第百七十九話 嵐の前の静けさというか、このところ忙しい日々が続いてたからな。少しくらいはシャルとこうして遊んでいてもいいだろ? ああ、癒される……
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楽しんでいただければ幸いです。
南方産のインコの販売開始から少し経って十月に入った。これは毎年恒例になるんだろうけど、少しずつ寒くなってきてヴィルナがより一層家からでなくなってくる頃だ。別に外に出る用事がある訳じゃないんだけどね。
俺の方はというと、ここ数日家で料理の練習をしたりシャルとおもちゃで遊んでいたりもする。シャルも個体登録を済ませているので一応は安心だ。俺が発端とはいえ無許可のペットとか飼うのは厳しくなってるんだよな。野良猫は一応鼠対策で餌をやる位は認められている。
無許可で飼えないだけで、野良ネコでも商人ギルドに行けば個体登録してくれるし、簡素な安い魔石の登録証だったらそこまで高くないしな。そして登録に行けば猫の病気や餌などの注意点なども指導してくれるので猫たちにとっても今の状態の方がいいはずだ。
「そうやってソウマがシャルと遊んでおるという事は、余程暇なようじゃな」
「嵐の前の静けさというか、このところ忙しい日々が続いてたからな。少しくらいはシャルとこうして遊んでいてもいいだろ? ああ、癒される……」
「うなぁ~っ♪ にゃっ!!」
「そうしてシャルがおもちゃで遊ぶようになったのはいいのじゃが、おかげで遊んで欲しい時には割としつこいのじゃ。遊んでやらぬと機嫌が悪くなるしの」
「シャルにとってはこれが俺達とのコミュニケーションの方法だろうしね。キャットタワーでも遊んでたりするだろ?」
キャットタワーで遊んでるかと思ったら、寄ってきて遊んで欲しいって鳴くんだよな。
シャルはもう完全に成猫になってるからかなり大きい。元の世界の猫より二回りはでかいから膝に乗られると結構きついんだよな。膝にのっけてると温かくて気持ちはいいんだけどね。
「そういえばあの男はまだ結婚せぬのか? もうひと月以上経っておるであろう?」
「まだ準備にも入ってないみたいだし、確実に年は越すと思うぞ。いくらあいつでもあの状態の教会に割り込もうとは思わないだろ」
「結婚ブームとは言わんが、生活に余裕が出来ればあれだけ結婚式を挙げたりするものなんじゃな」
今この街ではウエディングブームの真っ最中だ。
懐に余裕がある人間が増えた事もあり、簡素な披露宴を開く人もかなり増えてきている。そのおかげで各教会は連日大忙しで、新たに申し込むと数か月待ちはザラという状況。
おかげで教会に近付くのが本当に大変になっている。披露宴の時間は短いんだけど、俺がいる事がばれると拝まれたりするんだよ。生きてる人間を拝むなっての。
【勇者で神の使い。そう噂されてるし仕方がないんじゃないかな? あ、今度あのお汁粉って食べ物をちょうだい】
また渋いチョイスだな。あの辺りを要求してくるって事は天使ユーニスだな。
【正解!! 名乗ってるの私とセレステ位だろうし、いろいろ協力する事が多いのも私たちだしね】
この二人の天使が主にツッコミ担当。もとい、俺のサポートなどをしてくれている。
色々要求してくるけど、その分いろんな仕事にも協力してくれるので助かるんだよね。
【こっちはあまり寒暖の差は無いんだけどさ、たまに暖かい食べ物が欲しかったりするのよ。三時のおやつじゃないけど、甘い物が欲しい時もあるし】
そこは理解した。で、どの位の量がいるんだ? あと、お餅と白玉どっちがいい?
【両方!! で、寸胴一つ分お願い。作るのは調合機能でいいからさ】
がっつり来たな。……他の天使に配る気か。
そして自分の仕事を押し付ける……。
【人聞きが悪いわね。こうして交渉して入手した料理を、有効活用してるだけなんだから】
今回の報酬は?
【魔石精製技術でどう? あまり純度の高くない魔石を高純度魔石に加工する技術。私が別の世界で見つけてきたんだけど、そっちの世界でも使えるように色々と調整してあるわ】
ずいぶん見返りが大きいな。了解、すぐに作って保管しておくよ。
とりあえずペットの魔石問題は解決っと。思考速度に補正がかかるから、こうして天使とか女神フローラとの会話は長くてもほんの数秒なんだけどね。
さて、ドレスの話の続きだ。
「ウエディングドレスのレンタルとかも始めてるしね。汚れが酷い時は俺の所まで持ち込まれるし」
ウエディングドレスは各教会に百着ずついろんなデザインの物を小物と共に寄付してある。
基本そこまで汚れないんだけど、特殊な薬草入りの洗剤で洗うと普通の汚れは完全に落ちるそうだ。流石は異世界、変なところでオーバーテクノロジーだぜ。
そしてどうにもならない汚れの場合は俺の所に持ってくる。アイテムボックスの修復機能で完全に元通りだしな。
「それを無償で引き受けておるのも異常なんじゃが。あれだけ拝まれると嫌とは言えぬか?」
「フローラ教の方は俺を神の使いって事にしたいみたいだな。他の教会は勇者扱いだけど」
「神と話が出来ると知ったら他の教会も同じ扱いじゃろう。割と上の空な事があるみたいじゃしな」
「女神フローラはそこまででもないぞ。殆どは天使たちだね」
流石に女神となると忙しいんだろう。この世界にばかり構ってられないだろうし……。
他の世界で必要なものがある時にはすぐに色々話しかけてくるんだけどさ。
【そのお願いひとつで最低数億の人命が救われているのですよ? あと、先ほどのお汁粉は私の方にもお願いします】
お汁粉で人は救えないだろうけどね。
女神にも安らぎのひと時が必要なのはわかる。
【流石わたしのみこんだ勇者です。理解があるようでとても助かります。独り身でしたら死後にこちらに招いたのですが】
気の長い話だな。俺ってかなり長寿の筈だよね?
【最低でも千年位はそのままだと思いますよ。あなたはまだ外的要因で命を落とす可能性がありますが、ライガさんの方はまず外的要因で命を落とす事は無いでしょうし】
氣の上げ過ぎに注意だな。でも、ある程度強くならないとこの世界を救えないだろうし悩むところだ。
その時に後悔しない生き方をしなきゃな。
【では、お汁粉をお願いしますね。他にも何かあればお願いします】
お汁粉は割と量を仕込んだから問題ない。
出来たら両方のフォルダに保管しないとな。食べ物の恨みは恐ろしいだろうし。
「また話しておるのか? 今日はなんだか多いようじゃが」
「暇なのかもしれないな。それか、他の世界で何かあったのか……」
寿買のお勧めには怪しい点は見られない。ここにしれっと欲しいものを紛れ込ませてる事があるからな……。
清水で泥抜き済、解体済のスッポン鍋セット。
ああ、他にもってこれか。そろそろ鍋の季節だし、今晩はスッポン鍋もいいかもしれない。美容にもいいっていうけど、どうなんだろう?
【あ、私の方にもスッポン鍋よろしく!! 美容にいいの? それ多めでっ!!】
すっごい数の声が響いてるんだけど、今までにない反応だな。流石に女神や天使も美容には気を付けてるのか?
【当然!! 私たちって元から美人だと思うんだけど、それだけに美容に気を使ってるっていうか】
自分で言うかな? というか、主音声に副音声、更に複数の音声が同時に頭に鳴り響いてる感じ? 結構きついんだけど。
とりあえず分かったから鍋は調合機能で大量に作って渡すよ。スッポン鍋は美味しいし、今夜の晩御飯にするのはいいな。〆は雑炊にするかうどんにするか悩むところだ。
「本当に今日は多いの」
「おかげで晩御飯が決まったよ。今日はスッポン鍋だ~」
◇◇◇
鰻でアレ位の威力だったんだし、スッポンがそれ以下って事は無いよな……。反省。
鍋自体はシャルも喜んでたし俺も堪能したからいいけど俺が今日起きたの昼回ってたし、スッポン鍋にする時には今後次の日のスケジュールを確認してからにするか。
ここ数日は仕事を入れてないし、俺を呼ぶといろいろ仕事が増えるのが分かってるから商人ギルドもスティーブンも呼びに来ないんだよね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。




