第二百五十五話 とりあえず基礎知識だけは手に入れてきたけど、それがこの世界にいる魔法少女と同じかどうかは分からないんだよな
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楽しんでいただければ幸いです。
魔法少女。元いた世界でも日曜の朝に女の子向けの番組として存在していた。割と大人でも見れるストーリーなので、少女たちだけじゃなくて大きなお友達にも大人気だったみたいだけどな。流石に俺はあっち系のおもちゃには手を出してない。
ライジングブレイブシリーズに比べても遜色のないアイテム展開で、下手をするとあっちの方が出てる玩具の種類が多いんじゃないかってシリーズもあった。売り場に倍以上の差があったしな。
魔法少女マジカルルピナって作品がアーカイブに全シリーズ揃っていたので、最初のシリーズだけ流し見してみた。これは人気が出るな、本当にいろいろ考えて作られている作品で、仲間同士の友情や敵との対話なんかも描かれているし、許さない敵は絶対に何があろうと叩きのめすのはライジングブレイブシリーズに通じるものがあった。
魔法少女マジカルルピナ第一期シリーズのラスボスはクリスタル男爵。かなり嗜虐性の高く残忍な性格で、あいつをニチアサの女の子向け番組の敵として出すのはどうよって感じだ。
「とりあえず基礎知識だけは手に入れてきたけど、それがこの世界にいる魔法少女と同じかどうかは分からないんだよな」
校内で少し話を聞いただけですぐに名前が出てくるあたり、エリーヌ・シャンボンって生徒が魔法少女の力を手に入れたのは確定っぽい。
というか、魔法少女って普通正体を隠すものじゃないのか?
【魔法少女? え? その世界に魔法少女が居たの?】
天使ユーニスか。先日その話を聞いてな、色々調べたけど間違いないみたいだ。
【魔法少女のいる世界も割と多くてさ、妖精界の指輪を身に着けてたら相当レアな魔法少女だね。神界産の指輪だったら指輪の宝石次第かな?】
ん~、魔法少女マジカルルピナって番組で初代のルピナだけ妖精界の指輪だったけど、アレは正しい描写だったのか。
【その名前を知ってるのが驚きなんだけど、番組でってなに?】
元の世界の作品だけど、魔法少女マジカルルピナって番組が日曜日の朝に放送されてたんだよ。一番最初の作品は二十年位前かな?
【その人は実在の魔法少女だね。今は妖精界で女王をしてるんだけど】
最初のシリーズはそういう終わり方してるね。母親が妖精界から飛ばされてきた元女王で、父親が界渡りだっけ? 作中だと父親の方はぼやかした表現だったけど。
【ほぼそのまんまだね。という事は、あなたの元いた世界に魔法少女関係者もいた可能性があるね】
例の鏡原師狼が魔法少女について詳しいとか?
【ん~、あの人が元いた世界にも魔法少女はいたけど、妖精界の女王様とは無関係かな? 鏡原師狼はあの世界には直接行ってない筈だし】
本当にいろんな世界に魔法少女がいるんだな。
という事になると、生徒が手に入れた魔法少女の力がどの程度かは謎だな。
【九割以上が外れという驚異の残念率を誇る神界産の指輪だろうし、多分問題ないと思うよ。世界をどうにかする力はその世界ではあなたたちの力位だし】
敵側に何人かいるだろ?
【そこはノーコメント。敵側の情報は本当に流せないからね】
魔法少女ってオリジナルの魔法が使えるのか?
【オリジナルだけど、界渡りが使う時よりかなり威力は落ちるよ。その世界の魔法といい勝負程度の威力】
という事はあまり問題はないな。
試験の時に変身も許可してやろうか?
【流石にそれはどうかな? 他の生徒が不公平だって騒がない?】
変身前と後で測定すればいい。持ってる力を評価して欲しいんだったら、どの位の力を持ってるかちゃんと知っておかないとな。
【それ、あなたが魔法少女の能力を知りたいだけでしょ?】
もちろんさ。
どんな力を持ってるか分からない存在って脅威だろ? 平和を脅かそうとしなけりゃ敵対する可能性はないけど、万が一って事もありうるからね。情報は多い方がいい。
【そういう所って流石よね。試験の際に変身を認めるとか言っておいて、能力を見極めるつもりなんでしょ?】
試験となると、全力で行くだろうしね。
それに、変身できるとなると魔法実験場のシステムを少し変更しないといけないかもしれないし。年末近くに魔法の実戦形式の大会をするし。
【それ、大丈夫なの?】
寿買で対真魔獣のバリアシステムと、対魔法用衝撃吸収材使用のバリケードってのを見つけてね。今ファクトリーサービスで同じものを量産中。ここの一角に魔法の使用を前提とした闘技場を増設予定だから。
【街の防壁とかにも使えそうね】
重要施設とかから使用予定かな? 土方にはもう現物を渡して色々調べて貰ってるよ。あいつも忙しい筈なのに、こういった新素材とかには物凄い興味を示すんだよな~。
他にも異世界産で街の防衛に使えそうな物は探してる。
【そこはあなただけの特権よね……。ワールドリンカーの力を最大に利用してるみたいだね~】
別に金を稼ぐ為じゃないし。こんな物騒な世界だと安全が一番だよ。やんちゃな生徒が多いから校舎の強化で頭を悩ませたからじゃないぞ。
世界が平和になった後は、そこまで異世界の技術を持ち込まないよ。
【そこは信用してるよ。その気になれば元いた世界並みかそれ以上にできるのに、いまだにそこには手を出してないし】
便利ってのは必要に応じて進化していくものさ。こっちが一方的に与えてもいい事はない。
拡声器だって、大声を出せば何とかなるのをちょっとずるしただけだし。
【声の大きな人も多いしね。騒音もあまりないからよく声が通るし】
グギャ鳥とカラカラ鳥が何であそこまで嫌われてるのか分かったよ。ほんっと~にうるさいんだ!! 授業の邪魔になりそうなレベルでな。この世界だと特に遠くまで聞こえるし。
と、それはどうでもいい事かな?
【そうだね~。魔法少女の件、詳しく分かったら教えてよね】
ダリア経由で分かるだろ?
【最近はあまり分体として憑依してないから。それじゃあね~】
そういう理由? なんで分体を使わないんだろう?
向こうでも何か動きがあるのかもしれないな。
◇◇◇
魔法実践の試験当日。
以前と同じように五組から始まり、一段と強化された的に向かって様々な魔法が放たれていく。五組の生徒でも四月の時よりも高威力な魔法を使いこなしてるのは凄いよな。
「ヴィルナ先生の指導の賜物ですね。魔力の流れをコントロールする事が上手くなった結果、様々な魔法を扱えるようになりましたし」
「朧灯の魔法だって使い方次第で強力な攻撃手段になるんだぞ。特に群れてくる敵に対しては強力だ」
「目潰しですか? 突撃駝鳥相手でもそこまで効果はありませんが」
「朧灯で目潰し、ありきたりだけど有効だと思うよ。あの光に紛れさせて後ろから魔法を放ってもいいし」
「あの閃光を利用する方法ですね。対人戦ですとかなり有効です」
「魔物だと視覚以外が発達してる時も多いからね。嗅覚が優れた魔物にはまた別の対処法があるけど」
強烈な匂いのする何かを投げるとかな。
聴覚の優れた敵には轟音がよく効くだろう。火薬が使えないから代わりの何かかな?
「火炎弾などのグロブス系魔法を使える生徒が多くなった気がする」
「上位のクラスでは炎華菊を使える生徒も増えましたよ」
「強くなるのはいい事だ。模擬戦の時には使用制限を設けるけどね」
闘技場と連動した特殊な固有結界発生装置を装備させるから、生徒にダメージはいかない筈なんだよな。
その辺りは一度実験をするしかないか。
「あ、あの子がエリーヌだよ」
「あの子か。あの姿は変身してないのか? どうする? 俺は変身後の姿も評価対象にしてもいいと思ってるんだけど」
「それは流石にまずいと思うよ。変身前でも少し強化されてるのが分かるし」
「右手の薬指から魔力が全身に流れてるな。強化されて今の魔力は二倍といった所か?」
「そこまでわかるの?」
「ヴィルナとずっといるんだ。この位は朝飯前さ」
魔力の流れはヴィルナに近いレベルで分かる。でも、これをうまく活用するのは無理だろうな。始動時に俺の魔力を流す場合、俺の魔力が多すぎるから生徒の魔力の流れが狂いそうだ。
「斬風!!」
「普通の魔法だけど、威力は数倍だな。しかも発動するまでが速い」
「指輪の補助があるとはいえ、来年は一組に上がりそうなレベルだね」
「あの勇者先生に、教頭先生。もう少し静かにお願いします」
「ああごめん。あ、変身して試験を受けてもいいけどどうする?」
「指輪の力は悪を討つ力です。標的相手ですと意味がないでしょう? それに……」
「それに」
「ここで変身するのはちょっと……」
なるほど。アニメの方でも変身バンクは大人気なシーンだったしな。あれがここで再現されたら大変だ。
「了解。失礼な事を言って悪かった」
「どうしてそれが失礼な事と知っているんですか?」
「色々知ってるからかな?」
魔法少女系の指輪って基本的に変身する時って一旦服が分解されて指輪に収納されるんだよね。身体は光に包まれるし専用の変身フィールドを形成するから見える事はないだろうけどさ。
「理事長先生も変身できると聞いていますが」
「俺の場合はまた別の力だよ。戦闘能力に特化してるから攻撃力は凄いぞ」
「一度変身した姿でお手合わせ願いたいくらいですね」
「機会があればね」
魔法少女の力を知るには、それが一番てっとりばやいだろうな。
ただ、残念ながら彼女の力だと俺にはほとんど通用しない。魔法少女に変身してもそこまで魔力は上がらない筈だし。
「はい。では次の生徒……」
「邪魔してすまなかったな」
「最後まで見ないの?」
「目的は達したから。生徒の成長具合は後で聞くさ」
それに武闘大会でね。
生徒の安全対策と、ここに闘技場の設置工事。色々忙しくなりそうだよね……。
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