第二百五十四話 調理技術といっても実際に料理する訳じゃなくて、時間内に決められた食材で決められたメニューを作る手順を答えるだけだよな?
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楽しんでいただければ幸いです。
ついに訪れた魔法学校初の大規模試験。といっても筆記試験においては殆どの生徒が赤点を回避するだろう。赤点の基準がかなり低いってのがあるんだけどね。
最大の難問である一般常識は今回のテストに含まれないし、問題があるとすれば調理技術系のテストと魔法実践かな?
すでに筆記試験を終えた担当教師は採点に大忙しだ。選択問題は三分の一までって決まりがあるから、生徒たちが書いた答えを一問ずつチェックしている。ヴィルナの授業には試験が無いから、今週は家でゆっくりしてるみたいだね。
「調理技術といっても実際に料理する訳じゃなくて、時間内に決められた食材で決められたメニューを作る手順を答えるだけだよな?」
「実技は危険だから除外されたみたいだね」
魔法の行使より危険な調理の実践ってどうよ?
「賢明な判断だな。試食する教師が地獄をみそうだ。美味しい料理を作る生徒も多いのは事実だけどさ」
本当に試食する人間が大変だろう。作った料理はきっちり食べさせないといけないし……。
「筆記テストの答えにあった塩の分量が数倍の生徒もいたとか」
「問題には太字で一般的に適切な量って書いてあったのにな。あの分量も事前に実習の時に提示してるよね?」
「守ってる生徒は多いけど、そうでない生徒も多かったよ」
マッアサイヤ辺りだとやや南国っぽい気候だし年中暑くて汗をかくからなのか、この辺りに比べると若干塩味が強いんだよね。それでも数倍って事はない。
だから地域差での間違った分量は正解にはされない。そんな言い訳も認めないぞ。
「今のところは他に問題なしか」
「調理技術を含めて、今の所はそこまで大きな問題はないかな? 問題が出るとしたら多分この後だし」
「魔法の実践か……。一番高威力な魔法、もしくは一番得意な魔法の実践だっけ?」
「回復系の魔法以外は評価対象だね。回復魔法はどこまで治せるのかを調べにくいしね」
「同じ回復魔法でもそこまで違うのか?」
「かなり差が出るよ? ただの癒しの魔法で治癒の魔法と同じくらい回復させる人もいるしその逆の人もいる。いくら治癒の魔法を極めても再生の奇跡とまではいかないけど、軽い傷くらいだったら痕も残さずに治せるよ」
オリジナル系みたいに死者すら生き返らせそうな治癒系の魔法もあるし、だからといって試験で使う為に死にかけた人間を用意する訳にもいかないしな。
「それで治癒系は評価外なのか。治癒系に特化した生徒っているの?」
「今年入学した生徒にはいないね。来年以降に入学する生徒や、今在学している生徒が新たに覚えないとも限らないけど」
「才能が開花する時って突然だからな。治癒系の魔法も大事だし別枠で評価しないといけなんだけどね」
「評価方法が難しいんだよ。まさかけが人を用意する訳にもいかないし、病気とかだと失敗した時のリスクが大きすぎる」
そこがネックか。
何かいい評価方法があればな……。
「その辺りは来年度までの課題にして、今は普通の魔法をどこまで使いこなせているかが大切だと思うぞ。治癒の魔法を覚える目的は試験の評価の為じゃない。そこに気が付けば満点だ」
「そうだね。誰かの傷を癒してあげたい。治癒魔法にはその心が大切だから」
「最初に覚える魔法に癒し系を選んだ生徒は評価してあげたいんだけどね。戦う力は必要だけど、誰かを癒す力も大切だと思うんだ」
「理事長先生らしいね。戦う力だけを求めないってのがさ」
薬草学の授業では生徒に傷薬を作らせてるしね。
どんなに強くったって死んだらおしまいだし、誰かが傷つく姿ってあまり見たいもんじゃないだろうから。
「回復魔法の話はとりあえず置いといて、魔法の実践については発動までの時間も評価対象なんだろ?」
「同じ魔法だとそうなるね。緊急時とかにどれだけ早く魔法を行使できるのかも重要だから」
「発動していない火炎弾より、牽制の火弾って言葉もあるしな。ファーストアタックが重要って訳じゃないけど」
「それはある。よく敵を観察して一番有効な方法で攻撃するのも大切だからね。リーダーは割とそこを重要視してた」
ルッツァらしい考えだな。一緒に組んだ時にも思ったけど、割と慎重な行動を心がけてるんだよね。
長年冒険者してても生き残ってた訳だよ。
「教頭先生は担当教科の採点はいいのか?」
「試験日は明日だね。問題を作るのに苦労したんだよ」
「生徒が何処迄授業を理解できてるか調べるためだしな。難しくし過ぎるのも問題だ。全員百点のテストも問題あるけど、全員半分以下も問題あるから」
むしろ全員百点の方が望ましいんだよな。
そこまで簡単にしろとまではいわないけどさ、生徒の学習意欲を削ぐ為のテストじゃないんだし。
「教師がテストを用意する前にもそれ言ってたよね。急いで用意してたテスト用紙を修正してた人もいたよ」
「授業内容に沿った、適切な問題って難しいから。来年以降はそれが基準になるし」
「そっか。来年の一年はその問題を活用すればいいわけだね」
「二年用の問題は考えないといけないし、採点の時間も倍になる。教師の数については毎年少しずつ増やす予定だ」
五年後に生徒数が五倍と考えると、教師の数は今のままでは足りない。
問題児が多すぎるからな。
「あ、魔法の実践に関してはひとり問題のある生徒が見つかったんだ……。夏休み前にはそんな事が無かったから、帰郷した時に入手したんだろうけど」
「問題のある生徒? 何か高威力の魔法補助具か何かでも手に入れてきたのか?」
「アレは補助具として認めていいのかな? どっちにしても試験だと使わせないけど」
「よくある杖系? 魔法の威力を高めたり、詠唱速度をあげるみたいな」
ん? そこで考えるってかなり特殊な物?
もしかして薬系か? その場合は試験前にこっそり飲まれたりすると判別しにくいよな。
「あのね、私もこんなケースは初めてなんだけどさ」
「なんだ?」
「理事長先生って、変な格好で戦うじゃない?」
「戦闘用特殊スーツな。変な格好とは違うぞ……。って、まさか生徒の誰か変身できるのか?」
ブレイブ系の装備は当人しか使えない可能性が高いからない。それにアレを着たって魔法の力は上がらないしな。
となると俺の知らない世界の装備? 異世界の特撮系にも魔法使いっぽい作品があったし……。
「変身ってのは当たり。流石に理事長先生だよね」
「変身するのが当たって欲しくはなかったな。で、どんな力なんだ?」
「えっと、魔法少女って聞いた事がある?」
「女神ヴィオーラが確か元魔法少女だったか? まさかその力なのか?」
そうなると神レベルだろ?
「ううん。同じ系列だけどそこまで強くないみたい。変身して魔法少女になるのは変わらないんだけど」
「それでも他の生徒よりは強いだろ。魔法の威力とかも上がるのか?」
「かなりね。魔法の指輪を媒介にして変身するから、力を使ってるかどうかはすぐにわかるよ」
「変身せずに試験を受けるんだったら問題ないぞ。指輪の力で魔力の底上げがあっても、その分を差し引いて考えればいい」
使う魔法が何なのかが問題だけどな。
まさかオリジナル?
その子の実践の時にだけ様子をうかがうしかないか? その日一日は何かあった時の為に魔法実験場にいる方がいいのかもしれないけど。
「魔法の実践は金曜日。その子は四組だから割と早いよ」
「四組の子か。帰郷組って事は貴族だよな?」
「うん。子爵家の女の子でエリーヌ・シャンボン」
「エリーヌね。今後気を付けないといけない生徒だな」
魔法少女の力が何の為にあるのかは知らないけど、一応その辺りもきいてみないとね。
悪い事に使わないんだったら俺がとやかく言う事じゃない。悪用した時はたとえ生徒でも容赦しないし、その指輪とやらを破壊するけど。
今週の金曜か。それまでに少し調べてみるかな?
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