第百七十八話 とりあえず販売した鳥だけでなく飼育中に生まれた鳥も含めてすべての鳥には個体登録用の魔道具を義務付け、そして一度飼い始めた鳥の自然界への放鳥の禁止なども重要になります
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楽しんでいただければ幸いです。
男爵の屋敷での話し合いから数日、俺は商人ギルドにほぼ毎日出向いて南国産の鳥たちのペット化計画の様々な取り決めを行っていた。
「とりあえず販売した鳥だけでなく飼育中に生まれた鳥も含めてすべての鳥には個体登録用の魔道具を義務付け、そして一度飼い始めた鳥の自然界への放鳥の禁止なども重要になります」
「そこまでする必要がありますか? 鳥ですので死ぬ事も多いでしょうし」
「この辺りに鳥を放された場合、どんな影響が出るかまだ未知数です。少なくともいい方向には向かわないと思いますよ」
遺伝子汚染じゃないけど、一度飼育した鳥を勝手に放鳥されてもいろいろ困るんだよな。それに個体登録させてないと密猟などを取り締まりにくくなるし。
「まるでこの先に起こる事を知っているかのようですね」
「ある程度の予測は出来ます。もし仮にこの鳥をマッアサイヤ辺りに逃がせばあの辺りで繁殖する可能性もあります。そうすると現存する種との間で雑種が生まれたり、予期しない事態が発生する可能性もある訳ですよ」
「マッアサイアですか。確かにあそこは比較的南国に近い気候ですからね。あの辺りにも珍しい鳥がいるかもしれませんが」
「あそこの固有種もそのうちペットの候補に挙がる可能性はあります。ただ、飼育するとなると生態などを詳しく調べる必要がありますし、商品として流通させるには時間がかかるでしょう」
そういった変な事をされないための個体登録だしな。
「しかし、一羽ずつの登録となると莫大な数になりますね」
「魔道具は有料、その上で個体登録料を取ればその管理費位には充てられるでしょう。それを商人ギルドで行えば、この先ペットブームが終焉するまである程度の利益は見込めます」
「……貴族領にある全商人ギルドの収入増加になりますな。相変わらず恐ろしい事を考えられるものです」
「正しい利権の作り方ですね。金を集める方法は幾らでもありますが、今回の一件は種の管理やペットの為ですので稼いで終わりではないんですよ。これを放置しますと今はいいかもしれませんが、かなり先の時代に困った事が起きるかもしれませんし」
深刻な遺伝子汚染や純粋種の根絶な。放鳥されまくると雑種だらけになって純粋種がいなくなったり、密猟が横行すると各地でいろんな動物が絶滅しかねない。だから飼う場合には個体登録させて誰が何処で買ったのかを明確にする必要がある。
生まれた鳥まで管理しなきゃいけないのは、その鳥を譲渡したり放鳥されたりすると結局収集がつかなくなる為だ。抜け道は最初の時点で可能な限り潰しておかないとね。
「この短期間でここまで計画が練れる人材も他にいないでしょう。鳥の生態も個別で良くここまで調べ上げたものです」
「それぞれ食べている物や飼う為に必要な環境が違いますから。混ぜて飼わない方がいい品種もいますし、その辺りは慎重に扱って欲しいですね」
「倉庫のひとつが鳥専用の鶏舎の様になっていますからね。籠や仕切りなどでかなり細かく区切っていますし」
「後は猫とか蛇にも注意が必要ですね。何せ高額な鳥ですので襲った方もただでは済まないでしょう」
インコの値段は最低でも五万シェル、つまり日本円で五百万だ。
生息域が少なくかなり入手が困難な為に一番高い南方虹色タテガミインコに至っては、番いのみの販売でワンセット三百万シェル、三億円での販売となる。なぜここまで高くしたかというと、かなり飼育環境に資金が必要になる為、この位の額を出せないと飼いきれないという点が大きい。
「高額な為にここでも飼育担当の職員は毎日神経をすり減らしておりますよ。故意でなければ責任は問いませんが」
「割と強い品種が多いので流石に死んだりすることは少ないと思いますが……。あ、事前に渡している飼育マニュアルには書いてありますが、毒物などには弱いのでそこだけは注意してくださいね」
「はい。あの倉庫には防毒の魔道具も設置しておりますし、空気清浄能力も強力です」
「それと、南方の観葉植物などの需要も高まる可能性があります。鳥の飼育環境を考えた時に生息地に近い環境を整えるでしょうから」
「ああ、それで南方の植物をあんなに鉢植えにされていたんですね」
ペットとして鳥を売ればそれに合わせて売れる物は多い。
鳥の為によりいい餌を与えるだろうし、当然住環境である籠や檻も豪華で見栄えが良いものを用意するに決まっている。檻に関してはスティーブンがドワーフに発注済みでかなり豪華な細工が施された檻が幾つも用意されている。
籠や檻を置く部屋に観葉植物があれば鳥も安心するだろうし、トータルで考えた場合でも誰かに見せつける時にはその方が見栄えがいい。
それだけではない、エサ入れや水入れなどもいろいろなデザインの物を用意しているし、檻などの中に設置する鳥小屋も様々な材質で用意してある。凝り始めるととことんまで行くのが人間のサガだしね。
「関連商品のうち、鳥小屋などの小物に関しては使用可能な材料を公開し、多くの人が作って販売できるようにしましょう。もちろん、何かあった時の為に最低でも商人ギルドへの登録が必要という事で」
「正しく市場の開拓に協力する商会などは優遇する方針で、無許可販売は厳罰という事ですね。その辺りは他の商品でも同様ですが……」
「流石にここまで大きくなった街で無許可営業する馬鹿はいないでしょうけどね。小さな村とかでしたら横行してるそうですけど」
「田舎の村で売られている野菜にまで目くじらは立てませんし、流石に商人ギルドもそこまで干渉もしませんね。町などの個人商店規模ですと露店でも厳しくしないといけませんが」
その辺りをあいまいにすると真面目にやってる人間が馬鹿を見るからな。
税金なんかの問題も出てくるんだろうし、カロンドロ男爵の方でも取り締まってるしね。
「ある程度軌道に乗った後で特に注意しないといけないのが餌と水ですね。絶対に粗悪な紛い物が出回ります」
「専用の餌も高価ですしね。この辺りの果物などを加工して販売されない様に注意します。しかし、そこまで考えられるものですか?」
「餌の場合は悪意……、わざと知っていて毒性の高い物を混ぜる人間が出てくる可能性がありますしね。この商売に関われなかった者や商会が妬んだり逆恨みして仕掛けてくる可能性がある訳ですよ」
「初期段階でそこまで読むのはクライドさん位ですよ。この商売が成功すれば莫大な利益が約束されている訳ですが……」
既にカロンドロ男爵やスティーブンなどがインコの飼育を開始している。男爵に至っては客間の一室を改築して飼育と鑑賞用の部屋にしたほどだ。
男爵の屋敷には今も多くの貴族が訪れる。そこで男爵が自慢げにインコを見せればどうなるか……。
「既にいろいろ手を打っていますからね。懐に余裕があればいろんな物に手を出すものですし」
「金がある所から稼ぐですか……。流石ですね」
「情操教育にもいいですし、そのうち鳥とか犬猫だけではなくて魚とかの飼育も始まりますよ。あっちの方が大変ですけど」
「魚まで……。本当に無限の知識です。あの時クライドさんを引き留めたパルミラにはいくら感謝してもし足りませんよ」
パルミラはグレートアーク商会の内通者だけどね。
ただ、パルミラは商人ギルドに不利益になる事は絶対にしないんだよな。その辺りは流石というか……。
「飼育に必要な最低限の基礎知識については冊子にして、インコの販売時に渡すという事でいいでしょう。餌などの最低限な物はセットにして、それも販売時に売るといいですし」
「販売方法ですが、今はあの倉庫で行っていますがそのままでいいでしょうか? まだ本格的に売り始めていませんので今は問題が無いのですが」
「いずれ倉庫を専用の店に改築した方がいいでしょうね。流石に高価ですので見て選びたいという人が多いでしょうから」
流石に倉庫の中では購買意欲が落ちるというか、買わせる為の演出という物は必要だ。それに倉庫で取引だと裏取引みたいでよろしくない。
高級品を売る場合はなおさらだけど、買いたいという気持ちを持たせる場を構築するのも重要だ。
「この先の規模に寄りますが、小さめの倉庫をひとつ南国仕様に改築中です。寒くなる前に完成させます」
「冬でもそこまで寒くないのが救いですね。おそらく王都や北の貴族領でインコを飼うと、飼育する為のコストが数倍かかるでしょう」
「主に暖房代ですか。魔道具を使う場合でも大きさ次第では魔石も高価ですからね」
「インコの値段に比べたら安いと思いますよ。どうせ貴族の連中は冬もぬくぬくしてるんでしょうし」
ヴィルナが寒がりだからガンガン暖房をきかせてるうちも人の事は言えないけどね。
暖房器具が付いてないとシャルもすぐに鳴きまくるし。
「来年にはインコのブームが起きるかもしれませんね。ただ入荷数には限りがありますので……」
「一度くらいは暴騰するでしょうね。あの個体登録システムは買占めと転売対策でもありますので」
「流石にお見通しですね。インコを捕獲する冒険者も育成中です。何せ高価ですので冒険者経験のある人間を職員として雇いました」
「その方がいいでしょうね。南の森には関所もできていますし、あそこを抜けずに南方に行くのは一苦労ですから安心です」
「男爵の動きも速かったです」
そりゃ金のなる木じゃないが、金の卵を産む鳥みたいなもの? いや、金でできた鳥を売るような物か。
男爵も流石に警戒するだろう。
というか、なんとなく男爵自身がインコの飼育にはまってる気がするけどまさかな……。
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