第二百二十四話 そろそろ雨が多くなる時期なんだよね。半月くらいは小雨が多くなるらしいし魔導車で通う機会の方が多くなるんだろうな
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楽しんでいただければ幸いです。
休み明けの月曜日。毎日学校に顔を出さなくてもいいんだけど、一応もう少しの間は頻繁に顔を出した方がいいだろう。自分で引き受けた仕事だしな。
魔導車を走らせて今日も街の南側に建設された魔法学校へと向かう。人工知能が超優秀なので事故が起こる可能性は無いから安心して通えるってもんだ。
【流石旦那。毎日修復機能で内部も外部もピッカピカにしてくれるだけありますぜ。最高の状態で予測が出来ます】
毎回新品状態にしてる訳じゃなくて、故障してたり悪くなった部分を治してるだけらしい。状態は最高に仕上げてあるので新車状態と同じかそれ以上だ。
「そろそろ雨が多くなる時期なんだよね。半月くらいは小雨が多くなるらしいし魔導車で通う機会の方が多くなるんだろうな」
土砂降りってのは滅多にないみたいだけど、パラパラと鬱陶しいふり方をするんだよね。しかも結構長時間降り続ける。
学校までの街道は土が剥き出しじゃなくてかなり深い場所まで掘った後でキッチリ石を敷き詰めて作られた立派な街道だけど、まだまだ土が剥き出しの街道も多いしな。ここ最近は土方が指揮を執っているからそのうちアスファルト的な何かで舗装し始めるかもしれない。
◇◇◇
廊下を歩くとこんな時間から登校してる生徒の姿がちらほら。まだ始業時間まで一時間近くもあるからこんなに早く出て来なくても……って、あれ?
「はい!! まだあるから並んで注文!! そっちがカツサンドセット。そこがホットドックセットだね」
「私はサンドイッチセットを!!」
「よっしゃ!! カツサンドセットゲットだ!!」
この時間から購買部が開いてて、生徒はそこで朝食を買ってたのか。街で食べるより安くておいしいからこれも正解かもしれないな。
「あ、勇者理事長先生!! おはようございます」
「勇者理事長先生!! おはようございます」
「ああ、おはよう」
うん、もう呼び方についてはあきらめよう。ほとんど全員、同じ呼び方してるもんな。しかし、本当に元気いっぱいって言うかあの年代の子供たちって活気に満ち溢れてるよね。挨拶をするだけで思わず笑顔がこぼれそうだ。
ん? 廊下を早足で駆け抜ける一団が?
「早くいかないと売り切れるかも」
「学食で食べる方がいいよ。ちょっとボリューム多いけど」
「あそこも朝早くから開いてるもんね」
……そういえば学食はモーニングセットをやっている。パン系のメニューとスープと軽めの副菜付き。飲み物も確かハーブティー系か何かがついてた筈。珈琲もあるけどあまり受けてないんだよな~。普通のメニューも作ってくれるけど、朝からあのボリュームは少しきついだろう。
ん~、食堂も朝から割と混雑してるな。食堂のシェフがシフト制でこの時間からもうやってるんだよね。宿舎に住んでるけど料理が出来ない教師の為って面も大きい。割と多くの教師がこの時間から利用してるし。
「唐揚げ定食とライトブクを一つお願いします」
チャレンジャーか!! 学食で朝からライトブクを頼むって何処のどいつだ?
ああ、イドゥベルガか。ドワーフにとっちゃライトブクなんてジュース代わりだよな。元々ここで提供してるのはワインも含めてアルコール度数少ないし。この世界は飲酒制限なんてそもそも存在しないけどね。
「理事長先生おはようございます。グアルディたちは宿舎の食堂で食べるそうなのですが、こっちの方がメニューが豊富なので……」
「おはよう。そこは好きにしたらいいと思うよ。向こうはアルコール類がほとんどないし」
流石に学生用の宿舎の食堂にアルコール類は置いてない。メニューに一応ワインはあるけど、本当に水代わりというかほぼ水なんだよな。アレをワインって言うのはかなり問題がある。百パーセントぶどうジュースに水を入れたみたいなワインだぞ。本当に発酵させているのかさえ怪しい。
「ドワーフにとってお酒は命の水なので、ある程度は摂取したいんです」
「授業に支障の無いレベルだったら問題ないよ。種族的な問題は投書して貰えれば出来る限り対応するから。むしろそういった意見はどんどん発信してくれると助かる」
「ありがとうございます」
エルフの生徒とかは何でも食べてるし、別に植物だけって訳じゃないんだな。
エルフが比較的多いのはどこの貴族領だったか忘れたけど、それでも全校生徒で十人くらいしかいないんだよね。ほとんどが人族か混血でもクオーターどまりだし。
別に髪の長さとか服装とかに細かい決まりはないけど、そこまで弄る生徒もまだいないからしばらくは大丈夫だろう。髪の色なんてもう初めからいろいろだし、そこに何か言うつもりもないしな。
◇◇◇
本格的な授業が始まってすでに一週間が経過した。今日が終わればまた連休だ。土曜日に自主的に出てきてる生徒も割といるようで、お互いに分からない事などを教え合っているそうだ。
通常授業が始まると俺はこの学校では本当にやる事が無い。いきなり書類が積みあがる訳でもないし、生徒たちからの要望書なんかは他の教師がまずチェックして簡単な物は彼らが対応することになっている。教師の人数も多いから今は十分に対応が可能だしね。
そして先日の様に生徒の実力をみるようなイベントでもない限り、俺が授業の様子を見る必要もない。つまりこの理事長室で暇を持て余すという事だ。事実この一週間はここで特に意味のない書類を眺めていたりする。
次のイベントというかクイズ大会については予選は見守るだけだしな。準備もイベントの進行も教師陣がやる事になってるし、俺は賞金とかを工面するだけと来たもんだ。
「開校したばかりだしいろいろ問題が起こると思ってたんだけど、割と優秀な生徒ばかりだからそこまで問題行動を起こす奴がいないんだよな」
退学とか食らうと故郷に帰る事もできなくなるみたいで、そこまで大きな問題行動はとれない。
二組のファルネーゼもあれ以来おとなしくなっただけじゃなくて、クラスを纏めてるみたいだしね。
「生徒の悩み事相談も、カウンセリングが出来そうな先生を何人も雇ってるし、種族的な対応もするように言ってあるから何も起きないか」
この学校では何故かあまり人を見下したりすることが少ない。
一組の子が五組の子を馬鹿にしたりする事も無いし、自分の魔力を誇って威張り散らしたりもしないんだよな。
【二日目に馬鹿みたいに実力の差を見せつけられたからじゃないかな? オリジナルを使う勇者理事長先生もいるし】
誰が勇者理事長先生か!!
生徒が言う分は仕方がないけど、そこはちょこっと違うだろ?
【ジョークだって。ほら、黒板に文字を書く】
それはチョーク!! ボケとツッコミが逆転してるでしょ? というか、やっぱりアレが原因?
【だろうね。天狗の鼻をへし折るというか、二年であそこまで魔法を扱えるようになる人間っていないと思うよ?】
天才って呼ばれてる子はもう何年も魔法の勉強をしてきてるんだろうしね。
いきなりオリジナルを目撃って割と衝撃なのかな?
【あなたがライガって人と会った時と同じ位は衝撃受けてると思うよ】
……それは相当な衝撃だな。
そうか、この世界でオリジナルの魔法を使えるってそういう人物に該当する訳だ……。
【目標にすらならないあこがれの対象って感じ?】
それで生徒たちの諍いが無くなるんだったらいいよ。みんなで仲良く知識を高め合うのはいい事だ。
あ、それと、学校関係ないんだけど、そっちに化粧品とか贈るのって意味ある?
【ある!! あるよ!! ありまくっちゃう!! え? なに? 急にそこに気が付いちゃった?】
いや、今まで料理が多かったけどさ、この前反物を喜んでたし他の物もいるのかなとおもってね。
【こっちでもあなたの寿買経由で買えるんだけどさ、流石に現金のチャージは殆ど認められてないの。ファクトリーサービスで勝手に作ったら怒るでしょ?】
今まで家具類とかは散々生産して持って行かれてるけどね。
この提案の前に化粧品が世界を救う為に必要だって言われたら、事の詳細を説明してもらうよ。世界の平和の為のなんに必要なのか分かんないしさ。
【だよね~。だから今まで提案してなかったんだよ。傷跡とかは薬で治るでしょ? だから化粧品なんて私たちにしか必要ないし】
シャンプーとかリンスなんかの入浴用品は? そっちも手入れとか大変でしょ?
【割とみんな自分の力でなんとかしてるけど、そういったものもあると助かるかな】
それじゃあ、ファクトリーサービスで適当に生産して持って行ってもいいよ。入浴セットなんかもいいのが出来たらこっちにも回してくれたらいいしさ。
【いろんな世界から原材料を搔き集めなくちゃ……】
通信は切れたみたいだけど、今から急いで生産を始めるんだろうな。おそらく俺が手を出すよりいい物を作る筈だ。
完成したら学生寮とかにも置くかな。
ヴィルナも家で使うだろうし、その辺りは俺じゃあまりわかんないしね。女性というか、天使たちに任した方がいい物が出来るに決まってる。生徒たちに人気が出るようだったら、購買で扱ってもいいしね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




