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第百八十二話 暖かいどころかあっちは年中夏だろう? 果物だってまだまだ入ってくるし、あっちを開拓すれば農作物だって採れるはずだぞ

連続更新中。この話でこの章は終わります。

楽しんでいただければ幸いです。



 十月後半になってきたのでこの辺りは割と寒くなってきた。寒いといってるのはこの街に住んでいた人間だけで、他から移住してきた人間はもっと北に住んでいた人の方が多いのでこの程度の寒さは何ともない。


 という訳で、彼らは今まで通り普通の格好で生活している。結果としてこの時期に厚着をしているのが元からこの街にいた人で、薄着で過ごしてるのが移住してきた人間って一目で分かるようになってしまった。


 そしてその姿を見て町の人間はある事に気が付いてしまった。ここより寒い場所があるという事はここより暖かい場所に行けばいいじゃないかと。そう、南方に行けばまだまだ暖かいんじゃないかって事を。 


「暖かいどころかあっちは年中夏だろう? 果物だってまだまだ入ってくるし、あっちを開拓すれば農作物だって採れるはずだぞ」 


「そうなのか? 冬の間は向こうに引っ越すという手もあるのじゃな。磯臭くなるまで海に近付かねばいいのじゃし」


「来年から俺は魔法学校の理事長なんでそれは無理だぞ。休暇に短期間の旅行って話だったらいいけど、シャルを連れていけるかどうかも問題だろ?」


 リゾートブームという訳ではないんだけど、懐があったかくなっているので美味しいものを食べるだけじゃなくて、たまにはどこかに旅行に行こうって人も増えてきた。


 現在、その人気のスポットはマッアサイアで南国気分&海の幸を満喫ツアーか、再建されたオウダウにある温泉宿泊施設で骨休めの二択になっている。


 おかげでどちらの町もこの街の住人だけではなくうわさを聞き付けた貴族領の人間まで押し寄せて、一大観光地へと成長しているって話だ。どっちの料理の味もこの街より劣るとはいえ相当なレベルになってるから文句なしだよ。


「マッアサイアは磯臭いので、旅行に行くならオウダウ一択なのじゃが向こうはここより寒いのが分かっておるのでな。であるなら南方に新しい観光地が出来てくれればよいのじゃ」


「リゾート施設を建設する計画はもう出してるぞ。温泉が湧きそうな場所にも目途を付けたし、温泉、温水プール、スポーツ施設などなど様々な遊技場にカジノや花街まで揃った高級リゾート計画だけどね」


 元々果物なんかの食材は豊富だし、少し離れた場所で豚や牛なんかの牧場も建設予定だ。


 建設を計画している場所は街道の整備も進んでいるので港の整備が完成すれば海産物も入手できるし、温泉の関係で海より少し離れているのでそこまで磯臭くも無い。海のリゾート施設はマッアサイアだけで十分って事だな。この世界では海水浴はあまりしないみたいだけど。


「その施設が出来るまで家でおとなしくしておるしかないの。ソウマの作る料理は美味しいし、リゾート地とそこまで変わらぬじゃろうが」


「家は自由にくつろげるけど、旅行とかはまた違った楽しさがあるしな。シャルも連れていきたいし、ペットが宿泊可能な施設の建設も頼んでみるかな」


「うなぁ~♪」


「シャルを留守番で置いておくわけにもいかぬしの。流石にまだ猫が泊まれるホテルは無いじゃろうし」


「そのうち猫とか犬を連れて行きたいって人が増えるよ。そうなる前に動き始めれば需要を取りこぼす事も無いし」


 個体登録の一件からこの街の住人のペットに対する認識はかなり変わった。


 犬の散歩中にフンを片付けるようになったし、野良犬や野良猫の数も激減して保健所というかそのほとんどが管理施設で飼われるようになった。管理施設ではキッチリと管理して育てて、子犬や子猫が生まれたらペットショップみたいに販売も許可されている。


 飼うペットで犬猫派と鳥派の確執が多少はあるが、犬や猫を旅行に連れていきたいという流れはマッアサイアやオウダウでも出来つつあるしな。


「本当にソウマはいろいろ考えておるんじゃな。わらわなど今日の晩飯に何を作るかとかしか考えておらぬのじゃが」


「それでもいいと思うぞ。何か時間を潰す方法があればいいんだけど……」


 家の居間にテレビとプレーヤーを設置してみるのはどうだろうか?


 ヴィルナも料理の練習をしている時以外は割と暇をしてるみたいだし、息抜きの方法が本を読んだりする以外にもあってもいいだろうしな。


 意外な事にヴィルナも小説をかなり読むんだよね。例の本屋の常連になってるそうだし。


「それは何なのじゃ?」


「これか? これは元の世界……、とは違う世界の規格だけど、映像作品を楽しむ為の装置だよ」


 大画面八十型の超高解像度薄型テレビ。インチじゃないのはヤードポンド法じゃない言い方にしたかっただけだしさ。昔の何々型って言い方にさせて貰ったし、この世界の住人に聞かれた時もそう答えるつもりだ。


 しかしこのテレビ、異世界対応っていうかこことは別の異世界で作られたテレビなんだよな。電気とかじゃなくて、魔石で動くしさ……。


「映像作品? 結婚してもう結構経つが、ソウマの言っておる事には相変わらず訳の分からんことがあるのじゃが?」


「この世界にはない文化だし、理解できないのは普通だと思うぞ。むしろこれを即座に理解されたら怖い位さ。いろいろあるけどこの世界の世界観を壊さないような作品を選んでるつもりだし、俺も知らない世界の作品もあるみたいだよ」


 流石に近代的な世界の作品はばれたらいろいろヤバすぎるだろうしな。


 涙を呑んで特撮物もとりあえず封印。映像作品は中世とか江戸時代辺りをテーマにした時代劇風の作品をチョイスしてみた。ファンタジー物もあるし、割と映像作品の数は確保できたのは大きいぞ。


「おお!! この画面にここではないどこかの風景が映し出されるのじゃな? ひとも映っておるようなのじゃが」


「ドキュメンタリーもあるけど、この作品は小説を映像化したようなものだよ」


「動く絵本のような物なのじゃな。なるほど、これは面白いのじゃ」


 漫画でよくあるように、テレビに向かって斬りかかったりするような事は無いみたいで安心した。


 別の問題があるとすれば、おいしそうな料理が出た時はシャルが膝の上でおねだりしてくるんだけど……。いや、あの位の料理だったら作れるけどさ、ヴィルナも俺の方をみない!!


「いろんな文化に触れるのもいいと思うんだよ。とりあえずあの料理は晩ご飯で作ってみるけどさ」


「流石はソウマなのじゃ。わらわの腕では見た事の無い料理を再現するのはちと難しいのでな」


「あの辺りの材料は俺にしか手に入れられないだろうしね。この世界にあるかどうかわからないものも多いし」


 調味料に関しては、大豆が収穫できたのでようやく醤油の仕込みが始まった。


 醤油が完成すればそれを材料にしてウスターソースも作り始める予定だ。果物の種類も増えたし、そのうちいろんな風味のソースが出来るだろうな。ゼロからウスターソースを造るための果物類もある程度は目途が立ってるから、そこから本格的なウスターソース造りが始まってくれば最高なんだけどな。さすがにそれは期待しすぎかな?


 醤油の登場で肉醤を使っている冒険者ギルドの優位性が若干薄れるけど、完成して市場に出回るようになるまではまだ日数がかかるし問題はないだろう。


 仕入れを考えると自分の所で量産できる肉醤をやめるとは思わないし。


 さて、晩御飯の仕込みに入るかな。といっても今晩のメニューはほぼ調合機能で作る事になるんだけどね。あんな料理は圧倒的に仕込みの時間が足りないっての。


◇◇◇


 ヴィルナに見せた作品は中国風の異世界物。三国時代っぽい舞台で繰り広げる恋愛ものだ。


 時代考証とか色々すっ飛ばしてるからいろんな時代の料理が混ざってるし、いや、その料理はその時代に存在してないだろって物まで並んでた。流石にエビチリや天津飯は三国時代風の舞台には存在しねえだろ、っていうかあれは中華料理の範疇に入るのか? 放送する前に誰か突っ込んでやれよ。


「という訳で今日のメニューは北京ダック、フカヒレの春巻き、干しアワビの姿煮、牛筋の煮込み、卵チャーハン、デザートがゴマダンゴとツバメの巣のココナッツミルク~。あの作品に出てた中華メニューの一部だけどどうかな? あまり統一感はないし」


「おおっ、この北京ダックという料理は食べてみたかったのじゃ。統一感というのが何を指すのかは知らぬが、どの料理もおいしそうなのじゃ」


「にゃぁ~ん♪」


 そうか、細かい分類を知らないからあそこの出てきた料理を割とひとくくりにしてるんだ。俺もこの世界の料理の細かい分類なんて知らないし。


 美味しく食べて貰ったらいいかな?


「この皮を包んで食べるんじゃったか? なるほどこの皮の食感を楽しむ料理なのじゃな」


「身の方も後で食べるけどね。シャルは一足先に身の方を食べてると思うんだけど」


「うみゃぁ~ん♪」


 シャルには味付けして細かく刻んだ北京ダックの肉とアワビの姿煮を出してる。成猫になって体が大きくなった分、食べる量もそれなりに多くなってるんだよね。


 イカとか猫に悪いって言われてる食材もこの世界の猫って平気で食べるんだよな。高レベルな鑑定機能を備えた魔道具で調べても異常は見られないし。俺の方の鑑定能力? 相変わらず高確率で食用可とか無毒とか表示してくれるよ。


「味の濃い料理が多いのであっさり目の卵チャーハンにする所が流石なのじゃ。この干したアワビの姿煮も濃厚な餡とアワビの旨味が合わさって最高なのじゃ」


「そのサイズの干しアワビはちょっとお目にかかれないしな。どこ産の干しアワビか知らないけど、ここまで大きいのにこの柔らかさと旨味は信じられないんだけど」


 でかいというかこの干しアワビひとつ二十五センチもあったんだよな。干してる状態であれって事は、元の大きさってどんなのってレベルだ?


 本当に旨味が半端ないし、あんなに美味いアワビなんて食った事が無かったよ。あ、女神フローラと天使たちにもちゃんとフォルダに保存してますんで後で召し上がってくださいな。


【心遣い感謝します。あのアワビは別世界の個体ですね。寿買(じゅかい)で売られているとはいえ、あの値段でも躊躇しないあなたが凄いだけです】


 寿買(じゅかい)でひとつ三百万円。アワビひとつに三百万!! って思わなくないけど、これを手に入れる人の苦労を考えたらその位は払わないと嘘だろうね。それに多少高くても今の俺には気にするほどの額じゃないし、ヴィルナには美味しいものを食べて貰いたい。それに女神フローラに食べて貰うにしても美味しいものの方がいいでしょ?


【神への理解が高いのは本当に素晴らしい事です。直接手助けは出来ませんが、出来る限りの事はしますよ】


 それは助かりますね。時空時差はある程度理解しましたから、他にも色々料理をフォルダに保管しています。


 多分こっちの一日がそっちの二週間ですよね?


【そうですね。時間を合わせる事も多いですが、そちらの一日でこちらでは二週間程度経過しています】


 道理で大量に食糧が消費される訳だ。


 それが分かった後は結構な量の料理を保管してるから、完全に料理の在庫が尽きるって事は無くなった。女神フローラたちも忙しいだろうし、催促如きで時間を割く暇もないだろうしね。ツッコミ担当のユーニスとセレステは別かもしれないけど。


【貴方も食事中ですのでこの辺りで失礼しますね】


 わかりました。


「食事中なのに大変じゃな」


「いろいろあるから、女神たちと繋ぎが取れるのは助かってるよ。俺の手に負えない事態の時は遠慮なく色々助けてもらうつもりだし」


 こうして平和が続けばそんな事も無いんだろうけど、南方の手下を俺たちが残らず倒した訳だし、敵勢力もそのうち仕掛けてくるだろうな。


 それにしても、南方で得た物は多かった。この街の発展に今後大いに役に立つだろう。




読んでいただきましてありがとうございます。

ブクマや評価ありがとうございます。誤字報告も助かっています。

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