第二百六十四話 いや、それは流石にどうなの? こっちの音声が入ってないのわかっててやってるでしょ?
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楽しんでいただければ幸いです。
俺に直接コンタクトを取ってくる天使や女神って、女神フローラと天使ユーニス、そして最近はあまり絡んでこない天使セレステ位だ。
正確にはだったっていうべきなんだろうな。他の天使も昔は人工知能に偽装して俺の行動を誘導してたみたいだし。
で、今の状況をどうするかちょっと迷っている。とりあえずこっちの思考は向こうに繋がってないみたいだね。
【ん? これだったかな? あの子たちが使いやすいようにカスタマイズしてるから、どれがこのシステムのスイッチか分からないじゃないの……】
もう一時間くらい前から、今まで聞いた事の無い声が頭の中に響いてくる。
というか、声とともに何か変な音も響いてるんだけど……。スイッチ音というか、ノイズみたいな音とかも。
【これかしら? この聖晶石が光ってるって事は、一応作動してるのよね? でも向こうの声が聞こえてこないから何か違う筈……】
名なんとなくキーボードか何かを操作するような音が聞こえてくる。スピーカーというか、音声出力がオフになってる感じかな?
って、天界の通信システムって意外にハイテク? なんかこう……、不思議なでっかい石碑とかでやり取りしてるのかと思ったんだけどね。
【早くしないとあの子たちが戻ってきちゃうし……。今日を逃すとまたしばらくこっちにはこれないしね】
……天界のその辺りの仕組みがよくわからなかったんだよな。
このまま状況を見守ってたらそのあたりが分かる?
【ああっ!! 通信状態になってるじゃない!! もしかしてこっちの音声は……】
気が付いたみたいだけど、なんかこの女神様ってあわてんぼ?
結構前から向こうの音声は駄々洩れだったしな……。
【こほん。これは慣れない装置で少し戸惑っただけです。分かりましたね……。返事が無いという事は肯定とみなしますよ】
「いや、それは流石にどうなの? こっちの音声が入ってないのわかっててやってるでしょ?」
【え? 声が聞こえたけど? ……ああっ!! 念話システムがオフになってるじゃないの!!】
ああ、いつも考えるだけで話が出来たのはそのシステムのおかげなんだ。
ツッコミも入ってる気がするけどね。
【……これで考えるだけで話せるはず。初めまして、勇者君。私は女神ルーミ。元々は君と同じような世界の人間だったの。鳶木留美って名前でね~】
初めまして。俺は鞍井門颯真。勇者呼びは勘弁して欲しいかな?
それにしても日本人? いや、その世界の日本が日本って国名とは限らないけど。
【大丈夫。私の世界でも日本だったわ。そこは淫獣っていうその世界でいう魔物が徘徊しててね、多くの人が人知れず犠牲になってたの】
淫獣ね。獣って事は真魔獣みたいな存在かな? それとも、もっと厄介な存在?
【戦って強敵かどうかって事だったら真魔獣の方が遥かに危険よ。アレは人類を滅ぼす為の兵器みたいな存在なの。でも、淫獣の方が倒しやすいといっても私のいた世界には超越種、いわゆる魔法剣士や界渡りの助けは来なかった】
それはきついな。
ブレイブみたいな特殊組織は無かったのか?
【あったけど、損耗率が八割近いっていう捨て石みたいな組織があるだけ。私は運よく生き延びたけど、私が役目を終える頃には同僚は殆ど残っていなかったわ】
捨て石って、そこまでしないと勝てない相手か……。
よく生き残ったな。
【それでも無茶しすぎて若いうちに人生終えちゃったんだけどさ。人類に貢献してたって事で女神見習いになって、今はれっきとした女神なの】
その辺りの事情は分かった。
で、どうして俺にコンタクトとってきたの?
【この間の赤い反物のお礼が言いたくて。本当にありがとう、こっちの世界の事をどこまで知ってるか知らないけど、ああいった贈り物ってほんっとうに助かるの。ご飯系も大歓迎!!】
すっごい力説したけど、そこまでなの!!
【そこまでなの。この神界には基本異界の物は持ち込みにくいの。入手方法は女神が世界の視察とか救済の際に現地で調達するか、他の誰かにこうして送って貰う以外にはないの。それと祭壇とかでお供えされた物がこっちで複製されて手に入る位かな】
お供えしてもその品は消えたりしないしな。
なるほど、天界に同じものが作り出されるのか。
【で、ここで問題。お団子とかおにぎりとかお菓子とかはお供えされるでしょ。果物なんかもされたりするけど、ものすっごい種類が限定されるの。しかもお供えされた物のコピーって基本的に神界の魔素でできてるから、味なんかはお察しレベルだし】
俺の料理は流石にそのレベルよりは上だろうしね。
【知ってる神様の間で奪い合いに近いかな~。私はちゃんと頂戴って言って貰ってる分マシなんだ】
勝手に持って行く神様もいるのか!!
流石にそれは神としてどうなの?
【うん。それで最近問題になりかけてるの。フローラが最近あまりそっちと連絡とってないでしょ? 天使とかもこっそりやり取りしてるみたいだし】
……そういえばそうだな。
世界の救済案件じゃないから呼び出したりしてないけど、以前はもう少し頻度が高かった気はする。
【神様からちょっと怒られてね……。勇者君ってあの子の頼みだったらなんでも聞いちゃうでしょ? あの子の住んでる神殿なんて、神様の住んでる所より快適だし。食べてる料理も神界でも類を見ない料理ばかりだからね】
そこまでかな? ご飯に関しては俺の好意の部分が大きいけど。
そもそもそっちに神様とかどの位いるの?
【正確な数は私も知らないの。世界救済に関わってる神様ばかりじゃないし】
そりゃそうか。
で、そこの部署というか、周りにいる神様とかは?
【天使も入れて百人くらい? 割と女神見習いは頻繁に来るし、その子たちが天使になる事も多いから】
百人か……。こっちの一日がそっちの十四日として、一日最低三食で四十二食。五十食分位送ってる筈だからギリギリなのか。
【本当にギリギリだね。カレーの時とかはおかわりをみんなしたがるし】
大人気って言ってたからね……。カレーとかの時は寸胴を二つ分必要なんだ。
わかりました、今度から少し多めに送るようにします。
【ありがとう……、って違うの。それはありがたいんだけど】
ん? 反物のお礼と、ご飯のリクエストじゃないの?
【流石にそんな事でここに忍び込んだりしないわ。えっと、凄く先の話になるんだけど、私の後輩の世界も助けて欲しいの】
……例の勇者召喚って話ですか?
【あたり。その子の世界には適正能力の高い人が見つからなくて、このまま放置すると滅びちゃいそうなの。その時のシステムは説明を受けてるかもしれないけど、そっちの時間で一時間が向こうでの一年になるわ。勇者君だと数時間でなんとかできるでしょ?】
無茶を言う。
大体俺は世界救済の安請け合いはしないですよ。
こっちの世界もまだ救えてないんです。他の世界まで手が回りません。
【大丈夫、その辺りは考えてるから。その世界を救った後でいいの。滅びそうな世界の時間の流れは最低まで落としてるから、今は逆に滅びそうな世界の一時間でそっちでは一年過ぎるくらいなの】
逆もできるのか。
この世界を救った後で数時間だったら……、ん? 何か物音が……。
【女神ルーミ!! 性懲りもなくまた忍び込んでって!! ああっ!! システムの起動に成功してる!! あ!! ハッキングの跡が……】
【いえ。これは訳があってなの。今一歩で言質を取りそこなったわ。それじゃあ勇者君、またね】
【またじゃないです!! ここは別部署ですから!! って、逃げ足はやっ!!】
その声は天使セレステか? 久しぶりな気がするけど。
【お久しぶりですクライドさん。女神ルーミが接触してきたみたいですが何を言われたんですか?】
ああ、例の反物のお礼と、料理のリクエスト? あと、後輩の手伝いとか……。
【受けたんですか?】
いや、受けそうになった直前に天使セレステが帰ってきたから。
【は~。ギリギリでしたね。アレは引き抜きです。世界ごとに担当が決まっているんですが、他の世界から勇者を呼ぶにはどうにかしてその勇者と接触するしかないんです。こうして直接交渉できれば話が早いですから】
なるほど、引き受けてたらどうなってたの?
【死後に向こうのエリアに降臨して、向こうで神様になるんじゃないですかね?】
それはあれだな。説明しないとまずい案件だろ?
【嘘はつきませんけど、説明をしないって手段はとれます。私が最近接触しなかったのは、向こうの部署の仕事を押し付けられてたからなんですよ】
……天使を自分の所に呼んで、手薄になるのを待ってた?
【おそらくそうですね。パスワードとか暗号も強化しますので、次は無いと思いますが油断はしないでください】
了解。あ、ご飯の件だけど。今度から少し多めに送るね。
【ありがとうございます。食事に関しては本当にこっちは酷いですから。一度クライドさんの料理を食べると、もうあの食事には戻れません】
それで俺を引き抜こうとしたのかな?
【女神フローラの暮らしを見たら引き抜きたくなる女神ばかりだと思いますよ。女神フローラだけ本当の意味で神殿に住んでるみたいな感じになっていますので】
……色違いの家具を生産しておくから、それを天使フォルダーに送るよ。
その家具類は自由にしてもらっていいし、注文もメールで受け付けてるから。
【ありがとうございます。あの、ベッドと布団などの寝具系を先にお願いします】
了解。
睡眠は大事だしね……。俺が貰ってる異世界の映像ソフトとかどうしてるの?
【アレは特別なルートから入手しています。その辺りは秘密ですよ。では】
そういう事もあるのか。
って、もう通信は切れてるのかな。
以前から女神とかが接触してくるとか言ってたのに、今までその気配がなかったのはそういう事か。
これから気を付けなきゃいけないな。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




