第二百六十七話 という訳ですまないけど来週は俺が学校に出勤できない。問題は起きないと思うけど必要そうな物は全部置いておくから
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
晩餐会の件は了解したので魔法学校に出勤してても何となく料理の事を考えてしまう。仕事中に他の事を考えるのは良くないけど、晩餐会の失敗はカロンドロ男爵の顔に泥を塗る事になるし、新しく味方になった貴族がこちらを見くびる可能性もある。だから絶対に失敗は許されない。
責任者として学校には定期的に顔を出さないといけないんだけど、流石に来週は忙しくて顔を出せないだろうからね。
「という訳ですまないけど来週は俺が学校に出勤できない。問題は起きないと思うけど必要そうな物は全部置いておくから」
「今月のイベントはボードゲームだし大丈夫じゃないかな? アレもよく考えられてるよね」
「元は将棋だしな。楽しく戦術を学ぶにはちょうどいい」
将棋と他のボードゲームを幾つか足して改良したルールのボードゲーム。陣地は囲碁並みに広くて、コマの数は騎士、戦士、弓兵、槍兵、魔法使い、僧侶、盗賊の全部で七つ。
魔法使いは三回だけ範囲攻撃をできるけど、移動はひとコマだし射程距離は弓兵より短い。
真ん中に仕切りがあって、攻撃は位置を指定して行う。移動の時も審判が毎回確認するし、ズルは出来なくしてるんだよね。
「最初の配置が重要だし、意外に難しいんだよね。最初は駒が裏返されて表示が隠してあるし」
「そこが腕の見せ所かな。わざと制限数で一番短い移動を行って魔法使いと誤認させたり、弓兵に見せかけて盗賊を配置したりね」
「性格が出るよね。素直な子の方が不利だよ。アレは」
「攻め手にも性格が出るから、割と癖とか覚えると対応できるぞ」
俺みたいに未来予知使うのは反則だけどね。自分では発動させてないのにピンチになりそうなときは自動的に見えるんだから仕方がない。
アルティメットブレイブの力は俺と完全に繋がってるみたいだから、ブレスの能力でフォームが強化されたら俺の力も強化されてるみたいなんだよね。雷牙や土方もそうだったら変身前でもあの強さは納得だ。
「理事長先生みたいに無敗って訳にはいかないけどね。あまりやってないよね?」
「勝つだけの勝負も面白くないのさ」
「うわ~。そのうち絶対に勝ってやるんだから!!」
「そっちの大会はいいけど、他は問題ないか?」
「……今週分の反省文がこちらです」
ずいぶん少ないな。生徒もやっと落ち着いてくれたか……。
「えっと、ツリーハウスだけで満足せず、近くの荒れ地を切り開いて丸太小屋を建設。そこから学校に通っていた生徒三名を教師が厳重注意。以後ツリーハウスの建設も禁止」
「ほら、寄宿舎から通うのって面倒じゃない」
「丸太小屋を作る労力を他で使わせろ!! 枚数が少ないと思ったら、やらかしてる内容の規模がでかいだけじゃねえか」
「小さいのは見逃さないと、理事長室が反省文で埋まっちゃうでしょ?」
「そうだけど……。この位だったら許容範囲か。怪我だけには注意してくれよ」
「ほんとに優しいよね。今までのやらかしの中でも他の教師は退学間違いないだろうってのも、厳重注意や軽い処罰で済ませてるし」
校庭ニ十周とかの肉体酷使系から、敷地内の雑草抜きとかいろいろな。
他人に罪をなすりつけた奴は最低でも停学って伝えてるから、みんな今のところは正直に申し出ているみたいだ。冤罪は大っ嫌いなので、そんな真似をする奴は最悪退学でもいいと思ってるぞ。
「身につけた力を試したいのも、学友と楽しく過ごしたいのもある程度は理解してる。学業の妨げになったり、他の教師たちの負担にならない程度だったらね」
「今はまだ生徒数が少ないからいいかな。来年以降は苦労しそうだけど」
「生徒会と風紀委員に対応させろ。生徒の自治も大切な事だ」
「生徒の味方をしない?」
「しないだろうな。そんな事になると自治権を取り上げられることをすぐに理解する」
むしろ、取り締まりを厳しくし過ぎて生徒から恨まれるまであるしな。
支配階級ってのは割と優越感がでかい。貴族ばかりだからその辺りはよく理解してるだろうぜ。
「生徒もいろんな所から集まってるからね……」
「いろんなところから集まっている。……それが使えるか? いや、確かに盲点だったかもしれないな」
「何の話?」
この街や南方で入手できる食材も悪くはないけど、いまさらあれを使ってもそこまで驚きはしないだろう。うわさで既にいろいろ聞いてるだろうからな。
むしろ逆に新しく加入した貴族の領内にある特産品を使って、あいつらが今まで食べた事の無いレベルの料理を並べるって手もあるぞ。当然、こちらの財を見せつける為に砂糖やそのほかのこちらが売り込みたい食材はふんだんに使うとしてもだ。
「スハイツ伯爵領とパスクアル伯爵領の食材とかに詳しい生徒とかいないか? 貴族が食べるものもそうだけど、領民が主に食べてる食材も知りたいんだが」
「知ってる生徒はいると思うけど、話したりするかな?」
「あの辺りの勢力と付き合いの長い貴族はこの男爵領と王都を天秤にかけてたんだろうし、なかなか言い出しにくいだろう。……食材と料理をこの紙に三品以上書いて持ってきたら反省文一回免除もしくは百シェルと交換。免状の使用期限は半年後迄とする」
「しょ……職権の乱用なんじゃない?」
「今回の晩餐会の意味はでかい。あいつらの鼻っ柱を叩き折りつつ、こっちに心酔させる必要がある。旨いだけの料理じゃダメなんだ」
本当に今後の為の大きな一手だ。必要な情報をもってくりゃ反省文レベルのやらかしなら何枚でも見逃してやるさ。
免状を受け取って意気揚々と盛大にやらかす奴もいるだろうけどな。それでも一回だ、ちゃんと見逃してやるよ。
「一人何枚まで持ってきていいの?」
「多けりゃいいんだけど、あまりひとりに渡し過ぎるのもマズイ。でも、今回に限っては五枚くらいまではいいかな」
「うわぁ……。今回の晩餐会ってそこまでなの?」
「そこまでの事なんだ。平和に相手を屈服させられるならそれに越したことはない」
経済力とか力で叩き潰す方法もあるけどさ、やっぱり後々まで遺恨が残るじゃん。旨い料理でこっちに流れてくれるんだったらその方がいい。
誰も悲しまない方法を最初に試すべきだろ。
「わかった、明日の朝礼で全校生徒に知らせるよ。あ、リーダーとかも少しは知ってるかも」
「あいつに聞くってのも考えたんだけど、あいつの舌が信用できない。ラウロの方が信用できるからな」
「貴族出身なのにうちのメンツで一番貧乏舌だからね。知らない町で食べ物屋を探す時は私かラウロだったよ」
旨いものは分かる舌は持っているが、あまりおいしくない物でも美味しくいただける奴だからな。
地元にどの位いたかは知らないけど、あまり期待できないだろう。
「ダメ元でルッツァにも聞いてみてくれ。ラウロの方には……、報酬を前渡しだ」
「……このワイン、高いワインでしょ?」
「購買で売ってる物の数段上のワインだ。この辺りで俺くらいしか持ってないだろう」
「そこまでするんだ~。分かった、私もできる限り協力するよ」
「頼む。提出は明日中で頼むぞ」
「ちょ!! 絶対生徒たち授業中に書くよ?」
「教師も提出可能だ。一枚百シェル程度だが臨時収入にはなるだろう」
「ひどい、それ教師も授業にならない案件だよ!! ……ん~、冷静に考えたら五枚程度だったらそこまででもないかな?」
日本円で五万円をその程度と思うかな? いや、あいつらは授業そっちのけで書く気がするぞ。特に生徒はね。
百シェルはともかく、免状ってのは相当に魅力だろうし。
「免状の譲渡は不可な。他人の免状を使った場合は最低でも停学だ」
「は~い。そういう所はホントに厳しいね」
「知恵を使うのは悪いとは言わないけど、誰かを巻き込むのは感心しない。冤罪や免状の強奪は絶対に許さないぞ」
これで少しだけ手は打てた。
後は食材の入手だけど、最悪自分で買いに行けばいいか。
非常時だし、特殊手段を使うのも悪くない。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




