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第二百十六話 いえいえ。どんな料理が出てくるのか楽しみですよ。ここは山の恵みも多いと思いますので

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。




 ギュンティの屋敷で簡単な夕食会が行われる事となった。正直に言えばこんな夕食会に誘われるよりも町の食堂で食べた方がこの貴族領の現状をみるのに一番いいんだけど、この夕食会のメニューや規模である程度の予測は出来るか。


 参加する面子は領主のギュンティ、相談役でギュンティの親友というグアルディ。それとギュンティの幼馴染の少女オルゾーラ。ドワーフの親方グントラム。そして俺。


 俺を除いたこの面子がこの男爵領の主要メンバーだというんだから驚く。というか、本気で家臣はひとり残らず逃げ出したんだな。


「隆盛を誇るカロンドロ男爵領の料理と違って、いたって普通の料理ですが楽しんでいただければと思います」


「いえいえ。どんな料理が出てくるのか楽しみですよ。ここは山の恵みも多いと思いますので」


 流石に王都の晩餐会以下って事は無いだろう。アレに比べたら場末の食堂の方が遥かに高品質だ。インスタント食品もおいしいしな。


「酒がエールブク(これ)しか無いのが不満だが、仕方ないじゃろう」


 あからさまにドワーフのグントラムは落胆してるな。ここにウイスキーでも出ると思ってきたのかな?


 ここの財務状況は知らないけど、あの百樽のウイスキー分の資金は多分逆さに振っても捻出できないだろう。あのウイスキーはドワーフが管理する事になったし、この晩餐会で振る舞われる事も無い。


「この辺りだとワインもあまりないのか?」


「この男爵領は山から湧きだしてくる割とおいしい水が飲めますので、水代わりにワインを飲むことが少ないのです。飲まれるのでしたらワインも用意しますが」


「いや、水がいいんだったらここのエールブクを試してみたい。あの酒も水でかなり味が変わるからな」


 とはいえ、ここの貴族領にはこれからウイスキーの開発に取り組んで貰わないといけない。味が良くてもエールブクの増産は諦めるしかないだろう。


 お、メイドさんが料理を運んできた。流石にメイドくらいはいるんだな。


「えっとお粗末ですがこれがわが領の平均的な夕食のメニューです」


「うわぁっ♪!!」


 割と正直な反応をありがとう。今の反応から察するに、おそらくこれはかなりのご馳走なんだろう。


 思わず反応した幼馴染の少女オルゾーラは顔を真っ赤にしてるけど、これが普通に出せるんだったら食料事情の改革なんて必要ないって。


「白いパンに肉料理とスープか。割と普通に見えるけど材料と料理名を聞いてもいいかな?」


「小麦のパンと角猪の肉を焼いたものとカラカラ鳥のスープです」


「角猪? 剣猪(ソードボア)じゃないのか?」


「角猪はこの辺りの山に多い少し小型の猪です。この辺りは山ですので、比較的身体の小さな獣が多いんですよ」


 獣が食べる食料の問題か。


 東の森なんて森の恵みが多いからあれだけの数の剣猪(ソードボア)が生息できるわけだしな。


「なるほど。それとこの辺りにもカラカラ鳥はいるんだな。養殖まではしていない?」


「カラカラ鳥を飼ってたら煩くて仕方がないでしょう。山にいるカラカラ鳥を仕留めてきた物です」


 俺が来た頃のカロンドロ男爵領と変わらないけど、おそらくこれが精いっぱいなんだろう。


 という事はかなり食料事情が悪いと考えても問題ない。


「アツキサトやイサイジュ辺りだとカラカラ鳥の養殖もしてるぞ。喉を潰して鳴かなくする方法があるらしい」


「……それは少しかわいそうですね」


「食べる為に飼うんだから多少は仕方がないけど、俺もそういう一面はあると思う。壁や建物そのものを何とかする方法もある筈だからな」


 そうするとコストの面で馬鹿高くなるんだろうけど、喉を潰したりする作業はなくなるからどっちが手間かだよね。今喉を潰す方法しかない所をみると、その答えは出てるっぽい。


「せっかく暖かい料理が届きましたので美味しいうちに食べましょう」


「そうだな。……味付けはこうするしかないか。大体予想通りとはいえ昔のアツキサトで食べてた頃を思い出すぞ」


 塩が薄めで香辛料で味付けをしてある。ほとんど調味料が無いから僅かな塩と、この辺りに自生する香辛料で味付けをするしかないんだろう。


「カロンドロ男爵領もこんな感じの料理を食べていたんですか?」


「数年前の話だ。あの頃は塩も高かったし、碌な調味料が無かったからな。エールブクに関していえばかなりいい。水がいいのは間違いないぞ」


 これだったらいいウイスキーもできるだろう。


「という事は、この領も数年でカロンドロ男爵領と同じ位になれる可能性が?」


「流石に無理だ、資源の量や領地の大きさが全然違う。あそこまで全部揃った状況ってのはそうはないぞ」


 本気で必要なものが全部揃ってるからな。


 莫大な食糧を生み出す大穀倉地帯、塩の生産拠点、食肉用の家畜を飼育できるくらいの食料の余裕。木材をはじめとする多くの資源、鉱山とそこから生み出される金属製品。そしてそれを運用できるだけの豊富な人材。そしてこの世界の冒険者や兵士たちでは手に負えない魔物を倒せる俺達。


 俺たちが揃ったのはいろんな偶然が重なったからだけど、それでもここまでいろんな状況が揃うのは稀な事だ。


「やはりそうですか」


「だけどこの貴族領も方法次第で今の何十倍も豊かにできる。食糧事情は数年でなんとかできるし、後はこの領地を豊かにするだけの産業とそれを運営できる人材が必要だ」


「そのどちらも今は用意できません。残念ながら人材を育てる余裕が……」


「とりあえず今年は五人程度選抜してカロンドロ男爵領の魔法学校に入学させろ。まだ宿舎に空きはあるし、授業料とかも後払いにできる。今年度の生徒に関しては特別措置を取るから、今年の授業料なんかは気にしないでいい。成績が優秀な生徒には奨学金も出るしな」


 魔法学校でも普通の学校と同レベルの一般教養なんかは教える予定だ。常識の無い奴に強力な魔法を教える程俺も無謀じゃないんでね。


【教えてる人間の常識はどうなのさ? 特に理事長】


 それはもう、何処に出しても恥ずかしくない位の常識人だぞ。


【常識の概念が……、変わった?】


 変わってねえよ!! 確かにこの世界基準で言うと、異世界から来た俺たちの常識は少しずれてるかもしれないけど。


【ライガ達を巻き込むとかわいそうだよ? ほら、常識知らずはあなただけで十分だって】


 この世界のという事だったら不本意ながら多少は認めよう。流石に土方(ひじかた)よりは常識があるだろ?


【心を入れ替えた今の状態だとかなり疑問が残るかな。以前のままだとあなたの方が常識はあったね】


 カロンドロ男爵やスティーブンの態度から薄々感じたけど、やっぱり相当アレだったんだな。


 この世界に力も持たずに来て苦労したんだろう。ブレイブの力があれば……、そう思って拳を握りしめた事も多かったんだろうし。


【あなたの常識ってさ、神様とか私たち基準に近いんだよ? だから少しアドバイス。人はそこまで潔癖にも人に優しくもなれないよ】


 悪事に手を染める状況を作らなければいいだけの話さ。


 みんなが笑い合える時間を共有すれば、少しは悪事に走るのを止められるだろう。学校って場がいじめの温床になる事も知ってるし理解してる。それを何とかする校則も追加しているし、俺の目の黒いうちは大きな問題など起こさせない。


【流石だね。あともうひとつアドバイス。女神や天使だって少しはジャンク風の料理も食べたいんだよ】


 ……それで常識の話になったの? 今までの突っ込みと掛け合いは、ただジャンクフードを食べたかっただけ?


 って、もう接続切ってやがる!! ジャンクフードって範囲広すぎだ。……適当にいろいろ作って送るか。


 それはいいけど、ギュンティたちの反応はどうかな?


「五名ですか?」


「開校がもう来月だから、その辺りが限界だ。他に候補がいる場合は来年以降に入学させてくれ」


「さっき言われてた宿舎には何が揃っているんですか?」


「基本的に生活に必要なものは揃ってる。今年入る五人に対しては特別な措置を取るから、学費とかは気にしないでいいぞ」


 教科書とかが割と高いんだよね。入学テストじゃないけど事前のテストで高得点を出すと割引があるから、優秀な生徒にはそこまで負担はかからないようになってる筈。


 あと制服? 魔法使いっぽくもあり、学生にも見えるデザインを選んだんだけどどうかな?


「私、学校に行きたい!! そこで勉強してみんなの力になりたいの」


「候補については今週末までに誰か使いを寄越すからそれまでに決めてくれればいい。その時に服のサイズや靴のサイズが必要だ、制服を全力で仕立てさせなきゃいけない。他の必要なものはこの冊子に書かれてるから用意してくれ」


「わかりました。この領の未来の為に、出来るだけ多くの候補を募りたいと思います」


「その魔法学校に入学できるのは人間だけか?」


「ドワーフでも大丈夫。ただエルフとかいる可能性も」


「奴らと喧嘩などせんわ。儂らの中からも数人選んでその五名を決めて貰おう」


 ドワーフも魔法を使えた筈。


 しかし、初年度から面白い生徒が揃いそうだな。




読んでいただきましてありがとうございます。


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