第二百三十二話 ミウッチャ!! グアルディ!! イドゥベルガ!! それにファルネーゼか!! その魔物から離れろ、相手との力量は測れるようにしないと冒険者家業はきついぞ!!
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楽しんでいただければ幸いです。
今朝確認した破壊痕跡のあった方角の森。
その奥からアナグマっぽい姿の馬鹿でかい魔物が姿を現してるけど、アレ見た感じただの動物っぽいし戦闘種とか破壊獣種の類じゃないよな? 戦闘種や破壊獣種はもっと禍々しいデザインになってる筈だからね。とはいえ、下手すると暴君鮮血熊クラスの魔物の可能性がある。
雷牙がこの場にいないって事は、森の奥にも何かいたのかもしれないな。あいつがそっちを優先するって事はそっちが本命か。
「ミウッチャ!! グアルディ!! イドゥベルガ!! それにファルネーゼか!! その魔物から離れろ、相手との力量差は測れるようにしないと冒険者稼業はきついぞ!!」
「勇者理事長先生!! 大丈夫、私たちでもこの位の魔物は……」
「ミウッチャ、火炎系の魔法は森だと使えない。風系か土系の魔法だけど大丈夫?」
「大丈夫。……斬風!!」
「え? ミウッチャってもう斬風まで使えるの? 流石にアレを喰らえば……、って、うそでしょ!!」
「爪のひと薙ぎで魔法をかき消した!!」
魔法を無効化した超巨大なアナグマは爪をめんどくさそうに振って全然効かねーぞアピールまでしてやがる。
あのアナグマ、爪に魔力を込めて斬風を正面から叩き潰したのか。生半可な魔法は通用しないと考えた方がいいだろう。
「まだだ!! 周りの木が燃えたら水魔法で消火するから炎系で焼き殺すぞ!! 火炎弾!!」
「炎華菊!!」
「火炎弾!!」
「体毛すら燃えてない……。なんて高魔力な魔物なの?」
「魔法防御力が異常だな。そろそろグアルディたちを下がらせろ。避難させないと危険だ!!」
「わかった。もういいでしょ? あの魔物はあなたたちじゃまだ無理だって。あれだけの魔法を受けても火傷ひとつ負ってない化け物なんだよ」
馬鹿でかいアナグマだと思ったけど、やっぱり暴君鮮血熊に近い化け物か。全身から漂う威圧感というか気配がアレと同じ感じだったから嫌な予感はしてたんだよな。
「あの魔物の力は十分にわかっただろ。すぐに避難しろ。ここは俺が何とかする」
「勇者理事長先生が?」
「あれだけ魔法防御力が強力だと、あの銃でも絶対勝てないよ。どうするつもりなの?」
「俺にはいくつも奥の手があるのさ。どんな敵がいても大丈夫、あんなでかいだけのアナグマに負けはしない」
変身しないでライジングブレイクを使っても倒せると思うんだけどね。生徒たちの安全も確保しないといけないから一応念には念を入れないと。
確実に仕留められるようにな。
「セットブレス、鞍井門颯真」
【セット、鞍井門颯真。アクセス。セットアップ完了】
「究極の勇気は斬撃と共に!! ブレイブ!!」
【アルティメットブレイブ。スラッシュフォーム!!】
変身用防護フィールドが展開されてベルトから発生した特殊な粒子が時空を歪めて、身体を特殊なスーツで包み込んでゆく。
スラッシュフォームはアルティメットブレイブに七代目ブレイブのサムライブレイブの能力を上乗せしたフォームで、このデザインは割とかっこいいというかバランスの取れた姿なんだよな。
ベーシスフォームより全能力が格段に上がってるから、クラッシュ系の必殺技を使わなくても勝てるはず。使えば一撃だけど……。
「なにあれ?」
「一瞬で鎧みたいなのを身に纏った?」
ダリアたちは変身してる間に少し後方に下がったけど、あの位置だとまだ危険だな。
特に俺の攻撃で。
「早く避難しろ!!」
「はい!!」
くそ、あいつらがあの距離にいるからアルティメットクラッシュは使えない。余波もかなり広範囲に及ぶしな。
斬撃を仕掛けてあの魔物にダメージを与えておくか。
「無衝炎斬。真・閃光斬!!」
無衝炎斬を呼び出してアナグマの右手を斬り落とす!! ついでにそのまま脇腹に斬りつけたけど体毛に阻まれて両断する事が出来ない!! って、硬すぎだ!!
「グォォォォォッ!!」
「恐ろしいくらいに硬い体毛だ。これ使って腕しか落とせないってどうよ? こいつ暴君鮮血熊以上の魔物か!!」
流れ落ちる血は紫色だしな。少なくともこの世界の魔物じゃないだろう。
……嘘だろ!! 腕が再生した?
「……魔力の流れが分かる。胸の奥、心臓の辺りから魔力を送って腕を再生させてるのか」
ダリアたちはかなり離れたな。距離的にはちょっと不安だけど。
「これだけ離れればとりあえず大丈夫かな? でも、急いで魔法実験場に向かうよ」
「わかりました……。アレなんでしょうか?」
「雷? 雷撃系の魔法まで使えたの?」
本当はブレイブ用の武器で使う技なんだけど、この武器でも十分すぎる位に代用が可能だ。ホント謎の多い剣だよ。
俺が必殺技の体勢に入っただけで何処からともなく発生した雷が巨大なアナグマを拘束し、その場から一歩も動けなくする。この技だったらあそこまで下がったダリアたちには影響がない……、筈。
全身ホコリまみれ位は笑って許してくれるだろう。
【ライジングブレイク・マキシマムバスターの使用が可能です】
それって劇場盤限定の超強力モードだよな?
……それだとダリアたちの所まで衝撃波が行かない?
【目標の撃破と同時に着弾地点に牢獄型多重絶対防盾を展開しますので、撃破後に周りへの影響はありません】
ああ。劇場版の時に街中で使って影響がなかったのはその為か。設定資料集にも載ってなかったぞ、それ。
……よし、問題ないんだったら、これでトドメだ!!
「ひぃぃぃっさぁぁぁぁっ、ラァァァァイジィィィング、ブレイクッ」
無衝炎斬を上段に構えると、そこから撃ち出されたぶっとい雷が天を貫き、俺の周りを金色に輝く何かが漂い始めた。
なんだこれ? この技って実際に使うとこんな感じなのか?
「マァァァァァァキィシマム・バァスタァァァァァァァァァァ!!」
目を焼きそうな程の閃光!!
すべてを破壊する七色の雷が巨大なアナグマを貫き、胸の奥に埋め込まれていた何かを木っ端微塵に破壊した!!
牢獄型多重絶対防盾内に物凄く身体に悪そうな色の閃光が満たされ、それが収まるとそこには小さなアナグマが鎮座していた。……って、アレなんだ?
「もしかして、身体の中に何か埋め込まれて巨大化していたのか? ん?」
森の方に何かいる……。というか、アナグマだな。しかも数匹。ただのアナグマだし、アレを討伐ってのもね……。
あ、元の姿に戻ったアナグマがそっちに走って行って、いっかい頭を下げてそのまま森の中に消えていった。っと、ブレイブフォンに着信? 雷牙か。
「おう、そっちも無事か? もうすでに倒したが、こっちにはドクター狂術師がいた。敵の科学者だった奴だが、どうやらこいつでこの世界に来てた幹部連中は最後みたいだ」
「そいつがいたのか。……馬鹿でかいアナグマを倒したら元の姿に戻ったんだが、何か体の中に仕込まれてたみたいだ」
「入手した書類を見る限り、この辺りの拠点である地下基地を作るのに使った現地生物だな。アナグマとはいえ、敵としての力を失って助けられたんだったら問題ないだろう」
汎用戦闘種と違って助けられるパターンだったって事か。
あのアナグマの家族のもとに帰りたいって執念が、そいつの改造手術の洗脳よりも強かったのかもしれないが。
「そっちは大丈夫なのか? 自爆装置とか」
「ああ、もう書類を回収して地下基地から離れた。地下基地だとブレイブフォンも使えなくてな」
「なるほど。それじゃあこの辺りの脅威はもうなさそうだね」
「とりあえずそっちに向かう。大きな問題が起きる前にこいつらを処理できてよかったぜ」
本当にな。あのアナグマは単に敵に利用されてただけみたいだったし、殺さずに済んでよかったな。……あの破壊痕跡ってもしかしてあのアナグマの縄張りの主張? だったらここが俺の縄張りって理解しただろうからもう二度と姿を現さないだろうね。
それに今回の戦闘はグアルディ達にもいい薬になっただろう。誰も傷付かずに絶対勝てない戦いを経験できたんだ。その経験を生かせば、誰も死なせずに済む戦い方が出来るよ。
「変身解除!! さて、どうするかな」
ここで雷牙を待たないといけないだろうけど、避難してる生徒たちにも安全になったって教えないと。
どうしたものかな?
「クライド!!」
避難してた筈のダリアたちが戻ってきた。
……もう安全だからいいけど、少し早いんじゃないか?
「ここでは理事長先生だろ? 教頭先生。あのかわいそうなアナグマはもういない。今回の事件の元凶も雷牙が倒したからもう大丈夫だ」
「そんな事どうでもいいよ!! あれが奥の手? すっごい力なんだけど!!」
「なんなんですかあれは? 私たちの魔法で傷もつかなかったあの魔物が、あんなにあっさり……」
「見てたのか。アレは俺たちが誰かを守る力さ。言っただろ、どんな敵がいても大丈夫って」
ちょっと違ったかな? だけど俺たちは誰かを守る為だったら何処までも強くなれる。アルティメットブレイブのフォームは少ないけど、誰かを守る為だったら最終フォームまで進化してみせるさ。
「アレが……、勇者の姿」
「かっこよかったです!!」
「それよりもだ、魔法実験場に避難した生徒たちに安全になったって伝えてくれないか? もう大丈夫だけど、この後どうするかは教師陣と話し合って決めてくれ」
「わかった。今日の授業は中止して半日休校になりそうだね」
「それも仕方ないだろうな。俺はここで雷牙が帰ってくるのを待つ。先に行っててくれ」
「「「「は~い」」」」
あのアナグマの毛皮とかも手に入れば強力な防具とかにできたんだろうけど、それよりもあのアナグマを殺さずに済んだことを喜ぼう。
ドクター狂術師か。
穀倉地帯の森で見つけた怪しいアイテムも、そいつが作り出したモノかもしれないな。
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