第二百六十五話 生徒たちの間でこの件を理由に該当する勢力にいる生徒を差別しない様に通達してくれ。今まで共に学んできた学友だ。何の違いがあろうか
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楽しんでいただければ幸いです。
流石に開校から七ヶ月も経てば生徒も学校や宿舎生活に慣れてきたみたいだな。といってもあいつらは最初から遠慮なく豪快にやらかしまくってたけどね。
しかし、ここにきてちょっと生徒たちの様子がおかしくなってきた。理由は分かっている。この国の状況が大きく動いているからだ。
この魔法学校やカロンドロ男爵が運営する学校に通う生徒は基本的にカロンドロ男爵の陣営に与していた貴族の子弟だけだ。それでも、ひそかに王都と通じていた貴族も存在し、今頃になって立場がヤバくなって焦っているという事だな。男爵もスティーブンもそんな事はとっくに知ってたけどね。
「生徒たちの間でこの件を理由に該当する勢力にいる生徒を差別しない様に通達してくれ。今まで共に学んできた学友だ。何の違いがあろうか」
「流石は理事長先生。生徒たちにはそう伝えるね」
「そういった生徒が自分より優れていると、言葉尻でそこを突く生徒とかもいるだろう。誰かを見返したいのであれば、実力でそれを示させろ」
自分より優れた存在がいるんだったらいい刺激になるだろうが。
相手を貶めるのではなく、自分がその高みに挑めばいいだけの話さ。
「勇者先生やライガさんの様な相手を目標にしている生徒もいますので……」
「目指すのはいいけど、無茶だけはさせるなよ。努力してどうにかなる目標じゃないけどな」
ブレスの力抜きで俺や雷牙を目指すのは無理だって。近いレベルでも相当に苦労するぞ。
魔法少女の力を持つエリーヌでも変身前の雷牙にすら敵わない。空中を飛べば少しは善戦できるだろうけど、基本的に雷牙が相手だと彼女程度の魔法は無効化してくるし、空中にいても撃ち落されるだけだ。
「今度それは身を以て体験できるだろうから、そこで諦める気はするけどね」
「……十二月の模擬戦の事か? 俺や雷牙は出ないぞ」
魔法実験場を改造した魔法闘技施設の建設は完了している。いろんな魔導具を使用して受けたダメージをバーで表示させる機能までつけた。その上闘技施設内での魔法ダメージはある程度までは無効化される。俺や雷牙の攻撃は無理だけどね。
使用できる魔法の上限を決め、相手のゲージを減らしきるまでの一本勝負。制限時間五分内に決まらない時は、ダメージの多い方が負ける決まりだ。
「特別試合で出ない?」
「出ない。ルッツァ辺りを呼べばいいだろ。面白い勝負になると思うぞ」
「リーダーはもう呼んでるよ。チャレンジできるのは上位三位までだけど」
「あいつがよく了解したな。負ける事はないだろうけど、魔法使い相手は割と苦労するんじゃないのか?」
「武器は木剣で、装備はいつも通り。鎧を着てるからダメージ判定にボーナスが付くし、木剣での攻撃もダメージを与えられるしね」
そうなると木剣で直接殴ればいい訳か。楽勝だな。
魔法を使う相手だって初めてじゃないだろうし、生徒だと逆立ちしても勝てないだろうね。
「格上との模擬戦闘っていい刺激になると思うんだ。でも、そこでリーダーが勝つって疑わないのが凄いんだけど」
「ルッツァの実力は大体把握してる。実際にはその上があるだろうし、なくても流石に生徒たちにはまだまだ負けないさ」
「何度か共闘してるからね。でも、それだけで魔法使いに勝てると思うの?」
「冒険者はいろんな戦い方を身に着けている。生徒にも冒険者はいるけど、年季の差が出るだろう。やり方次第だけど、その最適解に生徒がいきなり辿り着きはしない」
生徒の実力でルッツァに勝つには魔法での直接攻撃を避けて、身体強化系の魔法で戦うしかない。
その上で残りの魔法を防御に全振りさせたら流石にルッツァでも攻め手に欠ける。後は生徒が何処まで善戦するかだけどそれでも生徒が勝てる確率はかなり低いだろうね。たぶん結果は生徒の魔力が先に尽きるか、時間切れで引き分けだ。
「ほんと、理事長先生って怖いよね。模擬戦とはいえ生徒だと相手にならないだろうけどさ」
「変身ありでエリーヌが出てきたら流石にルッツァも苦戦するだろうけど、俺や雷牙が相手だと変身しても結果は変わらないぞ。むしろこっちの手加減が無くなる分、勝負が早いまである」
「変身した姿を見たけど、あの力でもダメなの?」
「ダメだな。そもそもエリーヌには魔法少女として戦闘経験が足りなさすぎる。あの程度だったら変身しない方が善戦できるぞ」
変身前の状態だったら、エリーヌも実力を発揮できるだろうしね。
生徒の多くに攻撃方法が魔法しかない時点で俺や雷牙には勝てないけどさ。剣術や格闘能力が俺達より高いとも思わないし……。
「やっぱり勇者は違うね。普通の人だと勝てないでしょ?」
「その為の勇者だからな。というか、もう完全に勇者で定着してる気がするけど」
【今更? いまさら過ぎて驚いちゃうけどね】
さらっと会話に混ざるんじゃない。最近接触多いけど、大丈夫なのか?
【先日の一件があったから大丈夫。女神ルーミの方は逆に謹慎中かな。流石に重大な規約違反だし】
無断での引き抜きはね……。
向こうの管理してるエリアに行ったら、こっちの世界救済は手伝えないんだろ?
【そうなるね。でも、あなたがその世界救った後の話だよ】
いや。この世界を救った後だったら俺も安心して数時間くらいこの世界を留守にできるだろ? そうしたら女神見習いユーニスの手伝いをしてもいいかなって思っただけだよ。
【……えっと、その気持ちはすっごくうれしいんだけど、それって完全にプロポーズだから気を付けてね。女神フローラもその気でいたりするから】
マテ。え? 俺って女神フローラにも求婚してる形? この世界でヴィルナと結婚してるのに?
【あなたがこっちの世界に来るのは彼女との死別後だろうからね。あなたはほぼ寿命が無いし、そのうちのその世界を見守らなくていい事になるわ。その時、多分こっちに移住すると思うから】
それは雷牙や土方もそうだろ?
【その二人を狙ってる女神も多いんだ~。もうその世界は最強戦力の見本市みたいになってるよ】
死別後の話で、世界を救って欲しいとか言われたら俺たちは動くだろうしね。
かなり先の話だからそれはいいんだけど、例のプロポーズの件だけど。
【例の反物の件。あんな物をプレゼントされたら流石に心が動くって。それにあなたって女神フローラの手助けもかなりしてるでしょ?】
してるね。
他の世界の救済だって言われたら……。ああ、状況は違うけどそういう事か。
【そういう事。あなたってすでに女神フローラとか私の世界の救済を手伝ってる状態なの。天界ではこれを求愛行動、もしくはプロポーズとみなします】
いや、それだと世界救済手伝ってくれる奴いなくなるだろ?
【流石に相手は選ぶよ。でも、世界救済を頼む時に異性を選んだら女神見習い側もそれを考えてる可能性は高いの。それで色気を出して世界救済に失敗する女神見習いもいるしね】
ああ、容姿重視で能力を見誤るパターンか。
割とよくあるんじゃない?
【うん。悲しい事によくあるの。恋愛経験のない女神見習いも多いから……】
それは残念だな。
それはそうと、俺は純粋に世界救済を手伝いたいだけだ。
【わかったわ。じゃあね】
さて、話し合いの続きを……。
「という訳で、こんな感じで試合をすすめようと思うの。今回も希望者のみの大会だから、参加しない生徒は自由にしてもいいから」
「では今日の話し合いはここまでですな」
「お疲れさまでした。生徒の安全を最優先にした大会にしたいと思います」
話し合い終わってやんの。
いつもだったらあのやり取り中は時間の進みが遅い筈なのに、今日は何だか変だったな。
大会は来月か、それまで色々と準備しとかなきゃいけないね。
読んでいただきましてありがとうございます。
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