第百八十一話 生徒や教師は全員あの宿舎に住むんですか? 十分な部屋数はあると思いますが、街から通いたいという人もいると思うのですが
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楽しんでいただければ幸いです。
魔法学校は南にあった廃村に作られているのだが、発見された地下室も隅々まで調査された後で有効活用される事となった。どうやら例の自爆装置とかを組み込む前に俺達が連中を倒してたらしい。
教員用の宿舎も近くに建設されたのだが、魔法学校にほど近い場所に立派な教員用住宅が建てられている。というか、この世界の教員住宅って一戸建てなんだな。
生徒用の宿舎は白うさぎ亭の様な建物で、こちらは管理人の部屋は割と豪華だが、生徒用の部屋は六畳くらいの広さでこの世界の基準としてはかなり狭い。なんでも生徒数からしたらその辺りが限界という事だ。風呂と飯の時間はおそらく地獄だろう。
「という事で、ここまでは教員宿舎や生徒たちの宿舎を見ていただきましたが何か質問はありますか? 私も資料で知っている内容と事前に説明された事しかわかりませんけど」
今回の説明会に参加したのは教師や理事側では俺とダリアの他はブラスコっていう少し歳のいった男性教師。他の教師は入学式ギリギリまで今いる学校で授業をしているそうだ。というか、この時期に来れるこの男は大丈夫なのか?
説明してるのは事務などを担当する職員の一人でベティという若い女性。元々は他の町で商会の事務職をしていたそうだが、新たに職員として採用されたそうだ。
「生徒や教師は全員あの宿舎に住むんですか? 十分な部屋数はあると思いますが、街から通いたいという人もいると思うのですが」
「基本的にはあの宿舎に住んでいただきます。街から通うには少し距離がありますし」
あまり覚えてないけど、はじめてこの世界に来た時は徒歩で一時間位だっけ? この世界だと個人で車なんて持ってないからこういう方法が取られてるのか。
ん? 歩くのが厳しいんだったら通勤とか通学用の馬車用意すりゃいいじゃん。
「通勤や通学が問題でしたら馬車を用意したらどうですか? 街からの距離も近いですし、人数割りでしたらそこまで高額にならないでしょう?」
「……そんな方法がありましたか。この短距離を往復させるだけでしたらそこまで負担になりませんし、何度か往復すれば結構な人数が運べますね」
「家から通いたいって人も多かったんですか?」
「はい。宿舎の利用料も割と高めですし食事や洗濯などいろんな問題がありますので、それでしたら家から通う方が安く上がる生徒も多いですから。あ、遠くの町に住んでる子供とかは流石にあの宿舎に泊まるほかありませんけどね」
アツキサト以外からも生徒を募集してるのか。それは流石に通うのは無理だな。
俺は理事長って立場だし、街から通うけどあのバイクがあるしな。雨の日は車でもいいし。
「さっすがはクライド。あ、理事長先生って呼んだ方がいい?」
「難しい質問だけど、生徒たちの前だとその方がいいのか? 先生って言っても俺が教えたりする事は無いんだけどな」
「……魔力とか色々含めると最高の人事だと思うけどね~。あ、クライドが魔法を実践する時は、学校に用意した魔法実験場で使ってね」
そこまでか?
最近魔法つかってないし、どれだけ威力が上がってるのかはわからないんだけどね。
【人としての枠はかなり前に超えてるよ? クライドが使うと発火の魔法でも、炎華菊以上の威力になるんじゃないかな?】
説明ありがとう。
そっか、人としての枠を超えてたのか~。って、そうだったら先に説明しといて欲しいぞ? うっかり町とか森を焼き尽くしちまうだろ?
【変身した方がいろんな意味で高威力だよ? それに、魔法を使う機会なんてないでしょ?】
強い敵だったら変身するし、それ以外の時だと魔法なんて使わないしな。
魔力切れが怖かったから初めの方から使わなかったけど、いつの間にか戦闘で魔法を使うって選択肢が頭から消えてたよ。
「魔法実験場って、高威力の魔法使っても大丈夫なのか?」
「普通の生徒が使う魔法だったら問題ありませんよ? 滅炎界とかの超高威力魔法以外ですと耐えられる設計です」
「クライドが使ったら炎華菊でもヤバいと思うけどね。同じ魔法でも魔力の込め方で威力とかが全然違うんだよ?」
「それは以前聞いた気がするな。生徒の中にも同じ事が出来る人材がいるかもしれないだろ?」
「だいたいだったら魔力量ってわかるし、私よりもっと詳しく見える人が入学初日にチェックするから大丈夫だよ」
という事はよくある天才魔法使いが起こす天災的な事件はなさそうだな。そこまで高威力の魔法が使える人間だと学校に来る意味もなさそうだし。
【局地的に起こる冷却魔法は控えた方がいいと思うよ? 挨拶の時とか特にさ】
韻を踏むギャグは高度なんだぞ。この世界の言葉で再現されてるかどうかが心配だけどね。
「そのあたりの心配は無用って事か。後は設備とか細かい部分の確認だね」
「なにか確認をすることがありましたか?」
「この規模だと風呂の利用時間とかかなり制限がありますよね? 生徒数が大体二百名? それなのにあの規模お風呂だと……」
「毎日入る訳じゃないから大丈夫じゃないかな?」
え? 毎日風呂に入らないの?
そういえば以前、週一とかそんな話を聞いたように気が……。
「出来るだけ毎日風呂にはいることを推奨してください。清潔な方がいいでしょう?」
「入浴回数を減らせっていう理事は多いですが、増やせって人は初めてですね」
「病気の予防とかいろんな面で入浴は推奨するべきですよ。魔法とか薬でなんとかするのかもしれませんが」
この世界だと元の世界の常識が通用しない事も多いからな。
ペット関係も動物の病気をみる獣医とかはいないし、その代わりに毎日食事の中に軽めの薬を混ぜてたりするみたいなんだよね。
俺もシャルにたまに薬飲ませてるけど。
「薬で思い出しましたが、授業の一環でこの辺りの森とかで薬草の採取を行う事があります。一応冒険者ギルドには話をしてあるんですが」
「この森はしばらく立ち入り禁止になっていましたので、その位は大丈夫だと思いますよ。聖魔族の聖域がありますのでそこだけは気を付けてください」
「この森にも魔素浄化用の結界があるんですね。わかりました、そこには立ち入らない様に言っておきます」
西の森にも結界があるしね。
この場所から西の森にも行けない事も無いんだよな。ヴィルナ辺りで無いと厳しいような割と険しい道っぽいけど。
「それと食事。宿舎もそうですが、学校の方の食堂の質とか量ですね。食べ盛りの子供が多いんでしょ?」
「今のこの街の基準ですので、おそらく生徒から苦情が来る事は無いと思います。流石にビーフシチューなどの高級メニューはありませんが、アレが食べたければ休日に街で食べればいいでしょう」
「そうだね~。この街の基準ってさ、貴族の晩餐会レベルというか下手するとそれ以上の料理が普通に出てくるんだよ? しかもかなり安い値段でも相当においしいし。この街の外から来た生徒は多分驚くよ」
「今は屋台の料理の質も凄いからな。店を出せない人間が屋台でやってる事も多いけど、美味しい屋台には長蛇の列が出来る位だし」
その辺りは心配無用か。
生徒や教師には出来るだけ快適な生活を送って貰いたいからね。
「他に何かありますか?」
「私は街から通うから問題ありませんし普段は自炊ですけど、一戸建ての宿舎で暮らす教師は自炊なんですか?」
「自炊ですね。学校の食堂で済ませて帰る人もいると思いますが」
「学食が夜遅くまで開いているんでしたらいいですね。持ち帰りできる弁当があると助かる人もいると思いますよ」
「そのあたりも検討しておきます」
教師だけでなく夜食用に買って帰る生徒もいると思うしさ、食べ盛りだろうし。
「他は問題が起こった時に対応しましょう。何か予算で問題があればすぐに言ってください」
「そういっていただけると助かります。なんでも教師の給料を上げたのも理事長と聞いていますが」
「あんな安い給料で教師をこき使う事も無いでしょう? むしろよくあれで文句を言ってこなかったですね」
この世界の教師の給料は月に約二千シェル。日本円でニ十万円。物価の安い町も多いし、これでも割と恵まれている方らしい。
でも、この街はいい物が多いのも原因だけど割と物価も高いし、宿舎使用料が無くてもそれだと割ときつい筈。
そこで俺が資金を投入して基本的に給料は三倍になった。そのおかげで教師希望者が各地から集まって、物凄い質の高い教師陣が揃っている。思い出した、ブラスコは魔法使いギルドから派遣された教師だ。だからこの時期の説明会に来れたのか。
「上の方から給料を上げる話を持ち出すなんてさ、資金が潤沢にあるクライドだけだよ。普通は値切って安く抑えようとするのに」
「給料を安くして何かいい事があると思ってる方がおかしい。教師の数も何かあった時の為にかなり余裕がある人員配置にしてあるはずだろ?」
「はい。私を含めて職員の数は通常の二倍です。働きやすい職場というのは本当に理想ですね」
「これだけやると赤字にならない?」
「未来を担う人材育成の為には微々たる額だ。図書館の蔵書の数も今後増やしていくつもりだしね。必要なものが出た時はすぐに言って欲しい。可能な限り対処するから」
生徒用の宿舎には小さめだけど図書館もある。やる気のある生徒には報奨金も出すと告知してるぞ。
「ほんとにこれが出来るのはクライドだけだから。私たちはいいんだけどね~」
「後からこうすればよかったは少ない方がいいからね。気が付いた事が何かあれば知らせて欲しい」
この後、校舎の方も見学したけどすっごい立派な校舎の教室は大学とかでよく見かける様な造りだった。
学食や購買、保健室に各種専門学科用の校舎とすきのない配置になっているうえに、まだ新しい校舎を建てるスペースも確保してある。
何か必要になったらまた校舎を増やせばいいな。
さて、春になるのが楽しみだ。
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