第百八十三話 今までに聞いた情報を纏めるとマグレーディ地方の村が三つ完全に結晶化してるって話だが、村が三つも襲われるまで誰も気が付かなかったのか?
連続更新中。この話から新章になります。
楽しんでいただければ幸いです。
十一月に突入したが、凶報というのはいつも突然に舞い込んでくる。
元々カロンドロ男爵領にあった街の防御能力や迎撃能力はおそらくこの国でも最強クラスだけど、最近カロンドロ領と合併してようやく防壁を作り始めた街に関してはその限りじゃない。元々別の貴族領だった地域の規模の小さな村などはいまだにその防壁すら手付かずの状況だしな。木の杭で集落の周りを囲ってある村がほとんどって話だ。
先日、新しく編入された村があいつに襲われる事件が起きた。というか、いつ襲われたかは不明だが先日発覚したって言った方が正確かな?
俺と雷牙は冒険者ギルドに呼び出され、そこでロザリンドやスティーブンと一緒に状況の確認と今後の対策を話し合っていた。カロンドロ男爵はリドルフォ子爵領から来た使者への対応に追われているそうだが。
「襲われたのはリドルフォ子爵領のマグレーディ地方の村三つという話で、リドルフォ子爵領は旧レミジオ子爵領の北に位置する貴族領のひとつ。マグレーディ地方はその領内で最北端に位置する地方だ」
「今までに聞いた情報を纏めるとマグレーディ地方の村が三つ完全に結晶化してるって話だが、村が三つも襲われるまで誰も気が付かなかったのか?」
「あそこまで田舎だと隣の村まで徒歩で数日とかザラだからな。あんな場所まで行く馬車も無けりゃ、いった所で大した儲けにもならないから行商人も滅多によらない位の辺境だ。村を丸ごと全滅させられたら情報がそこから流れないし、人の行き来も殆ど無いから発見も遅れる」
この世界の情報伝達能力だとそうなるのか。
王都とか有力貴族の場合は魔道具で情報を即座にやり取りできるけど、田舎の情勢なんて誰も気にしないから発覚が遅れる。南方の状態だって竜の妨害があって向こうに行けなかったとはいえ、あんな状況になるまで放置されてた訳だしな。
「今回はどうしてわかったんだ?」
「役人が農作物の状態を調べに行って見つけたらしい。税収に関わるから年に何度かは役人を派遣してるみたいでな。役人の間ではその仕事自体が貧乏くじ扱いだ」
「という事はいつ襲われたかははっきりわからないのか?」
「先月村を訪れた時には無事だったそうなので、少なくともここ一月の間って事だな」
ひと月の間に村が三つも壊滅させられたって相当なことだぞ。
少なくても数千人規模の犠牲者だろ?
「襲ったのは結晶竜ヒルデガルトで間違いないな。どの位デカいかは知らないが、村の住人は接近されるまで気が付かなかったのか?」
「結晶竜ヒルデガルトがどんな姿をしているのかすら情報がありませんので……。あの辺りまで移動して発見されていないという事ですとぉ、正直あまり大きな体をしていない可能性までありますぅ」
「でかいから強いって訳でもないしな。それに正体不明って事は、どんな方法で人を結晶化させてるのかすら分からない訳だ」
メデューサみたいに目を合わせたり石化の視線とかを持っているのか、それとも他の方法で結晶化させているのかすらわからない。
だから対策もしにくいし、襲われた村の周辺に注意喚起の為の立て札すら配置されていない訳だ。
「実際に結晶化された人をひとり解呪して情報を収集するってのはどうだ? 死人にゃ口は無いだろうけど結晶化された人は生きているんだろ? まさか敵も結晶化を何とかしてくるとは思わんだろうが」
「いいアイデアだと思うが、誰を選ぶかで割と状況は変わると思うぞ。犠牲者の中でも何が起こったか分からないってヤツも多いだろうしな」
確かに巻き込まれて訳が分からない内にって事だと困るよな。
何かを目撃している。もしくは重要な情報を得ている人間を選ばなければいけない。
「現地で直接選ぶしかないか。全員元に戻せるのが一番いいんだが」
「理想はそうですけどねぇ。クライドさんですと蘇生費用位は払えますけど、教会に貯めこまれている奇跡の量から考えて元に戻せるのは精々数十人でしょうかぁ。冒険者ギルドは今まで通りの対応ですし、男爵様も死亡扱いしていますので蘇生費用は出さないと思いますよぉ」
「ここで例外を作っちまうと、全ての被害者に同じ措置を取らなきゃいけなくなるからな。教会の奇跡にだって限りがある」
「金だけの問題じゃなくて、そっちの問題もあったのか……。教会も貯めこんだ奇跡を全部使いたくはないんだろうしな」
どうやら奇跡ってのは神や教会への感謝の気持とか、神に祈りを捧げる事で少しずつ溜まっていくそうだ。
この街の人口も増えてるし各教会で保護している孤児たちの待遇がよくなっているので奇跡は溜まりやすいんだけど、それでも高レベルな解呪とか死者の蘇生を行えば奇跡が一気に減るって聞いた。
「どっちにしても一度現地に行く必要があるんだけど、この街から俺と雷牙が同時に離れる事態は避けた方がいいだろ? 色々防衛手段は用意しているけど、完璧って訳じゃないしな」
「そうですねぇ~。その方が安心できるのは間違いないですぅ」
「全速で飛ばしゃ日帰りもできるだろうが、犠牲者の移動はどうする?」
「持ち帰るんだったらアイテムボックスに収納出来そうだけどな。一応生きてるっぽいから微妙かもしれないけど」
物扱いならアイテムボックスに収納可能だろうし、蟹とかの魚介類は生きたままでも収納できたからいけそうな気もするんだけどな。
「その手もあるか……。結晶竜ヒルデガルトがいた場合を考えると俺が行った方がいいか? クライドでも対応できると思うが」
「雷牙はエヴェリーナ姫と大事な時期だろ? 結婚式の準備とかいろいろあったよな?」
「いや、まあその話は置いといてだな。……教会に予約したんだが、早くても来年の五月ごろとかいわれたぞ」
俺たちの視線に耐えきれずにようやく暴露したか。というか五月って俺の結婚した時期と重なるけど、変な噂が流行らないといいんだけどね。
五月の結婚は勇者が~とか……。まさか教会側もそれ狙ってるんじゃないか? 可能性としては十分にありうるな。
「いろんな準備してりゃ半年なんてすぐだぞ? むしろお前位だとかなり急いで色々準備が必要だろう?」
「住む家は今建ててるそうだが完成すれば新居への引っ越しもあるだろうし、その新居に運び込む家具とかもまだ買いそろえてないって言ってたよな?」
「スティーブンまで……。家に関してはもうすぐ完成だぞ。色々注文を付けたら時間がかかってな」
なんでも新居は日本風家屋にしたらしい。玄関で靴を脱いで入るスタイルだ。
俺も日本風家屋にしたいんだけど、建て直すのはかなり面倒なんだよな。
「畳が欲しけりゃ俺に言えばよかったのに。なんか近い品種が見つかったらしいけど」
「一から説明したら何とか作ってくれたよ。この街には職人も多いしな」
「あのへんな敷物はお前の依頼だったのか。またクライドの仕業だと思ったんだが」
チョットマテ、もしかして何かあると俺が関わってると思われてる?
いや、確かにかかわってる事も多いけどさ、雷牙だってあれこれしてる可能性はあるんだぞ。
「まるで俺がいつも何かしてるような言い草だが」
「ここ最近でも醤油や味噌の一件に、その後のウスターソースの製造までの流れ。最近流行り出したカレーもお前の言い出した料理だったよな? 鍋料理もそうだが」
「新しい料理や技術にお前が関わってない事の方が珍しいからな。俺は余計な事はしてないぞ」
醤油はスティーブンにも話してただろ? ウスターソースに関してはいろいろ調整しないといけないから、さらっと流したけどさ。
「そのあたりの話は今はいいだろ? 問題はどっちがマグレーディ地方の村に行くかなんだが」
「今の流れでお前以外の選択肢があるとでも?」
「そうだね。俺もそう思ってたよ!!」
「すまんな。こっちの守りは俺がなんとかする。たぶん大丈夫だと思うんだが、油断はできないからな」
本当にな。
だれが何の目的でそんなことをしているのかは知らんが、こっちにまで手を出して来たら確実に地獄に送ってやる。
そうするだけの防衛装備は備えさせているし、今は俺と雷牙がいるからな。
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