第二百三十五話 本当にこの世界は魔素とか魔力で支えられているんだな。魔力が無かったら成り立たない要素が多すぎる
この話から新章になります。
楽しんでいただければ幸いです。
例の魔物事件からひと月経って夏になった。と、いっても今は七月。この世界は十三月まであるから丁度今は一年のど真ん中という事になる。
暖かいというかもう十分に暑くなって来たからヴィルナは割と家の外に出るようになったし、シャルは冷房を付けろとおねだりをするようになった。夏の間だけヴィルナの授業の回数を週三にしたんだけど、他の授業と違って何故か大人気だったりする。
雨期といえない雨降りの時期は本当に短く、一年通して本当にこの辺りって雨が降らないんだよな。よく植物が育つもんだよ。
「地下の大水脈と水を生み出す魔道具のおかげじゃな。この辺りは魔素も濃いし植物も動物もよく育つのじゃ」
「本当にこの世界は魔素とか魔力で支えられているんだな。魔力が無かったら成り立たない要素が多すぎる」
「ソウマのいた世界の方が不思議なのじゃ。ほとんど魔力が無いという話じゃったか? いったい何を使っておったのじゃ?」
「電気かな? 便利さでいえばこの世界でいう所の魔力に近いんじゃない? 石油の存在もでかいけど、多分あの世界は電気で支えられてると思うよ」
生活を助ける便利な家電製品もそうだけど、光を生み出したり音を生み出したり通信技術に使われていたりと本当に使い道が多い。
電気の無い生活なんて想像もきないしな。
「どの世界にもその世界を支える力があるものじゃな。でなければその世界は滅んでおるじゃろう」
「俺も他の世界は知らないけど、その世界で色々あるんだろう」
「このモニターや映像装置もそうなのじゃろ?」
「それは別の異世界産だな。元の世界のは電気だけどそれは魔石の魔力で作動してるみたいだ。魔力を媒体にして俺のいた世界並みに進化してる場所もあるって事だろう」
アイテムボックスというか、ワールドリンカーの力で作り出された寿買に繋がった世界は本当に色々進んでいる。
魔力や魔石で作動する家電製品もそうだけど、元の世界より凄いんじゃないかって商品も多い。
多分使われている魔石が同サイズの電池よりはるかにエネルギーを有してるから、設計時点でかなり余裕があるんだろうな。デカくて重い電池は荷物というかじゃまになるだけだし。
「という事はこの世界で使えるんじゃろ? あ奴らが欲しがるのも無理はなかろう」
「あの結婚式の時、雷牙の家に俺達が集まったから大丈夫だと思ったんだよね。どうしてこれが映像機器だってばれたんだ?」
「わらわがあの時にこの作品を流したからじゃな。結婚前という事じゃったし丁度良いと思ったのじゃが」
おまえかぁぁぁぁぁ!! ったく、ヴィルナが原因って思わなかったよ。あの日はここでガールズトークしてたんじゃないのか?
「これが映像機器だと分かれば、そりゃ雷牙や土方は欲しがるよな。今まで時間潰しなんて何をしてたのか不思議なくらいだし」
「本でも読んでおったのじゃろう。大人は賭場や花街に行く事も多かろうがな。酒場という選択肢もあるが、この街はあまり良い酒が出回っておらぬじゃろう?」
「雷牙の奴も今は賭場はともかく花街は無理だろう。それに今は土方もそこまで時間はとれないだろうしな」
土方の方は下手をすると朝から晩までいろんな現場を駆けずり回ってるそうだ。あいつにもレッキングブレイブ用のバイクと車両を渡してあるし、アレをフル活用してるみたいだね。
以前男爵に割と大き目の借金をして逃げてたらしいが、利子も含めて全額返済して今は余りある給料をもらってるらしい。あれだけの大規模な工事の総責任者らしいからな。
「家であの小娘と過ごすきっかけが欲しいのじゃろう。本を読むという手もあるが、それじゃと時間だけは消費できるが相手はほったらかしじゃしな」
「俺も料理や仕事に没頭してる時にヴィルナを放置してるのは悪いと思ってるんだけどね……。特に料理の時は」
「わらわはそれ位理解しておる。シャルはたまに構って欲しそうにしておるがな」
「なぁぁぁぁん♪」
「シャルは寝てる時の方が多いだろ。たまに起きてくると甘えてくるけど」
「流石にわらわも心配になるくらい寝ておるのじゃが。魔法学校でも寝ておるのじゃろ?」
「おかげでもうひとりの理事長先生って呼ばれてるな。いつも俺の椅子の上で寝てるから……」
今学校では俺の事を勇者先生呼びで、シャルが何故か理事長呼びされている理不尽。理事長室は立ち入り禁止なのに何故かシャルは生徒や教師に人気なんだよな。
「それはそうとさっきの話じゃが、あの男にこの魔道具を渡すのか?」
「これは既にファクトリーサービスで生産してるからあげても問題ないんだけど、映像ソフトの方がな……」
流石にコピーって訳にはいかないし、転売って扱いも微妙なんだよね。他に売ったりできないものだけどさ。
【私たちがあげた分は問題ないんじゃないかな? 新品がいいんだったらもう一度送るけど】
それは助かる。
流石に映像ソフトはファクトリーサービスで生産できないし、寿買で買った商品は転売とか譲渡がしにくいからな。
【今までかなりお世話になってるし、お安い御用だよ】
お、色々送って来てくれたな。……ライジングブレイブシリーズもあるんだけど。
【そのうち必要になるんじゃないかな? 多分あの人たちが来た世界とはまた少し別の世界になるんだけどね】
そりゃそうだよな。
こっちの作品だと雷牙達がどこかに飛ばされたりしてないからね。おおまかな流れはなぜか同じみたいだけど、細かい部分に割と違いがあるんだ。
【今度時間がある時にいろいろ話したい事もあるし、今日はこの位にしておくね】
映像ソフトありがとう。今度またいろいろ送っておくよ。
カレーとかの料理は週一ペースで大量に作って欠かさずに送り続けてるけどね。
「色々話があるんじゃな」
「今回は色々助かったよ。この辺りの映像ソフトを付けて今度雷牙達にプレゼントしてやろう。この間のドクター狂術師の件ではお世話になったし」
「今まで何度か見た作品ばかりじゃな。この辺りはよかったのじゃ」
「にゃぁぁぁぁぁっ♪」
「それに出てきた料理を凄いおねだりしてきたからな。パッケージで覚えてたのか」
この巻の話に出てきた料理は確か鰻だったか? スッポンも出てた気がするな。
時代劇だけどやたらとおいしそうな料理が出てくる作品だしね。
「これだけの物を作る世界もすさまじいのじゃがな。作り物とはいえ本当に人が暮らしておるような話ばかりじゃ」
「この映像作品のひとつひとつにはさ、資料の山からその時代の風俗とか色々調べてそれを違和感がないレベルで再現したり少しでも楽しんで貰おうって考えて作った人の情熱とかたくさん詰まってるからね」
何十年経っても色あせない名作も多いし、人の人生を変えるくらいの名作も多い。
俺もあの作品にはずいぶん心を助けられたけどな。その人物にまさかこの世界で本当に出会えると思わなかったけど……。土方は原作と少し性格が違ってたけどね。あそこまで借金重ねる奴だと思わなかったし。
「だからこんなに心を引き付ける作品が多いのじゃな。この世界でも、そのうちこういった作品が出来るようになるんじゃろうか?」
「この世界にもすでに小説はあるし、それを映像化する流れが生まれてくるだろうね。その為の機械というか魔道具はまだ作られてないけどね」
「いずれソウマはそこにも手を出すつもりじゃろ?」
「流石にそれはわからないさ。こんな物を持ってるとあいつに知られない限りはね」
異世界から来てる雷牙達は問題ないし、エヴェリーナ姫もそこまで他言しないだろう。
スティーブン辺りがこれを知ったらまた変な動きをするかもしれないけど、俺が持ってる魔導カメラとかの開発はそう簡単には出来ない筈。
「さて、それはこの世界が平和になって来てからかな?」
「あの男が気が付けば、おそらくもっと早い段階で実現するかもしれんのじゃ」
「機材の製作、役者の育成、そしてその映像を作り上げる多くのスタッフ。そんなに簡単に実現は出来ないだろう。でも、そうしてできた映像は多くの人に希望や夢を与えるよ」
その前に、あの敵を倒さないとな。
平和になって、そしてみんながこうして楽しめる時間がくればいいんだけど……。
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