第二百四十三話 それで、会場はやはりうちになる訳か。いろいろ考えた事があるって話だがヴィルナがいても大丈夫か?
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楽しんでいただければ幸いです。
珍しく雷牙の方から連絡があった。しかもブレイブフォンの方に。この世界で連絡といえばこれしかないんだけど、他の方法といえば誰かから間接的に話が来る時くらいかな?
エヴェリーナ姫と夫婦喧嘩でもしたのかと思えばそっちに関しては心配無用とのことだ。現在、家事全般はほぼ雷牙の方が担当してるらしい。エヴェリーナ姫の方は学校で働いてるし仕方ないか。
「それで、会場はやはりうちになる訳か。いろいろ考えた事があるって話だがヴィルナがいても大丈夫か?」
「わらわが聞いてマズイのであれば席は外すのじゃが」
「いや、ヴィルナにもお前の事を話してるんだろ? だったら何の問題もない」
「隠し事はないつもりだけど、例のブレイブの話だよな? もう全シリーズ見終わったのか? 早くない?」
「最近は仕事もすくないし、アルティメットブレイブまで連続視聴してみた。劇場版は数も多いし長いから一部未視聴だ。通常のシリーズでも俺も知らないブレイブも多かったが、不思議な事に俺がこの世界に来るまでの流れはほとんど同じだったな」
「ほとんどって事はやっぱり違いもあるのか?」
「テレビ的に流しても面白くないのかもしれないが、何もない期間もあったんだ。その期間は殆ど描写されてないし、この辺り……、この数話は一日を数回に分けて放送してるだろ? だけど逆にこの後のここからここまでの数話に必要な時間は実際では数ヶ月なんだ。細かい部分で必要ない所は意図的に端折ってあるみたいでな」
リアル過ぎたら子供に見せられなくなるしね。
誰かさんがバイクで後輩を追い掛け回したシーンも今はもう絶対に再現不可能だし。
「子供に見せられないシーンもあるだろうしな。その辺りはどうなんだ?」
「実際にあった事でという話だったら割とあるな。汎用戦闘種への改造手術なんかは細かく描写してないだろ? 後は恋愛沙汰とかかな?」
「その辺りもか。もしかして元の世界で恋人とか?」
「俺はいなかった。あまり口外しにくい仕事だし、なかなか難しいんだよ。給料はそこそこよかったんだが、将来性とか問われると辛いだろ?」
「十年後にその仕事があるかどうかなんてどこの業界も同じだろ? レンタルビデオ屋とか昔ほど見かけないし、本屋やおもちゃ屋も相当減ってるぞ」
「それでも普通の仕事だろ? 悪の組織と戦っていますとか交際相手から言われてみろ、馬鹿にしてるのかと思われるぞ」
そりゃそうだけどさ。
「ブレイブの組織って民間警備会社とか国家公務員的な立場じゃないのか? 確かブレイブの本部って警察と繋がってたよな?」
「警視庁直轄特殊組織犯罪対策室だな。あの辺りは全部司令がやってたから俺たちは詳しく知らないし、一般には知られたらまずい組織なんだ。だから表向きには民間警備会社を装ってるだろ?」
「出てる被害も特撮だったらいいけど、実際には洒落にならない被害だろうしね」
その辺りをリアルにすると賠償金とか色々と問題は多い。
いや、ライガのいた世界ではそれがリアルなんだけどさ。
「ちなみに給料幾らだった?」
「俺クラスで月五十五万。家は司令が用意してくれて家賃はタダだし家にいない日も多いから光熱費も格安だ。それに通勤手段もブレイブサンダーだろ? その代わり月に何度戦闘があっても危険手当はゼロ。仕事が終わる時間も不定期だし、例の牛丼屋のお世話になる事も多かったしな」
「……あの任務でその額が安いのか高いのか分からないな。この世界基準だと格安だけどね」
「そこはこの世界に来て一番驚いたところだな。この世界だと元の世界のひと月位の戦闘回数で一生暮らせる額になるぞ?」
「向こうは経費とか色々あるんだろうしな。税金とか細かい事を言い出したらきりがない」
「世知辛い話だよな。金の為だけに働いてる訳じゃなかったが、労働に対する報酬は必要だ。あのままあの世界にいた時の俺の未来はちょっと想像できないぜ」
「エヴェリーナ姫みたいな子との結婚なんてなかっただろうしな」
流石に世間が黙ってないレベルの年の差だ。向こうの世界だと結婚できる年齢としてもギリギリだし。
「それはあるな。あんないい子が俺を選んでくれるなんて」
「ふむ、じゃがそこまで悲観せぬでもどこにも変わり者はおる者ものじゃぞ」
いや、ヴィルナさん。そこははっきり言うとかわいそうだろ?
「エヴァが変わり者だと?」
「お主の元の世界ではどうか知らぬが、この世界ではかなりの変わり者じゃぞ。若い頃から付き合っていたのであればともかく、そもそもこの世界では二十歳を超えた男の結婚など、歳を増すごとに困難になっていくものなのじゃ。お主、若くても二十五は超えておろう? この世界では伯爵クラスの貴族が権力を笠に着て要求せぬ限りありえぬレベルじゃ」
「この世界の常識という奴だな。もしかしてヴィルナも変わり者なんじゃないのか? こいつも相当歳だぞ?」
「俺もそろそろアラサーだ。この世界に来てからの老化は殆どないけど他の仲間からその件は散々言われたよ。ヴィルナがいてよかったねってな」
「そういう事じゃが、わらわとしては他のおなごの見る目が無くて助かったところじゃ。あの娘もお主と出会えた奇跡は生涯の宝であろう」
そういうことをサラッというし……。雷牙が滅多に見れないほど照れてるだろ。
エヴェリーナ姫が老け専なのはホントに奇跡だろうけどね。
「俺が学校の理事長をしてるのに何も言われない理由だな」
「ああ、生徒から見たら父親とか爺さん扱いなのか?」
「生徒たちから見たら俺なんて父兄に近いんだろうね。それにこの世界では妻帯者に言い寄るケースも少ない。俺なんか女神フローラに祝福されてるから、今となってはまず言い寄ってこないだろう」
女神フローラ教会から何されるか分からないしな。
それでなくても教会関係者っていろんなところにパイプ繋いでるし。
「話が大幅にそれたが、例のブレイブの話だ。端折られてる部分はあるが、それでも大まかな流れは怖いぐらいになぞられてるんだ。重要な事件は絶対に入ってる」
「パワーアップアイテムとか絡みじゃないのに妙に引っ張った話とかあったもんな。視聴率が落ちてもぜったいにそれ系の話は続けたし」
キレて降りたスポンサーもいたって話だ。
最大手のあそこはなぜか絶対にスポンサーを降りなかったけど。
「この辺りの話なんて端折っても問題ない筈なんだ。強化アイテム絡みではあるけど」
「その辺りは重要なんだよ!! おもちゃの売り上げに響くから!! でも、それを踏まえてもやっぱり色々おかしいよな」
そこまで完全に一致ってのは、本当に奇妙な話なんだよね。
元にあった事件を参考にして作るにしたって、かなり大幅に改変しなきゃいけない筈だろ?
「やっぱり、鏡原師狼の存在が鍵なんだろうな」
「司令か。雰囲気から相当に強いだろうとは思っているが、実際に戦った事は無いんだ。おそらく俺達より強いぞ」
「能力的には神レベルの筈だからな。鏡原師狼がいるんだったら自分でその世界の敵を倒す事くらいできた筈なんだ。そこも引っかかってるんだよね」
「わざわざ俺達ブレイブを組織した訳か……。俺たちの世界を救う存在をその世界に生み出したかったからとかか?」
「何でもかんでも神的存在に助けて貰おうってのが気に入らなかったのかもしれないな。神的存在が手を出さなきゃ救えない世界があるのは分かる、でもその存在におんぶにだっこで世界を救って貰ってそれで満足なのかって話だろう」
あの邪神の残滓を倒しそこなった少女もいきなりこの世界を救えとか言われて戸惑っただろうしな。選ばれるって事は真面目で責任感の強い子だったんだろうし。
もし仮に俺が今の状態で呼び出されても戸惑うだろうし、いきなり世界を救えって言われても困るのは間違いないんだよね。
「それと、あのシリーズを通してみて違和感を覚えたのはやはりお前。アルティメットブレイブの存在だ」
「俺とは別人だしな。それ以外で何か問題があったのか?」
「大ありだ。アルティメットブレイブはすべてのブレイブの力を使える。だったら最初からアルティメットブレイブ用ブレスだけ作ってそれを全員に配れば済んだ話だろう?」
「それはそういう番組だからって事で片付かないのか。元々お前たちの世界で起こった事だろうし」
「それだ!! 司令が先に俺たちの世界に来ていたんだったら、なおの事全員にアルティメットブレイブ用ブレスを配れば済んだんだよ。どう考えても他のブレイブは劣化コピー的存在だろ? それにわざわざその話を忠実にお前の世界で特撮物で作る意味が分からん」
段階的にパワーアップさせる実験をしていた?
最終フォームだったら各ブレイブでそこまで能力に差はないけど、アルティメットブレイブだけはとびぬけてるからな。
「もしかしてなんだけど、レッキングブレイブで雷牙達の世界は救われてて、俺の世界でのオリジナル作品って考えもある」
「お前が変身できる以上、本物のブレスは存在していただろう。あの後で開発された可能性もある」
「ふむ。考えが煮詰まっておるようじゃがこうは考えられぬか? 最初からソウマの使うブレスは存在した。それも一番最初にの。それを元に九人分の装備を作り出した可能性じゃが」
「なるほど。一人ではなく、複数ブレイブを作り出す為の措置か。確かにオールラウンダーなアルティメットブレイブより、特化している各ブレイブの方が有利な戦いはあった」
「それと個人の能力を最大限に引き出す為かもしれない。俺がライジングブレイブに変身したりしても、その力は雷牙の様にうまく使えないかもしれないし」
一番最初にアルティメットブレイブのブレスや装備が完成してた可能性は確かにある。
すべての能力を持つというより、それから各能力を分配していったって事も十分に考えられるからな。
「確かにそれはあるかもな。このブレスの力は俺専用に作られてる感じはある。それも、初めから俺が装備するのを分かっているかのように。他の奴らの能力も凄いと思うが正直あれを奴ら以上に上手く使えるとは思えない」
「ブレイブ候補の中から戦い方とかの能力も併せて能力に適応しそうな者を選別し、各ブレイブとして活躍させた。十分に考えられるし、それが違えば大怪我もするだろう」
「あの一件はみんな反省してるさ。確かにそう考えるとマルチな能力よりは特化された方が使いやすいのか」
「あの敵組織を全部叩き潰す必要もあったんだろうし、向こうが手を組んで来ても困るだろ? 情報はなぜか共有されてたみたいだけど」
「各組織に内通者がいたからだろう。よく見かける武器とかを持った汎用戦闘種とかいたしな」
あ~、あったなあれ。
テレビで見てた時にはあからさまな販促だと思ったんだけど、あれも事実に基づいて作られてたのか。
「もう一つの謎なんだが、お前がブレイブに変身できたのも不思議なんだ。このブレスは各個人用に調整してあるし、このブレスを使ってお前がライジングブレイブ変身しようとしてもできないだろ? まっさらの新品を渡されたにしても、お前が変身できる可能性はない筈なんだ」
「確かにそれは俺も疑問に思っていた。そもそも、どうして俺がブレイブの力を行使できるんだ? アレも誰でも使えるものじゃないんだし……」
「資格がある無しでいえば、お前はブレイブとして相応しい男だし資格はある。だが、それだけで使いこなせるほどこのブレスは簡単な物じゃない」
「ソウマがその力を使える以上、何かしら原因があるのは間違いないんじゃろ? であれば、考えるだけ無駄なのじゃ」
「それはそうなんだけどね」
ヴィルナは不要と考えたらバッサリ行くからな。
要不要の線引きがはっきりしてるというか、種族的な考えの違いなのかもしれない。
「その辺りの謎に関しては、永遠に謎の可能性はあるな。別に謎のままでも構わんし」
「変身できる事実だけあれば大した問題じゃないよな。少なくとも俺はこの力を悪事の為に使う事はない」
「その件に関しては信用してるさ。お前はどんな力も悪用はしないだろうぜ」
「あれだけの力を持っておるのに、このような生活で満足しておる男じゃぞ。その気になればこの世界も支配できるであろうが」
できるけどね。でも、俺がそうし始めたらヴィルナは間違いなく止めるだろ? その位は分かるよ。
「ヴィルナもそうだけど、エヴェリーナ姫もそうだろ? 雷牙だって俺程とは言わないけど相当稼いでる筈なのに、あまりおねだりもしないんだろ?」
「たまに何か買ってやる位だな。元王族なのに質素な生活でも文句ひとつ言わないいい子だ」
「お主の生活も質素などといえば驚かれるレベルじゃがな。それでも、何一つ強請らぬのは王都の生活のせいじゃろう」
「あまり話したがらないから聞いてないんだが。そこまでなのか?」
「今の生活の数十分の一じゃろう。この街の日雇い労働者でも王都の王族よりは良い暮らしをしておるのではないのか? 王位継承権次第ではあろうが」
ダリアも酷かったって言ってたし、やっぱりそうなんだろうな。
この街の料理のレベルと王都じゃ流石に天地の差があるけど。
「もう少し生活のレベルを上げた方がいいのか?」
「今のままでもあの娘は幸せじゃろう。少しずつ良くしていけばよいじゃろうしの」
「それもそうだな。慎ましい生活も悪くないだろう」
「そこまで贅沢をしたい訳じゃないしな。エヴァがもう少し贅沢がしたいんだったら考えるさ」
金貨を積み上げてもそれで何かできる訳じゃないしな。
俺は学校の運営に突っ込んでるけど、将来この国を支える人材を多く輩出できればと思っての事だしね。
ヴィルナもそこまで贅沢をしたい訳じゃないし、このこじんまりとした家でゆったり暮らせばいいさ。
和室は欲しいと思うから、そのうち離れで増築するかもしれないけどさ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。先日は高熱の中で書いたので特に多かった気がします。ご指摘ありがとうございました。




