第二百二十二話 えっと。能力的に近い生徒をまとめてるって話だったけど、一組が一番魔力量とかに優れてて、五組が若干低めって事で問題ないか?
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楽しんでいただければ幸いです。
魔法の実技実習。
当然会場となるのは異常な位に対魔法防御能力が高められている演習場兼の魔法実験場。常識的に考えてここで使う限り魔法で事故が起こる事は無いって話だ。
この学校は元々一クラス基本四十人の予定だった。退学が発生しなければ五年後に最上級生を含めて千人の大規模な魔法学校が完成する予定なんだよね。だけど実際にはどこかの理事長が急遽五名の生徒を強引に捻じ込んだのでこの有様だよって、俺だよ!! 捻じ込んだ理事長は!! という訳で今年に限り四十一人五クラスでニ百五人となっている。
「えっと。能力的に近い生徒をまとめてるって話だったけど、一組が一番魔力量とかに優れてて、五組が若干低めって事で問題ないか?」
「それで正解。特殊な魔道具を使うと保有魔力が数値で見れるらしいんだけど、その日の体調とかでも結構変わるらしくてさ。あまり信用できないから魔力感知能力の高い人が専門にいるよ」
「エルフのナディーヌ先生だっけ? かなり正確にわかるのか?」
「理事長先生を見て魔物がいますって言ったくらいだし、魔力量に関しては間違いないと思うよ」
誰が魔物か!! 俺の魔力量が多すぎるって事?
「俺自身も最近は魔力量が多いとは思ってるけど、そこまでかな?」
「……比較的魔力量の多いエルフとかも含めて世界最高レベルだと思うよ? むしろ何をどうしたらそこまで魔力が上がるのかが知りたいかな?」
「知らない内に上がってたんだよな……」
絶対にヴィルナにあれの時に吸い上げられた後で回復するを繰り返してるからだろう。
表には出せない魔力量強化方法だし。
「魔法を生業にしてる人間からすると本当に羨ましい現象だよ? それだけ魔力があればさ、伝説の魔法に手が伸びるかもしれないんだし」
「伝説の魔法? オリジナルという奴か?」
「オリジナル系の魔法も種類があるけど、治癒系最強呪文とかは必要魔力が凄まじすぎて、普通の人間には使えないって言われてるんだ~」
「もしかして、その治癒呪文とかはどこかで見つかってるのか?」
「王都のフローラ教会が所有してるよ。一回も使われた事が無いって話だし、本当に存在するかどうかは疑わしいんだけどね~」
……生徒が入ってきたし、その話は後でダリアに詳しく聞くかな。どうにもならなかったら女神フローラを呼び出して詳しく聞こう。
「えっと、最初は五組から?」
「一組から計測すると、どんどん威力が落ちちゃうでしょ? いい加減に測定されても困るし、高威力の魔法の後に見られちゃうと威力を過小評価されかねないでしょ?」
「なるほど。魔道具とかで魔力強化をしてたりするとかないのかな?」
「ナディーヌ先生がいるから不正は出来ないと思うからそこは安心だよ。持ち物検査とかも実施してるし、アイテムボックスを使わないように監視もしてるから」
「魔法使いってアイテムボックス持ち多いのか?」
「本当に小さいのも含めるとほぼ全員じゃないかな? 魔力が高い子が持ってる小さいアイテムボックスって、カバンサイズ程度だけどね」
魔力が高くないと大きなアイテムボックスを維持できないのか?
……俺の魔力が凄まじいのって、もしかしてしてあの超性能のアイテムボックスやワールドリンカーの力のせい? 十分ありうるな。
「理事長先生クラスのアイテムボックスなんて聞いた事が無いけど、信じられない能力はあれひとつじゃないしね~」
「教頭先生と理事長先生。生徒たちの実技の邪魔になりますので私語は少し控えてください」
「すみません」
「ごめんなさ~い」
ナディーヌ先生は俺たちを注意する時にすっごく怯えてる感じがするんだけど、俺の魔力やダリアの力のせいなんだろうな。ダリアも女神フローラの分体モードの時は全身から神力がにじみ出てるんだろうしさ。
「はい。それでは集中して自分の一番得意な魔法を使いましょう」
「土弾!!」
「水弾!!」
「朧灯!!」
「魔弾!!」
ほとんどの生徒は一番簡単とはいえ攻撃魔装の弾系の魔法を使えてるってのも凄いな。正直、朧灯クラスの魔法を今から覚える生徒ばかりだと思ってた。
一番魔力の低いって言われてた五組でこのレベルだったら、一組には火炎弾みたいな弾系上位魔法も使えるかもしれないな。それに。
「呪文の詠唱速度が早い。威力は弱いんだけど、本当に反射的に使えるようにしてきた証だ」
「流石は理事長先生。そこに目を付けましたね」
「……魔物の多い森へ採集に向かう時の戦力になってたのか? あの威力だと牽制とかそんな感じだろうけど」
「はい。僅かでも魔法の才能のある子たちは弾系の魔法を覚えさせられていたそうです」
「と、いう事は冒険者ギルドにも登録してるのか。ある程度実力があるんだったら依頼を受けてもいいぞ。報酬は安いけどね」
この辺りは既に魔物らしい魔物はいない。
残ってる依頼は採集系しかないんだよな。小遣い稼ぎにもなりゃしない。
「半年後に登録者以外も全員冒険者ギルドに登録し、魔法を使った戦いなどを教える予定です。実践訓練は少し遠出になるそうですが」
「まともに魔物が残ってるのは少し北か東の方か。剣猪相手でも苦労するから気を付けろよ」
「ライガさんが暇であれば同行してくれるそうですよ」
「あいつがいたら、何があっても安心だろうけどさ」
むしろ魔物の方が逃げていかない?
剣猪クラスの魔物だったら、あいつの気配を感じた時点でダッシュで逃げるよ?
「恐ろしい魔物も多いそうですし、不幸な事件も最近は多かったですから」
「結構な数の冒険者が命を落としましたからね」
「冒険者ギルドの職員とか冒険者を招いて魔物講習を行う様に提案されたのはダリア教頭でしたか?」
「向こうも冒険者を育成してるけど、同じように魔物の知識はもっておいた方がいいしね。今のままだと冒険者ギルドなのか、食堂ギルドなのか分かんないしさ」
「最近越してきた移民者の中には冒険者ギルドってのが、ここでは食堂チェーン店の名称のひとつと思われている節がある。間違った認識じゃないと思うけどさ」
今何号店までできてるんだ?
依頼で受けた稼ぎより食堂関係で得た収入の方がはるかに多い筈。剣猪の入荷数が減った分、豚とか牛の解体で稼いでるし、ラードもブタから作ってる。牛脂からヘットも作ってるしな。
「魔法学校で一番不安なのはそこですね。この辺りには討伐対象となる適度な魔物がいないんですよ」
「一クラス四十一名。教師と運転手用意して良さそうな狩場まで遠征ですかね? 移動手段は用意しますし、狩場の方もその時期までに探しておきましょう」
俺か雷牙が大型バスの魔導車を運転すればいいしな。人工知能が付いてるから、目的地までの運行に問題はないし……。問題はあいつのアイテムボックスには入りきらない大きさなんだよな。ここから運転させて、学校に保管する事にするか。
「とりあえず二組迄終わったみたいだね。採点してる先生方も驚いてるね」
「二組の一番上の子が火炎弾を使ったからな」
「威力は微妙だけど、アレが使えるってのは大きいね。詠唱速度も十分だったし」
今の会話が聞こえたのか、あの子こっちを睨んだぞ。
確かバルトロ・カプッツィ伯爵の娘でファルネーゼって子だったかな? 小さい頃から天才って言われて育ってたんだろうし、二組に編成された事も屈辱だったんだろうな。
「次の子からが一組ですね」
「ギュンティ男爵領から来てる五人は全員一組なのか」
「一番魔力の低いオッターヴィアでも、ファルネーゼより少し上だからね。ミウッチャなんて凄いよ」
「一組の子は火弾でファルネーゼの火炎弾以上の火力を当たり前の様に出してるな」
「魔力を乗せるのが上手いっていうか、戦闘用に正しく使えてる感じかな?」
同じ魔法でも使い方次第で幾らでも威力が上がる。
ランクの低い魔法の方が詠唱が短かったり簡単だったりするから、やり方次第では状況を逆転させる事も可能だ。
「噂のミウッチャが首席だったのか」
「流石に魔力に差がありますね。次席の子も十年に一度の天才とか言われてたんですが」
毎年出てきたりするからね。十年に一度の天才。何処かのワインみたいな褒められ方で出てくるんだよな。
「大地に芽吹いた炎の種よ、美しい大輪の華を咲かせ、炎華菊」
「炎華菊!! あの魔法まで使えるのか!!」
「ミウッチャは火魔法の申し子みたいな子だね。威力も申し分ない」
魔法実験場に咲いた美しい炎の華。次席の生徒やまわりの生徒たちも流石に驚いているな。俺も驚いたよ。
「凄いですね。このまま成長すれば大魔法使いになれますよ」
「確かに主席のあの子は凄いです。ここの理事長先生はあれ以上の魔法を使えるのかしら?」
「ファルネーゼさん!!」
「理事長先生の推薦であの子たちが入ったおかげでわたくしは二組に編成されたのです。確かに少し魔力が足りませんでしたが、二組に編成される程ではありませんでしょう?」
そこが不満なわけね。俺が編成した訳じゃないけど、俺の推薦で二組に編成されたのは事実だろう。
そりゃあの程度の威力の魔法だったら使えるけど、それ以上の魔法使ったらここ壊れない?
「そりゃ色々あるけど、全力でなくていいならいくつか試してみようか?」
「全力ではありませんの?」
「理事長先生が全力でやっちゃうと、せっかく建てた学校が更地になっちゃうからね~。もう、余計な事して……」
「たまには魔法を使うのもいいかなって思ったんだけど」
この前、女神フローラから結晶化とかの解除魔法女神の万能薬を教えて貰ったし、昨日の夜、反物を送ったお礼にもうひとつ魔法を教わったんだよね。なんていうか今までにないくらいに、すっごい喜んでたよ。
アレは威力は強いけど使い勝手が良さそうだし、一度使ってみたかったんだよな。さっきちらっと話にも出たし。
「それじゃあ、高威力の魔法は禁止。範囲系の魔法も禁止。理事長先生の魔力で炎華菊なんて使ったら、この魔法実験場が火の海なんだからね」
「仕方ないな……。特殊目標ターゲットを十ほど出して貰えるかな?」
「そういえば高威力の魔法用のターゲットも作ってたよね。準備するから待ってて」
他の先生が隣接した保管庫から目標用のターゲットを運び出してきた。今まで生徒が使ってたのは簡易型のターゲットだ。
余ってた鎧狐の革とか、いろいろ組み合わせて結構丈夫なものが出来たとか自慢してたな。在庫は百ほどあるから多少壊してもいいだろ。
「準備出来たよ~。みんな危険だから離れてて」
「はい、皆さん、一番後ろの安全区域まで下がってください」
「そこまで警戒する魔法じゃないぞ。威力は凄いけど、広範囲には破壊しないし」
この魔法の恐ろしい点は速度と射程と追跡能力と命中後の威力。
感じ的には威力の弱いアルティメットクラッシュ系の魔法? 俺は飛んでいかないけど。
「どんな魔法を使うんですの?」
「理事長先生が使うとね、火弾でも滅炎界になりそうだからさ」
「そこまでなのですの?」
「……暴君鮮血熊をひとりで討伐しちゃうような人だよ?」
「あの話。本当でしたの?」
「神話級の魔物ですよね? 私も嘘だと思ってました」
今から使う魔法でも暴君鮮血熊は余裕で倒せると思うけどね。さてと。
「神聖な十の剣!!」
「オリジナル!!」
「あ~、そういえばクライドはそっちで勇者だったか。オリジナル位使えるよね」
俺の前に光で作り出された十本の剣が姿を現して、俺の命令を待っている。この剣は敵の攻撃を迎撃する事もできれば、数本重ねて敵の攻撃を弾き飛ばす盾代わりにも使えそうだ。
それより直接使った方がよさそうだけどね。
「そこだ!!」
百メートル以上離れたターゲットを刹那の速度で貫き、そしてまばゆい光と共に爆散して浄化した。アルティメットクラッシュとあの銃のチャージモードを合わせた感じの魔法? オリジナルって呼ばれてる割りにはお粗末な威力だけど。
【そんなセリフが言えるのはあなただけだよ!!】
天使ユーニスか。つ~か、今ダリアの分体モードの中身お前だっただろ!! それはそれとしてこれって威力弱いよね?
【う~正解。分体モードの時に憑依してるのは私だよ。流石に女神フローラだとダリアの身体が持たないしね。それはそうと、あれ一本で普通の魔王だったら倒せるんだからね!! 本来の威力だったらだけど】
そんな威力で十本セットって、絶対魔王殺すマンが作った魔法かよ!!
あの魔法ってオリジナルって言われてる割りにはホント微妙なんだけど、デチューンされてたって事か。
【あれ作ったの界渡りなんだよね。オリジナルといっても威力が調整されてるし、あなたは神力で魔法を起動させてないから本来の威力が出てないの。女神フローラから教えて貰った?】
正解。なるほど、アレはまだ威力が今一つなのか?
【魔力で使えるように魔法が組み直してあるね。これだと、あなたの場合は変身したら役立たずかな? 多分今のあなたならあのアルティメットリッパーの方が威力はあるよ】
それでも変身前にあの威力の攻撃が出来るのは大きいな。
女神フローラにはありがとうって伝えてくれ。
【わかった。私たちこそあんないい物貰ったし、今度何かお礼を送るね】
反物のお礼か。流石に女性はああいったものがうれしいみたいだね。今度他にもいろいろ考えておくか。
さてと、微妙な威力だったしガッカリされたかな?
「他の魔法の方がよかったかな?」
「いえ。理事長先生に無礼な振舞いをして申し訳ありませんでしたわ。まさかオリジナルを使える人が本当にいるとは思いませんでした」
「さっすが勇者。いつの間にオリジナルが使えるようになってたの?」
「結晶化した人を助ける方法を探してたら偶然な。それに驚くほどじゃない、あの程度の威力の技だったら他にもいくつかあるだろ」
「「「「「あるんですか!!」」」」」
教師と生徒の気持がひとつになった瞬間!! ツッコミでね。
「俺や雷牙達だったら牽制技だ。必殺技系はあんな威力じゃないぞ」
アルティメットリッパーも高威力だけど、ライジングブレイクの様なトドメ専用の完全必殺技じゃない。
あくまでも敵の力を削ぐための牽制型必殺技だ。
「流石に理事長先生。本当に魔法の頂点に立ってる人だったんですね」
「世界中のどこかには俺以上の人もいるかもしれないぞ。俺だってまだまだ勉強中だ」
「そういえば理事長先生が魔法を覚え始めたのって二年位前だっけ?」
「その位だな」
あ、生徒たちが完全に引いてる。そりゃ二年でここまで魔法を使える人間なんていないだろうしな。
「先生、それって可能なんですか?」
「は~い。皆さんは普通に魔法を学んでいきましょうね。二年で魔法をここまで使えるようになる人なんて他に居ませんので」
「そうそう。例外中の例外というか、理事長先生の真似をしてたら人生おかしくなるからさ。普通に勉強していこうね」
感心しつつ全員魔法実験場から出て行った。そして一人取り残される俺!!
ん? ドアが開いて誰か入ってきた。向上心のある生徒か教師かな?
「あの。そろそろ掃除をしてよろしいですか?」
「掃除業者かよ!! ああ、すいません、あの残骸もお願いします」
「わかりました。それじゃあ始めようか」
二十人の掃除業者が入ってきて瓦礫の撤去や抉られた地面の補修を始めた……、ってそこまでしてくれるの?
俺は邪魔っぽいから出るか。あのターゲットの周囲を掃除してる人の視線も痛いし。あ、そこの焦げ跡は俺じゃないからな。
この話も明日には全校に知られてるんだろうね……。その場合、あだ名で理事長先生から何て呼ばれるか。勇者先生とかはやめてくれよ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




