第二百四十話 ライジングブレイブシリーズ劇場版第一作目ファーストブレイブ。ライバルキャラとしておなじみになるゾークダースも登場するライジングブレイブシリーズ初の劇場版だ
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楽しんでいただければ幸いです。
情報の共有というか、そろそろ話した方がいいだろうと思ってヴィルナにアレを見せてみた。最初はその科学的な世界観に驚き、そして今はそこに映し出された人物に驚いている。
「なぜあの男がこの作品に出ておるのじゃ? しかもこのタイトル、あの男が主役じゃろう?」
「ライジングブレイブシリーズ劇場版第一作目ファーストブレイブ。ライバルキャラとしておなじみになるゾークダースも登場するライジングブレイブシリーズ初の劇場版だ」
「なるほど、あの男があの姿で戦う作品なんじゃな。しかし、映像作品という事はこれは作り物なのじゃろう?」
「そうなんだけど、この世界にいる雷牙達は別の世界。つまり本当にあの力で戦っている本物なんだよ。この映像作品に出てる俳優さんもある意味本物だけど」
多くの人の心に残り、そして長い年月語り継がれるヒーローとしてはこのモニターの向こうの存在だって欠片も遜色はないさ。
たとえ俳優さんが演じているとしても、この姿を見て救われた人もいるし心に勇気の灯を抱いたものだっているはずだ。俺もそうだしね。
「難しい問題じゃな。偶然というには出来過ぎておる。こうまで同じ姿の者を用意する事は流石に無理じゃろう」
「雷牙と土方の世界も並行世界みたいだしな」
「並行世界? なんじゃそれは?」
「可能性から生まれた別の世界かな? この世界でも、俺が雷牙達と出会わなかった可能性もあるだろ? そうなると、俺たちが出会わなかった世界も存在するって事なんだ。その時は別々にあの幹部どもを倒してるだろうけど」
モニターの向こうでは再生幹部をライジングブレイブが薙ぎ倒している。中には以前俺と雷牙が倒した幹部も混ざってるんだよね。なんだか変な感じがするぜ。
「あの男たちの世界が並行世界という事は理解した。しかし、それとソウマの世界は別なのじゃろ? それなのにソウマの言う通りに同じ容姿の人間が揃っておるようならそれは異常じゃ」
「でも、似た人がいるんだからその事実は覆らないだろ?」
「事実は覆らぬであろうがこうは考えられぬか? ソウマのいた世界も、あの男の並行世界のひとつではないのか?」
「え?」
俺のいた世界もライジングブレイブシリーズの並行世界?
いや、確かに同じ容姿の俳優は揃ってるけどそれはないだろ。だってあんな敵なんていなかったし。
「何かの理由であの男がこの姿にならなかった世界。そして、この姿を知っておる者が映像作品としてこれを作った可能性じゃな」
「その考えで行くと、キーとなる人物が必要だな……。鏡原師狼か」
「誰なのじゃそれは?」
「女神シルキーと一緒にいくつも世界を救ってきたって言う英雄さ。あいつらの世界の司令官でもある。ライジングブレイブの世界は滅びかけてたからその人がブレイブを立ち上げたらしいんだけど」
まてよ。俺のいた世界をライジングブレイブシリーズの並行世界と考えた場合おかしな点がいくつかある。
雷牙や土方を演じてる俳優さんの年齢から考えて、あいつらの元いた世界の危機は俺が転生する十年くらい前に滅びかけたって事だぞ。
俺が元いた世界では十年前にそんな事なんてなかった。流石にあんな悪の組織が存在してたら世界中で大騒ぎになるだろう。
「それではそれを知っておるものに聞くのが早いじゃろう? いつもあれこれ寄越せと言ってきておるのじゃ。その位応えてくれるじゃろう?」
「女神フローラとか天使ユーニスに聞くのは最後の手段にしたいんだ。真実を聞くのが怖いって部分もあるけど、問題が起こりました教えて神様じゃその先に進歩なんてないだろ?」
「本当にソウマは神様のような考えなのじゃな。わらわであれば即座に聞いておる所じゃぞ」
「たぶんそれが一番手っ取り早いんだよ。でも、それは俺が考え抜いて答えを出した後にしたい。この行動自体が無駄かもしれないけどね」
並行世界の秘密を聞いて、へ~こうだったんだ~とか言いそうだし。
……いつも的確なツッコミをしてくる天使ユーニスがちょっかいをかけてこないって事は、今声をかけるとこの件を突っ込まれると考えてるからだろうな。
「ソウマがどの世界から来た何者であっても、わらわの愛は変わらぬのじゃ。もしわらわとの立場が逆であっても、ソウマもそう答えてくれるじゃろ?」
「たとえヴィルナが何者でも、俺の愛も変わりはしないさ。本当に俺たちは似たもの夫婦だよな」
「そういう事じゃ。ソウマのいた世界にも秘密があるやも知れぬ。じゃが、それはこの世界を平和にした後でじっくり考えても良かろう?」
「そうだね。この作品を雷牙に見せて情報を共有した。今はこの事実だけでも十分かもしれない」
俺の元いた世界がもし仮にライジングブレイブの並行世界だとして、何の可能性から生まれた世界なんだ?
大体俺が元いた世界では敵の戦闘種とかはどこに行った? 世界が滅びに直面してないのに映像作品のライジングブレイブシリーズで鏡原師狼の名前をもじったような指令がいたのも謎だしな。
「しかし驚いたのは、ソウマが元いた世界がこれほど変わった世界であった事じゃな。確かに電化製品という物は便利そうなのじゃ」
「魔石型魔道具も同等かそれ以上に便利だよ。俺の元いた世界より進んでるんじゃないかって世界もあるしね。……この辺りの作品なんて、俺の元いた世界よりも進んでるよ。未来を舞台にした作品には流石に勝てない時もあるけどね」
それを差し引いても進んでるというか便利な物が揃った世界もあるんだよな。
俺が使ってる魔石型の魔道具なんてほとんど別の異世界で使われてる物だしね。今はファクトリーサービスで生産してるけど。
「そういえば、例の料理大会でソウマはそれを使うんじゃろ?」
「大型の魔導オーブンは使うよ。あれが無いと流石にビーフシチューのパイ包み焼きは出せない」
「わらわも幾つか欲しい物があるのじゃが。屋台で使える小型魔導コンロと鉄板なのじゃ」
「鉄板の形状は平らでいいのか?」
「平らで十分なのじゃ。甘くて冷たい物以外であればあの辺りがよかろう」
何の料理を出すのかは知らないけど、流石に焼き物を選ぶ辺りヴィルナはよくわかってる。蒸し料理とか手間のかかる料理は時間制限のある、ああいったお祭りには向いていない。料理勝負であるならばなおさらのことだ。
ヴィルナのアイテムボックスも大きいけど、それを使わずにその場で作ったものだけを提供する気なんだろうな。
「焼き物も定番だからね。低予算でも美味しい物ができるし」
「わらわもそこそこ稼いでおるのじゃ。予算は気にせずともよいと言ったのじゃが」
「ダリアがそれじゃあ面白くないとか言い出したのか?」
「流石にソウマは見通しておるの。その意見にわらわも賛成なのじゃ。ソウマの様に特別枠であれば関係ないのじゃが」
「俺だって少し牛肉の売り込みをしたいと思ってるだけさ。ほぼ捨て値の牛テール肉であれだけの料理が出せれば見直されるだろ?」
「ビーフシチューは一部の店では人気メニューなのじゃ。あの出汁を作れねばあの味が出せぬのであろう? あの出汁自体の完成度も作る者の腕次第じゃしな」
フォン・ド・ヴォーね。
確かにアレを使わないと味はぐっと落ちる。というか、フォン・ド・ヴォーを使ってる料理は多いけど、ちゃんとそこから作ってる店って少ないんだよな。全部の店を調べた訳じゃないけど、牛骨とか脛肉を仕入れてる店が少ないって事はそういう事なんだろう。
「そればっかりは仕方がないね。一番熟練度の高い冒険者ギルド直営のレストランがいまだに不動の地位をものにしてるのもフォン・ド・ヴォーを作ってるシェフの腕の差だしな。牛に食べさせる餌は改良され続けてるから、そのうち美味しい牛肉が食べられると思うよ」
「あそこはもう冒険者ギルドではなく、食肉処理場なのじゃ。モリヨモギなどはその大半が料理いきじゃぞ」
「俺が買い取ってる分以外はそうらしいね。余ったモリヨモギは萎れる前に食べるそうだ」
それも仕方が無いんだよな。
ここまで平和になると冒険者ギルドって本当にやることが少ないし、たまに出る強力な魔物は俺か雷牙に依頼が来るしね。
オウダウやイサイジュ辺りで冒険者した方が儲かる位だ。
「モリヨモギも今はそこまで美味しい野菜ではないじゃろうに。あそこは味付けが上手いから騙される者も多いのじゃろう」
「肉醤も美味い事使ってるしな」
「豚の脂や牛の脂を使うのも上手いのじゃ。ちゃんと使い分けておるしの」
「本当にあそこはもう料理ギルドにして切り離した方がいい気もする。それだと今までの職員が職を失うし……」
「それは仕方が無かろう。イサイジュかマッアサイヤ辺りで再就職するか、この街で別の仕事をすればいいだけじゃ」
その辺りは俺が口出ししないでも勝手に上手くやるだろう。
ヴィルナに見せたい物を見せる事が出来たし、この件はもうあまり考えなくてもいいだろう。
あいつらから何か言ってくる事もあるだろうけど、雷牙はともかく土方の方はそんな暇を貰えないだろうしな……。
ブラックって怖いぜ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かっています。




