第二百七十四話 言いたい事は分かるが、秋祭りみたいにこっちにイベントを持ち込みまくるのはどうかと思うんだよね。大体クリスマスとかこの世界に持ち込んでどうするつもりだ?
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楽しんでいただければ幸いです。
この世界に来て二度目の十二月!! クリスマスはないし大晦日も無い。なんといってもこの世界だと来月には十三月があるからな。
そこまで南という事でもないけど、この辺りも十分に暖かい。雪が滅多に降らない時点でお察しってところだ、雪まつり系も絶望だろう。
「この世界に来て十数年。年末のイベントが軒並み無いってのはあまり気にしていなかったが、こうして誰かと一緒に過ごす様になると物足りないと思うんだ」
「言いたい事は分かるが、秋祭りみたいにこっちにイベントを持ち込みまくるのはどうかと思うんだよね。大体クリスマスとかこの世界に持ち込んでどうするつもりだ?」
今日は珍しく雷牙の奴が家を訪ねてきたと思えば、こっちの世界でもう少しお祭り系のイベントを増やせないかという相談だった。エヴェリーナ姫は今日は学校らしくて、ひとりで暇だったんだろうけどな。
こいつと土方も最近は野放しにしていると何を仕出かすか分からないから意外に注意が必要だ。
「ケーキ屋が儲かるぞ」
「商人ギルドと冒険者ギルドの醜い戦いが始まりそうだ。ケーキの扱いについては割と微妙な感じなんだよな~」
ケーキを食べるって事には反対しないけど、あれの製造元は商人ギルドでそれを真似して売ってるのが冒険者ギルドだ。スフレ型チーズケーキは商人ギルドの方が上だけど、それ以外のケーキは冒険者ギルドの方が美味い。砂糖が高いからどっちも高級菓子だけどね。
ケーキの話はいいとしてもだ、クリスマスとなると宗教的にも完全に別の話だぞ。それに、こっちでそんな事をしたら女神フローラや女神シルキーに悪いだろ。
【そうだね~。別の世界の神を祝うお祭りとかは勘弁して欲しいかな】
おお、天使ユーニス。今回は謹慎くらわなかったんだ。
【あなたのおかげかな。この前女神シルキーにも料理だけじゃなくて色々プレゼントしてくれてたでしょ? それで上機嫌だったからお咎め無しだったんだ~】
送ったな。家具類とか布類とか化粧品類とか……。
鏡原師狼は武器とか他の世界の勇者が助かる物は多く送ってたみたいだけど、家具類とかは送ってなかったみたいだし。
【そうみたいだね。あの人も割と人間的な部分で欠点は多かったみたい。あと、他によく持ち込まれたのは料理かな? あ、料理で思い出したけど、大王渡り蟹がたまに寿買に入荷してるみたいなの。それを使った料理をお願い】
ほほう、素材の指定とは珍しい。大王渡り蟹って事は美味しい蟹なのか?
【美味しい蟹だよ!! ちょっと高いけど、今のあなたなら問題なく買えるはず】
そういえばすごく前にそんな蟹とかを寿買で見た気がするな。アレはレア商品だったのか。
最近はこっちの世界の食材をできるだけ使うようにしてたし、久しぶりに寿買でおいしそうな食材を見てみるのもいいかもな。
「……そうやって考え込んでるって事は、向こうからクレームでも来たのか」
こいつもその辺りを察するようになったし、今はホントに接触されている間もこっちと同じ時間なんだよな。
「お察し通りだ。流石に元の世界とかの宗教イベントを持ち込むのはダメだって。秋祭りとかは収穫の感謝祭だからいいんだろうけど」
「そりゃそうか。初詣とかはいいのか?」
「各教会に話を持ち込んでそっちの方がどうかだろうな。一年の初めに神様にお祈りする行事とかだと受け入れられるだろうけど」
お賽銭を入れる流れもいいだろうしね。
今はそこまで教会も資金不足って事はないけど、やっぱり今残ってる孤児たちにも十分なお金が必要だと思うんだよ。教会は結婚式とかでも色々稼いでるけどな。
「ここで神社を建てる訳にはいかないだろ? ここでも御守りや破魔矢は売ってるし、おみくじを導入すれば完璧だ」
「星占いや血液占い以外だったら何とかなりそうだよな……。この世界だと干支も無いんだっけ?」
「ないだろうな。この世界だと辰年生まれとかだと本物の竜が出てきそうだ」
「虎系の魔物はまだ見た事が無いし、こっちだと干支も揃わないかもな」
アレも各国で違うみたいだけどね。猫とか入ってる干支もあるらしいし。
「暦からして違うんだ。元の世界に合わせるのは不可能だろ」
「そういう事だな。元の世界の祭りを元にこっちででっち上げられそうな祭りを企画した方がいいぞ。うちの学校のイベントもそんな感じだ」
「お前の学校というと、魔法学校か。今度模擬戦があるから参加して欲しいって知らせが来てるんだが」
ナンデスト?
こいつを模擬戦に呼ぶの? ルッツァじゃなくて? 今の俺でもギリギリの相手だぞ?
「本戦には参加しないんだろ?」
「流石に子供相手に模擬戦はないだろう。魔法少女がいるそうだが、俺たちにとっちゃ他の生徒とそこまで変わらないだろ?」
「本当はかなり差があるんだけどな。俺やお前が相手だと流石に誤差の範囲だ」
魔法の攻撃が効かない相手、しかも体術は天と地の差。試合を組むのが鬼だって。
俺も今は相当に強くなってるから、雷牙が相手だと変身しなけりゃいい勝負の筈。
「エキシビションマッチでお前との模擬戦だそうだが……」
「変身して戦うとあの闘技場が壊れるぞ。変身前でも心配な位だしな」
かなり丈夫に作ってるけど、流石に俺たちがやりあうと壊れるだろ。直すのもただじゃないんだぜ。
「今のお前相手だと相当に苦労するのは分かってる。今の実力を知りたいってのは大きいんだ」
「本番に備えてか……。確かにずいぶんと組手もしてないしな」
「普段の動き観てりゃ大体の実力は分かるんだが、おそらく今のお前だと俺といい勝負だろ? 俺も模擬戦は楽しみなんだぜ」
めっちゃ悪い顔してやがる。
俺も今の自分の実力は知りたいんだけどね。
「その話は了解した。で、祭りの方はもういいのか?」
「初詣とバレンタインだ。晴れ着も含めてなんだが」
「……流石に着物は反物から選ぶ形になるぞ? 浴衣も難しいけど、エヴェリーナ姫に着付けが出来るのか?」
「着付けか……。その辺りの説明が入った映像ソフトとかないのか?」
探せばあるだろうけどさ。
この世界に着物も持ち込むの? すでに浴衣を持ち込んでるからあまり突っ込めないけど。
「ちゃんとした物だと時間がかかるかも。着物はいいとして、多分俺が出す反物も異次元レベルだぞ」
「流石にただって訳にはいかないだろうが、お前の本気レベルの布は正直俺には理解不能だ。俺も相当に貯め込んでいるが、払えるもんじゃないしな」
「布の値段については俺も似たような意見だけどね。いいものだってわかってるけどさ、布如きにあの値段は無いと思うんだ。たぶん最高級品の反物ひと巻きで、この街の年間予算超えると思うし」
「マジか? 晩餐会で見た服も相当なレベルだったって話だが」
「あの服も一式で国家予算レベルの服だね。同じレベルの服を着てその辺のレストランに行ってみろ。椅子に座るのも止められそうなレベルだぞ」
木製の椅子なんかに座られて、そこに服をひっかけられてみろ。店主とかが真っ青になる状況が出来上がるぜ。
「もう少しグレードを落とした服で冒険者ギルドに行ってたって聞いたが」
「それとなく注意された。ウエイトレスが注文も取りに来なかったよ」
「水でもかけたら大事だろうしな。それ以上の布で拵えた着物で教会か……。確かに周りに迷惑なきはする」
「どうしても譲れなけりゃ、普段使いレベルの晴れ着にすりゃいいだろ? そのクラスの布の反物だったらこの辺りか? エヴェリーナ姫に選んでもらえ」
既に仕上がっていた反物を十本ほど選んで出してみた。
このクラスの反物だったら問題ないだろう。
「おお、すまないな。この中から数本選ばして貰う」
「今度の模擬戦の参加料で全部持って行ってもいいぞ。そこまでのレベルじゃないはずだしね」
「そうか。いや助かる。浴衣も似合ってたんだが、晴れ着姿も見たいだろ?」
「ヴィルナの晴れ着も仕立ててみるかな。寒いから初詣はいかない気がするけど……」
今より寒い元旦だしな。
戦闘をしないとはいえ寒さに弱い聖魔族がわざわざ家の外に出るとは思えない。
「家で着るだけでもいいいんじゃないか? その場合は周りを気にする必要もないだろう」
「それもそうか。一番いい反物をヴィルナの好きそうなデザインで織らせて、それを仕立てるって手もあるな」
「新年会で会う事になりそうだが、その時に晴れ着もいいかもしれないぞ」
「グリゼルダさんに悪いからもう少しランクを落とした反物で仕立てた晴れ着になりそうだ。先に男爵に確認を取る必要があるぞ」
「数人だけ着物だと目立つからな……」
晩餐会や新年会にヴィルナを連れて行くときは、ドレス姿でも十分目立ってるんだけどね。
流石に最高ランクのドレスにしてもらうし。
「ついでに祭りの件も持ち掛けてみるか。領民の息抜きや神への信仰を推奨するのは悪い事じゃないだろう」
「この時期だったら大丈夫か。男爵も忙しいからな」
「半分くらいはお前が持ち込んだ仕事じゃないのか?」
「流石にそこまではないぞ。せいぜい三分の一だ」
面倒ごとを男爵とスティーブンに押し付けてるのは分かってるよ。その分莫大な利益と快適な生活を手に入れてる筈だしさ。
さて、後でヴィルナに反物を選んでもらうかな。
◇◇◇
後日、エヴェリーナ姫に怒られた雷牙が反物を半分返しに来た。
「いや、あの反物でもダメらしい」
「嘘だろ!! 代わりに帯紐とかの小物を持っていけ。この辺りもこっちだと揃わないしな」
「すまないな。どうもこの辺りの事は疎くてな」
「俺もそうだけどね」
視線の隅に、ジト目で事の成り行きを見守るヴィルナとエヴェリーナ姫の姿が見えた。
俺と雷牙の会話を聞いてため息までついてるよ。
「ヴィルナさんも大変ですね」
「ソウマじゃしな」
俺と雷牙がそっと顔をそむけたのは言うまでもない。
いいじゃん。この位の反物くらいさ。
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