第二百二十五話 月末定例。教職員と生徒会の意見交換会!! って、いつの間に生徒会なんてできてたの? 俺、聞いてないよね?
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楽しんでいただければ幸いです。
魔法学校が開校してはやひと月。といってもまだ四月の最終週で正確にはまるひと月は経っていない。
一部の生徒が演習場兼の魔法実験場で行われた魔法実習時に魔法を暴走させかけた事がある以外は大きな事件も無く、ここひと月は無事に授業も進んで生徒たちも学生生活を楽しんでいるみたいで結構な事だ。
ただ調理実習の授業に関してだけどやっぱりアレンジャーは一定数存在するみたいで、調理実習時に不幸な犠牲者が出たがアレはもう仕方がないだろう。犠牲になったといっても死んでないよ、ちょっと不幸な生徒が寝込んだだけだ。
「月末定例。教職員と生徒会の意見交換会!! って、いつの間に生徒会なんてできてたの? 俺、聞いてないよね?」
「各クラスから代表者を二人ずつ任命。その後、各クラスで役員を決めて最終的に別組織として立ち上げました。理事長先生がその名称を知っていたことが驚きですが」
「よくある名前だからね。たぶん向こうの学校でも同じ組織があると思うよ」
「確かにそういう情報が入っています」
二百人の生徒が学生生活をする為にはまとめ役も必要だしね。貧乏くじな気はするけど、こういう組織で活躍する事が向いてる生徒もいるだろうし。
という訳で今回の話し合いに参加してるのは理事長の俺、教頭のダリア、教師のナディーヌ、トッフォロ。生徒会のファルネーゼ、グアルディ、オルゾーラ、ミウッチャ、オッターヴィア、ドワーフのイドゥベルガ、エルフのヴァレンチナって、一組から選ばれた生徒多くない?
優秀な生徒が一組に多いのは分かるけど、あまりそっちに任せっきりにされても困るんだけどね。生徒の自主性を育てるんだったら、各クラスからもう少し万遍なく集めて欲しいな。次からはそうして貰うか?
「今回は仕方ないけど、他のクラスの代表も最低一名ずつ顔を出させてくれ。今回は調整が間に合わなかったのかもしれないけどね」
「流石は勇者理事長先生。いろいろお見通しですね」
「勇者呼びはもう仕方ないけど、その呼称はもう少しなんとかならないかな? 最近街中でもそう呼ばれ始めてるからもう手遅れだろうけどさ」
先日、雷牙の結婚式の話し合いに付き合わされてフローラ教会に行ったんだけど、その時に司祭から勇者理事長先生って呼ばれたりしたしね。エヴェリーナ姫のドレスとかこっちで用意するものも多いし、話し合いに同行するのは仕方なかったんだけどさ。
「何か問題が?」
「……次の議題に入ろうか」
すでに何が問題なのか分からない時点で手遅れだ。
勇者呼ばわりももうあきらめてるけど、理事長って部分と融合させるのは勘弁してほしかったんだけどね。学校なんだから理事長先生呼びでいいじゃん。
「そうだね、諦めが肝心かな~? とりあえずひと月ほど授業を行ってきたけど、何か問題は起きてないかな? 要望に関してはいくつか届いてるし、対応可能なものは既に対処してるけど」
「魔力格差といいますか、まだひと月ですが各クラスで生徒間に使える魔法で差が出始めています。無理をして追いつこうとして暴走しかけた生徒もいますが」
先日の魔力暴走事件ね。無理に魔力を乗せようとしたら暴走するに決まってんだろ。
魔法実習場は丈夫に作ってあるし、保健室にも万が一の時用に再生の秘薬なんかを大量に保管してあるから余程の事が無い限りは大丈夫。いざという時にはエリクサーもある。
「魔法はそれぞれのペースでコントロールするしかないよ。過ぎた力は誰も幸福にしないからね」
「授業でそのあたりを注意していこうと思います。まだ勉強を始めてひと月です。あと五年あるのですから焦る必要なんてありませんから」
「実戦を経験すれば当然色々身に付く事も多い。既に魔物と戦った経験がある生徒も多いし、実戦経験も無くその生徒と同じ位置に立とうとするのは無理だ。でも、少しずつ自分の得意な魔法を練習して追いついていけばいいよ」
戦うだけが正解って訳じゃないけど、やっぱり実戦経験の有無は大きい。
これに関しては住んでいた貴族領とかの状況次第だし、何が正しいって訳じゃないんだよな。
「まだ本格的に魔法の勉強を始めてひと月ですからね。教えている基礎をしっかり覚えて、それから上を目指しましょう」
「わかりました」
向上心があるのはいい事だけど、あまり遠くを見てると足元がおろそかになるからな。
基礎をキッチリ押さえていないと、いざって時に苦労するだろうからね。
「他に何か意見はありませんか?」
「あの……、女性が多いのは覚悟していたんですが、その」
「この辺りも結婚適齢期が早いからな。学生結婚を悪いとは言わないけど、出来る限り卒業までは我慢して欲しいかな。校則にも書かれてたよね?」
大体十五歳前後で結婚するってなると、卒業前後には本当に目星をつけた男子生徒の奪い合いになる。
そうでなくても割と幅広い年齢の子がいる為に、すでに結婚適齢期を迎えてる子もいるんだよな。種族的なものがあるから年齢だけでくくれないんだけどさ。
「将来有望な異性が揃ってますからね。数年後には本気で結婚してる生徒もいそうです」
「誰かを好きになるって事は素晴らしい事だし、運命のパートナーに出会う可能性も否定しない。でも、ここは学校だ。付き合ったりするなとまではいわないから、節度を保った行動をするように」
「理解のある理事長先生で安心しました」
誰かを好きになるのを止められるんだったら苦労しない。
付き合ってデートとかをする事まで規制しないし、その辺りは個々の判断に任せるしかないだろう。貴族とかだとまた事情が違ってくるんだろうし。
「あの、学食のメニューに関して。もう少しデザート類の充実をお願いしたいのですが」
「デザート系に関しては砂糖がネックなんだよな~。今提供してるのは小さいから何とかなってるミニケーキ類かな? 砂糖が安けりゃメニューなんていくらでも増えるけど」
「「「「「幾らでも?」」」」」
ケーキ系だけでも馬鹿みたいに増えるよな。もう生クリームやチーズ類もあるんだし、チョコ系以外のケーキだったらいろいろ作れるよ?
タルト系、パイ系のケーキもいいし、プリンとかババロア系も入れればそれだけで結構な種類が出せる。食堂のシェフのやる気次第ではあるけどね。
「そういえば学食のメニューの殆どは理事長先生が考えたんだっけ? この街の料理の多くもそうだけどさ」
「知らない内に派生したメニューも結構あるよ。煮たり焼いたりは元々あるんだし、そこに手を加えた料理も多いからね」
「今学食にあるメニューはミニケーキ系だけですけど、あの大きさなのはやはり砂糖が高いからですか?」
「その面が大きいかな。あの値段でもかなり値引きしてるんだよ? 他のメニューもそうだけど、学食でしかありえない値段設定だからね」
学食は完全に採算度外視された値段設定だからな。俺が補助金を出しているとはいえ、あんな値段で提供してたら普通はつぶれる。
シェフたちの給料すら払えないって。
「普通のメニューは豊富ですから、何とか増やせないでしょうか?」
「もう少し暑くなったらかき氷くらいはメニューに加えるよ。アレもおいしくていいだろうし、果汁系のシロップを増やせば甘くなる」
スイカはもう既に市場に出回ってるし、果汁を煮詰めたスイカ糖を使ったら甘さは十分だ。後は練乳とかかければ十分甘くなるしね。
「カキ氷ですか?」
「細かくした氷に甘いシロップをかけたデザートかな。カロリーも控えめだし割とお薦めだよ」
「クッキー系は美味しいんですが、確かに体型を気にし始めた女生徒も増えてきましたから」
米飴ってカロリーが凄いんだよ、砂糖とは比べ物にならないレベルでね。それなのに放課後には割と多くの生徒が学食に押しかけて、おしゃべりしながら大量のクッキーとかを食べてる訳だよ。今までは甘いお菓子なんてあまりなかったんだろうから、あの誘惑を振り切るのは無理っぽい。
育ち盛りの時期とはいえ、あの勢いで食べたらそりゃお腹とかに脂肪がつくだろう。
「男子生徒も同じくらい食べてるのに……」
「氣が高いからだろうな。氣が高いと消化した食べ物は脂肪じゃなくてエネルギーとして蓄えられる。だから割と太りにくくなるんだよね」
「ずるいです……」
基本、この世界だと氣の高い男子生徒は女性と同じだけ食べてもすぐエネルギーとして消費するので太りにくい。女性は基本魔力の方が高いので、この恩恵にあずかる事は少ない。一部の例外を除いて。
「エルフやドワーフもおなじですね。彼女たちも全然体型が崩れませんし」
「種族特性だろうね。こればかりはどうしようもない」
最近ジョギングを始めた女生徒が多い。すごく多い。アレはもう執念を感じる走り方だ。
宿舎の風呂は大浴場だし、周りの生徒の身体も目に入るだろうからな。自分のお腹周りとかもばっちり見えるし、周りと比べてどうかなんて一目瞭然だろう。
「デザートの件は考えておくさ。多少高いメニューになる可能性もあるぞ」
「新しい誘惑……。大丈夫、ご飯を小盛りにしてもらえば……」
「今回の議題はこの位かな? 学校で何か困った事があったらまたこうして上げて貰えると助かる。可能な限り対応したいと思うから」
「では緊急の場合を除いてまた来月ですね。投書箱の問題は対応可能であれば先に対処します」
「その点は任せた。話し合わないといけない問題についてはこうして話し合いの場を設ければいいしね」
良かれと思ってやった事がかえって迷惑になる事もある。
生徒には生徒の考えがあるだろうし、教師にも職場を良くしたいって思いがあるだろう。
お互いに歩み寄っていかないといけない事もあるだろうし、こればかりはその問題が起きてみないと分からないからね。
俺にできる事だったら協力はするし。
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