第二百二十八話 基本的に学生証にチャージできるだけにしただろ? 街で使う分のシェルは? 流石に街の商会じゃあの学生証のシステムは対応してないぞ!!
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
最近、最初のイベントでばら撒いたシェルを使い切り、次のイベントを心待ちにしている生徒の数が増えた。って、前回ばら撒いたシェルもひと月で使いきれる額じゃないだろ? いったい何につかったんだよ!!
「ああ~。休日に街に出ていろいろ欲しい物を買いこんじゃう生徒が多くってさ、お金の使い方を知らないから一気に……」
一気にって、基本的に個人で掛け売りなんてしないから現金を持ってないと買い物なんてできないだろ? かなり信用のある個人商人ならともかくさ。
「基本的に学生証にチャージできるだけにしただろ? 街で使う分のシェルは? 流石に街の商会じゃあの学生証のシステムは対応してないぞ!!」
「領外から来たほとんどの生徒は親から持たされたお金とかを使いこんじゃってるみたいだね。伯爵家とか子爵家の生徒とかはお小遣いも持たされてる場合も多いんだけど、そうでない子は……」
その危険性があるから学生証とか職員の資格証にチャージするシステムにしたんだよな。アレにチャージさせてれば最悪でも食うに困る事は無い。
購買でもいろいろ取り扱ってるし、頼めば取り寄せもできるから本とかは買えるからいいやって思ってたけど、ちゃんと支払えるって証明したら割と何でも取り寄せ可能なんだよね。流石にそこまでチェックしなくていいと思ったから俺に知らせなくていい事にしたんだけどさ。
下着類をはじめとする他人に知られたくない買い物もあるだろうし。
「まさか生徒間で金の貸し借りをしてるのか? 校則にも割と厳しく取り締まる旨を書いていたはずだぞ」
「初めは少額だったみたいだけど、ほら、チャージ分を担保にしてやり取りしてるみたいでね~」
「やり方次第でポイントの受け渡しも不可能じゃないしな。まさかひと月でそこまでやらかすとはおもってもみなかったし、この前の定例意見交換会だとその議題は上がってなかったよね?」
「発覚したのがつい先日だからね。様子がおかしい生徒がいたから話を聞いてみたんだ~」
なんでも、他の生徒によそよそしい態度の女生徒を見つけて話を聞いたところ、割と多めの借金をこさえていたみたいで、その女生徒は学生証で買える品を渡してそれで借金を少しずつ返済してたそうなんだけど。
「相手が受け取らない? いや、途中から受け取らなくなった?」
「たぶんワザとだと思うんだ~。その子は才能があるけど出身が没落した貧乏貴族でさ~、何とかこの魔法学校に入学できたんだけど仕送りとかは授業料とかで精一杯だったみたい」
「受け取らない子の方は?」
「割と裕福な伯爵家。問題なのは娘に大量の金貨持たせる馬鹿親かな?」
一枚一千万円の金貨にしたのは大金貨だと本気で使いにくいからだろうな。小さくても穀倉地帯持ってる所とか岩塩の産地持ってる貴族領は割と金持ってやがるしな。
王都に別荘とかを持ってた貴族どもはあれだけ以前お菓子とかで金を吸い上げたのに全然こたえてねえときた。平気でお菓子を一枚食べる毎に銀貨食ってるような真似しても平気だった連中だしね。今まで碌な商品が無かったから、割と金庫に莫大な金を貯めこん出やがるんだよね。
「この街の物価が高い事も知ってるだろうし、いい物が本当にいろいろ揃ってるのも知ってるだろうからね。その貴族と同じ感覚で買い物なんてしたら速攻干上がるだろ。買う前に分からなかったのか?」
「そこまで高額な商品なんて見た事なかったみたいでね。商品を見る目はあったみたいで」
「商品がいい物って価値は分かっても、そこまで高額だって理解できなかった訳か。そりゃ商会の人間も貴族相手だったら幾らでも高額商品薦めるよな」
学生も確かに多いけど他の貴族領から観光やグルメ旅行に来る子供もいる訳だし、貴族の家族や子供は外国産の珍しい商品とかこの街で売りに出されるようになった白磁のティーセットやガラス工芸品も買っていくしね。
その金は最終的に工房にも回って、腕のいい職人には高額な報酬が支払われてる訳だ。だからやる気のある職人はどんどん技術を吸収して腕を上げてるんだよな。
「この件は放課後の教員会議の議題にしようと思うんだけど、色々根が深いんだよね。故郷から期待されて送り出されてるのに四組とか三組だとさ……」
「借金をこさえたのは一組の生徒か?」
「正解。あ、ギュンティ男爵領の子たちじゃないよ。あの子たちは割と金銭感覚も凄くってさ、この前の賞金で卒業まで食べていけるように計画まで組んでるみたい」
あいつらは本当に優秀なんだよな。
正直ギュンティ男爵領に戻らずにこっちで色々活躍して欲しいくらいだ。それが不可能なのは分かってるけどさ。
「今回の件は対応可能な額であれば学校が立て替えて、借金をした生徒はチャージしたシェルから少しずつ返済。一発退学にはしないけど、厳重注意処分だな」
「話し合いでまとまらなかったらその話を出してみるよ。まだ教師同士でも意思の疎通が完全じゃないからね。だからこの事件の発覚がここまで遅れた訳だしさ」
「物事を教える教師として優秀でも、人格的にはやや難がある奴も混ざってるからな。分かった、俺が口出しをするのはどうにもならなかった場合の最後にする」
「みんな手探りなんだと思うよ。理事長先生みたいに全部お見通しって訳じゃないでしょ?」
「俺にだって予測不能な件はあるさ。いきなりひと月でここまでやらかす金遣いの荒い生徒がいるとは予想してなかった」
金持ってる貴族領の連中から見れば、ここは宝の山だしな。
学生ってもう少し節度を持って……、いや、元の世界でもやらかす先輩は割といたよ。色々伝説も残してくれたし。
「みんなこうしてひとつずつ覚えていくんだよ。世界って狭いようで広いじゃん。自分の見てきた世界なんて、外に出たらこんなに広大なんだしさ」
「確かにな。だけどお金の問題はそんなに簡単な事じゃない。そこだけは厳しく言うようにしてくれよ」
「了解。今回の件はこっちでなんとかしてみるから、理事長先生はどんと構えてて」
「報告だけは後で頼む。しかし、そこまでクラス分けで凹んでる生徒もいるのか?」
「大貴族の子とかは特にね。実力差も見せつけられちゃってるから上のクラスで通用しないのは薄々感づいてるみたいだけど、それが変な感じに拗れちゃったんだろうね」
そりゃ、最初の時の実技で割とその差はあったからな。
でも、ミウッチャクラスでもなけりゃそこそこ近いレベルには行けると思うんだけど。流石にあの子と同レベルになるには苦労するだろうけどさ。
「もしかすると魔力コントロールがうまくいってないのかもしれないな。ヴィルナに指導して貰えばある程度は改善すると思うけど」
「へぇ~。ヴィルナってそんな事が出来るんだ」
「俺もヴィルナに教えて貰って魔法を使えるようになったしね。ただ家を空けるとなるとシャルが問題だな……」
「グリゼルダさんに預かってもらえば? 男爵もいつでも預かるって言ってくれたんでしょ?」
「あそこに預けるとグリゼルダさんが仕事にならないんだよな」
グリゼルダさんがあそこ迄猫好きだと思わなかった。
本当に仕事にならないレベルでシャルの相手をしてくれるんだよね。カロンドロ男爵も割と諦めるレベルだ。他のメイドさんも優秀だから何とか仕事は回るみたいだけどさ。
「おいてくるとか?」
「半日くらいだと大丈夫かな? それ以上だと寂しがる」
「連れてきちゃえば? 理事長先生だったら移動用の籠とか持ってるんでしょ?」
「後はそうするかだね。理事長室から出さなきゃいい訳だし」
暇なときはほぼ寝てるしな。
トイレと爪とぎも持ってくりゃいいか。
「職員会議でその話もしておいてもらえるか? 今夜にでもヴィルナにも確認を取っておくし」
「ヴィルナをみたら、生徒たちもいろんな感情が爆発しそうだけどね」
「それは仕方がないだろう」
胸のサイズがね……。流石に魔法学校には同じ位の生徒も教師も存在しない。
一部の女性からは敵対的な視線が刺さるだろうな。ヴィルナは意に介さないだろうけど。
「それじゃあその件はよろしく。あ、今月のクイズ大会はするの?」
「やるよ。楽しみにしてる生徒もいるだろうし、こんな事で中止にはしない!!」
「さっすが。今回は教師の参加ダメなんだよね?」
「流石に今回のクイズ大会は生徒用だしね。そのうち教師も参加できるイベントも用意するよ」
行事予定に乗ってるイベントはフェアじゃないからね。
教師も参加するんだったら、公平にいかないとな。
「あ、生徒の殆どはこの学校に通えてよかったと思ってるだろうし、学生生活を楽しんでるよ。教師もね。こんなに働き甲斐のある学校なんて初めてだって」
「だからこそ、問題の芽は小さいうちに摘んでおきたいんだ。五年後、生徒たちには笑ってこの学校から巣立って欲しい」
「それは大丈夫。私たちも全力で協力するからさ」
その為に最初の一年である程度の問題は対応しないといけない。
二年目以降はそれを叩き台にしてある程度対策は出来るはずなんだよね。それでもやらかす奴はいるだろうけど。
今日の報告を聞いて、それからヴィルナに例の話を頼まないといけないな。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かっています。




