子たちの面倒は見るよ」
「信用してるけど、苦労しそうだからその報酬」
これ以上拗れる前に何とかしたいからな。
あいつらの成績がいいのも原因のひとつなんだよね。負けてくやしけりゃ実力で何としろっての。
これであいつらの事はとりあえずダリアに任せて、様子を見ればいいだろう。
雷牙のエキシビションマッチ。実は俺自身も楽しみにしてるんだけど、さてどうなる事やら。
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