第二百四十五話 夏休み期間も割と学校に顔を出してきた筈だけど、来るたびに反省文の枚数が増えてるのは気のせいなのか?
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早いものでひと月あった夏休みももうすぐ終わろうとしていた。ひと月という期間で詰みあがった反省文の枚数を俺はしばらく忘れないだろう。なんで帰郷組があんなにいるのに残った生徒でこんなに反省文を増やせるんだよ!! 問題が多いのは他から来てる貴族じゃなくてこの街の生徒だったって訳か!!
確かにこの男爵領内が一番改革が早かった訳だし、色々試してみるチャレンジ精神あふれる生徒が多いからかもしれないけど、もう少し考えてから行動はして欲しいな。在学中にもう少し常識を教えないとダメだ。
とはいえ、生徒たちも教師も有意義な休養期間を過ごせたようで何よりだ。宿題なんて無意味なものをこの世界に持ち込むつもりはないので、生徒はもちろん教師も余計な作業に時間を取られる事もない。
「夏休み期間も割と学校に顔を出してきた筈だけど、来るたびに反省文の枚数が増えてるのは気のせいなのか?」
「しょうがないよ~。料理大会で彼氏ゲットって考えてる生徒も多いし、夏休み中の帰郷に同行しなかった男子生徒なんて割と貴重なんだから」
「結構な数の生徒がついて帰ったらしいな。ギュンティ男爵領に誘われた生徒はまた違った意味があるみたいだけど」
アレは自分の貴族領への引き抜きだろうな。あそこも人材不足だろうから、優秀な人材は早いうちに確保したいんだろう。普通の考え方ではあるけど。
その件に関しては既にスティーブンやカロンドロ男爵が情報を掴んでるから、あいつらの思惑通りにはいかないだろうな。
「どこも同じ考えだと思うよ。この学校で魔法と情報技術を身に着けて帰ってくるのを期待してるみたいだし」
「料理大会もその一環だしな。各貴族領に帰って料理を普及させる時の引き出しのひとつになればいいんだけど」
「あの宝探しは何かに気が付ける為の思考の柔軟さとかでしょ? ホントに色々考えてるよね~。元々先生に向いてたんじゃない?」
「そこまで向いてる訳じゃないぞ。俺が調理実習の特別講師をしてもいいけど、今はまだ駄目だな。もう少し基礎を覚えてからでないと理解できないだろう」
それともう少しこの辺りの調味料が充実したらね。
そろそろ味噌と醤油の販売は始まるし、あの後でウスターソースの製造も始まる。清酒の売り出しと同時にみりんの販売も考えてるから、料理の幅がぐっと広がる筈だね。
今もワインが料理に使われてるけど、いかんせん今はワインの質が悪すぎるんだよ。料理に使う訳だし多少は質の悪いワインでもいいけどさ、それでも限度ってあるんだよ? いいワインは飲む方に回されるから仕方ないんだけど。
原因というか果物が貴重だった時期が長いのが原因なんだろう、あのワインが俺の持っているワインと同じレベルまで上がってくるのは最低でも数十年後かな? まずおいしいブドウの育成から始めなきゃいけないし、品種改良だけで何年かかる事やら。
「流石に理事長先生に教わっても理解できないと思うよ。……多分料理大会後に授業の希望嘆願書は続出すると思うけど」
「ヴィルナが教えるって手もあるけど、魔力の扱いとかを教えるのに大忙しだし」
「まだそこまで掴み切れてない子もいるからね。あの辺りは才能の差だし、焦らずゆっくり覚えてくれればいいんだけど」
身体成長というか魔力の流れを完全につかんだ子たちは髪や肌が綺麗になったり、少しずつ胸が大きくなり始めているので焦っているんだろう。
ただ、身長がやや低いとはいえヴィルナのスタイルがよすぎるのであまりそこを強調する生徒はいない。流石にヴィルナ相手だと多少胸が大きくても話にならないしな。
「開校してここまで大きな問題はなかった……、事もないかな、あの魔物の出現もあったし。大きな事件はアレ位だけど」
「アレはもうどうしようもないんじゃないかな? 理事長先生がいなかったらあれでこの学校は壊滅してたかもしれないけど」
「あいつを見逃してたのは俺たちのミスだし、大事になる前に退治できてよかったよ。まさかあんなものを作り出すとはな」
道具や資料は回収したから俺達も同じ事は出来る。
でも、その技術を使う事はこの先も無いだろうな。俺も雷牙も無意味な動物の虐待は嫌いだ。食べたりするのは必要だからで、別に動物を殺すのが好きな訳じゃないし。
「アレで刺激された生徒は本当に多いんだよ。あの魔物は神話級だった。放置してたらこの国が滅んでたってあの後も大騒ぎだったんだから」
「……まてよ、あいつがそういう存在だったら、暴君鮮血熊も誰かに作られた可能性もあるのか。倒した後で死体が入手できたから違うのかもしれないけど」
長い年月で元の姿に戻れなかった可能性はある。
元は取り巻きで連れていた黒色鮮血熊だろうしな。
「あんな魔物を作れる誰かがいるの?」
「あの熊以上の化け物だったら、もうかなりの数倒してるぞ。あの時にも言ったかもしれないが、あいつは俺たちに言わせればデカい熊に過ぎない。あのアナグマもな」
「流石に勇者様は言う事が違うよね。あのクラスの魔物を熊呼ばわりするのは……、ライガ達もなんだっけ?」
「ほぼ無傷で倒せる連中だな。あんな熊相手だと怪我をする姿も想像できない」
暴君鮮血熊の時は俺も変身してないけど、あの二人の場合は変身せずに普通に倒すまであるしな。俺みたいに強力な武器無しで。
「ライガとも模擬戦を予定してるんだっけ?」
「格上との戦いはいい勉強になるぞ。はっきり言って生徒が何してもあいつに傷ひとつ付けられないだろうけどな」
「魔法でも?」
「あのアナグマがやった真似だったら俺や雷牙もできるぞ。魔力や氣が高いとあの位は可能だ」
「生徒たちも真似しそうだよね」
「やめとけ。うちの生徒だと流石にまだ無理だ」
どの位修行したらできるんだろうな?
俺みたいに現状は魔力ほぼ無限とか、雷牙みたいに氣量推定不能レベルに達するまでの修行方法……。やめた方がいいんだろうけどね。
「魔法の授業でそう伝えておくよ。もうすぐ夏休みも終わりだし、すぐに授業も再開するからね」
「その前に料理大会の予選な。今となってはそっちの方が気になってるんだけど、まさか賭けてる奴はいないだろうな?」
「大口以外は見逃してるよ。胴元の才能をみるのも必要な事だしね~。ラウロはその才能が無いよ。どっちかというと賭け事の才能も無いんだよね」
「取引の才能と場を仕切る能力か。そりゃあればいい能力だけどさ。ラウロに関してはノーコメント。あと賭けてる場合は妨害行為とかに注意だな」
「不正をしたら厳しく処分するよ。その件に関しては全校生徒に違反者には厳罰って伝えてるから」
相手の店の妨害とか色々ね。
あからさまな妨害行為は流石に俺も擁護しないぞ。
「勝負事は正々堂々……、とはいいがたいけど。全力を尽くすべきだしな」
「特別枠でも~、加減は弁えてよね」
「俺の中での反則手段は全部封印しての勝負だ。優勝とかは関係ないけど、楽しんで貰うつもりだよ。出す料理もそこまで奇抜な物じゃないし」
「ヴィルナ情報だけど、出すのアレでしょ? 私も食べに行くんだから残しといてよね」
「五百用意してるから大丈夫だ」
色々改良を加えてるからあの時のビーフシチューより旨いんだけど、相当驚くだろうな。
ヴィルナに口止めしてなかったけど、別にバレたからって何かある訳じゃないし、予選でどうせバレるから。
「休み明け最初の月曜日が予選。その週末の土曜日が本戦か」
「だから向こうは予選が無いんだと思うよ。経験は積めるけど、間隔が短すぎるし」
「予選が無いとアレンジャーが混ざるからさ。アレンジャーどもの出場は断念したって言われてるけど、全員の調理能力を完全には把握してないだろ? 男爵は分かってるのか?」
「最近その存在に気が付いたみたいだね。いまさら出場枠を変えられないし、そのまま出すみたいだけど」
「勇気ある行動だな。もし仮に匂いが強い料理だとその一角は地獄だろうに」
屋台の配置は学校ごとに纏まっている。それだから俺は予選で隠れアレンジャーを排除予定だし、もし仮に通過したら多少は手直しさせるつもりだ。
おいしそうな料理も多いだろうから敵側の屋台を回るのは自由だし、そこを責める奴は流石にいないだろう。美味しい料理に罪はないからな。
「そこはもう仕方ないんじゃないかな?」
「会場はそこそこ広いし大丈夫だろうけど。本戦の会場って最終的に向こうの学校の体育館に決まったんだよな? 火を使うけど大丈夫なのか?」
「それはもういい設備が揃ってるからね。屋台の二十や三十じゃびくともしないよ」
「ああ、大体理解した」
あれだ。体育館といいつつドーム型の球場レベルなんだろ。
学校の敷地の確保も苦労したとか言ってたしな。
「うちの予選会場は結局魔法実験場になったんだよな。広いし安全だから」
「流石に警戒しすぎだと思うよ」
「あそこだったら特殊な魔法ドームを展開したら雨天でも大丈夫だろ。それに、前日までに準備ができる」
「雨を心配するんだったら体育館でもよかったのに。それに、心配しなくてもこの時期はあまり雨が降らないよ?」
「色々考えた末の判断だ。体育館でも大丈夫だと思うけど」
煙とか酸欠とかな。この世界だと魔法でどうにでもできるけど、余計なけが人や病人は出したくない。
床が汚れても平気だし。
「今週の土日が大変だね」
「俺も出るさ。屋台の設置とかもあるしな」
「お祭りって、こうして準備する時が楽しいよね」
「それはあるな。生徒たちも楽しんでくれてればいいんだけど」
どっちにしてももう数日。
運命の予選はもう目の前に迫っている。
皆に楽しい思い出が増えればいいんだけど。
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