第百八十六話 という訳でね。今日はオウダウに泊まって情報収集するからヴィルナにもそう伝えて欲しいんだけど
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楽しんでいただければ幸いです。
三つ目の村の探索も無事終えて、俺はいったんオウダウの街へと向かう事にした。三つ目の村の惨状も酷い有様で、おそらくあの状況では村人は誰一人生き残っていないだろう。
今回の探索でいろいろ分かったんだけど、どう考えても三つの村が結晶化された時期は十月じゃない。どんなに遅くても八月半ばには結晶化させられているはずだ。その裏取りというか、ちょっと調べたい事があるんでオウダウに寄ったわけなんだけどね。
「という訳でね。今日はオウダウに泊まって情報収集するからヴィルナにもそう伝えて欲しいんだけど」
「連絡があったから緊急事態かと思ったら、ただの私信かよ。家にも通信設備を備え付けりゃいいだろ?」
「今更だけど、あまりオーバーテクノロジーは持ち込みたくないんだけどな。あと、ちょっと調べて貰いたい事があるんだけど」
「本命はそっちか。で、何だ?」
「冒険者ギルドの登録情報の中にロミルダって女冒険者がいるか調べて欲しい。北の方の町出身だとかいってた」
まず冒険者という事自体が嘘って可能性を調べないとな。
わざわざオウダウに来たのは、先回りしてこっちに向かうか試したかったってのもあるし。もし仮に調べた結果冒険者でなければ悪いがここで捕まえて連行させてもらうつもりだからだ。
「ロミルダだな。期限はいつまでだ?」
「明日の朝までに分かるとありがたい。襲われた村の近くで偶然出会ってな。故郷の敵討ちって事で結晶竜ヒルデガルトを追ってるらしいんだが、それが本当かどうか調べたい」
「そいつがなにか怪しい素振りでもしたのか?」
「割と詳しめに結晶竜ヒルデガルトの情報を持ってた。あれだけの情報を持ってれば冒険者ギルドや近くの貴族領の役人に伝えててもおかしくはない。でもいまだに結晶竜ヒルデガルトの情報ってないだろ?」
「なるほどな。いったん泳がせて情報を確認。もし嘘を言っていた場合は探し出して確保するって寸法か」
「正解。話が早くて助かるよ」
雷牙もこの辺りの機転が利くし、同じ状況だったらおそらく俺と同じ方法をとる筈。
悪は絶対に許さないだけで基本的に高スペックな男だ、直情的ではあるけどそういった捜査が出来ない訳じゃないしな。割と搦め手も使う。
「それで、どんな情報が手に入ったんだ?」
「結晶竜ヒルデガルトは人に擬態して手下の冒険者と共に町や村に潜入。そして村や町の内部から結晶化を仕掛けるらしい。内部から仕掛けるっていうのは今回の調査からみて間違いないだろう」
「なるほど、それで生き残りがいなかったのか。街の外から攻撃されれば反対側から逃げる奴がいるだろうしな」
「手下が住人たちが逃げるのを邪魔していた可能性があるが、そうなると手下たちが結晶化しない謎が残る。魔道具なのか何なのかは知らないが、その謎も調べた方がいいな」
「情報は冒険者ギルドやスティーブンに流すぞ」
「その件は頼んだ。こういった情報は少しでも早い方がいいだろ?」
「僅か一日でそれだけの情報を集めるお前はやっぱり異常だな。女神に祝福されてるだけあるぜ」
多分そこまで祝福してくれてないと思うぞ。
女神フローラにしても天使にしても俺があまり強くなりすぎる事に対しては結構警戒してる気がするんだよな。オリジナルも魔法もそうだし、おそらくアルティメットフォームまでパワーアップするのも歓迎してない節はある。
アルティメットフォームに関しては俺も過ぎた力だと思ってるけど、結晶化した人を救う為にオリジナルの解呪魔法は覚えたいんだけどね。
「今回は運がよかっただけさ。という訳ですまないがヴィルナへの報告頼んだぞ」
「了解した。本当に愛妻家だな」
「お前も結婚したらわかるさ。ロザリンド辺りなんてナチュラルにボディタッチしてくるだろ? そうすると帰った後に大変なんだぞ」
「ああ、聖魔族って感覚が鋭いから浮気を疑われる訳だ。そりゃ大変だな」
「……世の女性はたいてい聖魔族並みに感覚が鋭いって思った方がいいぞ。浮気なんてする気はないけど、疑われる行為は避けた方がいいぞ」
あれだけ俺を信頼してくれてるヴィルナですらああだしな。猫なのにシャルも割と態度に出るんだよね。
「俺も心掛けるとするよ。エヴァに嫌われたくないしな」
「勇者扱いして近付いてくる奴も多いからな。俺はあのスーツを着ていればそう簡単には近付いてこないけど、いろいろ気を付けろよ」
通信終了っと。……流石にあのスーツを着てる時に近付いてくる猛者はいない。
俺の事を知ってても流石に汚すのが怖いんだろう。あのスーツはカロンドロ男爵でも割と躊躇するレベルだそうだしな。
「さて、久しぶりに外食して羽を伸ばすかな。家がくつろげない訳じゃないけど、ヴィルナがいるといろいろね……」
運よく白タヌキ亭に泊まれたのが大きい。っていうか、この白何々亭ってどこにでもほんとにあるんだな。
建物内の構造が似てるからいいんだけど、別の町に来てるって気がしなくなるのが難点かな? こんな感じの部屋に泊まるのも久し振りだけど。
「とりあえず市場に行って情報収集かな。宿代は先に払ってるから問題ないだろう」
時間はまだ夕方の四時。もう一時間ほどで暗くなってくるけどまだ空いてる店はあるだろ。なければ明日の朝に調べるしかないな。
◇◇◇
運よくやってる露店というか、目的のものを並べてる店を見つける事が出来た。これを売ってるかどうかは賭けだったけど、加工する手間とか考えたらそろそろ出回っててもおかしくないんだよな。
露店をしてるのは恰幅のいいおばちゃんだ。なんとなくこういう人の方が情報を知ってそうなんだよね。
「すいません。この石胡桃はこの秋に採れたものですか?」
「ん? ああ、コレは石胡桃というかここより北で採れる森胡桃だね。アツキサト産って偽る奴らが多いから、最近は森胡桃って呼ばれるようになったのさ。それとこれは今年の秋に採れたものだよ」
森胡桃ね。確かに石胡桃とは別種だしな。全体的に小振りだけど料理に使う分にはちょうどよかったりするんだよね。
「それじゃあ、そこの笊三つ分貰おうかな。これはどのあたりで採れた森胡桃なんだ?」
「これはこの辺りの森で採れたものだね。今年はレミジオ子爵やリドルフォ子爵領からほとんど入ってこないから少し高くなってるね。笊三つ分で三十シェルだけどいいかい?」
「大銅貨三枚ね、はい」
財布の中にまだ大銅貨とか残ってたよ。というか、銅貨とか大銅貨使うのは本当に久しぶりな気がする。それもどうかと思うけどね。
【局地的な大寒波が発生しました】
してねえよ!! こういうギャグだけはホントに聞き逃さないな。
【いやいや、私たちもそこまで暇じゃないんだよ? たまたまだって】
ホントにそうか? 最近はメールで色々要求してこないけど、あまり遠慮しなくてもいいんだよ?
特に食べ物なんかはそっちはあまりおいしい料理が無いっぽいし、リクエストがあればできるだけ対処するよ。
【ホント? いろいろジャンクな食べ物もいいかなって思ってるの。牛丼とかハンバーガーとかさ】
いわゆるファーストフード系ね。牛丼はまだまだ大量にあるし、フライドポテト系もまだあるな。ハンバーガーは一般的なのを調合機能でいろいろ作って保存しておくよ。ハンバーガーの方は家に帰ったら俺が腕を振るって美味しいのも追加で作るけど。
チェーン店的な味もおいしいけど、喫茶店とかで出てくるようなハンバーガーとか採算度外視のハンバーガーなんてのもおいしいからな。肉もパンもチーズも野菜も全部最高級品で作るハンバーガーはちょっと凄いぞ。
【ありがとう。楽しみにしてるね】
ん? 通信が切れたっぽい? というか、ツッコミの為だけに接触してくるのはどうよ? やっぱり暇なんじゃないのか?
……返事はないな。今はなに聞いても答えてくれない案件ばかりだから、自力でなんとかするしかないんだけどさ。
「それより、リドルフォ子爵領辺りから流れてくる山菜系って、いつごろまで出回ってたか分かる?」
「数が少なくてよければ今も出回ってるね。森桃も最近は人気が無いから安くなったし、あまり売りに出てこないんだけどね。安価で食べれる果物としては売れたりするけど」
「ああ、甘みが最近出てきた他の果物と比べると少ないしね。……今年はそれも売りに来てない? 春から?」
「春頃はまだ売りに来てたよ。ここ最近はさっぱりさ」
……やっぱり、あの村が襲われたのは夏ごろなんじゃないか?
この辺りで残ってる大き目の街はオウダウだけ。物を売るにしても他と違って割と高く買い取ってる筈だから、多少遠くてもここに売りに来てる筈。
アツキサトまでは遠すぎるし、流石にあっちに売りに来ても無駄だろうからね。
「いろいろ聞いてすまなかったね。これ、手間賃ね」
「ちょっ、いいのかい?」
「いいって。それじゃあ、森胡桃ありがとう」
「毎度あり。また来ておくれよ」
情報量として握らせたのは銀貨二枚。口止め料としては十分だろう。
他の露店も店じまいは始めたし、今日は宿に帰って休むかな。今日はいろいろ警戒せずにゆっくりと寝れるぞ!!
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