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第二百六十九話 とりあえず的な感じでスハイツ伯爵領の領都に来たけど、かなり整備が行き届いてる。それでも今のアツキサトに比べるとやや寂びれてるけど

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。




 スハイツ伯爵領は王都の西に位置する。といっても位置的にはかなり西の国寄りなんだけどね。西方面という事で蕎麦や麦の穀倉地帯を持っているので食糧事情はかなりいい。


 パスクアル伯爵領はその北側に位置していてこちらは鉱石などの埋蔵量が凄く、金や銀以外の鉱石はかなりの量で産出されている。鉱山の多い貴族領なので領民にドワーフやその血を引いている者が多いのが特徴だ。食糧事情は若干悪い。


 今はスハイツ伯爵領の領都シロタエクを訪ねているけど、やっぱりこうして直接足を運ぶといろいろ目に付くな。


「とりあえず的な感じでスハイツ伯爵領の領都に来たけど、かなり整備が行き届いてる。それでも今のアツキサトに比べるとやや寂びれてるけど」 


 領民の服というか布の質は流石にアツキサトに劣るけど、染料が揃っているのか割とカラフルな布を使っている印象だ。


 そのカラフルな服が街にあふれる状況になんとなく既視感。何処かで見た光景に似てる様な……。元の世界の服も当然こんなにカラフルなんだけど、そこじゃなくて。


「女神シルキー教会だ。あの教会の装飾とか飾りつけもこんな感じだよ」


 あそこは教会の中でも割と派手好きだし、あそこの教徒も割とカラフルな服装を好んでたしね。金持ち限定だけど。


 ということはこの街にも金持ちが多いのか、それとも染料をあれだけ使った派手な服が安いかのどっちかだな。


 よく見たら店とかも割と派手な内装してるみたいだし……。


「裏通りも綺麗で、割と道幅が広く取られてるな。歩きやすいし見通しもいい」


 道幅が広い事を利用して屋台もそこそこ並んでいて、様々な物が売られているね。パンを焼いて何か肉を乗せた料理、サンドイッチ、串焼き……、やっぱり食べ物屋が多いけど、値段も三シェルから十シェルと様々だな。というか値札が掲げられているのも珍しい。屋台をやってる人に聞くのが普通なのにな。


「その串焼きは幾らだ?」


「……五シェルだよ」


 看板を指しながら割と不愛想に何かを焼き続けている、こっちを見もしねえ。


「ひと串くださいな。はい、五シェル」


「熱いから気を付けなよ。……クライド様?」


「ありがとう。そうだけど気にしないでもらえると嬉しいかな」


 一応子爵だし、顔を知ってる人も多いのかな? この世界の情報伝達方法や能力が今一つ分からないけど。


 ……使われてる肉はグギャ鳥か? そういえば近くの森はグギャ鳥の鳴き声が煩かったけど、アレは俺が上を飛んでたせいじゃなかったんだな。


 串焼きの味付けは岩塩と香辛料。香辛料についてはこの世界はあちこちに謎の香辛料が生えてるからもう考えないとして、岩塩をこれだけ濃い目に使えるって事は塩が豊富なのか。


 全体的な味はグギャ鳥だけあってそこまで美味しい肉じゃないし、味付けもシンプルだからまあ食えなくはないレベル? アツキサトでこれを売っても誰も買いに来ないだろうけどね。


「岩塩を売ってるな。一キロくらいありそうな塊が三十シェル? かなり安いんじゃないのか?」


 確か以前のアツキサトで売られてた時はあの位の塊が百シェルだったはず。あの時は塩が一番高い時期だったとはいえ、露店でその三分の一の価格で売られる位には岩塩が豊富なんだろうね。


 ん? いかにも警備兵っぽい奴らがぞろぞろとこっちに向かってくるけど何かあったのか?


「すいません。職務上お聞きしているのですが、クライド子爵様で間違いありませんか?」


 俺かよ!! ああ、確かに門の所でもかなり怪しまれてたからな。馬車で来てない上に徒歩で来るにしては旅装束には見えないもんな。アツキサトでも監視対象だろう。


「確かに。私はクライド子爵ですけど、よくわかりましたね」


「その装い。我々はシルキー教徒なので間違える筈がありません。領都シロタエクへようこそ」


「シルキー教という事は勇者関連?」


「はい。女神フローラは我らの主神女神シルキー様の妹女神。その女神フローラに祝福され、数多の魔物を討伐されたクライド様は勇者として尊敬されております」


 女神シルキーには様付で女神フローラは呼び捨てってのにいろいろ思う所はあるんだけど、まあその辺りを言うと藪蛇になりそうだしな。


 女神や天使たちは人間が自分たちをどう呼ぼうが歯牙にもかけないだろうし。


「女神シルキー教には鏡原(かがみはら)師狼(しろう)の事も伝わっているのか?」


「……その名は司教か司祭以上の者、もしくは熱心な信者しか知らぬ筈。なのになぜその名を……。私は警備隊の隊長をしておりますが、この街の司祭でもあるのですが……」


「司祭が警備隊長ですか?」


「ここはシルキー教徒が多いですからね。警備隊長が司祭であれば皆、私の言う事をよく聞くのですよ」


 なるほど。教徒の場合は宗教的に上の位にいる者の命令だったら割と素直に従うもんな。


 宗教色の濃い街だと思ったけど、この伯爵領自体が女神シルキーを信仰しているのかもしれない。


「ここの領主もシルキー教徒なのか?」


「もちろんです。この辺りとパスクアル伯爵領の領主様は昔から代々シルキー教徒ですよ。女神シルキー様を信仰している領主様も結構多いと聞いております」


 カロンドロ男爵は特に誰かを信仰している事はないな。


 その代わり、何処の教会も分け隔てなく領内での活動を認めているけどね。……もしかして、この状況になるまでこっちの陣営に来なかったのってそっちの理由もあるのか? カロンドロ男爵はシルキー教会を領都に最後まで誘致しなかったうえに優遇しなかったから。


「露店で売られてるあの料理は、もしかして伝承にあったりする?」


「本当によくご存じですね。あの食べ物はシルキー教では特別な意味を持ちますので、最低でも週に一度は口にするようにしています」


「他に何か特別な食材とかあるかな?」


「食材ですか……、ああ、この辺りで獲れるシャケが有名ですよ。この時期ですと脂がのっておいしいですし」


 シャケ?


 この辺りに海に繋がっているような川なんてあったか?


「えっとそのシャケってどんな食材なんだ?」


「あの店で売っていますので、見てみますか?」


「ぜひお願いします」


 一緒についてきた店は魚介類を売っている店じゃなくて、いろんな肉類を売ってるけど。ここ魚も売ってるのか?


「いらっしゃい!! 司祭様!! それに隣の方はまさか」


「うむ。勇者クライド様だ。シルキー教の経典にも詳しい方で、シャケをお探しの様なんだが」


「いきのいいシャケが入荷してますよ。これです」


 鳥? 魚じゃなくて、鶏にほど近い鳥だ!! こいつがシャケなの?


 思ってたより小さいけど、完全に外見は羽が生えたシャケじゃん。胴体が少しだけ横に膨らんでるのと、尾びれの向きは縦じゃなくて横だけどね。ちゃんと羽も生えてるし……。


 シャケの顔というか頭も割と鳥っぽいけど、コイツは殆どそのまんまシャケの頭部に嘴だけ駄コラみたいにくっつけたみたいな顔をしてやがる。


 魚じゃなくて鳥って事を主張するように、背中に鶏っぽい羽があって腹の部分からもちゃんと鶏の足が生えていた。なんなんだこいつは、鮭と鶏を掛け合わせたような不気味なフォルムなんだけど……。旨いのか?


「これがシャケ?」


「はい、丸焼きか丸々唐揚げにするのが人気の調理法です」


「丸揚げって……、この辺りでも揚げ物はあるのか?」


「カロンドロ男爵領みたいに下味をつける工夫が足りませんでしたけどね。この辺りは油も採れるので割と昔からいろいろと揚げてますよ」


「素揚げに近いのか。このシャケを大量に欲しいんだけど、どの位まで手に入る?」


「養殖場に行けば幾らでも手に入りますが、どの位必要なんですか?」


「最低百。できれば三百位欲しい」


 いろんな調理法も試したいし、今後の為にできれば生きた幼鳥が纏まった数で手に入ればありがたい。


 もう鳥は毛長鶏(けながどり)大山雉(グレートファゼント)、それにウズラモドキが養殖されてるし、グギャ鳥やカラカラ鳥も近くの町や村で養殖されている。ここにこのシャケを加えるのもどうかと思うけど、食の多様性というか美味しかったら絶対に食材に加えたいしね。


「三百? 用意できない数じゃないだろうけど、かなりの額に……。心配無用ですね」


「そうですね。勇者クライド様は教会への寄付もそうとうな額を収められていますし、二千シェル程度は何でもないでしょう」


「三百で二千って、そんなに安いんですか?」


「……その服の生地の袖の部分だけでもその百倍くらいするだろうし」


 いや、今日はそこまでの服じゃないよ。


 一応カロンドロ男爵のメンツもあるから、普段着てる服と同レベルにしてるけどさ。


「後でこの街の教会にも寄付をさせてください。あと、人気の食堂なども教えていただけると助かります」


「ありがとうございます。寄付は私が受け付けておりますよ。後で司教様に渡しますので問題ありません」


「では、些少な額ですが」


 大銀貨五十枚入りの革袋。教会に寄付するように幾つもアイテムボックスに用意してある時点でなんだかなって感じだよね。


 でも今の俺にとってはそこまでの額じゃないし、寄付する時にちょうどいいんだよな。


「大銀貨をこんなに……。よろしいのですか?」


「本当に些少な額ですよ。ここの教会も孤児院を運営されているのでしょう?」


「それはそうですが」


「ではもう一袋お納めください。孤児たちに良き未来がありますように」


「おお……、噂通りの聖人なのか」


「勇者で聖人。まさに神が遣わされた救世主だ」


 だから、祈るな!!


 でも、やっぱり現地に来て正解だった。ここまで多くの情報はここに来ないと分からなかったし、生徒たちの情報の裏取りにもなった。あの情報が無いといろいろ見逃してたかもしれないし結果オーライだ。


「それではシャケの養殖場に案内いたします」


「ありがとうございます」


 街道を歩く間も俺を祈る人がちらほらいたんだけど……。


 俺生きてる人間だからね。


 人間に祈るのは基本仏様だけにしような。




読んでいただきましてありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。

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