第二百五十六話 うちの生徒も数名行方不明か。攫われた生徒の名簿を見たけど、この面子だとテストの点が悪くて逃げたとかじゃないんだろ? という事は事件に巻き込まれたって事で間違いない
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
学校初の大規模テストが終わった翌週。つまり十月に突入した訳だけどここ数日怪しい事件が起こっている。
アツキサトの周辺で十代の若い女性ばかりが数名ほど事件に巻き込まれている。内容としては突然行方不明になるという事件だが、以前貿易都市ニワクイナで起きた大規模な誘拐事件とは何か違う気がするんだよね。
俺はといえば、今は会議室で数人の教師と話し合いをしている真っ最中だ。動くにしてももう少し情報が欲しいからな。
「うちの生徒も数名行方不明か。攫われた生徒の名簿を見たけど、この面子だとテストの点が悪くて逃げたとかじゃないんだろ? という事は事件に巻き込まれたって事で間違いない」
「一組のオルゾーラ、二組のファルネーゼ、五組のパオリーナ、それと、今朝から四組のエリーヌも姿が見えません」
「エリーヌも? 彼女は魔法少女の力を持ってただろう? それでも攫われたのか?」
「ん~、彼女の場合昨日の夜までファルネーゼ達がいなくなる直前まで何をしていたのか聞いてたみたいだし、ひとりでこの事件の捜査を開始したのかも」
十分にありうるな。彼女の持つ魔法少女の力がどの位かは知らないけど、普通の魔物に後れを取るほど弱くはないだろう。
問題はこの事件を起こしている存在が、どう考えても普通レベルじゃない事なんだよな。俺も多分変身しないとだめだろうしね。
「俺にも事件の情報をくれないか? 彼女たちが最後に目撃された場所とか、些細な情報でもいいから」
「怪しいのは街道の近くかな? 宿舎に向かう馬車を待ってた生徒が狙われたみたいだし。何故か街方面に向かう便の駅舎は無事なんだよね」
「なるほど。その辺りを調べた方が早そうだな。後で調べてみるから、とりあえず生徒は駅舎の周辺を調べ終わる夕方まで教室で待機かな?」
「一応食事や宿泊の心配はないけどさ、今から夕方だと結構時間的な余裕があるよね? そこまでかかりそうなの?」
「念のためだ。事件が解決したらその時点で下校させる。これ以上被害を拡大させるわけにはいかないからな」
あのアナグマの事件の教訓で俺が仕掛けた学校周辺の探索システム。あれに引っ掛からないという事は探索範囲外にいるか、出現した時間がごく短時間かのどちらかだ。
どちらにせよ、敵が引っ掛かればそこに直行すれば済む話なんだけどね。
「流石にこんな事件は私たちの手には負えないし、理事長先生に任せるしかないね」
「教頭先生の言う通りですね。登校してこなかった生徒を心配して探そうとする生徒が居そうですが」
「ギュンティ男爵領の子たちか。あの五人は仲もいいし、そりゃ探すだろうな」
「少なくとも、あの子たちの敵う相手じゃないから。エリーヌがどうなってるかが分からないけど、彼女がすぐに帰ってこないって事は相応に強敵って事だよね?」
そうなんだよな。
魔法少女でどこまでエリーヌの力が増してるかは知らないけど、少なくとも普通の人間よりはかなり強い筈。戻ってこないって事はそのエリーヌが苦戦してるんだろうし……。
「巻き込まれても困るから全員教室で待機。俺だけでどうにもならなけりゃ雷牙も呼ぶさ」
「勇者を二人も投入ですか?」
「俺の手に負えなければね。そんな事は無いと思うけど」
俺もパワーアップしてるしな。
ちょっと後が大変だけどマキシマムフォームまで使えるようになったからね。おかげでいろいろ苦労してるし。
「流石に勇者先生は違いますね。生徒たちには夕方まで教室で待機させておきます」
「多少騒ぐ程度だったら見逃してやってもいい。学食で時間を潰すのも許可する」
「初めから食堂に集めた方が早そうだね。授業にはならないだろうし」
「そうして貰ってもいいぞ。監視目的でもその方がいいかもな」
トイレは近場にあるし、出入り口の数は限られている。
真っ先に窓とか壁を強化したから破壊して逃亡も無理だぜ。
「それじゃあ先生方は各クラスで通達。五組から順番に食堂に誘導してください。あ、お弁当組は忘れないように持って行くように指示してね」
「さて、ちょっと本気で探さないといけないな」
「……いきなり殺気立つのはやめてね。冒険者あがりでない堅気の先生にその殺気は強烈だから」
「あ。ああすまない」
ちょっと本気モードになり過ぎたか。
今回は生徒が巻き込まれてるから仕方ないけどな。
◇◇◇
うちの学校にほど近い街道の駅舎。当然宿舎などはなく馬車が停まるだけの簡易な物だ。学校の近くで誰かに寝泊まりなんてしてほしくないからな。
ただ、生徒の数が多すぎるので規模的にはかなり大きくなっている。五年後を睨んで鉄道の開設を考えているんだけど、この辺りもいろいろ問題があるんだよね。
「こっちの探索システムにも引っかからない。何処かに潜んでると思っていたけど、この辺りに隠れるような場所なんてないしな」
駅舎の陰に隠れるにしても流石に無理があるし、あそこに長時間居たら探索システムにも引っかかるけどね。
今回の事件を起こしたのは数年前の犯人とは違う気がするんだよな。あの時は数日で数万人規模だったし。
「ん? あそこ。陽炎? って、この時期に陽炎は流石に無いよな」
駅舎にほど近い場所。そこで俺の胸辺りの位置に奇妙な揺らぎが見つかった。
真横から見たら本当に何も見えない。裏からも同様で、一定の位置から出ないとこれを確認できない。
「割と簡単に見つかったな。って、これを見つけるのはホントにこんな偶然以外だと難しいぜ」
これがあるって事を知ってて、この広大な場所のどこかにあるこれを探した場合でもそう簡単には見つからないだろう。今回はたまたま運がよかっただけだ。
さて、この中にいるのはどんな存在なのか……。
「話の通じる奴ならいいんだけどな」
生徒に危害を加えてた場合はただじゃ済まさないけどね。
揺らぎを潜ると真っ白な空間が広がっていた。ん~。なんとなく夢で連れていかれた女神フローラの部屋に感じが似てる?
「マジカル・ブラスター!!」
「何度やっても無駄ですわ。そろそろ力の差を理解していただけませんこと?」
「馬鹿にして!! 汚らわしい魔族を目の前にして逃げだす魔法少女なんていないわ!!」
「貴女の魔力はあと僅か。もう一度攻撃すれば魔力は尽きます。その時、どうなるか理解してますの?」
「くっ……」
なんだかわかりやすい会話してくれてて助かるけど、あのちょっと青系でヒラヒラな姿が魔法少女のエリーヌかな? 青い系の宝石? アクアマリンか?
マジカルルピナシリーズだと、割と弱い部類に入る宝石だよな? で、向かいにいる黒色ゴスロリ衣装の少女が魔族って事か。その辺りもあの作品と同じみたいだね。
さてと。
「うちの生徒をいじめるのはその位にして貰おうか。そっちのゴスロリ姿の少女が魔族でいいんだな」
「勇者先生!!」
「貴方はこの世界の勇者ですの? 正直、その程度の存在では私には及びませんの」
「他の世界にこうしてきてる時点で相当に強いんだろうからな。騎士級の魔族か? 爵位級って事はないだろう」
「お詳しいんですのね。私は新魔戦士級ですの。そう簡単に倒せるとは思わないで欲しいですわ」
確か新種融合型魔族の略だったか? 通常の魔族よりは強い存在っぽい。
「とりあえず話位は通じる相手で助かった。真魔獣みたいに胸糞な敵だとこうして話もできないしな」
「どうしてその存在をご存じですの?」
「この世界にも何匹か姿を見せててな。とりあえず俺の知る限り生き残りはいない筈だ」
「アレを……、倒せたとでも言うんですの?」
「普通だと苦戦する相手だろう。だが倒せない訳じゃない。……ひとつ聞きたいんだが数年前、貿易都市ニワクイナで数万人攫ったのはお前か?」
とりあえず攻撃してこなさそうなのでちょっと聞いてみるか。
返事があれば良し、話し合いが出来ないようだったら倒すだけだ。
「そんな事はしてませんの。流石に数万人規模で攫えば、あの方々に粛清されますの」
「あの方々? 上位の魔族か? それとも界渡りの方か?」
「その名を知っている? この世界の勇者が?」
「色々あってな。そっちはそっちで何か事情がありそうだが、その前に俺は攫ったうちの生徒が何処にいるか知りたいな」
「パオリーナさん達は向こうで石像に変えられています。この魔族を倒せば元に戻る筈なんですが」
「そういう話か。話が通じそうな相手だったが、そういった事情だと倒すしかないな」
「魔力は多いみたいですが、それでは私にかないませんの。他の生徒と一緒に石に変わるといいですわ」
さて、それはどうかな?
「セットアップブレス、鞍井門颯真」
【セットアップ、鞍井門颯真。アクセス。セットアップ完了】
「究極の勇気は最強の名のもとに!! ブレイブ!!」
【アルティメットブレイブ。マキシマムフォーム!!】
最強フォームの一つ手前のマキシマムフォーム。
全ブレイブの基本フォームの力を使えるだけじゃなくて、未来予知、超加速、攻撃反射、飛翔能力とかなりなんでもありな状態になっている。
「変身した」
「その姿……、あなたまさか魔法剣士ですの?」
「ちょっと違うな。俺はブレイブの力を使えるワールドリンカーさ……って、なぜ土下座?」
ゴスロリ魔族がそれはもう見事な土下座を披露した。
かなり怯えてるけど、俺を別の何かと勘違いしてないか?
「これが全世界共通の降伏の格好だって知ってますの。ワールドリンカーって事はあの存在ですわよね?」
「どの存在を指すのか知らないけど、界渡りじゃないぞ」
「嘘は良くないんですの。そこまで全身から神力を発する存在があれ以外に存在する訳ありませんもの。でも、私は協定通りに行動してるつもりですの」
「さっきもそんな事を言ってたが、どういう意味なんだ?」
「私たちはいろんな世界を巡って人を石にして力を蓄えますの。その際に滅びが確定した世界であれば人を攫ってもいいって事になっていますの」
「そんな。この世界は滅びが確定なんてしてないわ!!」
普通の人は知らないだろうけど、ほんの少し前まで確定してたんだよな。
俺たちがいるからもう滅亡しないだろうけど。
「その魔族は嘘を言ってない。というか魔族は嘘をつけないはず。ただ認識に違いがあっただけだ」
「どういうことですの?」
「以前はそうだっんだ。この世界を滅ぼそうとしてる存在は俺達が倒す。だからもうこの世界破滅が確定してないのさ」
「ちょっと待って欲しいんですの……。確かに、ロストワールド登録から外されてますの」
「そういう事だ。で、襲ったこの世界の人を返してほしいんだが」
「わかりましたの。でも、返した瞬間に攻撃とかはやめて欲しいんですの」
「その後でおとなしくこの世界を去るんだったら攻撃はしないさ」
「こんな物騒な世界に留まる理由がありませんの。……これで石化した子たちは元通りですの。では私はこのまま失礼しますの」
エリーヌが攻撃をする為に力を貯め始めたのでとりあえず止めてみた。
相手が何であれ、約束はできる限り守らなくちゃね。
「勇者先生。どうして止めるんですか?」
「約束をしただろ? それに攻撃しても無駄だ」
「本当に恐ろしい存在ですの。もう二度と会う事はありませんわ」
光でできた時空の扉? を潜って魔族はどこかに消えた。
戦っても勝てたけど、戦わないに越したことはないしね。
「納得いきません。どうして魔族を見逃したんですか?」
「あいつらを倒すと割と面倒なんだ。またこの辺りに大規模な聖域を作らないといけないし、そんな事をするくらいだったら見逃した方がいい」
禍々しい魔素を撒き散らされるくらいだったら、他に世界に行くんだったらその世界で退治して欲しいしな。やつらと敵対する勢力も割と多い。
「さてと、元に戻ったオルゾーラたちをここから運びだすぞ」
「わかりました」
まだ納得してない顔だな。
そりゃ俺も完全には納得してないけどさ、あの存在……、界渡りが処理してないって事は何か理由があるんだろう。
界渡りは救っちゃいけない存在まで救うか……。あいつらもそれに入るのかもしれないな。
「倒さなきゃいけない敵は確かに存在する。でも、それだけじゃないと思うんだ」
「魔族は倒すべき存在です」
「神界産の指輪で変身してるとそうなんだろうな。その力も完全に正義側だと思わない方がいいぞ」
「どういうことですか?」
「それを作った神界側の思惑が込められてるって事だ。その力、あまり使い過ぎないようにな」
その先に待ってるのが何なのか。
あの作品通りの未来だったら、本当はここであの指輪を破壊してた方がいいのかもしれないけどね。
しかし、この世界って本当にカオスな状態なんだな。
まだ他にも怪しい存在がいるかもしれない……。注意しなけりゃいけないぞ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。




