第二百七十一話 いや、ほら。ここだと間取りとかもほとんど変わらないしさ、食堂の料理も信用出来るじゃない? 他の領地だとまだ盗賊とかいるかもしれないし
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楽しんでいただければ幸いです。
今夜の宿は白鳥亭、ハクチョウじゃなくてしろとり亭と読むらしい。
毎回宿はこの白何々亭シリーズに泊まっているんだけど、一応これには同じ規模の宿屋のサービスと食事内容で各街の違いを確認するという意味があったりする。地域格差とかを調べるのにもってこいだからね。
【ホントに? 虫が出ない位にキッチリ管理されてる宿を選んでるだけじゃないの? あと、面倒だからとか】
いきなり通信入れてきて核心をつくんじゃない。
ああ、そうだよ。この世界は油断すると虫が出る宿もあるんだぞ。ここに泊まる時でもヴィルナがいない時は殺虫剤使うけどな。でもそれだけじゃないんだ。
「いや、ほら。ここだと間取りとかもほとんど変わらないしさ、食堂の料理も信用出来るじゃない? 他の領地だとまだ盗賊とかいるかもしれないし」
【超早口で声に出さなくても分かるってば。割と虫とか嫌いなんだね】
アレを好きな奴がいるのか? ムカデとかに噛まれてみろ、ひと月近く足にコンビニのビニール袋とかが触れただけで過剰に反応するようになるんだぞ。
俺はムカデと仲良くするつもりは欠片もない。他の虫もそうだけどな。
【噛まれた事があるんだ……】
山とかに近いとどうしても出てくるんだよ。
嫌な虫といえば、後は虻とかな。学校でいったキャンプの時に大量発生してて酷い目にあった。この世界にはあまり虫とかはいないみたいだけど。
【今のあなたは氣が高いから、その辺の虫の攻撃なんて通用しないし向こうも寄ってこないよ】
そうなのか? でも、感触とかなんとなく嫌だろうし、一応殺虫剤の散布は毎回欠かさないようにする。
油断大敵。
【そこ迄嫌ってるって相当だね。……以前蟲型の魔物に容赦なかったのって……】
気のせいだ。俺は百足や虻は嫌いだがヤスデはそうでもない。あいつらは癒し枠だからな。
【姿は殆ど同じじゃない!!】
噛むか噛まないかで大きく違うんだよ!!
しかも毒持ちだぞ!!
【そりゃそうだけどさ。こっちには蟲なんていないからわかんないんだよね】
神界いいな。そのうち移住するのも悪くないかも。
【あまりプロポーズととれるセリフ言い続けてると、本気にする女神とか出てくるんだよ】
今のもそうなのか? もしかして、やっぱり今までも結構言ってたのか。
【少しは自覚があったんだ~。神界に移住する時を楽しみにしてるね♪】
ちょ……。その件は今はいいとして、昨日送ったもうひとつのアレの反応はどうだった?
【ああ。あれ? アレもすっごい人気だったよ。女神シルキーもあっちの方もおいしいって喜んでたって】
なるほど。割とおいしい物を受け入れてくれる人というか女神なんだな。思い出の料理に手を加えるのを嫌う人もいるのにさ。今回は女神だけど。
【もうずいぶん昔の話……。いえ、女神フローラ。私は別に女神シルキーの年齢について言及した訳じゃ……】
女神でも年齢の話は禁物か。
流石にもう通信は繋がってないけど、天使ユーニスの身が心配だ。また謹慎くらわないだろうな。
彼女の無事を祈りつつ、今日は休むとするか。
◇◇◇
日付は変わって朝から領都散策中。昨日の晩飯は白鳥亭の食堂で済ませたけど、とりあえず大した発見はなかった。
ワインは他と同じ薄めたワインだし、ウイスキーに至ってはメニューにすら載っていない。やはりドワーフが買って飲むだけの量しか造ってないのか。
街の作りというか、鉱山に囲まれた領都というだけあってここは以前訪ねたギュンティ男爵領によく似ている。というか、あそこの領地の規模を大きくしたらこうなるんだろうな。
こうして街を散策してて気が付いたんだけど、スハイツ伯爵領の領都シロタエクと比べるまでもなく屋台の数が少ない。そしてその少ない屋台の殆どが生活雑貨系の店だ。料理を売ってる店なんてほとんどありゃしねえ。
「確かにこの辺りは食糧事情が悪いのか? でも、領都で食料が不足してるって相当な事態だぞ」
麦をウイスキーにしてるうえに、残りの畑の大半でブドウを栽培してるみたいだしな。
あの状態でほかの作物を育てる余裕なんてないだろう。
「で、売ってる食料はどこかから買い付けたものだから当然高い。昨日の料理も値段の割に量が少なかったからな」
塩だけは相当に安いらしく、ウインナーや干し肉の様な加工肉は割と見かけるんだよね。露店じゃなくてちゃんとした食料店でもほとんどが加工肉だ。
というか、これ全部酒のツマミだろ?
「この辺りだとこれが普通だよ。あんた何処から来たんだい」
「カロンドロ男爵領だ。流石にここに並んでるような塩漬け肉はここより高いだろうけど、他の食べ物はかなり安いぞ」
「それだけ離れた領地だとそうだろうね。あの辺りは海もあるだろ? 塩だけはこの辺りも豊富な岩塩があるから安いんだけどね」
岩塩一キロがここだと十シェル。この岩塩を仕入れて売るだけでもかなりの利益が出るぞ。
最低でも数倍、アツキサト辺りまで持って行けば五倍近い値段で売れる。ヤバいくらいのぼろ儲けだ。
「子爵様がそんな商売人の目をするんだね。……カロンドロ男爵領。子爵様……」
いやな予感!!
「貴重な情報をありがとう。何も買わずに悪いね」
「もしかしてクライド様かい? 生きてるうちにクライド様の顔を拝めるなんて……」
だからひとを拝むなっての!!
というか、俺ってこんな遠くの貴族領でもそんな扱い? 俺の正体に気が付いた人の多くが拝み始めてるし……。
「あの方は昨日の……、酒の神はやはりクライド様だったか」
「生き神様……」
普段俺を見慣れてるカロンドロ男爵領だから今まで何事も無かったのか、それともカロンドロ男爵とかスティーブンが裏で手を回してるのかは知らない……。
他の街に行ったらこういう扱いになるんだな。子爵杖は隠す? いや、他の貴族の領地内では身分を明確にする為に極力この杖を持ってないといけない決まりだしな。下手に隠すとカロンドロ男爵に迷惑がかかる。
「仕方がない。食糧事情やこの辺りの食材は大体把握したからこの辺りで帰還するか」
新発見!! っていうか、今の俺が全力で走ったらこんなに早いのか。人にぶつからない様に走ってる間は未来予知を働かせてるけど、これが無かったら大惨事だぞ。
よし街の入り口までたどり着いた、街から出る時は別に特別な手続きはないから楽でいい。
「召喚!! ブレイブウイング!!」
アルティメットブレイブ専用移動手段。ブレイブウイング。
ひとり乗りの自動車形態、水中を移動する為の潜水艦形態、空中を高速移動する為の飛行形態の他にその状態で宇宙空間を航行する能力まである乗り物。名前の通り通常形態は飛行機だけどね。
【ブレイブウイング起動。旦那緊急発進しやすか?】
「なんで俺が乗る車やバイクの人工知能はお前なんだろうな?」
【アイテムボックス経由で全移動手段のサポートをしておりますぜ。バリアシステムの発動に旦那の氣や魔力を使用しております】
人間くさかったり、機械的だったりおかしな人工知能だよな。能力は信用してるからカロンドロ男爵領まで全速で頼むぜ!!
【了解でさぁ。全力で飛ばせば一時間以内にカロンドロ男爵領上空に着きます】
マッハは超えるなよ。
これだけ魔素の濃い世界でマッハ超えたら周りの影響が凄まじいからな。
【衝撃中和システムや隠密システムを発動しておりますので周りへの影響はありません】
アルティメットブレイブ本編だとそういう設定だったけど、それこの世界でも通用するんだな。
やっぱりコレ開発したのって、あの人だよね……。
鏡原師狼。たぶんあの人が幾つもの世界における鍵になってるんだろう。
「材料も情報も揃った。後は晩餐会に向けて最終調整だ!!」
今回の晩餐会で問題になる貴族はスハイツ伯爵とパスクアル伯爵の二人だけ。この二人を落とせば他の貴族は問題ない。
これで王都の肩を持つ貴族は本当にいなくなるだろう。あそこも含めてな……。
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