第百九十一話 さて、気を取り直して街外れというか南門の外にできた魔法使いギルドに顔を出すか。今からいろいろ世話になるしな
連続更新中。
楽しんでいただければ幸いです。
リドルフォ子爵領の村の探索を終え、そしてなぜか昨日は一日中厨房でカレーを仕込んでいた。ブライのカレーに触発されたのは間違いないけど、万人向けじゃなくて尖がった旨味のカレーを作りたくなったんだよな。
この辺りで手に入れた香辛料や元の世界やほかの異世界産のスパイスにまで手を出して、今の所これ以上は無いというレベルのカレーが完成したので満足だ。
中華包丁の修業時代かってくらいタマネギは大量に刻んだし、それを使って結構な量のチャツネも完成した。あの大量のタマネギでも炒めたらあんなに少なくなるんだから割とやってられないよね。カレー作りで残ったチャツネはまた別の料理に使うつもりだ。
【貴方のカレーはこちらでも大人気ですよ。シルキー姉様もとても気に入っていました】
姉様? 女神たちの関係って姉妹みたいなものなのか?
【いえ、シルキー姉様は私たち全員の姉のような存在ではありますが、姉妹という関係ではありませんよ】
ああ、姉のような存在ってだけで血縁関係とかはない訳ね。最近見た特撮物で兄弟だけど血縁関係とか無いのがあったな。あんな感じなんだろう。
それにしても気になってるんだけど、そっちってあまり食べ物が無いのかな?
【こちらの食べ物は本当に種類が少ないですし味気が無いといいますか、お供えされている物が多いですね。多少はお酒などもありますよ】
それは俺が造ってる酒を寄越せって意味に聞こえるんだけど……。
まあいいや。ブランデーとかも出来始めたし、いくつか樽でフォルダに送っておくよ。
【本当にありがとうございます】
あの言い草だとカレーの他に、つまみなんかも必要だろう。ついでに保存しておこうか。
しかし遠慮が無いというか、神様ってあんな感じなのかもしれないな。
「さて、気を取り直して街外れというか南門の外にできた魔法使いギルドに顔を出すか。今からいろいろ世話になるしな」
新しく魔法使いギルドをこの街に建設するって話になった時、かなり大きめの土地や魔法の実験場が必要という事で街の中に建てる事が難しいって話になったんだよな。
で、俺が建築費の一部を持つって交渉して、魔法学校にほど近い南門を出た先にあった荒れ地に建てて貰ったんだよね。
「まさかその流れで魔法使いギルドとこんな関係になるとは思わなかったけどな」
今は実質、俺があそこのトップだしね。魔法学校の理事長をする以上、あの魔法使いギルドを押さえないって手は無い。
支配というか、正しい言い方をすればスポンサーになったっていうのかな?
お、見えてきた。馬車も停められる駐車場とか色々考えたんだよね。俺ここに顔を出しやすくなるし。
◇◇◇
魔法使いギルド。魔法に関する知識はもちろん、魔石やそれを利用する魔道具なんかの特許というか製造技術を独占しているある意味この世界でもかなりヤバい組織。
本部はどこかほかの国にあるらしいけど、各支部というか各国にある魔法使いギルドは独立採算制度と固有する魔法技術を持っている。はっきり言えば組織間で非常に仲が悪く、各支部ごとに分裂しているといった方が早い。
「やあ、とりあえず主だった職員は集まってくれたようでよかった」
「いえいえ。クライド様の招集とあればすぐにでも全員駆けつけますよ」
表向きとしてだが魔法使いギルドのマスターはこのアメデオで、アメデオはこの世界の人族なのに六十歳という高齢で仕事をしている変わり者だ。普通は隠居して老後を楽しんでる年齢だからな。
というか、今までの魔法使いギルドの給金が安すぎて老後を過ごせるだけの蓄えが出来なかったというのが正しいんだけどね。流石にあの金額は無いわ。
「今日、こうして集まって貰ったのはある魔法の存在を調べる為と、もう一つの問題を解決する糸口を探す為だ」
「ある魔法ですか?」
「状態異常などの解呪魔法。そのオリジナルの存在」
やる気がなさそうだった職員の何人かの顔つきが変わった。
オリジナルの魔法に関しては各魔法使いギルドが血眼になって探しているという話で、過去の文献や石碑などを巡って情報を集めているが、その翻訳や実験に莫大な金がかかる為に手が出せない状況って事だ。
「私はオリジナルを長年研究していますが、いまだに起動に成功した魔法の存在を知りません。何しろ石碑ひとつの解析でも莫大な研究費が必要ですので」
「エルフのランズベリーでも? 今まで本当にオリジナルの起動に成功した者は居るのか?」
「オリジナルの方は一度も聞いた事がありませんね。レプリカでしたら光投槍という魔法を使ったという記録があります。長距離の攻撃魔法ですが、回避不能な上にほぼ一撃必殺の威力があるという事でした。威力は他の魔法同様に使用者の魔力次第でしょう」
レプリカか……。
結晶化を解呪できる魔法があれば、別にオリジナルにこだわらなくてもレプリカの方でも構わないんだけどね。
「それで、どの魔法を探されているのですか? 高威力な攻撃魔法でしたらいくつか所有していると聞き及んでおりますが」
「クライド様は神話級の魔物、暴君鮮血熊の討伐をされていますので、それなりの威力の魔法がある筈ですよね?」
耳の速い職員が何人か混ざっているな。どんな方法で倒したかまでは知られていない筈なのに……。
アレを魔法というのはどうかと思うけど、この世界の常識ではあれだけの高威力の技は魔法しかないと考えられてるみたいだしね。
「攻撃に関しては割と高威力の物があるから今はいいかな。探しているのは解呪魔法、結晶化や石化などの呪術系状態変化の治癒魔法だ」
「北の方で起こっているあの事件の救済ですか?」
「どうもその被害がこっちに近付いてきてるみたいでね。いざというときの為の備えだよ」
「解呪系のオリジナル魔法の石碑か文献ですか? 旧レミジオ子爵の鉱山にあるドワーフの町に何かあったはずですね」
「後は西の貿易都市ニワクイナの図書館にも古文書といいますか、いくつか資料があったはずです」
そこまで揃うともう偶然じゃないぞ、絶対に敵というか結晶竜ヒルデガルトの手下とかに狙われたんだろ!!
結晶竜ヒルデガルトかその手下の誰かが、古文書とかの情報を持っていたとしか考えられない。
「貿易都市ニワクイナは一年前に壊滅している。今はどのくらい残っているか分からないけど、その古文書が残っている可能性は低いな」
「そうすると旧レミジオ子爵の鉱山にある石碑ですか」
「相手がドワーフだし、交渉は難航しそうな気はするぞ。町のどこにあるかも問題だが」
やっぱりこの世界のドワーフも頑固者というか、職人気質なんだろうか?
昔、少し読んだ小説みたいに酒好きだったら話は早いんだろうけど……。
「ダメ元でもいいからその二ヶ所の探索と、出来るだけ多くの情報を集めて欲しい」
「ここの職員の他に、信頼できる冒険者などを雇う必要があります」
「予算は気にしないでいい。今回の件に限っていえば青天井でも構わない」
何人かの職員が息を飲んだ。以前同じ様な話し合いでこいつらの給料をだいたい五倍から十倍にしてるからな。元が月給千シェルとかで扱き使われてたのが酷過ぎただけという話もあるけど。
「例えば百万シェルかかるといっても?」
「短期間でなんとかできる場合は報奨金も出すし、一千万シェルを超えても構わない。多くの人命が関わる事だから、本当に予算なんて気にするな」
「私はドワーフと関わりたくありませんので、貿易都市ニワクイナ方面を担当します。護衛の冒険者は必要ないですね」
やっぱりエルフとドワーフって仲が悪いのか……。いや、個人的なことかもしれないんだけど。
「では貿易都市ニワクイナ方面はランズベリーに一任する。これに金貨が九枚と大銀貨が百枚入っているので旅費などに宛ててくれ」
「本当に百万シェルも……」
「馬車とか必要なものは何でも好きに使っていい。もし資金が不足すれば俺に連絡してくれ」
「わかりました。ご期待に応えられるようにします」
貿易都市ニワクイナは壊滅してるし、どれだけ文献とかが残ってるかも疑問だな。
そういえばあっちで活動していた魔物が一匹残ってるけど、今はその噂を聞かないけど大丈夫かな? もう一年以上うわさが流れてこないし、どこかに逃げたのか?
「ドワーフの方は私が行きましょう。冒険者はオウダウで雇います」
「ツェザーリか。今はこの街の冒険者よりオウダウ辺りの方がいい冒険者が揃ってるしな。それじゃあこれが資金だ。出来るだけ早く、しかし慎重に頼むぞ」
「わかりました。必ず情報を掴んできます」
とりあえずこれでオリジナルの魔法の件は大丈夫だろう。他にもいろいろ手を打ってるし、情報は集めてるからね。
もうひとつの議題も、結晶竜ヒルデガルト絡みなんだけど。
「例の結晶竜ヒルデガルトの魔法だが、村や町の中心で魔法を使って術者やその手下が無事な理由が何かわかる者は居ないか?」
「範囲型の魔法ですと、色々考えられますが……」
「私も一度犠牲になった町を訪ねた事があります。もしアレが魔法だと仮定した場合、色々疑問点があるのですが」
「何か気が付いた事が?」
「もしアレが光系の魔法でしたら、家や物陰にいた人には魔法が効きません。風などに魔力を乗せた場合も無事な人が何割かいてもおかしくないでしょう」
俺もそこは疑問に思った。
人だけを狙った魔法だ。何か秘密があると思うんだけどね。
「リドルフォ子爵領のマグレーディ地方の村をもう一度調べ直すのも一つの手だと思います」
「そちらにも職員を派遣するか。探索する冒険者を雇ってもいい」
「冒険者だけではわずかな違和感を見逃すかもしれません。ジェヒューとアラステア、すまないが頼めるか?」
「ギルマス直々の指名とあっちゃ断れないでしょう。今日にでも向かいますよ」
俺もそこまでこの世界の魔法に詳しくないからな。
これで何か手掛かりが見つかればいいんだけど。
「大きな議題はこれで終わりだ。何か提案がある者は?」
「図書室の蔵書がまだ不足しています。購入資金をお願いしたいのですが」
「本は今後の資産になるだろうからどんどん購入して、かかった金額を報告してくれ。魔法学校に勧める本なんかも必要だ」
「本当に今までとは違いますね。今までは本一冊買うのにも王都にあるこの国の魔法使いギルド本部の承認が必要でしたので」
「本部とはもう手を切ってもいい。あんなケチ臭い所は嫌だろう?」
本気であの給料と人員でギルドの運営が出来ると考えてた奴らだ。
これからも態度を変えないだろう。
「この国の魔法技術の発展の為に!!」
「うむ。今後は資金面の心配は無用じゃろう。皆、本腰を入れて研究や研鑽に励むがいい」
「ギルマスが一番うれしそうですよ」
「当然じゃ!! もう少し早くクライド様と出会っていたかったわい」
俺が持ってる技術と融合させればこの世界の魔法技術も進化するだろうけど、その辺りは慎重にしないといけないな。
使い方次第では薬にも毒にもなる技術でも、出来れば薬として活躍して欲しいからね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。すごく助かっています。
神様や天使が割と遠慮が無いのは、【見習女神に呼び出された俺が強引に異世界救済を頼まれた件について】で見習い時代のシルキーを甘やかした鏡原師狼が原因です。




