第二百三十九話 こんにちは。ファルネーゼは実家に帰らなかったのか? 遠くから来てる生徒は殆ど帰郷してると思ったけど
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楽しんでいただければ幸いです。
夏休み!! といっても俺の生活が変わる訳じゃない。週三くらいで魔法学校に行き、自主的にいろいろ学んでいる生徒の指導、もとい、教師の目が少ないからといって羽目を外しまくる生徒の監視をしなきゃならないからだ。
ホントに学校生活に慣れてきたらだんだん本性が出てきたというか、割と大胆な行動をとる生徒も増えてきた。
そうはいっても全員が全員そういう生徒ではなく、ちゃんと真面目にしてる生徒もいるんだよね。二組のファルネーゼなんて、最初は俺に突っかかってきたけど今は本当に素直ないい生徒で他の生徒も見習ってほしいくらいだぜ。
そうそう、先日の話し合いで第一回合同料理大会で使用する材料などの上限が撤廃された。向こうの学校の伯爵家のお嬢さんが盛大にごねたらしい。材料費の制限が無いので自分で狩ってくる利点は消えたが、材料費を安く済ませる為に自前で用意しようとする生徒はまだいるっぽい。
おかげで冒険者ギルドからグギャ鳥が乱獲されてるという報告も上がってる。あの鳥は無数にいるから捕まえやすいんだよな……。
お、あの生徒は……、貴族領組なのにまだ帰郷してなかったのか?
「こんにちは。ファルネーゼは実家に帰らなかったのか? 遠くから来てる生徒は殆ど帰郷してると思ったけど」
「勇者理事長先生こんにちは。第一回合同料理大会に参加しますので調理実習室の使用許可を取っていろいろと試している途中でしたので。来週頭には一時帰郷します」
「頑張って魔力も伸びてるし、ご両親にはいい報告がたくさんできそうだね。今日は何を作るつもりなんだ?」
「秘密です。大会に出す料理ですので、他言も無用にお願いしますわ」
ファルネーゼはちょっとしたしぐさも可愛いんだよな。最近は最初みたいなとげとげしさもないし、さぞかし男子生徒には人気があるだろう。
料理の腕も割と普通だし、このチームはいい所まで行くかもしれないね。
「分かった、ひとつだけアドバイス。たくさん売る場合は作る時間が短い料理の方がいい。そして、作り置きが出来て味の落ちない料理の方が有利だ。揚げ物は揚げるのに時間がかかる、焼く料理もどの位で焼き上がるか把握しといた方が本番で楽だよ。アイテムボックスを使う手もあるけどね」
料理を目の前で作りながら売るのも訴求力が上がるんだけどね。手間のかからない料理を選んでアイテムボックスを使わないのも一つの手だ。
「確かにそうですわ。アドバイスありがとうございます」
「学内予選は夏休み明けだ。それまで時間があるからゆっくり調整すればいいよ」
アレンジャーだけは本選に進めてはいけない。あいつらを出したら流石に大会の会場が凄惨な事件現場に早変わりだ。
問題はあいつらが何チーム位出るかなんだよな。教師枠を拡大してでもあいつらを決勝大会には進めないぜ。教師陣にもアレンジャーがいるんだけどな!!
「帰郷組は帰るまでの準備に大忙しだな。事前に準備してた生徒はもう帰郷してるし、校内にいるのはこの街に住む生徒がほとんどか」
学生寮もガラガラだって言ってたしね。それでも食堂は運営させてるし、いつもと同じ賃金も支払ってるんだけど。
教師も今は半分だけど、校内に残ってる教師は生徒たちへの対応に追われている。問題児はどこにでもいるし、もう予選を勝ち抜いたつもりで屋台まで用意し始めてる生徒もいるしな。
「市販の屋台に似せて作ってるけど、これ屋台を買ってきた方が安くない?」
「安くないに決まってるでしょ? あの屋台がいくらすると思ってるのよ!!」
「安い屋台は二百シェルくらいだぞ? こうして作る手間を考えたら買うのも正解だと思う」
一番安い屋台は安いだけあって強度に不安が残るけどな。
それにあいつらがどんな料理を売るのかは知らないけど、揚げ物とかをするんだったらその数倍はする屋台が必要だ。本戦に進んだ場合は学校がその予算を補填するって告知してあるんだけど、手作りしたいって生徒の申し出は一応通してる。後でやり直す羽目になってもいい思い出だろう。
「精が出るな。もう本戦用の屋台を作ってるのか?」
「あ、勇者先生。今から始めないと本戦に間に合いませんし、こうしてみんなで作るのもいい思い出になりますので」
「手作りって面白いですよね。それに大会が終わっても保管すれば来年も使えるじゃないですか」
「倉庫の一角に専用スペースを作ってやるからそこで保管すりゃいいさ。デカいアイテムボックスを持ってるんだったらそこでもいいけど」
「流石にアイテムボックスはないですね。スペースの無駄遣いですし」
「これを入れるくらいでしたら食材を入れますよ」
そりゃそうか。
アイテムボックス内だと鮮度が落ちたりする心配もないし、食材の方を優先するよな。俺みたいに無限だと気にしないけど。
「その屋台、ちょっと見せてみろ。……この辺りの強度が不安だな。こういった感じのパーツで補強するといい感じになるぞ」
「そういう手もありますね。この屋台で何の料理を作るか分かっちゃったりします?」
「この段階だと難しいな。料理の看板はまだだろう?」
「それは最後ですね」
大体予想できるけどね。
生徒たちが出来る料理で人気があって手軽にできる料理は限られる。問題は材料費だけど、グギャ鳥か人気が落ちて価格が下がってる大山雉辺りを使えば大丈夫だろう。ただ、先日の話し合いで予算が撤廃されたんだけど、懐具合の関係でこうして材料費とか予算を抑えないといけない生徒も存在するんだよな。
他にもフライドポテトとかいろいろあるけど、流石にあれだけで戦うのは勇気がいるだろうね。
「鳥の唐揚げは人気商品だけど、他の店との違いを出した方がいいぞ。あと、割と冷めるのも早いし追加で揚げるのも時間がかかる。できた唐揚げをすぐにアイテムボックスに保管するのも一つの手だ。事前に揚げておくという手もある」
「どうしてそれを?」
「グギャ鳥は癖がある。そこをうまく解決すれば優勝も狙えるぞ」
「材料まで当てられた!!」
「流石は勇者先生。他言無用ですよ?」
「了解だ。唐揚げは多分ほかの生徒も出してくる。負けない様に頑張れよ」
唐揚げの屋台をこの世界でするには二つの大きな問題がある。というか、本当の問題は揚げる油なんだけどね。そこには自分で気が付いてもらおう。他の生徒たちもそのうちその問題に気が付くだろうけど。もう一つの問題は揚げる為の魔道具。うちの食堂みたいに専用のフライヤーなんて用意できないだろ? そこをどうするかもカギだ。
デカいアイテムボックスを持ってる生徒が有利だけど、目の前で揚げたてを買うのと作り置き、どっちが食べたくなるかは自明の理だろう。
こうしてみてると、いろんな場所で第一回合同料理大会の準備をしてる生徒がいるな。少ない予算で苦労してる生徒もいるけど、料理の出来は高価な材料だけがすべてじゃない事は俺もよく理解してる。
◇◇◇
家に帰るとヴィルナがひとりで料理をしていた。別に珍しい事じゃないけど、材料を見る限り晩御飯とかのおかずじゃなさそうなんだよね。
「ただいまヴィルナ。料理を作っていたのか?」
「おかえりなのじゃ。あの料理大会に出る事になったのでな。いくつか試食用の料理を作っておったのじゃ」
「ヴィルナも教師側で参加するのか?」
「わらわは教頭チームじゃな」
反則だろうダリア!! なにヴィルナまで引き入れてるんだよ!! 流石にヴィルナが相手だとほかの生徒じゃ相手にならないぞ!!
「ソウマも出る事じゃし、本当の一位はとれぬがな。ソウマの事じゃから相当凝った料理を出すんじゃろ?」
「ん? そこまででもないよ。予算が撤廃されたから手加減はしないけどね。準備してた物はわりと安く抑えてるんだけどな」
「ソウマが売るのは先日作っておったあれじゃろ? 流石に大人げないと思わんか?」
「アレを出すのは俺くらいだろうね。材料費は安いかもしれないけど、手間はちょっと真似できないレベルだし」
本格的なフォン・ド・ヴォーを惜しみなく使ったビーフシチューのパイ包み焼き。あの手間のかかるフォン・ド・ヴォーを使おうって生徒は皆無だろう。
今はまだ牛肉の人気が無いからどこの部位も安いんだけど、その中でもほぼ捨て値で売られてる牛テールを使った濃厚なビーフシチューだ。予算制限が撤廃されたからいらない苦労だったけどね。
小麦も去年収穫された春小麦が少し前に収穫の始まった冬小麦が出始めた影響で値下がりし始めたからそれを安く買い取ったし、乳製品もそこそこ安い価格で入手したんだけど。その努力は全部無駄になったんだよな。
「ビーフシチューは美味しいのじゃ。じゃが、用意できる数に限りがあるじゃろう?」
「ビーフシチューはこの位の器に入れて五百個用意するよ」
「ソウマは少し手加減という物を覚えるのじゃ。本番当日は売るだけにするつもりじゃろ?」
「人手もないしね。流石に追加で焼くのは一割も無いかな? これでもまだ手加減してるつもりなんだぞ」
当日は熱いだろうし、冷たい物の方が売れるんだろうけどそれを出すのはハードルが高すぎるんだよな。ぶっちゃけソフトクリームとかかき氷でも十分に勝負になるんだけどね。それに手を出すのは反則中の反則ってのは理解してる。
「ほう。他に良い手があるというんじゃな?」
「果物があるだろ? それを凍らせて売るだけって手もある。それと、こういう方法とかな」
イチゴとかブルーベリー系を凍らせたフローズンフルーツ。
原価はともかく、凍らせるだけだから手間はかからない。俺みたいなアイテムボックス持ち限定だけど。
そしてりんご飴。最近はリンゴだけじゃなくてブドウとかイチゴとかいろいろ売られてる。
「米飴で果物を包んだ物じゃな。このような物で……。ソウマはずるいのじゃ!! こんな物をまだ隠しておるというのは反則なのじゃ!!」
「りんご飴って言ってな。俺の元いた世界ではお祭りの定番だったのさ。それとか綿菓子を売らないだけでも褒めて欲しいくらいだよ」
「この綿菓子もおいしいのじゃ……。じゃが、これは砂糖が高くて予算に納まらぬのであきらめたんじゃろ? 今であれば出せるじゃろうが」
「予算が撤廃されたからね。でも作るのに手間だし、一人じゃやってられないから俺はおとなしくビーフシチューを売ってるよ」
予選の内容次第でりんご飴は売ろうかなとか考えてたりするけどね。
一応予選で出した料理を売れば本戦で別の料理を売るのは認められている。というか、多分みんなそっちが本命だろう。
「という訳で今日は台所をわらわが使うのじゃ。晩御飯もついでに作るのじゃが」
「和食でいいぞ。暑いから冷酒に合いそうなのを」
「了解なのじゃ。夏場は割と多いパターンじゃな」
冷酒とおつまみ。最後に締めでご飯もの。
夏場の晩御飯の定番になりつつある。洋風でがっつりとか、カレーセットとかのパターンもあるけどね。
さて、本当に第一回合同料理大会は盛り上がってるな。来年以降中止にならない様に、アレンジャーたちの動きには気を付けないとな。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




