第二百一話 俺の故郷では忘年会って、一年の苦労を忘れる為の宴会を良くしていたんですよ。場所はカロンドロ男爵の屋敷ですが、俺が料理を担当しましたので楽しんでほしいです
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楽しんでいただければ幸いです。
第一回、カロンドロ男爵の屋敷で忘年会~。一応事前に許可は貰ったし、シャルを預かって貰う約束も取り付けてある。男爵が最近溺愛しているインコ部屋にシャルを近づけさせないって約束付きだけど、シャルの世話はグリゼルダさんが担当するっぽいから安心だ。
参加者は俺、ヴィルナ、カロンドロ男爵、雷牙、エヴェリーナ姫、スティーブン、リリアーナさん、ルッツァ、ミランダ、ダリア、ラウロ、土方。
一応今回はうちわでやってみようという話にしたので、商人ギルドとか冒険者ギルドからは誰も呼んでいない。
「俺の故郷では忘年会って、一年の苦労を忘れる為の宴会をよくしていたんですよ。場所はカロンドロ男爵の屋敷ですが、俺が料理を担当しましたので楽しんでほしいです」
「ここに集まった面子の苦労ごとの八割がたはお前が原因じゃないか?」
「そこまでいってはおらんだろう。少なくとも半分程度はクライドが原因だろうがな」
うん、そこは自覚してるよ。
今年かけた苦労はここで忘れて、来年も新しい苦労を処理して貰わないといけないしね。
「いったい何をしたんだ?」
「ちょっと仕事を増やしただけだよ」
「「「ちょっと!?」」」
男爵とスティーブンは分かるけど、リリアーナさんにまで突っ込まれると少し凹むぞ。確かにグレートアーク商会関係の苦労はリリアーナさんが処理してるんだろうけど。
「俺がこの街に来るまで何やったんだ? 色々な事をしてたって話だけは聞いちゃいるんだが」
「……お前が昔、儂にかけたような苦労ではないぞ。クライドは勇者で人格者といわれるだけの行動をしておるのでな」
「俺はそこまで聖人君子じゃないですけどね」
「いや、割と人として理解不能な行動してるよ? 他人に対してあそこまで優しくというか、色々と出来る人ってクライド以外には多分いないから」
「確かにそうだ。お人好しというレベルはとっくの昔に超えておるしな。自分の領地でもないのにここまで手を出す者はクライド以外に存在せぬだろう」
いや、最終的にカロンドロ男爵が目指してる場所と俺が目指してる場所が同じだっただけの話だし。
領民にここまで甘いというか、税金が安くて治安が良くて暮らしやすい領地経営が出来る人間なんていないと思うぞ。
「そんな苦労は忘れて、今日は思いっきり料理を楽しもうって催しですよ」
「目の前にこれだけの料理を並べておるのだ。相当に気合が入ってるのは分かるぞ」
ヴィルナの一件で炙りやタタキだったら刺身もいけるってわかったので、全員に小皿でカツオのタタキと炙りマグロの刺身を数切れずつ。そして中央の大皿には今の二点の他にもブリやサーモン、それにサザエの刺身やアワビの刺身、イカの刺身なども並んでいる。
殻付き牡蠣のグラタン、揚げ海老しんじょ、毛長鶏の手羽先の唐揚げ、もも肉の唐揚げ、大ガザミの焼売、ローストビーフ、ウズラの卵の串揚げ、チーズ入りオムレツ。一品料理はこの数倍用意してあるし、足りなくなったら幾らでも出てくるぞ。更に、メイドさん部隊が控えていて頼めば七輪でハマガイとかサザエも焼いてくれる手筈だ。
コース料理の多い晩餐会とか新年会と違って酒の肴になりそうな料理が多いが、それぞれの料理にかかっている手間はちょっと凄いんだけどね。下拵えから気合入れて頑張ったし。
「酒も凄いな。いつもみたいに清酒は冷酒と燗で用意されてるし、ワインに発泡ワイン、ウイスキーやブランデーなどいろんな酒もある」
「お、ビールもあるのか!! ジョッキまで用意されてるみたいだ」
「呑兵衛が多いから酒は大量に用意してるぞ。小皿の一品料理もメイドさんに頼めば追加で出てくるからね」
殆ど居酒屋での忘年会だよな。
ここに並んでる料理とか酒の質は流石に異次元レベルだろうけど。
「クライドの弁ではないが、今日は今年の苦労を忘れて楽しもうではないか。……来年は程ほどに頼むぞ。では、乾杯!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
数人は超早口で乾杯を言った後で最初の一杯を一気に飲み干した。当然ルッツァ、ラウロ、雷牙、土方の四人だ。
「くぅ~っ!! やっぱり最初はビールだよな」
「そうだな。ビールに刺身。これぞ宴会って感じだ」
雷牙と土方って割と意気投合してんじゃん。雷牙の隣に座ってるエヴェリーナ姫の方が面食らってる感じというか、アレは出てきた料理に驚いてるのかな?
「うそ!! こんな料理どうしたら作れるの?」
「流石にこのクラスの料理を作れるのはあいつくらいだろう。この酒を用意できるのもあいつだけだが」
「鞍井門と知り合えて心底よかったぜ。この辺りの料理は旨くなったが、酒だけはまだまだだしな。エールブクも不味くはないが」
「ああ、アレは少し薄いな。ワインも割と薄い、本当に水の様だ」
この辺りのワインとかは水代わりだって言ってるだろ。この辺りはそこまで水の質が悪くないのにワインを飲むのはあまり理解できないんだけどね。
濃いワインを出す店もあるらしいけど。
「揚げたこのエビの団子みたいな料理もおいしい。でもこの料理だと基本的に清酒の方が合うよね?」
「焼売とかローストビーフとかはワインでも合うと思うぞ。魚系は清酒の方がお勧めだけどね」
「ブランデーでもよいぞ。こう、味わいながら飲むのであれば、どんな料理でも合いそうだ」
「このブランデーとウイスキーに関しては、俺も飲んだ事の無いレベルなんだが……。少なくともこの辺りで造られてないよな?」
「そうだな。この男爵領で造り始めても、ここまでのレベルになるには二十年位はかかるだろう」
入手経路は教えられないな。それに、熟成させる年月だけはどうにもならないしね。
清酒はすぐに飲めるものが多いから、ここで造りたいって言いだした訳だし。ん? 土方は清酒派か?
「燗した清酒を飲みながら、焼いたハマガイを食べる。やっぱりコレだよな」
「これがハマガイって知ってる事は、マッアサイアにも行った事があるのか?」
「ああ。北は王都まで行ってるし、東はマッアサイアによく行ったもんさ。西は貿易都市ニワクイナ、南はこの先にある村まで行った事があるぜ」
「この先の村? あの廃村か」
「そういえば今は廃村になったって聞いたけどよ、俺が十一年位前に訪ねた時はまだ結構人が住んでたんだけどな」
ん? 十一年前? その時あの廃村にいたのか?
「土方ってあの姿にならないでも相当強いよな?」
「ん? ああ、ちょっと本気をだしゃ家位の大きさの岩ぐらい砕くぞ」
「こいつの氣量は異常だ。おそらく素手だったら俺以上だろう」
雷牙以上ってマジか? そういえば原作でもパワータイプだったな。
十年前の竜は土方の凄まじい氣を感じ取って、それで逃げ出した可能性まであるぞ。
「今は廃村というか、その場所に魔法学校が出来てるぞ。来年の春開校で俺がそこの理事長だ」
「そいつはめでたいな。こいつには仕事を押し付けて自由に動けなくしておいた方がいい。ポロっとどこかにとんでも技術を流されたらたまらないからな」
「そうですね。少し控えていただけると私も助かります」
リリアーナさんまで!!
確かに新しい新規事業関連で一番迷惑をかけてるかもしれない人でもあるけどさ。
「ソウマは駆け足過ぎるのじゃ。このまま数年過ぎても、今の状況より悪くはならんじゃろう。食料品の生産能力もこのままいっても数倍になるのは確実じゃて」
「穀物系の生産能力は正直これだけ増えた人口を余裕で賄える量だ。人口がこの十倍でも支えられるぞ。海産物も海老なんかは養殖というか、海老が住みやすい漁場を作ってそこで増やしてるって話だ。提案はもちろん」
「それも俺だけどさ。資源が枯渇しない様にコントロールするのも大切な事なんだぞ」
「植林計画や養殖計画も先の先まで考えての事だろう。だから百年先まで見通しておると言われておるのだぞ」
無計画に乱獲していけば、あの突撃駝鳥や剣猪ですら絶滅するよ?
剣猪は養豚場が出来たからそのうち価値が下がるだろうけど、肉や皮だけでなく、羽とかいろいろ使い道の多い突撃駝鳥は本気で絶滅させかねないしな。
「本当にいろいろ考えているんだな」
「荒れ果てた大地や資源の枯渇した海なんて見たくないだろ? 今のうちに手を打てば、今の俺たちが豊かな暮らしをしたとしても、遠い未来にいろいろ残せる」
「確かにこいつは聖人だな。本当に人なのか?」
「あっ、それ私も思ってる~。勇者様だし、女神に祝福されてるしさ。ルッツァもそう思うでしょ」
……またダリアの中身というか、精神状態が女神フローラの分体モードになってるな。
向こうが暇なのか、それとも今は接触できないからこうして探りに来たのか……。
【もしかしてバレていましたか?】
かなり前からね。一応、ダリアはルッツァの事を普段はリーダーって呼んでますよ。女神フローラの分体モードの時以外はね。
【分体といいますか、勇者にあこがれてたこの子に少し協力して貰ってただけですよ。本人も了承済です。それに、私の分体ではなく憑依しているのは天使ユーニスですよ】
なるほど。中身は天使ユーニスの方だったのか。この世界を救える勇者探し、それとその力を持つ人間の調査ですか?
最初の頃、俺がどうやって魔物を倒してるか異様に気にしてたのも、それを確認する為なんだろうし。
【そうですね。あなたの存在自体は知っていましたが、あの頃はここまで大きな力を秘めているとは考えもしませんでしたので】
アイテムボックスの人工知能に擬態して接触してきた時と同じパターンですし、割と気が付くと思いますよ。
あ、結晶化解呪の魔法ですが、どうやっても結晶化から救える状況が春になってからだと思いますので、ゆっくりと手配してください。
【ありがとうございます。オリジナルの持ち出しは割と厳しいのです。魔力消費量があまりに大きなものは、人用に組み直さなければ使えませんし】
なるほど、それで苦労していたのか。
それはいいですけど、ダリアの身体を借りるのはいつまでするつもりなんですか?
【まだしばらく先までですね。この子の身に危害が加えられそうなときは、助けるという約束ですので。直接は関与できませんが、こうして力を送って手助け位はするつもりだったのですよ】
ダリアを守ってもいてくれてたんですね。
では、今しばらくは気付かないフリをしておきます。
【この会話であの子にはばれていますけどね。では魔法は完成したら渡します】
ダリアの気配が少し変わったというか、身体から変な力を感じたりもしてたんだよね。
多分あれが神力なんだろう。
「お、おう。あれだ、クライドは神の使いって噂まであるしな」
……もしかして、ルッツァ達も気が付いてる?
そういえば他のメンツもルッツァ呼びにしても何も言わなかったしな。
それはそうと。
「その噂は本当に困るんだぞ。道を歩いてるといきなり拝み始める人もいるしさ。そういう事は教会の祭壇ですりゃいいのに」
「歩く教会……」
「お前が救ってきた人の数を考えると背中から後光くらい感じそうだけどな」
雷牙だって相当な数の人を救ってるだろうに。
……こうしてみんなで笑いながら宴会で騒げる。
この平和な時間がずっと続けばいいんだけどな。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かっています。




