第二百四話 気のせいだな。忘年会も楽しかったし、今年も新年会をやりたいじゃないか。材料もこっち持ちだから遠慮せずに好きな料理が作れるぞ
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楽しんでいただければ幸いです。
結晶竜ヒルデガルトの手下だったあの男とその家族を南方の開拓村に逃がす話で、カロンドロ男爵にはいろいろ借りが出来た。
今まで散々いろいろこの男爵領の為にやってきたからチャラだと言われたが、一応借りは返しておかないと寝ざめが悪い。代わりに一月に新年会をする時に料理をすると言ったら二つ返事で了承されたんだよね。俺が言い出したことだけど、材料は当然こっち持ちだ。
「ソウマがカロンドロ男爵の屋敷で新年会がしたいから、無理やり借りにした気がするのは気のせいじゃろうか?」
「気のせいだな。忘年会も楽しかったし、今年も新年会をやりたいじゃないか。材料もこっち持ちだから遠慮せずに好きな料理が作れるぞ」
「絶対に気のせいではない気がするのじゃ!! せめてこの辺りで入手可能な食材にした方がよいじゃろう」
確かに新年会みたいな宴席では他の異世界産の食材とかあまり使いたくないしね。
今は果物も年中南方やマッアサイア方面から入ってくるし、海産物もそこまでこだわらなかったら市場で売られたりしてる。乳製品も豊富だから正直この世界で入手困難なのは醤油とかの調味料だけだ。
「明日はマッアサイアに仕入れに行こうと思うんだけど、ヴィルナは……」
「シャルと一緒にお土産を待っておるのじゃ」
「うなぁ~♪」
即答っ!! ……うん。わかってた。
ただでさえ磯臭いのが嫌いなヴィルナにこの寒い中マッアサイアまで行こうなんて、初めから承諾されるなんて思ってもいないけどね。
でも遠出をする時には一応聞かない訳にはいかないしさ。勝手にどこかに行って帰ってくるとか嫌だろうし。
「磯臭い風は嫌いじゃが、磯の香りの強い魚介類は美味しいのじゃ。何か探してきてくれると嬉しいんじゃが」
「現地でいろいろ探してみるよ。本格的に海鮮市場を回ってみたいし、季節が変われば手に入る食材も変わるしね」
「ソウマが漁具や猟の方法を教えたという話じゃしな」
「獲り過ぎは良くないからいろいろ規制を設けたりしたし、その代わりにたくさん獲れるようにしただけさ」
蟹とか海老の大きさ制限。同じく貝類なんかの大きさ制限。漁具の網目の大きさとか、色々細かく決めて小さい魚なんかはとれなくしてるんだよね。イワシみたいな小魚用は別だけど。
その他にも資源保護の為に、稚魚が隠れやすい漁礁などを邪魔にならない場所に沈めたりもしている。
「本当にソウマはあちこちでいろいろやるのじゃな。マッアサイアのその一件は男爵には話したんじゃろ?」
「男爵はもちろんだけど、マッアサイアの漁業ギルドとも話してるよ。資源枯渇についてはあまり信じてなかったけど、わかりやすい説明をしたら納得してくれた」
もし仮に毎年五%ずつ魚が減ったら~って話をしたんだよね。実際にはそんなに減らせないだろうけど、十四年位で半分になるんだぞって計算して見せたんだよ。実際には全然お話にならない仮定なんだけど、そうでもしないと納得してくれそうにないし。
資源保護というか魚介類が増えやすい環境を整える事と、あまり小さな獲物まで獲り尽くさないって事を意識して貰っただけさ。
「そういう時のソウマは相手を怖がらせる事が多いのじゃ。それが良い事なのは間違いないんじゃろうが」
「無限に存在すると思ってたものでも、本当に無限だった事なんてないのさ。天を覆い尽くすほどいた鳥でさえ、姿を消す事だってある」
進化した道具とその鳥を狙う人の数。それが揃えばあっさりとそれは起きるからな。
失いかけて手を打つより、資源が豊富なうちにさらに増やした方がいい。
「本当に先の先まで考えておるんじゃな」
「資源を保護していけば食料をいつでも確保しやすくなる。それでもうまくいくとは限らないけどね」
海の環境が変われば俺のした対策なんて嘲笑われるかのように、多くの種が短期間の間に全滅するだろうしな。
そうなった時の為にも陸上での養殖も考えておいた方がいいかもね。この世界の方がいろいろ揃ってるから簡単な気がするし、スティーブンにでもそのうち持ち掛けててみるか。今、そんな話を持ちかけたら怒りそうだし。
◇◇◇
やってきました久し振りのマッアサイア!!
朝早く家を出たから昼前にマッアサイアに着く事が出来たぜ!! 市場は朝早くから開いてるから、下手をするとめぼしいものは売り切れてる可能性もあるんだよね。昼前に水揚げされた物を探すしかないかもしれないな。
しかし、塩食いがいた時よりもはるかに人で賑わってるし、街の様子もかなり変わってる。外人というか、船乗り以外にももしかして他の国の人間が観光とかで来てたりするのか?
「らっしゃい、らっしゃい!! 今朝獲れたばかりの新鮮な魚が揃ってるよ!!」
漁業ギルドのマスターからも、漁師の奥さんがこうやって店を出してる事が多いと聞いてる。……いや、昼前に今朝獲れたって言われても困るんだけどね。
嘘は言ってないけど、この気温だとそろそろ鮮度が心配になるだろ? ……あれ? 本当に鮮度がすごくいい?
「なんで昼前なのにこんなに綺麗な状態なの?」
「この入れ物のおかげさ。常に弱い冷気を出す失敗魔道具だったらしいんだけど、こうして使い方次第で役に立つもんさ」
「出力不足でも相当役に立ちそうなものだな。冷たいのはこの箱の高さ位?」
箱の大きさは横幅二メートルで奥行き一メートル。深さは三十五センチ前後? なるほど本当にこの箱の中しか冷たくできないんだな。
「魔導式冷蔵庫の失敗作さ。実際にはそこまで冷たくできないんだけど、氷を中に入れればそこそこ冷たくできるんだけどね」
「ほんとに使い方次第って事か。それで並んでるのは……。カラフルな魚が多いな。これって」
「サンショクダイだね。ちょっと淡泊な味だけど、この辺りだと焼いて食べてるよ」
ネオンテトラみたいな色の鯛? 大きさは五十センチはある。
刺身でもいけるかもしれないけど、カルパッチョにした方がいいだろうね。
「それじゃあそれを。隣のデカい魚は?」
「ハチキベラだね。内臓に毒がある場合があるんだけど、それを注意したら煮込み料理に最高の魚だよ」
内臓に毒がある魚って……。そんなの食うなよ!!
っと、フグまで食べてるのに言う事でもないか。煮込み料理向けってのが気になるけど、今回はパスだ。
横幅ニ十センチほどの大きさの蟹が並んでるな。丸っこくてどこぞの猛毒な蟹を思わせるフォルムなんだけど、これも毒持ちとか言わんよね?
「隣の蟹は?」
「これは砂蟹だね。細かい砂の中に潜ってる蟹だけど、これは海水に入れてしばらく砂抜きをしてるから美味しいよ」
「毒とかは無い?」
「流石に無いよ。焼いても茹でても美味しい蟹さ」
いい蟹を見つけたけど数が足らない。せめて五十匹は欲しいしね。とりあえず買って帰って、ヴィルナに食べて貰うかな。
「それじゃあその蟹をあるだけ」
「……うちの水槽にもまだたくさんいるよ」
「五十匹以上います?」
「隣の奥さんにも聞いたら多分揃う数だね。もう二時間ほどで店を閉めるから、その後でここに来てもらえるかい? 五十匹用意しておくよ」
「それじゃあ二時間後に買いに行きますね」
これで蟹は確保っと。ここに来たら蟹と海老は外せないよな。
他にも大型のアワビやサザエ。それに海老なんかも大量に確保した。昼前に水揚げされた魚介類も多くて、本当にこうしてここに来ないと買えないものも多かった。
「ハーイ!! そこのお兄サン!! 魚探してマスか?」
「ん? 俺の事か?」
「そうデース。いい店を知ってマース」
なんか、真っ黒に日焼けしたやや茶髪系南国少女がすっごい笑顔で店を案内してくれたんだけど、怪しい店じゃないよな?
「この店デース!!」
「何ここ? 日よけの屋根はあるけど、ほぼ市場じゃないか」
「ここはその市場デース。大量に購入するのでしたら、ここをお薦めシマース」
「らっしゃい。ここはマッアサイア漁業ギルド直轄のって、クライド様!! いえ、言っていただければ出迎えましたのに」
今の漁業ギルドのマスター、ベルメホだ。日中いないと聞いていたけど、ここにいる事が多いからか。
「今日は個人的な用事だからそう堅苦しくなくていいよ。って、あの子は何処かに行ったな」
「多分またほかの客を探しているんだと思いますよ」
「ここは確かに知らないと来ないだろうしね。種類は豊富で数も多いけど」
知らない魚が多すぎる。というか季節ごとに旬の魚は違うんだし、その日によって獲れる魚も違うよな。
「以前教えていただいた漁具で獲れるようになった海老や蟹もいますしね。そこの一角海老なんてお勧めですよ」
「ぶっとい角がある海老か。味はどんな感じ?」
「甘みが強くて身も噛み応えがありますよ。茹ですぎると硬くなります」
「大きさは角を除いて二十センチくらいか。いいサイズだ」
「その角で刺されると痛いですから、先に折っておいた方がいいですね。というか、この水槽に入れてる奴以外は全部折って保管してますけど」
千枚通しみたいな角を付けてるもんな。アレで突いて敵を倒すんだろう。
仲間で刺しあって傷がついたら商品価値も下がるしね。
「この海老、百匹揃う?」
「もちろんですよ。あそこと隣の水槽にはこの海老がびっしりですよ」
海老はこれで揃ったし、蟹も十分な数が手に入る予定だ。
この後、市場で貝類を大量に購入し、さっきのおばちゃんからカニを購入してマッアサイア後にした。
とりあえず明日はこれを家で調理して、どんな味か確認しないとな。
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