第二百八話 正月の三が日は火を使わずに過ごすって目的もある料理だしね。俺の場合はお節の他にも料理を作るし、酒の燗もしたりしてるけどさ
連続更新中。この話で第八章は終わりとなります。
楽しんでいただければ幸いです。
新年会も終わり、家に戻って平穏な日が続いている。二週間後にはまた男爵の屋敷で新年会があるんだけど、それまでは家でゆっくりとする予定だ。
居間のテーブルで食べているのは俺が年越し前に丹精込めて作っていたお節料理。
数の子、栗きんとん、紅白かまぼこ、一角海老のうま煮、黒豆、伊達巻、筑前煮などの定番料理の他に、ローストビーフ、オニキスアワビの煮物、ウズラのつみれなどの料理を追加して、別皿でマグロの刺身やタイの昆布締めなども用意位している。
雷牙と土方にもこれと同じメニューを渡してあるので、しばらくは正月気分を味わえるだろう。一応カロンドロ男爵にも渡してあるしね。
【おいしいおせち料理をありがとう……。あなたの元いた世界に近い世界観の場所から来てる女神見習いもいるから、美味しそうに食べてたよ】
雷牙と土方もブレイブの世界ではあるけど別の世界線から来たみたいだし、俺の元いた世界に関しても似た世界は多そうだしね。
お節料理だったら寿買に豪華絢爛お節セットとかあるだろ?
【流石に百万以上するお節料理を許可なしで買ったら悪いでしょ?】
……どこのお節セットを買おうとしたんだ?
あ、この料亭のお節か!! 確かにこれは百万以上の価値があるかも。でも、もう受付期間が終わってるだろ?
【まだ受け付けてる世界もあるんだよ~。この辺りのセットっておいしそうだよね】
俺のお節セットより品数は多いな。天使の数も多いんだろうし、そっちのフォルダに十セット位送っておくよ。
【ありがとう!! 年に一度くらいは贅沢しなきゃね♪】
……接続が切れたけど、向こうって二週間に一度新年迎えてる筈だよな?
ああ、それでお節が必要なのか。まあいいや、色々フォルダの中に適当にいろいろ詰め込んでおこう。
「このお節という料理。ご飯のおかずというよりは、酒の肴の詰め合わせのように思えるのじゃが」
「正月の三が日は火を使わずに過ごすって目的もある料理だしね。俺の場合はお節の他にも料理を作るし、酒の燗もしたりしてるけどさ」
「江戸時代とやらが舞台の映像作品ではそのような事を言っておったな。うちの場合は基本暖房器具は使いっぱなしじゃが」
「なぁぁぁぁっ♪」
暖房を付けてないとシャルが寒がるし、シャルは寒かったら勝手にスイッチ入れて暖房器具付けてるしな。
そして自分用のベッドをいい場所まで運んできてそこで寝ると……。
「シャルはホントにマイペースだよね」
「狩りもせぬしな。遊んでおるか甘えておるかのどっちかじゃ。それ以上に寝ておるのじゃが」
「あの顔をみると平和だなって実感できるよ。邪神の残滓や黒龍種アスタロトが本格的に動き出さない限りこの辺りも平和だろうし、今はこの時間を大切にしなきゃ」
「そうはいってもじゃな、こうして居間で料理を摘まみながら酒を飲んで、映像作品を楽しんでおるだけでは何か悪い気はするのじゃ」
「俺がこの世界に来て二年足らずだけど、もう十分すぎるくらい働いていると思うんだよ。だから次の新年会まではゆっくりしてもいいんじゃないかな?」
と、いっても、映像作品を見てておいしそうな料理が出てくると再現しちゃったりするんだけどね。
ヴィルナも何となく食べたそうな顔をしてる事が多いし、シャルが食べたいときはすっごく甘えてくるしな。
「普通であれば次の新年会どころか来年の新年会まで仕事などせぬはずじゃが。これだけ稼いでおってまだ働こうとするのはソウマ位じゃぞ」
「二月半ばからは魔法学校関係で忙しくなるしね。未来を担う若者を育てるのってのはいい事だ」
「ほぼ持ち出しの仕事じゃろ? 未来への投資とはいえよくやるものじゃ」
「金は天下の回り物って言ってね、俺だけ稼いで俺が持ってるだけじゃダメなんだよ。こうやって少しは還元しないとね」
教会への寄付に関しては今はあまりしていないんだけど、結婚式用のドレスの寄付とかは今も定期的に行っている。
寄付に関していえばどの教会も結婚式を申し込んでくる信者などが結構な額を寄付しているので、もう俺が寄付をしなくても十分な収入があるという事だった。
「使って使いきれる額ではないじゃろうしの。わらわはこのこじんまりとした家が気に入っておるが、本当であればもう少し大きな家にした方がいいのじゃろう?」
「あまり訪ねてくる人はいないけど、たまに来客もあるしね。エヴェリーナ姫だけじゃなくて、最近は料理を教えて欲しいって人が増えてるんだろ?」
「今の所は小娘に教えるので手一杯じゃ。以前よりは上手くなっておるが、余計なひと手間を加えようとする性格が仇になっておるの」
「エヴェリーナ姫ってアレンジャーだったのか……。基礎をキッチリ覚えてても決められた手順通りに作る以上にうまく作るのは難しいんだけどね」
長い時間をかけてこれが一番って方法をレシピとして残してくれてるのに、わざわざそこに手を加えたらどうなるか分かりそうな物なんだけど……。なぜかこうした方がいいに決まってるって手出しするアレンジャーが一定数存在する。
「わらわもそれは実感しておる。最初はもう少し味を濃くとか考えた物じゃが、最終的にその考えが間違っておると気が付いたものじゃ」
「何度もレシピ通りに作って、もう見なくても作れるようになった上で手を加えていくんだったらいいんだけどね」
「アレではあの男も家で苦労しておるじゃろう。ソウマが渡した料理やお節などもそれほど残っておるまい?」
「牛丼とかはまだかなりあると思うけど、あいつは夜中に夜食で特盛牛丼とか食いそうだしな」
氣が高くなると何故か食事の量が増えるというか、腹が減る速度が上がる。俺もヴィルナとまではいかないけど、最近は割と食べるようになった。食事量が二倍近くになってるのに体重は増えていない不思議。
「夜中に腹がすく時もあるじゃろう」
「晩御飯の時間が早いと特にね。色々条件が重なって晩御飯が早い時は晩酌のついでに何かつまんでもいいかもしれない」
「酒のついでに何かを摘まむ時は結構あると思うのじゃが。ソウマが暇なとき限定ではあるのじゃがな」
「もしくは料理の試食を頼んだ時とかかな? 割と夜遅くまでやってるというか、下手をするとその試作料理が晩御飯になったりするよね。たまに時間を忘れて料理に没頭してる時もあるし」
「たま……、というのは、新しい食材を見つけた時は必ずという意味でよいかの?」
「……あれこれ作ってると、数時間なんてあっという間だよね」
正直、うちの厨房は家の大きさに比べてオーバースペックだけど、色々料理を作るんだったらもう少し広くてもいい位だ。
「あれだけの料理の腕を持ちながら、慢心せずに修行を続けるのはソウマらしいといえばそうなのじゃろう」
「来月からは練習の時間は減ると思うよ。魔法学校に顔を出さないといけないだろうし」
……二月からは魔法学校の理事長として働くんだし、料理系の依頼は減るよね? あれだけひろめてるんだし、みんな気が付いてる筈。
「新年会後はかえって増えそうな気がするのじゃ。依頼をしてくるのは主にカロンドロ男爵じゃろうが」
「キアーラもいるし、大丈夫だと思うけどね。彼女は育てれば十分な腕になるよ」
「それまで貴族や王族は待ってくれぬじゃろう。ヘマをすればつけこむ隙を与えかねんのじゃぞ」
「そりゃそうだろけどね。多少は隙を見せて、相手の出方を窺うって方法もあると思うよ」
隙を突かれようが何をされようが、カロンドロ男爵領の優位は覆らない。
向こうが何か手出ししてくれば、そこから逆手に取る事もできるしね。
米飴の件は向こうも知ってるだろうし、麦で麦飴を流行らせるって手もあるんだ。こっちでもあまり主食扱いでない米だから問題がない訳で、主食の麦を加工されたら主食の麦の量が激減するよ。
武力なんて使わなくても、平和的に向こうの力を削ぐ方法なんていくらでもある。
「なにがあってもソウマであれば軽くいなすのであろう。男爵もそれは理解しておるじゃろうしの」
「俺だけじゃなくてスティーブンもいるしね。向こうが何をしても無駄な状況はとっくに揃ってる」
「そのような大きな話はソウマ達に任せるとするのじゃ。もう少し何か摘まむとするかの」
「銚子を何本か燗しておくよ。今夜はゆっくり飲もう」
ヴィルナと他愛ない話をしながら飲むお酒。
時間がゆっくり進んでいるような、そんな幸せな時間。
この幸せな時がずっと続くように、俺も色々頑張らないとな。
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