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第二百七十二話 料理を担当させていただきました鞍井門です。本日はいろいろな趣向を凝らしていますので楽しんでいただければ幸いです

連続更新中。今回は料理回です。

楽しんでいただければ幸いです。



 

 考えられる限りの手を尽くして準備した晩餐会当日。


 今回参加する貴族で爵位の高い者はシュテファン侯爵、スハイツ伯爵、パスクアル伯爵の三人。俺が事前にスハイツ伯爵とパスクアル伯爵の領地まで出向いて情報を求めた理由はここにある。今一人だけど、シュテファン侯爵はルッツァの弟だし大丈夫だろう。


 今日の晩餐会にはギュンティ男爵など、少し前にこちらの勢力に参加した貴族も割と多く招待されている。あの辺りの貴族にもこちらの財力やその他諸々の力を見せつける必要があるからな。


「中央のテーブルには黄金で作られた強大な鳥の彫刻、そしてその周りを飾る銀製の花。我々の前にあるテーブルの上に無数に存在するのは色とりどりのガラス細工ですかな?」


「あの黄金像も凄まじいですが、中まで黄金とは限らんでしょう? しかし、これだけ純度の高い色ガラスを惜しげもなく彫刻にするとは……。スライム材ですとこの透明度は出ませんからな」


 いや、中まで完全に金だよ。あの彫刻が乗ってるテーブルを丈夫にしないといけないレベルでね。


 それに目の前のそれも色ガラスじゃないんだよな。切子グラスとか透明度の高くて高級なガラス製品を色々売り出してるから勘違いしたのかもしれないけど。


「男爵のあの服も相当なものですぞ。あれほどの布をどこで手に入れたのか」


「もうひとり同じレベルの服を着た者が」


「彼は勇者クライドでしょう」


 あんなに遠くの貴族領内であれだけ噂になってるんだったら、ここにいる領主たちにも俺の事はそりゃ知られてるよな。


 メイドたちが食前酒を招待客に聞き始めた。今回はスパークリングワインがメインだけど、普通の白ワインも用意している。この世界では白ワインなんて見た事も無いから新鮮だろう。この辺りってそもそもワインの種類そのものが少ないんだよね。


「美しいが奇妙なワインですぞ」


「まさか晩餐会の食前酒にライトブクをと思いましたが、これは全くの別物ですな」


 流石に今回は欠片も手を抜いてないからね。


 今まで出してなかった俺のアイテムボックス内の物でも、そのうちここで生産を始めればいいからださせて貰った。白ワイン用のブドウなんて俺が提供した樹をようやく植え終わったところだしな。ここで生産を始めるのはどんなに早くても数年後だろう。


 カロンドロ男爵が立ち上がった。ようやく晩餐会の開始かな。


「今回は晩餐会の為に足を運んで貰い感謝している。今回は山海珍味を集めたとまではいわんが、勇者クライドが精魂込めて作り上げた料理などを楽しんでいただきたい」


「おお、あの有名な勇者クライドか」


「聖者で勇者で賢者だと聞く。料理の腕も並ぶ者がいない程だとか」


「流石は勇者、神に愛されておりますな」


 まだ知らない貴族もいたのか、それとも知っててわざと言ってるのかは不明だ。


 神に愛されてる……、可能性は高いけど今の状況は努力と自分の能力の賜物だけどな。


 ワールドリンカーの力で形成したアイテムボックス内の機能のいくつかは俺ともリンクしてるみたいで、調べた情報はまるで元から持っていたかの如く俺の知識として蓄えられる。酒造技術や他の技術の知識が最近増えたのはそのせいだったりもするんだよね。


「料理を担当させていただきました鞍井門(くらいど)です。本日はいろいろな趣向を凝らしていますので楽しんでいただければ幸いです」 


「それは楽しみですな」


「食前酒からしてこれです。期待できますな」


 色々な仕掛けは用意させて貰ってるよ。今回は利用できる物は全部使うつもりだし。


 ここを平和裏に終われれば、多くの血が流れずに済む。残りの貴族もそろってこっちに流れてくる可能性が高いしね。


「前菜はグギャ鳥の胸肉を茹でて数種類の野菜と一緒にライスペーパーで巻いてみました。横のリエットは同じくグギャ鳥で作っています、薄く切ってカリカリに焼き上げたバゲットに塗ってお楽しみください」


 ライスペーパー巻きはイタリアンじゃないけど、イタリアン風に少し辛目のバジルソースにしてるんだよね。


 リエットの方はイタリアンだけどさ。


「前菜から飛ばしてるな。しかし、毛長鶏(けながどり)を使わずになぜグギャ鳥……」


「グギャ鳥ですか……。こ、これは!!」


「こんな料理は体験した事が無い。領内で見慣れたグギャ鳥でこんな料理を作れるのか」


 乳製品がそこまで広まってない貴族領も多いし、クリームチーズ自体が無いだろうしな。


 ライスペーパー、米に関しては元々人気が無いし北の方では育たない。だからこんな料理自体存在しないだろう。


「そういう事か。見慣れた材料で考えつきもしない料理を作ってみせた訳だ」


 スティーブンには今日の料理の内容とかの細かい所は話してないからね。純粋に楽しみたいとかいうから……。次に行こうか。


「二品目は茹でアスパラガスと温野菜のサラダ、香ばしく炙った油揚げを散らしてあります」


 次のサラダはおなじみのアスパラや温野菜のサラダだけど、今回は油揚げを炙ったものを細かく刻んで散らしてある。温野菜の中に小さいキューブ状の湯豆腐も混ぜてあるけどね。


 豆腐はもちろん油揚げや厚揚げなんかもこの男爵領以外では売られていない。そっちはメインじゃないけど、目新しくはあるだろう。それに仕掛けはそれだけじゃない。


「散らしてあるこの岩塩は我が領内で売られている物……。一体どうやって」


 まさか自分たちが出立した後で俺がそっちの領内に出向いて色々調べたり買ったりしてるとは思わないだろうしな。


 貴族の馬車だと俺が訪ねた時には既にカロンドロ男爵領に向かってたという話だ。だから領内でのあの事件も伯爵たちは知らないはず。


「いろいろな入手経路がありますので。ミネラル分豊富ないい岩塩ですね」


「薄く味付けされているが、こうして岩塩を振りかけるといいアクセントになる……」


「我々の領内の事も調べてあるという事か……。思ったよりも恐ろしい男だ」


 友好的には接するさ。でも、今後の為に舐められない様に〆る所は〆ないとね。


「スープはカラカラ鳥のコンソメスープです」


「割と癖のあるカラカラ鳥でこの様なスープを……」


「黄金色のスープ……。具を一切入れていないのは、この澄んだ色を保つ為か」


 色々入れてもよかったんだけどね。今日は割と料理の数を多めにしてるし、具無しの方がいいだろうと判断したんだよな。スープの量も少し少なめだ。


 この後、小皿に盛ったローストビーフやミートローフを出し、メインはラムチョップの香草焼きにした。


 羊は北の方の領地ではよく飼われているし、肉としては珍しくはないんだろうけど隠し味に醤油を使ってるんだよな。香草も南方の物を多く選んでるしね。


「なるほど。我らの領内の食材も使い、こうして一つの皿に納まろうではないかという事ですかな?」


「カロンドロ男爵であれば南方の食材や海産物を使う事もできた。しかし、あえてそれを封じ我々との協調を演じた訳ですか」


 ここまでは計算通り、これの意図を気付くように分かりやすい組み立てにしたんだからな。


 ただ、この後の為に使えなかった食材なんかもあるんだぜ。


「本来であればコース料理はここで終わりこの後はデザートなどを楽しんで貰う筈だったのですが、クライドの方からもう一皿是非にと頼まれた料理があります」


「ほう。一体何を?」


「この料理を出した後の特別料理ですか。期待させてくれますな」


 期待してもいけど、大した料理じゃない。


 でも、ここにいる貴族の多くはシルキー教徒。これから出す料理の真意をくみ取ってくれるはずだ。


「では本日最後の料理。卵サンドとシャケの丸揚げになります」


「丸揚げにしては量が少ないな。片方の羽と尾鰭の周りだけか」


「この卵サンドとこの料理の組み合わせ……。まさか」


「卵サンドは右側の方から食べてください。左側の卵サンドと味を変えてありますので」


「二種類の味? 馬鹿な、ここまでわかっておりながらそんなわけが……」


 あるんだよ。


 本来であれば右側の卵サンドとシャケの肉だけで十分な料理だ。経典にもそこまでしか記されてないだろうからな。


「この右側の卵サンドやシャケの肉は経典通り。しかし、左側の卵サンドは別物?」


「ここまで経典を理解しておきながらなぜ?」


「女神シルキーがまだ人であった時、勇者鏡原(かがみはら)が差し出した料理が右の卵サンドとシャケの肉で、部位もその故事に倣っております。また、女神になった後でも捧げた料理とされていますね」


「その通りだ。司祭や司教以上の者しか知らぬソレをなぜ知っているのかは知らぬが、知っているのであればなぜこの左側の卵サンドをこの皿に乗せた?」


「右の卵サンドはカラカラ鳥の卵を使い、味付けも塩と胡椒だけの単純な物です。一皿銅貨一枚程度の料理だったと言われていますので、仕方がないのでしょうけど」


 このカラカラ鳥の卵を使った卵サンドは、女神シルキーが人であった時の大好物。日々の楽しみにしていたと言われる料理だ。


「ではこの左の卵サンドは何だ?」


「クセの無く味の良い毛長鶏(けながどり)の卵を使い、パンにはバターを塗り味付けにも香辛料を使ってます。どちらが美味しいか、言わなくてもわかるでしょう?」


「それでは意味がないのだ!! 経典通りこの右の卵サンドを食すのは教徒としての使命。たとえ味がどうであろうと……」


「女神シルキーもこれを食べて、左の卵サンドも美味しくていいととても喜んでいたそうです。この事は確認済みです」


「は?」


「聞いた事があると思いますが、私は女神フローラや神界の天使の神託を受けることができます。その際に食べ物などを捧げているのですが、この卵サンドやシャケの丸揚げなども神界に送っています。その際に確認していますので間違いがありません」


 大司教クラスでも天使あたりからの神託なんてほとんどない。


 経典として残した話はあるけれど、それが更新される事なんてないからな。


「勇者は神や天使の神託を受けられるという、あの話は本当だったのか?」


「勇者クライドは女神シルキーの神託も受けられるのか?」


「女神フローラや天使経由ですがね、だからといって別に経典が間違っているとか言うつもりはありません。教会の教えも理由があっての事。でも女神シルキーも変化を否定せずにこの卵サンドを喜んでいます」


「我々に変われと……」


「どっち付かずよりはいいでしょう? それに敵は少ない方がいい。違いますか?」


「我々だけではなく、他の貴族も説得しろといわれるのか?」


「無用な争いは避けましょうよ。またこうして皆で集まっておいしい料理を食べる。それでいいでしょう? 今度はこの領内の名産品や海産物などで歓迎します。この事はカロンドロ男爵も承知していますので」


 女神シルキー教である以上、神と通じる俺を敵に回す事は出来ない。


 残った貴族の中にも割とシルキー教徒がいるんだよな。他の宗派もいるけどさ。


「わかりました。神の意思に従いましょう」


「それは助かる。今後も手を取り合って()()()を案じていこうではないか」


 カロンドロ男爵が後を引き継いで、侯爵や伯爵たちと握手を交わしている。


 もう元の爵位はほぼ意味をなさない状態だな。これは。


「食後のデザートですが、食後酒としてブランデーを用意しました。目の前にある飴と一緒にお召し上がりください」


「飴? まさか、このガラス細工は……」


「すべて飴です。飴だけでは寂しいので、プチケーキを用意しました。飴と共にお好きな物を召し上がり下さい」


 北の領地でも砂糖は高い。この辺りでもあの大量の砂糖が無ければマネできない芸当だ。


 それにブランデー。ワインやウイスキーは存在するけど、この辺りでブランデーなんて見た事もないからな。飴によく合うが衝撃的だろうよ。


「最後の最後でついでの様にこの演出か。我々とは格が違うわ」


「あんな方と付き合いがあるなどと、兄上も大変ですね」


「あ奴はそんな事は気にせぬじゃろうて。久しぶりに近くに来たのじゃ。領地に戻る前にあのバカ息子の顔を拝んで帰るとするかの」


 シュテファン侯爵は問題ないと思ってたけど、失言が多いあの筋肉ゴリラと違って聡明そうな弟だな。ルッツァももし仮に領地を継いでいればあれでいい領主になるだろうけどね。


 あの父親が補佐していれば、どちらでも経験を積んでいい領主になるだろう。


 とりあえず伯爵以下多くの貴族が完全にこっちの陣営に入り今後裏切る事はない。


 腹心を魔法学校に入学させておきながらまだ王都側と内応していたギュンティ男爵も覚悟を決めたみたいだね。これであいつらも勉強に集中できる。


 勇者呼びとかいろんな二つ名が増えそうな気がするけど、今回に関してはあえてそれを受け入れよう。それで誰かの悲しみを防げるんだったら安いものだ。




読んでいただきましてありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。

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