第二百十話 確かにほぼ料理三昧だけどさ、居間でヴィルナと色々観たりしてるだろ。たまに外に出て身体を鍛えたりもしてるし
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
仕事が無いというか、やる事の少ない時期の一日って時間が経つのが早い気がする。
別にやる事が何ひとつないって訳じゃない。結晶化解除の魔法の探索とか魔法使いギルドに色々依頼しているけど、季節の関係で思うように進んでいないのも確かだ。状況を確認する通信手段が無いのが大きい。
他の仕事はというと、俺も魔法学校に出向いて教科書のチェックとか機材の確認をしているけど、あまりトップがウロウロしてると他の教師陣が緊張するというか、余計な気遣いをさせてる事が多いのでやっぱり春からは週一位の出勤になりそうだ。
「結局こうなるのじゃな。暇を見つけては料理ばかりしておる生活じゃぞ」
「確かにほぼ料理三昧だけどさ、居間でヴィルナと色々観たりしてるだろ。たまに外に出て身体を鍛えたりもしてるし」
「外にジョギングとやらに出かける度に珍しい食材を見つけてきては、台所でその食材とにらめっこをしておるじゃろう?」
「いや~、ついでにのぞいた店とかで面白そうな食材が見つかるとテンション上がるだろ? 予想もしてなかった食材とか割と見つかるしさ」
最近は南方の探索でいろんな食材が見つかったのが刺激になったのか、他の場所でも様々な動植物が集められて食べられるかどうかを調べられている。
いや、それはまずいだろって食材も並ぶこともあるけど、そういった食材はあっという間に市場から姿を消すのも清々しいというか潔いというか。
「ソウマが見つけてくる食材はおかしなものが多いのじゃ。この前買ってきた木の根っこなど、絶対に食材には見えぬのじゃが」
「牛蒡の一種だね。ちゃんとあく抜きをすれば色々使える楽しい食材なんだけど」
「その情報をわざわざ冒険者ギルドに無償で教えるからあの男が苦労するのじゃろ?」
「豚丼に牛蒡を入れる事くらい教えても問題ないだろ。おかげでキンピラゴボウとかゴボウのかき揚げとか一品料理も増えたし」
使えると分かった食材は本当に無駄にならないように色々と試されて、美味しいものはどんどん新メニューとして店頭に並んでいる。
周りの店と切磋琢磨というか、日々精進を続けているから料理の内容がどんどん上がっていくんだよね。客の舌もかなり肥えてきてるから材料をケチったり手を抜く店はすぐに客足が落ちるし。
「しかし、探せば食べられるものが意外に多いのじゃな。まさかこれは食えぬじゃろうと思う物でも、調理した後では美味しそうに見えるから不思議なのじゃ」
「今は食材が多いから別にそこまで他の食材を探さなくてもいいんだけどね。でも、美味しかったらまた養殖したりして本格的に増やすだろうし」
大きなザリガニ……、大鋏海老は生簀での養殖が始まっている。最初から綺麗な水で養殖すれば臭みも無く味も均一になるのでいいらしい。
大鋏海老は飼育環境さえ整えれば養殖が楽な部類らしく、しかもかなり増える速度がすさまじいのであっという間にこの街で人気の食材と化した。価格も安く味も良いので今ではパスタ料理や煮込み料理の具材としても広く使われるようになったんだけど、天然物の方が圧倒的に安く売られてるのは悲しいな。
「大鋏海老のグラタンは意外においしかったのじゃが、伊勢海老とか言う海老の代用じゃろ?」
「オマール海老とかそっち系の方が近いかも。流石に伊勢海老のグラタンとはレベルが違うし」
「ソウマの料理を知るものであればその違いに気が付くじゃろうが、そもそも食べた事が無ければ伊勢海老との違いは分かるまい」
「マッアサイア方面から移住してきた人限定かな? 一角海老も高いからあれの代わりにされてる時もあるっぽい。味はかなり違うのにな」
正直、一角海老の代わりだったら虎海老の方が味が近い。歯ごたえというか、大鋏海老は少し肉が硬すぎるんだよね。
「元の味を知らぬ以上、比べる事もできんじゃろう。シャル、今日はホタテ貝を刻んだものと牛肉を柔らかく煮たご飯じゃ」
「うなぁぁぁっ♪」
「もうご飯なのか? ちょっと早いけどおいしそうに食べてるからいいかな」
「あの海老も良いのじゃが、すこし硬いのかシャルはあまり好きではないようじゃ」
一角海老は食べるんだけどね。
旨味が強いのは間違いないから、代用ではなくてちゃんと正しい使い方をすれば真価を発揮するんだけど……。香辛料にも負けない強さがあるから、大鋏海老をカレーに使ったブランの舌は正しかった。
【あなたの舌も正しいですよ。伊勢海老のカレーなどがあればとてもいいですね】
久しぶりに女神フローラが接触してきたな。向こうでいろいろ忙しいというか、とんでも事態が発生してるって天使に聞いてたんだけど大丈夫だったのかな?
【その件でお礼を言いに来ました。五百万人分の食料や衣服などのセット。自然災害で被災した時用のテントや仮設住宅まで私用のフォルダに保存してくれるとは思ってもいませんでした】
人助けに手を出すんだったら、その位は必要かなと思ってファクトリーサービスで全力製造させてたんだよな。
あまり上質な服とかじゃないけど靴まで含めて様々なサイズで用意したし、デザインもできる限り考えて用意した。仮設住宅は特殊な金属性だからそこそこ丈夫らしいから、新しく住宅を建てる位まではもつだろう。
【本当に私たち寄りの考えをする人ですよね。今回もおかげで多くの人命が救われました】
あの無人惑星とかその為に買ったようなものだしね。
資金と物資の量を考えたら、俺が持ってても仕方がない量が生産されてるし……。小麦なんかの穀物類や残高に関しては視認が無理なレベルで増え続けてるからね。その気になればこの世界の人を一万年位食わせていけそうだ。
【今後も協力をお願いするかもしれません。あなたの願いでしたら、私が特別に死者を蘇生する許可も出しますよ】
……まさか、死者蘇生の成功率が低いのって。
【魂に業が多い人の蘇生は基本的に成功しません。善い行いを多くしていれば成功率も上がります】
教会の人にしたらひっくり返りそうな話だな。
悪人の魂は救わないって事?
【こちらの世界で浄化します。あなたの元いた世界ですと、地獄と呼ばれている場所ですね】
やっぱりあるんだ。
そうでなければ正しい生き方をしている人がかわいそうだしね。この考え方も危険ではあるんだけど。
【そこに気が付くからあなたはこちら寄りだと言われているんですよ? 誰がどんな考えに基づいて行動するのが正しい事なのか、それをすべて決めることなど不可能です】
必要以上に儲ければ、誰かからお金を毟ってるって事だしね。
誰かを幸せにすればだれかを不幸にするかもしれない。でも、それを恐れてたら誰も救えないし、誰も救われないんだよな。
【あなたのフォルダに私と交信可能にする為の指輪を送っておきました。何か私の力が必要な時はそれで話しかけてください】
……神様に頼らないといけない事態にはしたくないな。
一応エリクサーもあるし、死者蘇生はこっちでも可能ではあるんだよね。あまり多用したくないけど。
【死者蘇生以外でもなんとかしますよ? 結晶化解除の魔法は今構築中ですので、完成次第あなたのアイテムボックスに送っておきますね】
おお!! 遂に完成するのか?
あの規模の被害を何とかする魔法だし、人間である俺が使えるレベルまで調整してくれてるんだろうね。本当に助かる。
【……また問題が発生したようなのでこれで】
本当に女神は忙しいんだな。
最低百の世界を管理してるんだっけ? そりゃ忙しいよね。
「神様の相手も大変じゃな」
「向こうの方が大変そうだけどね。俺にはこの辺り一帯を平和にするのが精々さ」
「それも大したものじゃ。後はこれで子を授かれればよいのじゃが」
「流石に天からの授かりものといわれてるし、俺の方にもいろいろあるしね」
俺が異世界人だし、種族的な問題もあるし条件的には難しいんだろう。
来年位までにできなかったら女神フローラにお願いしようと思ってる。流石に今すぐ神頼みは違う気がするしね。
「やはり回数が足らぬ気がするのじゃ。今からすればかなり回数を増やせるじゃろう」
「いや。まだこの時間だよ? ほら夕日が綺麗だ」
二月の夕暮れだよ? 寝るには早すぎる時間だし。
「たまにはいいじゃろ」
「なぜ!! 俺も相当パワーアップしてるのに……」
「うにゃ」
ああ、それでさっきシャルにご飯をあげてたのか。
という訳で久しぶりにヴィルナに寝室まで引きずられていった。
学校へ顔を出すのを週一にしててよかったよ。
読んでいただきましてありがとうございます。




