第二百三十六話 直前に夏季賞与を出すから資金面も余裕があると思うぞ。各自二週間は思う存分バカンスを楽しんで来てくれ
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楽しんでいただければ幸いです。
魔法学校にも夏休みが存在する。期間は七月二十日から八月十九日までの二十八日間で、この期間は帰郷するもよし学校に残って魔法やそのほかの勉強をするもよしと割と自由に過ごせるようにした。なお、宿題などという無粋で教師に負担を強いるだけの物は出さない。
教師も担当を決めてその期間は半分くらい休みになるんだけど、前半と後半で各二週間ずつ夏季休暇を与える事にしている。俺はともかく、各教師にも長い休みくらい必要だろう。
「本当に二週間も休みを貰えるんですか? しかもその間の給金も貰えるとか」
「直前に夏季賞与を出すから資金面も余裕があると思うぞ。各自二週間は思う存分バカンスを楽しんで来てくれ」
「流石は理事長先生!! 各イベントでも我々教師に参加を認めてくれたりするのに、その上こうして夏季賞与まで出して頂けるなんて」
「心に余裕が無いと生徒たちと向き合うのは大変だろう? 教師だって人間だ、よく働いたら十分に休んで気力や体力を回復させないとな」
この辺りは元の世界では本当に無視されている部分だよね。頑張った者には十分な報酬と休暇を支払うのは当然だ。これを怠って理事長面とかしてたら恥ずかしいぜ。
「そういえば向こうの学校でも夏休みの期間は同じらしいですね。あと、夏休み後にあのイベントを行う予定なんですけど……」
「第一回合同料理大会だな。細かいルールは多いけど、投票の一番多かったチームが優勝ってシンプルな戦いだ」
一皿にかける予算とか、使える材料の決まりが割と多い。後教師とかの参加も大丈夫だけど、俺の出場だけは認められていないんだよな。いや、厳密にいえば俺も屋台は出せるけど投票外での参加になる。
しかも、自分で獲ってきた魔物は材料費に入らないとか、冒険者が有利な条件も揃ってるんだよね。アイテムボックス持ちがめっちゃ有利だ。
マッアサイヤ辺りに出向いて、海で材量を獲ってくるのも自由だしね。あそこは漁業組合があるから話を通さないと後が怖いけど。
「そういえば賞与は一律という事でしたが……」
「これだけ出す」
指を二本たててみる。
「二千シェルですか。それでも十分ですね。二週間豪遊できそうです」
「二万シェルだ。正確には大銀貨二十枚だな。小金貨は使いにくいだろ?」
「……全員ですか?」
「全員一律って言ったよな?」
あ、目が点になってる。おいおい、この貴族領で唯一の魔法学校の賞与だぞ? 二千シェルなんてことある訳ないじゃん。
【はい、問題です。今の問答で足りないものは何でしょう?】
流石に賞与の金額が少なかったか?
【不正解!! じ・ょ・う・し・き、が~、足りなかったんじゃないかな? なにさ、二万シェルって!! 普通の人の年収だよ!!】
あの問題の多い生徒二百人を、朝から晩まで面倒みてるんだぞ? いや、あれだけ問題起こしてるのにキッチリ対応してる教師の働きに報いるにはこの額でも少ないくらいだ。
【え~、可愛い生徒じゃない】
問題。ちょっと小腹が空いたけど今いる場所は校庭の端です。都合のいい事に目の前の木にグギャ鳥がとまっています。さてどうするでしょう?
【罠か何かで捕まえるんじゃないの? どう料理するかは持ってる物次第だけどさ】
正解は、捕獲する為に火炎弾で木ごと焼き尽くして慌てて消火、駆け付けた教師にばれて職員室に呼び出しでした。
【うわ~……。でも、それは極端な例でしょ?】
問題。学食の限定メニューが食べたいけど授業が延長戦。全力で走っても間に合いそうもありません。さて、どうするでしょう?
【……諦めるって選択はなさそうだよね? その子は何をやらかしたの?】
正解は、土弾で窓をぶち破ってショートカット。無事に限定メニューを注文した直後に教師の手で身柄を確保、職員室に連行でした。校舎内で攻撃魔法は使用禁止だし、学校施設の故意の破壊も本当だったら一発退学だぞ!! 教師と一緒に謝りに来たから今回は許したし、一応限定メニューも食べさせてやったけどさ!!
【個性豊かな生徒が揃ってるね……】
四月に開校して今は七月だ。で、やらかした生徒に書かせた反省文の高さが机の上に重ねてそろそろ俺の胸元に届きそうなんだけど、これを個性豊かなで済ませてもいいと思うか? 僅か三ヶ月だぞ!!
【ごめんなさい。二万シェルは安かったね。もうちょっと出してあげてもいいんじゃないかな?】
冬は最低でも倍額出す予定だ。
元々貴族が多いし、常識が俺並みに欠けてる奴が多い。しばらくは甘い裁定をしてやるけど、来年以降同じ事をしたら流石に最低でも停学だぞ。
【流石にあなたより常識が無いって事は……。同じ状況だったらどうする? さっきの限定メニューの時】
諦めるさ。
【どうしても食べたかったら?】
前の授業の終わりに学食にダッシュ。先に食券を購入しておばちゃんに昼に来るからって伝える。そのままだと作り始めるからな。
【それ、アリなの?】
頭のいい奴は朝食を食べたついでに昼の食券も買ってるぞ。流石に朝一だったら限定メニューを含める一部のメニューは買えないけど、ひとつ前の授業の終わりだったら全メニューが頼めるんだ。午前中の授業が一コマない事態も想定してるんでね。
【う~ん。それ知らなかったら?】
窓をぶち破らずにショートカット。それで済む話だろ? あいつは窓を破壊する事でほかの生徒の足止め、そしてその隙を狙って券売機で注文しやがったしな。
向こうの学校にも問題児は多いけど、この前の話し合いで反省文の数は百分の一程度って言ってたぞ!!
【授業に一般常識を入れたらどう? あなたも参加してさ】
一般常識の授業は検討してみる価値はあるかも。俺は授業を受けないけどな!!
早けりゃ夏休み明けにでも始めるか。
【それがいいかもね~。あ、そろそろ切るね】
……なんだろう? このなんとなく電話かけてみたみたいな対応は?
単に暇だから? それとも何か言いたいんだけど、言えずにごまかしてるだけ? 今度何かを詳しく話すって言ってたし、その時に聞いてみるかな……。
「あの。本当に予算とか大丈夫なんでしょうか? 資金不足で学校が運営できないとかないですよね?」
「このペースで使っても、千年以上潰れる事は無いぞ。毎年入ってくる金も膨大だからな」
「そういえば他でも稼いでると言われてましたね」
「人口が増えれば塩の消費も増える。他にもいろいろあるからな」
不労所得も相当な額だ。
足りない所に小麦も卸してるしね。というかさ、どう考えても俺の安い小麦なんかを家畜の餌にしてるとしか思えないんだよな。今は牛の数や価格を安定させる為に割と採算度外視で増やしてる最中なんで、馬鹿みたいに餌食わせてるらしいし。
そのうちあの餌も自力でなんとかして貰わないとね。
「料理大会の告知はもう済んでいますが、エントリーはいつから受け付けますか?」
「夏休み前に第一次受付。夏休み明けに校内で一次予選をして、屋台の数を十に絞らないといけない。俺は別枠らしいがな」
「理事長が正式エントリーされたら、その時点で勝負が決まるじゃないですか」
「いろいろルールが細かいからそこまでの物は出来ないぞ」
とはいえ、出汁の取り方ひとつでも流石にレベルが違うし、生徒と一緒ってのはかわいそうだけどね。一応屋台は出すよ?
「……それでもただ焼いた料理は出さないでしょ?」
「数を売らないといけないから、そこは考えるかな」
「絶対に普通じゃない料理を出してくるよね? そこは予想できるんだ~」
ほぼ本職になりかけてるし、元の世界でも割と料理の数は熟してるからね。
夏場だとかき氷とかでも勝負になるけど、流石にアレを出すと反則な気はするしな。
「第一回合同料理大会に関しては後日話し合いを行いたいと思う。生徒が主体の大会だけど、教師枠も二枠まで用意する。それで夏休みの話だが今は夏限定のバカンスとかも少ないけど故郷に帰って家族と久しぶりに顔を合わせるとか色々あるだろ? やらかした数々の武勇伝を家族に語って貰いたいけどな」
「それは多分黙ってるんじゃないかな?」
「あの、追加の反省文がこれだけ……」
「夏休み明けに一般常識の授業を追加する!! 時間割は夏休み中に変更だ!!」
なんで一週間で反省文がこんなに増えるんだよ!!
校則が厳しい? いや、これでもかなり甘くしてる筈だぞ。髪型とかに制限はないし、服だって制服を大幅に改装しなけりゃ見逃してる。
「例の一件以降、魔法の練習に熱が入ってまして」
「入り過ぎだ!! って、あのレベルの魔物には勝てないって言ったよな? まさかあのレベル目指してるんじゃないだろう?」
「そのまさかでして……」
「今度雷牙呼んで模擬戦でもやって貰うか? 実力の差が身に染みるぞ」
あいつは魔法防御力も高いからあのアナグマと似た真似もできるだろう。俺も同じ真似ができるけど……。
「それはまだ早いと思うよ。生徒のやる気を潰さないでもいいでしょ?」
「あのやらかしの数々をやる気の一言で済ませるのはどうかと思うけどな。この一年は大目に見るけど、来年以降は厳しくいくぞ」
「わかりました」
この街に住んでる生徒は問題ないとして、夏休みに故郷に帰ってそこでやらかさなきゃいいけどな。
ホント、学校運営がここまで面倒だとは思わなかったよ。
でも、この世界の未来の為だし頑張るしかないか。
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