第二百六十三話 洞窟に籠ってた時はどうしてたんだ? あの洞窟にある遺跡は広かったけど暇つぶしにあそこを探索してた訳じゃないんだろ?
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楽しんでいただければ幸いです。
秋祭りも無事に終了し、ヴィルナが家にいる時間が徐々に増えてきた。元々この位の時期から冒険者活動はすることが無かったし、寒さに弱いという聖魔族の種族特性なので仕方がない。
といっても、ヴィルナがこの時期に外で行動しなけりゃならない理由はないし、もう既に生活の為に金を稼ぐ必要なんてないしな。
魔法学校の教師の一件は俺のお願いだし、ヴィルナも自分でお金を稼ぎたいって気持ちがあったからだ。あのわずかな期間で普通の職業の年収の数倍は稼いでるけどね。
「この映像機器のおかげで暇をすることはないが、後は料理をしたりシャルの相手をする位しかする事はないのじゃ」
「洞窟に籠ってた時はどうしてたんだ? あの洞窟にある遺跡は広かったけど暇つぶしにあそこを探索してた訳じゃないんだろ?」
「……どうしてわらわが冬の間に過ごしておった洞窟を知っているのじゃ?」
「この間、ちょっと掃除に行ったんだ。その前に雷牙があそこを例の敵の残党のアジトと間違えたんでね」
「そっ、それはわらわの残したあの食べ残しを片付けたという事じゃろ? 少し荒れておったかもしれぬが、いつかわらわが掃除に向かおうと思っておったのじゃぁ~!!」
はははっ、いつもと違って恥ずかしがってわたわたしてるヴィルナをみるのは久しぶりだな。普段はホントに動じないし割と落ち着いてるからね。
それにしても……、いつか掃除といっても、あのゴミの量は一年や二年放置しててもああはならないだろ?
「しかし、あの洞窟内は物が腐らないのか? 食べ残しも乾燥してるだけで腐敗はしていなかった。微生物が少ないにしてもおかしなことなんだけど」
「遺跡の多くは魔素が満ちておるのじゃ。あの遺跡には時間経過を抑える効果でもあったのじゃろう」
「やっぱりあそこは不思議空間だったのか? ヴィルナの作った聖域もあったみたいだけど」
「魔物除けと、あの辺りの禍々しき魔素を浄化する為じゃ」
それにしても、あの洞窟に聖域があったのだったら、西の森のあの辺りまで浄化されててもおかしくないはず。という事はあの洞窟の内部はあそこの中で完結してるんだろう。
もしかしたらあの洞窟……、いや、遺跡には何かまだあったのかもしれないな。天使ユーニスはあそこには何も無いって言ってたけど。
「やっぱり遺跡って色々秘密とかありそうなんだけどね。あそこを作った技術は継承していけばこの世界の財産になると思うんだ」
「やはりソウマは考え方が変わっておるのじゃ」
いや、現代建設技術も凄いけど、ああいった超技術も理解して利用できればもっと色々便利になると思うんだよ。
俺には無理だけど土方だったらアレを有効活用できる筈。今は忙しいだろうけど、他の現場監督や大工が育ってもう少し余裕が出来たら取り入れていいだろう。
「活用できる物は生かしたいじゃないか。技術ってのは確立するまでにそれはもう長い試行錯誤の中で先人の血と汗と涙が流れるんだ。廃れる技術にもいろんな理由はあるけど、使えそうな技術は継承していくべきだろう」
「言わんとすることは分かるのじゃがな。あの遺跡を作った者に聞けばよかろう」
「あの遺跡を作った誰かってまだ生きてるのか? 相当前の物だろ?」
「遺跡の建築技術はおそらくドワーフの物じゃな。奴らは鉄を鍛える事にもたけておるのじゃが、洞窟を住処にしておるのでああいった遺跡を建設する技術も凄いのじゃ」
「という事は、イドゥベルガ辺りに聞けばいろいろ分かるのか?」
「ドワーフの娘じゃな。少し調べれば建築技術位は見抜くじゃろうて」
ドワーフは鍛冶屋と酒の杜氏くらいに考えてたけど、建築技術も凄いのか……。
建築技術の高いドワーフを何人か引き抜けば土方の方も楽になる? 別の技術を持つ奴を入れるとかえって混乱する恐れがあるけど、その時は別の部署で働かせればいいかな?
今後の計画の一端として考えておくか。
「ドワーフの件はまた今度でいいかな。今日は俺も魔法学校は出勤しない日だし、厨房で料理をするけどヴィルナはどうする?」
「それではわらわはソウマの邪魔にならぬ様にここで何か観ておるのじゃ。シャルもよいの?」
「うなぁぁぁっ♪」
「それじゃあ、シャルの相手を頼む。ついでにお昼も何か作るよ」
「頼んだのじゃ。……そろそろ暖かい物が良いのじゃが」
「了解。スープ系のなにかも付けるか」
そろそろ鍋もおいしい季節だしな。熱々のおでんもいい、……あの辺りの料理は雷牙の方が喜びそうだけどね。土方もおでん好きだったよな?
もう少し寒くなったら本格的に鍋の回数が増える。スッポン鍋を作る時は俺の体力に注意だ。確実に休みの前にしかアレはつくらないぞ。
◇◇◇
今日の料理は中華料理がメイン。マスターが中華料理のメニューを多くしてたせいもあるけど、どうしてもなんとなく作るとこっち系に寄っちゃうんだよな。
ちなみにメニューは麻婆豆腐、牛筋煮込み、油淋鶏、卵スープ。主食は中華蒸しパンと四川風の揚げパン銀絲巻。シャルには冷まして細かく刻んだ油淋鶏を出してみた。
「若干いつもと味が違うようじゃが。この麻婆豆腐は味付けがいつもより少しおかしいのじゃ。豆腐は綺麗に切りそろえられておるので、おそらく原因は別じゃろう?」
「流石に気付かれたね。今日は俺だけの力で作ったからな。反則の調理機能をオフにしたから少し炒め過ぎたみたいだ」
「常人であれば気付かぬレベルじゃがな。おそらくスティーブンや男爵は気が付くであろう」
「この差を分かるのはヴィルナやそのレベルの人間位だろうな。やっぱりサポート機能が無いと一流の料理人には敵わないし」
失敗の原因はちょっと考え事をしてたからだけど、こんなミスをするのは朝から晩まで料理してる人間と休みの日にしか料理の練習してない人間の差だよな。
基礎は本当にみっちり叩き込まれてるけどね。
「わらわが作ればもう数段劣るであろう。味付けもそうじゃが、火の入れ方ひとつとってもソウマにはまだまだ敵わぬのじゃ」
「年季の違いかな? ヴィルナは俺より料理の才能があると思うよ。でも、料理って調味料を入れるタイミングとか順番でも味や仕上がりが結構変わるからね。後は具材の切り方。昔っから専門職がいる職業だし」
「それはどの職業でも同じじゃろう。揚げ物や煮込み料理はいつもと違いが分からぬレベルじゃ」
「揚げ物はホントに作りまくってるからね。あの当時の昼飯時の唐揚げとか思い出したくもない」
いや、マジで戦場なんだよ。一度に揚げられる数には限りがあるし、マスターは俺がうまく揚げられるようになるまでフライヤーを入れてくれなかったしさ。
その技術は今役立ってるから、あの時の時間は無駄じゃなかったんだよね。
「ソウマが料理を練習するのは珍しくはないのじゃが、この時期に何かあったかの?」
「ちょっとね……。最近はこの辺りで見つけた珍しい食材も割と研究しつくしてるから確かに珍しいかな? 今日の麻婆豆腐にはこっちの世界で見つけた花椒に近い香辛料を使った。少し癖が無い分食べやすいだろ?」
「そこはいつもよりおいしいと思っておったのじゃぞ。まったく、何かに没頭しておる時は夜中になっても気づかぬほどじゃしの。あの時のソウマの表情というか目は怖いのじゃ」
「天啓というか、こう……何かが降りてくる瞬間ってあるだろ? 材料とかをチェックしてる時にそうなっちゃうといろいろ試したくなるんだよね」
アイテムボックスの調合機能までフル活用してね。
俺が作るのと同時にいろんな使いかたを調合機能で試したりするんだよな。たまに壊滅的な味の時もあるけど。
「あの骨を煮込んでおる時とかは少し異常なのじゃ」
「フォン・ド・ヴォーな。あそこで失敗すると後の料理が全部だめになるからね。今は調合機能で作る時が多いからそこまででもないだろ?」
「最近はそこまで没頭する事が無くて助かっておるのじゃ。学校関係が忙しいのも大きいのじゃろ」
「家に仕事は持ち帰らないけど、色々考える事は多いからね。あいつらの将来がかかってるんだし、出来る限りの事はしないと」
「それはわらわも思っておる。あの者たちがこの世界を変えてゆくじゃろうしの」
生徒に関してはどの先生も真摯に向き合ってるし、生徒がやらかした時にはキッチリ反省させてるからね。その上で報告してくるんだよな……。すでに処罰してるからそれ以上の追及をさせないという荒業だ。
怪我さえしなけりゃ俺もそこまで怒らないけどさ、あいつら軽い怪我だったら報告せずに癒しや治癒を使える生徒に頼んで傷を治しちゃうしな……。
「今年は初めてな事が多かったから先生も対応しにくかったけど、来年以降は少しは楽になる筈だ。生徒たちには上級生として自覚を持って欲しい」
「……それは本気で思っておるのか?」
「だったらいいなぁ……」
「じゃろうな」
あいつらが大人しくなる訳ないじゃん。
経験を積んだ分、やらかした後の証拠隠滅が上手くなるだけだって。
「大怪我さえしなけりゃいいさ。保健室にエリクサーと万能傷薬がある学校なんてうちくらいだぞ」
「一部の教師にしか知られておらぬがな。緊急時には誰かいるじゃろう」
死者蘇生の魔法は流石に覚えたくないんだよな。
覚えたら心強いよ。今だってエリクサーを常備してるんだし、生き返らせる事は同じなんだしさ。
でも、命の尊さを守る為にもアレは覚えちゃいけない気がする。
「さてと、片付けたら俺はまた厨房に籠るよ」
「なにを見つけたのじゃ?」
「寿買でちょっとね」
昼食には使わなかったけど、旨そうなイカとかカニが見つかったんだよ。あれに手を出すと昼食をそのままスルーしそうだったから……。
さて、晩御飯の時間までいろいろ作るとするかな。
上手くいけば今夜は蟹鍋かな?
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