第百八十七話 客の入りは上々だけど、そこまで込み合ってないのはいいな。これだったら相席じゃなくてもよさそうだ
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楽しんでいただければ幸いです。
白タヌキ亭に戻って食堂でお楽しみの晩御飯タ~イム♪ 自分で作る料理もいいんだけど、こうして店で食べるのもいろいろ刺激になっていいよね。しかも、今のカロンドロ男爵領にある高級宿泊施設で飯が不味い訳が無いというのがポイントだ。
頼んで出てきた料理が不味い上に量が多いとか、たまにこれ嫌がらせか拷問の真似事でやってんのかって店もあるからな。高いけど美味しくて量の少ない店は追加を頼めばいいだけの話だし、この辺りの料理屋なんておいしいのは確定してるからね。
「客の入りは上々だけど、そこまで込み合ってないのはいいな。これだったら相席じゃなくてもよさそうだ」
冒険者装備から割といいスーツに着替えたから、相席だと相手が気を使うだろうしな。とはいえ、相手が近付いてこないレベルのスーツは避けたんだけど……。
ウエイトレスがあからさまに警戒して近付いてこない……。この位のスーツだったらいいだろ?
【その位のスーツで、あの子たちの年収が軽く数十年分吹っ飛ぶけどね。そろそろ金銭感覚を修正しないとダメじゃないかな?】
なんとな~くそんな気はしてたけどね。俺って割と金銭感覚って狂ってる?
【普通の人は口止め料にあそこまで渡さないんじゃないかな?】
銀貨二枚だろ? 大した額じゃないぞ。
【二万円は普通の人には大金だよ。特にこの世界だと物価の関係で、銀貨二枚って割と高額なんだからね】
確かに、限定版のブレスセットとかでも二万円しないからな。いろいろ揃えたら軽くその倍くらいするけど……。
でも口止めするんだったらアレ位払わないといけないだろうし、夕方にあれだけいろいろ聞きだしたからな。
【金銭感覚は割と末期だね。多分もう普通の生活には戻れないレベル?】
失礼な。俺の金銭感覚が狂ってない事を、ここでの晩飯で証明してやるよ。
お、やっとウエイトレスが近付いてきた。席は十分空いてるし多分この近くの席だろうな。
「いらっしゃいませ。こちらの席でよろしいですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「こちらがメニューになります。お決まりになりましたら声をかけてください」
「ありがとうございます」
さてどんなメニューかな? お、流石にこの辺りの方が毛長鶏の本場というか、王都に近い分導入も早かったって話だしな。寒い方が身がよく締まるらしいし、アツキサトで養殖してる毛長鶏よりこのオウダウ産の方が評判がいいんだよね。
その毛長鶏のモモ肉クリーム煮が二百シェル。パンもあるけど珍しくメニューにライスがあるから主食はこれで決まり。そしてメインディッシュは毛長鶏のモモ肉クリーム煮にするとして、副菜というか追加の料理を何にするかだけど。これでいいかな?
「すいません。ライスと毛長鶏のモモ肉クリーム煮。それとこの串揚げってのを貰えますか?」
「お飲み物はいいですか?」
「ああ、忘れてた。エールブクでお願いします」
ワインでもいいんだけど、流石にワインの質は以前とそこまで変わってないんだよな。エールブクに関しては俺も色々口出ししたんで、以前よりは格段においしくなってる。
【でも、まだ元の世界のビールの方が美味しいよね?】
流石にあっちと比べたらかわいそうだよ。俺がファクトリーサービスで作ってるビールも美味いけど、アレも採算度外視で作らせてるからだし。
酒がうまくなるには時間が必要なのさ。ワインとかウイスキーなんて十年単位でゆっくりと熟成していかなきゃね。それでも上手くできたかどうかは運しだいだけど。
「合計でニ百七十四シェルです」
「はい銀貨三枚。あ、お釣りはいいですよ。少ないけどチップです」
「ありがとうございます。料理が届くまで少々お待ちください。お飲み物はすぐにお持ちします」
しかし、こうして普通に外食するのはいつぶりだろうな? 冒険者ギルドで飲み食いする事はあるけど、あそこで食べたりするのは別の意味もあるんだよな。今どんな料理を作っているのか確認するみたいな感じで……。
こうして普通に料理が来るのを待ってるのって……。
【それはいいんだけど、今のやり取りですでに金銭感覚に狂いが出てるからね。普通は晩御飯に三万円近くもかけないよ?】
美味しいものは高いだろうし、いまはその高い料理が出始めてる時期だから仕方がないんじゃないかな? 生クリームとか毛長鶏も割とまだ高いんだし。
俺の場合は貯めこんでる金を循環させないといけない訳だしさ。魔法学校関係で割と資金を突っ込んでるけど、それでもまだまだ入ってくる量が半端ないからな。実入りに関しては人口が急激に増えた事で塩の需要が増えたのがでかかった。
【うん。もう金銭感覚については何も言わないよ。色々手遅れだったみたいだしね……】
呆れられた!!
いや、多少金銭感覚が狂ってるのは理解してるって。銀貨がすでに小銭感覚だけど、普段の取引の額がでかすぎるからこうなるのは仕方が無いって事で。
「お待たせしました。こちらがエールブクです。この小皿はサービスです」
突き出しみたいな感じかな? 小皿に入っているのは小さめのフライドポテトに塩をふった物? ひと口大のちょうどいい大きさにしてあるな。
「ありがとうございます。この辺りでも揚げ物が流行っているんですか?」
「流行っているというか、割と普通に売られていますよ。ラードで揚げてるか、植物油で揚げてるかは店次第ですが」
「ラードを使うと割とコストがかかりますからね。植物油がダメって訳じゃないですし、やり方次第ですか」
といっても流石にジャガイモ系はラードやヘットで揚げた方がうまいけどね。
この辺りでもヘットは手に入れられるはずだけど、あまり活用されていないのかもしれない。
「お詳しいんですね。ではもうしばらくお待ちください」
「わかりました」
おっ、塩だけかと思ったらいろんな香辛料を塩にミックスして風味を増してある。……なるほど、これはエールブクによくあうぞ。はっきり言うとこの世界の香辛料系ってまだ完全には把握していないんだよな。え? こんな物が? って香辛料が多すぎる。
だけど、わかってる香辛料だけでもすっごい美味しいカレーが出来るんだよな。後を引かないのに突き抜ける辛さが出せたり、甘みをすっごい引きたたせる香辛料とか凄い香辛料が多すぎる。一応人体に影響がないのは確認済みだ。
【貴方の作ったカレーはこちらでも大人気ですよ? あの味だけは調合機能でも出せませんし、何をどうしているんですか?】
調合機能で作ったカレーはよく言えば万人向き。そこからどこまで調整するかは作る人の技量次第だからね。
俺の場合、定番通りタマネギをチャツネにして甘みは出すけど、その先の作業は割とその時次第で微調整してるしな。肉もスパイスとかと混ぜ込んで味を浸み込ませたうえで柔らかくなる工夫をしてるし、フォン・ド・ヴォーも惜しげなく投入してるし。スパイスに関しても知ってる中で最高の組み合わせにしているつもりだ。
途中でやめても、これビーフシチューとして食べられるんじゃないか? ってレベルだし。
【できれば寸胴で今度頂けると助かります】
あっちでも人気なのか。悪い気はしないから今度作って保管しておくか。
お、頼んでた料理が来た!!
「ライスと毛長鶏のモモ肉クリーム煮です。串揚げはもう少しお待ちください」
「はい。揚げ物は時間がかかりますからね。あ、エールブクをもう一杯ください」
「十シェルです。……確かに頂きました、それではごゆっくりどうぞ」
「さて、ライスはいいとしてこっちはどうかな? おおっ、牛乳と生クリームだけじゃない。これチーズまで溶け込ませてるぞ」
出汁は毛長鶏の骨とかくず肉かな? 濃厚だけど香辛料の使い方が上手いからくどくない。それに蕩けそうなほど柔らかく煮込んだもも肉がこのクリームによく合う。
俺が料理を拡散してまだ一年位なのに、もうこのレベルまで来てるって割とすごい。といっても元々この世界の料理技術ってそこまで低くなかったんだよね。材料が高い上に圧倒的にいろいろと不足してただけで。
「お待たせしました。こちらは追加のエールブクと串揚げです」
「ありがとうございます」
串揚げも旨いな。ここは小皿のフライドポテトは植物油だったのにこっちの串揚げにはラードを使ってるみたいで、全体的に豚の旨味が浸み込んでる。この肉も剣猪じゃなくて夏前からかなり多めに市場に出回り始めた豚肉だな。
この場所だと気軽に飲み食いできる金額じゃないのは分かってるけど、ほとんどのテーブルじゃ気前よくいろんな料理が出てきてるしあれだけ頼んだら百シェルや二百シェルじゃ収まらないだろう。
ここの宿泊料金も一泊五百シェルだったし、以前より色々高くなってるのは間違いない。それを払える人が多くなってるのはいい事だけどね。
「ごちそうさまでした。とてもおいしかったですよ」
「ありがとうございます。またお越しください」
少ししたけど色々と収穫の多い晩飯だった。ライスの方も前よりおいしくなってたし、炊き方とかも変えてるんだろうな。
この世界のどこでもこのレベルの料理が気軽に食べられるようになるといいんだけど、そうなるのはもう少し時間が必要だろう。ここでもデザート欄には果物系ばかりだったしな。
甘みに関してはもう少しなんとかしなきゃいけないかもね。今話を持ち出すとスティーブンが流石にキレるだろうから、話を持ち掛けるのは年を超えてだ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かっています。




