第二百五話 タラバガニ系じゃなくて、どっちかというとガザミとかあっち系の味? 茹でてそのまま食べるのは割と面倒というか、この身の部分をかなりほじくり出して食べないといけないな
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楽しんでいただければ幸いです。
初めて手に入れた食材というのはいろいろ楽しみではあるんだけど、割と苦労をする原因でもある。特に蟹はそのまま茹でて食べた方が美味しい場合も多いので、最初に丸のままで茹でて味を見てから調理法を考えた方がいいんだろうな。
ただし、その大きさってのが問題で、この砂蟹は上から見るとマダーボールスイカの様な楕円形をしているうえに大きさも殆ど同レベルだ。そして見た目通りに手足は割と小さいけど胴体がでかいから身の詰まり方が凄い。試しに茹でた砂蟹が雌だったらしく、おなかにはたくさんの卵を抱いていた。
「タラバガニ系じゃなくて、どっちかというとガザミとかあっち系の味? 茹でてそのまま食べるのは割と面倒というか、この身の部分をかなりほじくり出して食べないといけないな」
チョット赤みが強いオレンジ色の卵も濃厚で美味しい。蟹にしては粒が大きいから食べ応えがあるし。
でも雌かどうかは運しだいだし、調理する時は混ぜて使うようにするしかないな。
「これだけ身が旨いと、どう料理するか悩むな。これこのまま出して食べて貰った方が美味しい気がするし」
下手に弄るとこの旨さが台無しな気がする。とりあえず考えられるメニューは蟹クリームコロッケにするか焼売とかの具で使うかだな。とりあえず色々作ってみるか。
次にサンショクダイ。カラフルなだけで真鯛によく似てる魚だ。雷牙や土方だと刺身で出した方がウケるんだろうけど、他の人もいるしカルパッチョかな。
「少しだけ味見したけど予想通りの味だな。鯛なのにアジとはこれいかに」
【タイでアジでイカねぇ……。三色だから三つ並べてみましたって?】
冷静に突っ込んでくるのはやめようね。というか、その声と突っ込み方はセレステだろ?
【正解。他の天使たちはあんまり突っ込みとかしないから、私とユーニスだけかもしれないわね】
料理とかのリクエストも二人が主だけど。
【貴方と連絡を取れる施設は限られているし、その中で私たちも使える施設は本当に少ないのよ。他の天使たちはこっちに仕事を手伝いに来た時に頼む感じかしら】
そういう問題もあるのか。俺には向こう側の都合なんてわからないしね。
というか、突っ込んできたって事は何か必要なものがあった?
【甘味をお願いできるかしら? あなたはあまりお菓子作りは得意じゃないみたいだから、調合機能で作ったものでもいいわ】
俺はパティシエじゃないからね。
普通の料理とデザートって結構違うんだよ。デザート系の作り方ってさ、何か科学の実験というか本当に水一滴入れたらおしまいみたいなものも多いし。
【そのあたり調合機能は完璧だからね。それじゃあお願い】
お願いだけして何処かに行ってしまったみたいだ。
最近はそんなに頻度が多くないし、たまに貰えるお返しが馬鹿でかいからいいけどさ。
「さて、とりあえず他の料理も仕上げてみるか」
仕入れた材料はまだたくさんあるし、その中から新年会にふさわしい料理を選ばないといけないんだよね。
とりあえず調合機能でいろんな種類のケーキを作って、天使と女神用フォルダに保管しておいた。ケーキ屋でも始めるのかって量を送ったから問題は無いと思う。
あと、今年はアレも作ろうと思ってるし年末は忙しくなるぞ。
◇◇◇
とりあえず試食を兼ねた昼食タ~イム。
砂蟹を使った蟹クリームコロッケ。それに焼売と春巻き。カラシとポン酢などの調味料も用意している。
サンショクダイの昆布締めと、鯛めし。汁物はサンショクダイのアラを使ったお吸い物だ。あと、一角海老の串焼き、海老フライ、海老しんじょも用意してみた。
「という訳で、今日の昼ごはんと晩ごはんは海鮮メニューになるけどいいよね? 続くのが嫌だったら別メニューにするけど」
「別に気にしておらぬので、今日一日海鮮日でもいいのじゃがシャルには何か別の物が良いかもしれぬぞ」
「んなぁ~♪」
「シャルには地鶏のそぼろを付けるよ。ちゃんとシャル用に作ったものだから大丈夫だ」
やっぱり材料とか調味料に気を使うんだよね。あまり濃い味にすると身体に悪いし、でもシャルはあまり薄味すぎると食べてくれないから。
それに同じ食材が続いても飽きるのか、食べが悪くなるんだよな。ちょっと甘やかしすぎたかもしれないけど、今から厳しくしても意味が無いだろう。
「しかし、同じ蟹クリームコロッケでも材料に使う蟹次第でかなり味が変わるんじゃな」
「こうしてコロッケにするんだったら砂蟹の方がいいかもね。旨味が濃いからウスターソースとかをかけても全然負けないし」
「ただ味が濃いから新年会では一品にした方がいいじゃろう。他の料理を何にするか考えた後で選んだ方がよいかもしれん。後は料理の組み立てじゃな、この魚は淡泊な味が良いがこの蟹の後では真価を発揮せぬじゃろう」
「淡い味の料理だと、砂蟹の味が勝っちゃうってのはあるかな。こっちの一角海老もかなり味が濃いぞ」
焼いても揚げても美味い海老だ。
これの頭で蝦油を作ったら、相当旨い油に仕上がる気がするぜ。
「今まで食べた海老で一番美味いかもしれぬな。ただ焼くだけでも良いが、揚げた方がより旨味が引き出されておるようじゃ」
「それは俺も思ったかな、油で旨味が増す食材も結構あるし」
「旨い食材は多いが新年会に出す以上何かしら理由が必要じゃろう?」
「ああ、俺のいた世界では海老は縁起物なんでそういう説明をするよ」
背中が曲がるまでっていう長寿の縁起物だ。
雷牙や土方辺りは分かってくれると思うんだけどどうだろう? あの二人は意外に気付かずにそのまま食べる気もする。
「面白い考え方じゃな。この辺りというかこの世界はじゃが、あまり長生きできる者も少なかったから違う筈なのじゃ。人族に限っての話じゃがな」
「普通の人族も衣食住が充実して来たら、そこそこ寿命は延びると思うよ。そこも課題なんだけどさ」
この街に必要な重要施設、それは病院という名の医療機関。
わざわざそういう言い方をしたのは、この辺りは教会が病院の役割を補っていて入院もできるんだけど、基本的に奇跡の力を使った治療しかしていない。
傷薬とか薬草も使う時はあるけど、回復魔法とか奇跡の力に頼った方が早いってのもある。しかしその料金は馬鹿高いから信者以外は治療をためらっていたくらいだ。
「病院といっておったか。どちらにせよ、立ち上げるのに時間がかかるんじゃろ?」
「病院に関しては医療知識とか色々変えていかないといけないしね。この世界の魔法とか薬草を使いつつ、科学に基づいた治療もできるようになればと思ってるよ」
もし仮にこの世界で教会の奇跡や魔法が使えなくなったら、今までそれで傷を癒してきた人は回復する術を失う。その為に別の方向から治療出来る仕組みを作っておきたいんだよね。
「その話はまた今度でよいじゃろう。今はこの料理の評価が先じゃろ?」
「そうだね。病院の話は確実に来年以降だし今は新年会の料理だ」
「今日の料理では新年会に出すのは厳しいと思うのじゃ。美味しいという点では問題ないのじゃが、もう少し派手な料理の方がいいじゃろ?」
「今年の新年会も派手だったからね。あの路線で攻めると、色々出せる料理が限定されるんだよな~」
コース料理に出せる料理でしかも派手で美味しい料理。海老カツもカツレツ替わりで出せなくもないだろうけど、新年会で出すメインの一皿にするにはインパクトとかが足りなすぎる。
対外的にも今のカロンドロ男爵領の隆盛を知らしめる料理が必要だし、もう少し派手な料理にしないといけないか。
「カルパッチョとか海鮮サラダに使うしかないかな?」
「品数を増やして出すのも一つの手じゃろう。いつも日本酒を飲んでおる時に出す料理じゃ」
「小料理を幾つか混ぜる……。それを一皿扱いにすれば問題ないか」
問題は味付けだな。
旨味は強いけど、コース料理の場合はそれをあまり前面に出し過ぎてもダメだし、全体的なバランスや調和も考えないとね。
「集まる主要な者は貴族やギルドマスターじゃろう? 既にソウマの実力もこの領の隆盛も理解しておるじゃろうがな」
「流石に今年は王族を送ってこないだろう。奴らもそこまで馬鹿じゃない」
「既に王族は二人おる事じゃし、いまさら追加で送って来ても意味はないじゃろうしの」
今下手に手を出せばお互いにマイナスにしかならない。
流石にあの王様もその程度は理解できるだろ。
「新年会に招待された人には料理を楽しんで貰いたいしね。今この街で金を出せばいろいろな料理が食べられたりはするけど」
「それでもまだソウマの料理には及ばぬのじゃ」
「そりゃあね。この世界の食材や香辛料を掴み切ってはいないけど、それでもいろんな料理が作れるよ」
レシピを大量に保有している事と、アイテムボックス人工知能のサポートがあるのがでかい。
変身解除しても軽い未来予知は働くから、失敗する前に分かるのもあるんだけど。
「問題はデザートじゃな。今年はプリンは避けた方がよいじゃろう」
「まだない食材も多いから、市場でいろいろ探してみるよ」
南方で見つかる植物もまだまだ増え続けてるしね。
とりあえず見つかった珍しい物をアツキサトに送ってくるみたいだし、その中から選ぶのがいいだろう。
さてと、こうなると年末まで料理三昧だな。新年会の料理が決まるまで毎日一日中食材探しと試作の連続だ!!
頑張るぞ!!
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




