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第二百五十一話 あいつらで一番問題なのは一般教養じゃなくて一般常識の方だ。冒険者としてもあれはないぞ

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。



 九月に入ると魔法学校はいつも通りの日常を繰り返していたが、今月はいつもと少し事情が違う。


 今月末に中間試験がある為に放課後の図書館などが多くの生徒で賑わい、魔法実験場の使用許可を求める生徒も多かった。こいつらはまだまともな方で、学校の近くの荒れ地で魔法を使って反省文を増やす生徒も続出している。いい加減反省文を書かないでいいように学習しような。ここ学校なんだし。


「魔法の知識や一般教養に関しては問題の無い生徒も多いけど、魔法実践にやや自信のない生徒が多いみたいだね。だからこうして魔法の実践をしてるみたいなんだけど」


「あいつらで一番問題なのは一般教養じゃなくて一般常識の方だ。冒険者としてもあれはないぞ」


「高威力の魔法を覚えてる生徒が多いのも問題かな?」


「確かにうちの生徒が冒険者に登録してたら、森で灰色狐(グレイフォックス)大兎(ジャイアントラビット)を討伐目的で的代わりにするのも分からなくはない。ただ、完全に黒焦げにした獣は買取もできないだろ?」


 灰色狐(グレイフォックス)大兎(ジャイアントラビット)はどこでも見かけるし、討伐自体も剣猪(ソードボア)に比べるまでも無くかなり簡単なので怪我をする心配もないだろう。


 しかし、アレは一応食用の魔物だし灰色狐(グレイフォックス)などは毛皮が比較的重宝されているのであそこまで魔法でダメージを与えると買取すらしてもらえないんだよね。


「それは理事長先生も似たようなものでしょ? 最初から割とひどいダメージ与えてたよね?」


「……半分くらいは原形をとどめてたかな?」


「それは、主に討伐してたのが剣猪(ソードボア)突撃駝鳥(チャージオストリッチ)だからでしょ? もし仮にあの時の武器で灰色狐(グレイフォックス)大兎(ジャイアントラビット)なんかを討伐してたらどうなってたかな?」


「流石に何を使っても原型はないだろうけどさ。でも、俺はあの辺りの獣の討伐なんて受けないぞ」


 俺的にもあの辺りは魔物扱いしてなかったしな。


 当時はそこまで灰色狐(グレイフォックス)大兎(ジャイアントラビット)の被害も出てなかったし、討伐依頼は殆どなかったから。


「今は例の毛で柵を作ってないような小さな畑を大兎(ジャイアントラビット)や鹿が荒らしてるらしくてね。街の拡張で荒れ地だけじゃなくて周りの森をかなり削ったでしょ? その影響もあると思うんだけど」


「それであの辺りの獣の討伐依頼が出てるのか。といっても、あの辺りを討伐する様な冒険者が逆にいないって訳だ」


「もう少し強い魔物……。剣猪(ソードボア)辺りだとリーダー辺りが討伐に向かうんだけど、流石にあのクラスの魔物はね……」


「魔物というより害獣に過ぎないからな。討伐料も安いし魔法実験の的代わりにする生徒がいても仕方がないのか」


 今一つ釈然としないけどな。


 俺だって試射とかは岩とかを目標にしてたよ? あの銃を使ってた時は剣猪(ソードボア)相手でも頭とか吹っ飛ばしてたけどさ。


「最近はあの辺りの害獣の食害も割と深刻になっててさ。冒険者ギルドとしては討伐さえしてくれればなんでもいいみたい。いまさらあの辺の毛皮とか肉で稼ごうとも考えてないみたいだし」


「羊毛の方が遥かに需要があるしな……。毛皮にするのはあの辺りの獣は中途半端だ」


「雪狐や大白毛鼠だったら毛の質がいいから人気なんだけど、大兎(ジャイアントラビット)の毛皮はあまり人気が無いんだよね。灰色狐(グレイフォックス)は毛並みはそこそこだけど、色が灰色だし」


「毛の質が少し悪いしな。着て肌触りがいい毛じゃないし、精々冒険者用の外套くらいでしか使い道も無い」


 だから加工賃とか考えると、他から仕入れた毛皮の方が人気が高いんだよな。今となってはあの辺りの獣の肉なんて臭くて食べられないって人までいるし。


 食肉としてはもう既に役目を終えたような獣だし、毛皮とかも人気が無ければ最終的に破棄されるのか? 冒険者ギルドの場合はアレを何とか食べられる食材にするんだろうけどね。少なくともこの学校の生徒がアレを料理する姿は思い浮かばない。


「だから生徒が魔法の的にするのも一理はあるんだよ。でも、魔物のいる森でそんな事をしてたら命の危険もあるしさ」


剣猪(ソードボア)でも装備次第で十分脅威だしな。うちの生徒だとそこそこいい装備してるんだろ?」


「ここの冒険者に比べると数段落ちるよ? 例の装備を買ってないんだしさ」


「普通の装備でやってるのか? 魔法が使えるとはいえ、油断すると怪我じゃすまないぞ」


 例の子供たちじゃないけど、以前は割と多くの冒険者が剣猪(ソードボア)の鋭い角や牙の餌食となって命を落としている。


 今は例の装備があるからそう簡単に最悪の事態にはならないけど、それでも油断すると怪我くらいはするからね。


「五人くらいでチームを組んでるから大丈夫と思うけど、一応学校として慎重に行動するようにいっておいたよ。怪我すると試験を受けられなくなるし、最悪あの子たちみたいになるかもしれないでしょ?」


「そうだな。魔法の威力を試したいんだったら魔法実験場を使うように言ってくれ。実戦を舐めるとホントに命を落とすぞ」


「若いからその辺りが分かって無いんだよね。やっぱり何度か痛い目を見ないと冒険者なんてしてられないしさ」


「一回目の痛い目で終わる事もあるのにな。冒険者をするにはやはり覚悟が必要だ」


「誰もが英雄にあこがれて手に剣や杖を握り、そして現実に打ちのめされる。そこから立ち上がるのか道を諦めるのかが本当の冒険者としてのスタートなんだよ。あの子たちも本当はあそこからがスタートだったの。理事長先生みたいに最初から強ければ問題ないんだけど」


「あの頃の俺は強くなんてなかったさ。ヴィルナがいてくれたから何とか冒険者が出来てたようなもんだしな」


 石胡桃(いしくるみ)の一件だけじゃなくて、その後の突撃駝鳥(チャージオストリッチ)討伐とかも含めてね。


 まだ数年前の事なのに、やけに懐かしく感じるよな。


「あの歳で冒険者を始める人なんてほとんどいないしね。リーダーが止めた訳だよ」


「最初の出会いは最悪だったが、ルッツァ達とはいい関係になったよな。今だったら俺が逆の立場でも止めた理由は分かるよ」


「理事長先生は予想以上の力を隠してたけどね。あれを途中から見抜いてたリーダーは流石だなって思ったよ」


「ルッツァは人を見る目があるよ。だから冒険者ギルドも新人の育成なんて任せてるんだろうし」


「今は冒険者を目指す子供なんていないけどね。この街で暮らしてるとお腹を空かせてる子供すらいないよ」


 それが俺が尽力してきた目的のひとつだしな。


 小さな子供がお腹が空いたまま我慢しなけりゃいけないなんて嫌じゃん。この街で暮らす限り、その心配は本当にしなくていいしね。最悪教会か役所に行けば食糧なんていくらでも恵んで貰える。


「この街の子供の事はそれでいいけど、問題なのはうちの生徒だ。試験まで生徒の冒険者活動は一時禁止。魔法の練習は魔法実験場でする事」


「了解。それが一番いいと思うよ」


「生徒の実力を信用してない訳じゃないけど、万が一は十分に考えられるからな。過保護といわれても俺はあいつらの実力が十分なレベルに達するまで育ててから実戦に送り出したい」


「半分以上の生徒がもう普通に冒険者してるけどね。それを見て簡単だと思われるのが怖いし」


 油断をするのが本当に一番怖い。


 それに、まだこの世界に奴らが居る以上、突然例の魔物に襲われる危険性だって残ってるんだ。流石にあの魔物相手だと逃げ切るのも困難だしな。


「実技はともかく筆記試験の方は余裕なのか?」


「調理も筆記試験だけだしね。まだ試験は始まってないけど、終わった後の平均点はかなり高いと思うよ」


「頭のいい生徒が多いからか。だからやんちゃする問題児も多いんだけど」


「できるかな~って試す前にもう少し考えて欲しいよね。貴族の子供とかはそこが一番難しんだけどね」


 子供の頃から自分のしたい事は何でもできたんだろうしな。金も権力もある子供ってかなり育てるのが難しいと思うんだけど、この辺りの貴族は不思議な事に最低限のしつけは出来てるんだよ。


「家の恥になるから最低限の躾はするかな。晩餐会とかに連れて行くのもその躾が終わった後なんだよ」


「なるほど。社交界に出す前に家で最低限は教え込む訳だ。それで割と行儀のいい生徒が多いのか」


「監視の目が無いと割とはっちゃけちゃうのが問題かな? 割と監視の目は行き届いてる筈なんだけど」


「学生は群れると何するか分かんないしな。若気の至りじゃないけど」


「……その歳でかなり爺臭い事言ってるよ?」


 流石にここに通う学生に比べりゃ人生経験詰んでるから爺臭くもなるさ。


 俺的には今でも若いつもりでいるけどね。


「いい経験で済めば卒業後には楽しい思い出に変わるんだろうけど、それで誰かを怪我させたり取り返しのつかない事態になるのは避けたいからな。直前で止めるのも俺たちの仕事さ」


「反省文の枚数も凄いしね」


「もうあきらめたよ。そこの本棚は反省文用だ。あいつらが卒業するまでにこの理事長室はあの本棚で埋まりそうだぞ」


「年度毎にどこかに保管するしかないね。前例があれば処罰も言い渡しやすいし」


 先輩のやらかしは繰り返さないで欲しいものだな。


 予算はほぼ無限だけど、それでも無駄に施設設備を壊していい訳じゃないから。勝手に知らない所で耐久テストしてんじゃないぞ。


「試験は今月の末。職員室の立ち入りは既に始まってるけど、試験問題の管理が大変だね。問題が漏れちゃうと意味ないでしょ?」


「カンニング対策か……。アイテムボックス持ちばかりだから難しいんだよな」


「試験時間のアイテムボックスの使用は禁止してるよ。発覚したらその教科はゼロ点。再試験確定だし」


「そうなると来年はクラスが下がるから上位クラスの生徒はカンニングなんてしないか」


「筆記に関しては問題のある生徒は少ないし、そこまでする生徒もいないと思うんだけどね」


 甘いな。


 楽をしたい生徒は色々考えるものさ。筆記道具とかに細工したりね。その時間を勉強に費やせばいいのに。


「細かい事は任せた。カンニングも取り締まるけど、処罰はやや軽くな。退学や停学以外で頼む」


「了解。再試験だけでも相当にキツイと思うしね」


 貴族が多いし、表向きには割と正々堂々って精神も根付いてるしな。


 さて、この学校が始まって一回目のテスト。無事に終わるといいんだけどね。


 学生の頃はテストなんて苦痛でしかなかったしな。




読んでいただきましてありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。

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