第百九十六話 シャルは今朝も早いな。自分で暖房用魔道具のスイッチ入れて温まるのはいいけど、この暖かさは一晩中付けてたって事だろう?
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楽しんでいただければ幸いです。
まだ日も登り切っていない早朝、俺はいつも通りに早起きだ!! っと、まだ寝ているヴィルナを起こさないようにそっとベッドから抜け出して、色々整えてから朝食の準備をしなきゃな……。
「んにゃぁぁっ♪」
居間に入った瞬間、シャルがベッドから飛び出してきて足に思いっきりスリスリしてきた。シャルって最近は俺たちの寝室に入ってくる事は少なくなったんだよね。ふっかふかで暖房器具迄完備された自分用のベッドがお気に入りなのかもしれない。
「シャルは今朝も早いな。自分で暖房用魔道具のスイッチ入れて温まるのはいいけど、この暖かさは一晩中付けてたって事だろう?」
「にゃん?」
何の事ですか? みたいな顔で首を傾げても困るんだけどね。
この時期からほぼ春まではこの暖房器具はつけっぱなしみたいなものだし別にいいけど、火傷にだけは気を付けてくれよ。多少の怪我だったら治せるし、火災発生時には即座に消火してナノマシンで修復される家だけどさ。
「今日の朝食は何にするかな? 昨日の晩御飯が中華風だったし、今日は洋風の方がいいかな?」
となるとオムレツは外せないか。それともスクランブルエッグ? 両方用意してヴィルナが好きな方を選べるようにしてあげよう。その時の気分もあるだろうしね。
後はカリカリベーコンとミニハンバーグとボイルしたソーセージ。昨日はメインが魚だったから朝食は肉系にした方がいいよな。汁物はコンソメスープにして、具はキノコ類にしてみるか。
「ミニハンバーグにはドミグラスソース。カリカリベーコンはそのままで十分塩味が付いてるし、オムレツかスクランブルエッグにはいくつか調味料を用意しておくか。ヴィルナってマヨネーズとかで食べたりもしてるし」
卵に卵が素材の調味料。悪くはないし合うと思うけど、ケチャップとかウスターソースとか他にもいろいろあるんだけどな。ハーブ入りの塩とか胡椒とか醤油系の調味料も用意しておくか。
ヴィルナは珈琲が苦手だからハーブティーか紅茶。プラント産の紅茶がお気に入りだからホットで用意してっと……。
「おはようなのじゃソウマ。今日も朝から豪華なメニューじゃな」
「おはようヴィルナ。パンと卵料理は何がいい?」
「今日はクロワッサンがいいのじゃ。卵料理はスクランブルエッグがいいのじゃが」
「了解。すぐに用意するから待ってて」
パンは各種焼きたてがアイテムボックスに大量に用意してあるので、いつでも好きなパンを用意できるんだよね。パンにつけるバターもアイテムボックスに入れておけば劣化しないし、冷蔵庫以上に超便利なんだよな。ヴィルナは各種ジャムを使ったり蜂蜜を選ぶことが多いけど。
俺は薄めに切ったバケッドにバターを塗ってみた。この上にスクランブルエッグを乗せてもおいしいぜ。ちょっと塩味が足らないからハーブソルトもパラパラとかけてみる。
「今日もオウダウに行くんじゃろ? 冬になってもソウマへの依頼が減ったりはせんのじゃな」
「今回の件は他人任せにできないしね。それに、あいつが仲間に加われば本気で鬼に金棒っていうか、この辺りの平和を守りやすくなるんだ」
レッキングブレイブも九代目だけあって初期能力が割とおかしいからな。
ぶっ壊れ性能だったら流石にアルティメットブレイブの方が上だけど、防御とか守りだったらレッキングブレイブがいたらホントに頼りになるというか安心できるんだよね。
「泊りになる可能性があるのは寂しいのじゃが、流石に一日では済まぬ仕事なのじゃろ?」
「出来るだけ今日中に戻るようにするよ。割とあての無い人探しだけど雷牙に接触してきた場所は聞いてるし、外見は分かってるしさ」
手がかりがゼロじゃない時点で少しは気が楽だしね。
しかし本物のレッキングブレイブ、土方建蔵にあうのも楽しみなんだよな。モニターの向こう側の人物に逢えるっていう高揚感?
雷牙の時もそうだったけど、元の世界じゃ絶対にありえない話だしな。
「仕事をする夫を家で待つのも妻の務めじゃ。おそらくソウマであれば連絡手段位持っておるのじゃろうが、声を聞いたり顔をみると余計に会いたくなるじゃろう」
「そうなんだよね。俺も家に帰りたくなるだろうしな」
「ソウマが理由も無しに帰ってこぬ事などありはせぬ。この家でシャルと一緒に待っておるのじゃ」
「んなぁぁぁっ♪」
愛されてるし、信頼されてるよな。
できるだけ早く帰ってくるようにしないとね。
◇◇◇
昼前にはオウダウに着いたけど、この街もでかくなってるから移動するのでも一苦労なんだよな。今日はちょっと寒い位で雪が降ってないから助かるけど、この辺りは十三月に入ると雪が降るらしいし。
「昼飯はどうするかな? またブランの店でカレーにするか?」
毎回顔を出すと向こうがいろいろ気にするかもしれないし、客の入り次第だな。そろそろ昼飯時だしどこの店も混雑を始めてるから。
……なんじゃこりゃ? ブランの店ってこの先まで行列が続いてるのか?
「この店のカレー。あのクライド様が絶賛したって話じゃない」
「そうよね。せっかくオウダウまで来たんだからあそこで食べないと」
「安くておいしいカレーの店だったけど、まさかクライド様の知り合いとは驚きよね」
この短期間でここまで噂になってるって事は、意図的に情報を流したな。
ブランが名前を宣伝に使うくらい別に気にしないけど、こんなに繁盛して大丈夫なのか? あの店の規模だと客を回しきれない気がするんだけど。
「次にお待ちの四名様どうぞ。相席でよろしければ後二名様まで入店できます!!」
「寒い中並んでいただきましてありがとうございます。もうしばらくお待ちください」
バイトを雇って店を回してるのか。
あの奥さんが相当にやり手なんだろう。一度毛皮で痛い目をみているブランはどちらかというと堅実なやり方を好むだろうしね。別の店で食うとするか。
「この時間は流石にどの店もいっぱいだな。割と高そうな店でも客が入ってるし」
「どうした兄ちゃん。飯屋を探してるのか?」
この服を着てる俺に話しかけてくるツワモノがいるとはね。
「ああ……って、土方!!」
まさか向こうから接触してくるとは思わなかったけど、そういやこういう人だよ。
給料を博打に突っ込んだり、給料前に他のブレイブに飯を奢らせたり、備品をリサイクルショップにうっぱらったりしてたもんな。それで前半は雷牙と仲が悪かったし、大喧嘩もしたりしたからね。
「え? 俺の事を知ってるのか? 俺の知ってる奴にお前はいないんだが」
知ってたら異常だっての。
本来のアルティメットブレイブは神頼蒼馬なんだから、土方がもしアルティメットブレイブを知ってる場合でも俺じゃないしね。
「そりゃ、いろいろ事情があるから。もしよかったらどこかで飯でも一緒にどうだ? 奢るよ?」
「マジか!! いや~、最近懐が寒くてな、ちょっと高くてもいいか?」
「大丈夫だけど、懐が寒い理由は相変わらず博打か? この街にも面白そうな賭場があるの?」
「……詳しいな。まっ、色々話があるみてぇだしあの店でな」
うん、相変わらずというか作中同様に遠慮が無い奴だ。
土方が向かったのは一目でわかる高級店、その分昼飯時でも空いてるしこのクラスの店だったら商談とか用の特別な部屋もある筈。
俺にとっちゃ好都合この上ないぜ。ここがどんな高級店だろうと、金の心配なんてないしな。
◇◇◇
テーブルに並んだ高級料理の数々、主に肉料理が並んでるのはこいつの好物だからだ。というか本気で遠慮とか欠片もしてないな。俺だからいいけど、他の奴だったら大変だぞ。
この世界は先払いだから先に支払えたけど、元の世界だと後払いが多いから結構揉めたりしてたんだよね。主にこいつが原因で。
「それだけの服を着てるんだし、この位頼んでも平気だろ?」
「そこも相変わらずか。目がいいというか、真贋を見極める目はこっちでも健在って訳だ」
「俺はお前の事を知らないが、お前は俺の事を知ってるみたいだな」
「雷牙の時と逆パターンって事だ」
「旨い飯を食ってる最中にあいつの名前を出すなよ。飯が不味くなる」
ん? 後半のこいつは雷牙と仲直りしてたはずだよな? 一緒に飯を食いに行くイベントもあったし……。
ここまで毛嫌いしてたのって、レッキングブレイブ第十二話の大喧嘩前の状態?
「ひとつ質問があるんだけど、最後に倒した破壊重鬼は?」
「ああ? 最後に倒したのは破壊重鬼ドーザだったな。それがどうした?」
破壊重鬼ドーザはレッキングブレイブ第十話に出てきた敵だ。そんな中途半端な時期に土方はこっちに飛ばされてきてるの? 待てよ、そうなるとそっちの世界だと残りのブレイブで破壊重鬼たちを倒したのか?
「いや、という事は黒龍種アスタロトの事は知らない訳だ」
「はじめて聞く敵の名前だぞ」
「この世界で魔物討伐に精を出してない訳だ。いつこっちの世界に飛ばされてきたんだ?」
「本当に色々知っているんだな。もう五十年位か? この世界だと俺たちは歳を取らないらしくてな、建築技術を教えたりして稼いでたんだ」
五十年? という事は雷牙よりかなり前にこの世界に来てたのか。
「もしかして、この前より以前に雷牙と会ってたりする?」
「ああ。向こうも俺の事を無視してたし、俺も知らんぷりさ。このところ色々あって懐が寂しくてな。あいつでもいいから飯でも奢って貰おうと思ったんだ」
「この世界の雷牙はお前と出会う前だぞ。だから知らんぷりじゃなくて、本当に知り合う前だったんだよ」
「そういう事か。いくらあいつでもあそこまでとぼけたりしないからおかしいと思ってたんだ。そういえばまだお前の名前を聞いてなかったな。俺の事は知っているだろうが一応自己紹介。元レッキングブレイブの土方建蔵だ」
ん? 元レッキングブレイブ?
「俺はこの世界でアルティメットブレイブの鞍井門颯真。元ってどういうことだ?」
「おおっ!! お前があの有名な鞍井門か!! そりゃそんな服も着てりゃ、この位の飯なんてどうって事も無いよな。まさかブレイブだとは思わなかったが」
「いろいろやってるからな。で、元の意味だ。まさか変身できないのか?」
「ああ。この世界に来た時にはちょうど壊れててな」
……ああ、そうだ!! レッキングブレイブ第十話の破壊重鬼ドーザ戦でブレスが壊れて、そして次の話でブレスを強化したんだった。
あの時いろんな装備も持ってたし、チップもいくつか持ってたんだよな。それで無用の長物のチップを幾つか魔道具としてうっぱらったのか。
「ブレスはまだあるのか?」
「これだ。メインの回路が壊れてるから、自己修復機能も働きゃしねえ」
「それ、預かってもいいか? もし預けてくれるんだったら直せるんだけど」
「マジか!! これが使えりゃあのデカい山羊にいろいろ壊されずに済んだんだ!! あの時、俺は無力で知り合いも結構死んじまったしな」
第十二話の体験をここでしてんじゃん。大喧嘩の後で破壊重鬼ハンマに知り合いが住んでいるマンションを破壊されて、正義というかブレイブとしての力の使い方を考え直した。
その事件の後でこいつは心を入れ替えて、割とまじめにブレイブとしての活動を始めてるんだよな。トラブルメーカーで割とおちゃらけてるけど、心の芯はちゃんとブレイブなんだ。
「今どんな仕事をしているんだ?」
「ああ、建築技術というか建築関係の相談係って奴だ。俺が教えた技術で建てたホテルがあちこちにあるんだぜ」
「もしかして、白何とか亭か?」
「ああ、それだ。建築方法とか地盤調査の仕方とか、俺が色々教えてやったんだよ。おかげで金が無い時は月に一週間限定だけど泊めて貰えるのさ。飯付きでな」
この辺りの建築技術が優れてるのって、土方が色々教えてたからなのか。
こいつは建築技術に精通してるし、木造住宅なんかの建築方法なんかも教えたりしたんだろうね。当然有料で。
「問題が無ければアツキサトに移住しないか? 雷牙はいるけど、お前が知ってるあいつよりだいぶ丸くなってるぞ」
「マジか? あいつが丸くなるって信じられないんだが」
「すっげえ年下の恋人と同棲中だ。来年の五月には結婚予定」
「……いや、想像できねえわ。あの堅物がねぇ……」
「恋人が出来ると色々変わるぞ。あ、俺も妻帯者だぞ」
「寂しいひとり暮らしは俺だけか。まあ、博打でオケラが多いから誰かと一緒になるなんて無理なんだけどな」
「恋人が出来りゃ考えも変わるさ。アツキサトに来るんだったら色々紹介できるぞ」
正直、土方の建築技術はいろいろ役に立つ。
カロンドロ男爵に紹介すりゃ仕事も回してくれるだろうし、ブレスが直ればブレイブとして活躍もできるしね。
「この街で自堕落な生活も悪くなかったけど、それもこの辺りで終わりにするか。ブレスさえ直りゃもうあんな思いをせずに済む」
「流石だな。それじゃあ、改めて。これからよろしくな」
「ああ。同じブレイブとして」
ちょっと不安な点もあるけど、これでブレイブが三人集まった。
黒龍種アスタロトにも勝てる戦力だけど、状況から考えるとレッキングブレイブも多分ベーシスフォームなんだよな。
でも、ブレイブが一人増えるってのはかなりでかい。
これで結晶竜ヒルデガルトとの戦いもかなり楽になるぜ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。助かっています。




